見た目は雄弁に語る

2016.09.19

 「僕はファッションを逃れられない自己表現のひとつと思っています。たとえば声も匂いも届かない所で、ふとした瞬間に姿を見られたとき、どんなデザインでどんな質感の服を着ているかが、どんな人物像を目指しているかという唯一のアピールになってしまう。そこからはけっして逃げられないんです。」

 これは、俳優を生業とされているとある方のことばを引用したものである。何から引用した誰のことばかは後述するとして、上記について少しばかり考えてみたい。


 見た目が多くを語るといえば、なんといっても制服、それも職業制服ではないだろうか。わたしたちは街中で特定の職業を指し示す制服を着用した人を見た場合、あまり疑いも抱かずにその職業に従事している人というように認識するだろう。警官の格好をしている人は警官、そういうことである。職業制服としたのは、学生の制服だとある程度年齢的な制約が生じるだろうからだ。

 「あまり疑いも抱かずにその職業に従事している人というように認識する」ということは、その格好をしていたら、それと信じてしまうということと同義である。つまり制服が、中身を空洞化してひとり歩きすることになる。まるでルネ・マグリットの絵のように。この「制服の効用」をヨーロッパの史実に見出して、それが生じた社会背景やことの顛末までを綴ったのが種村季弘の『ぺてん師列伝 あるいは制服の研究』(オリジナルは青土社から、現在は岩波現代文庫にて入手可)である。

 とはいえ、中身を空洞化するのにもテクニックは必要だ。中身が主張しすぎれば、たちまち制服の魔法は解けてしまう。警官や医師の出で立ちに金髪やドレッドなどは厳禁、ということである。


 では、制服から離れるとどうか。やはり見た目が語る部分は少なくないだろうが、その人となりがそこから透けてくるというところが制服の効果、すなわち着る人物を空洞化するということと実に対照的であるといえる。透けてみえる、と書いたが見た目が着る人の内面をイメージさせてしまう、という表現が正確だろうか。シャツの裾がだらしなく出てしまっているような人は、他の面でもだらしがないんだろうなと見る人に想像させてしまうし、生真面目な装いからはスクエアな印象が漂う、ということである。実際にコミュニケーションをとっていないにもかかわらず、言い方は悪いがある意味勝手にイメージを持たれてしまうのはなかなか厄介なことだが、これを逆手にとるとまた違った効果が立ち現れる。


 冒頭に引いたことばは、俳優・本木雅弘さんの発言だ。10月14日から公開となる映画『永い言い訳』(原作・脚本・監督/西川美和)に主演された本木さんがBEAMSの服をまとって登場する大判のフリー・ペーパー『BEAMS/”The Long Excuse”』には、本木さんと『永い言い訳』のスタイリング・アドバイザーを務めた南雲浩二郎(ビームス創造研究所クリエイティブディレクター)との対談が掲載されている。この対談は、本木さんと南雲との出会いから、『永い言い訳』に携わることになった経緯(作中ではBEAMSの服も着ていただいている)、ファッションに対する考えなどが語られており、先の引用はそこからのものである。

 「インターナショナルギャラリー ビームス」がまだ「ビームス 原宿」の2階にあった頃から、本木さんは店によく足を運んでいただき、私も何度となくお相手させていただく機会があったが、実に柔軟かつ真剣にファッションと向き合っている方という印象があった。なにより服が本当によく似合うので、こちらも着ていただいた姿を見るのが楽しかった。こうしてBEAMSが本木さんの映画に携わることができたのは非常に喜ばしいし、身内褒めで大変恐縮だが、南雲さん(あえて「さん」付けで記すのをお許しいただきたい)の服やファッションを通じたコミュニケーション力、バリエーション豊富な提案力には感服するばかりである。


 ファッションの作用、すなわち見た目が他者の印象を左右するということをポジティヴに捉えて装えば、それは着る人の内面を表す個性を伝えることにつながってゆく。「こう見せたい」あるいは「こうは見られたくない」という、いわば印象操作が可能なのである。印象操作などと書くと先の『ぺてん師列伝』に見られる制服の話のようで物騒に思われるかもしれないが、それと異なるのは、中身が空洞化されずにその人のイメージを形成するところ。フリー・ペーパーの対談を読んで、意志を持って服を着たいものだと改めて思うとともに、自分のイメージをいかに掴ませないかというのにもファッションは実に有効だという思いを強くした。「系」や「型」またはなにがしかのジャンルで括られることからは全力で逃げたいものである。


 フリー・ペーパー『BEAMS/”The Long Excuse”』は、現在BEAMSメンズドレスクロージングの店舗にて配布中。また、対談パートはこちらからもご覧いただくことができる。対談内容が面白いのは先に述べた通りだが、質感もビジュアルもなかなかよい出来栄えなので、できることなら店舗で現物を手にしていただけたらと思う。


(メディア向けメールニュース「BEAMS NEWS」Vol.341掲載のコラムに加筆)