スナック「日本號」一周年

2016.10.01

 ここ数年で、スナックに行ってお酒を飲む機会が増えた。人に誘われたりして行く程度なので、大したものではないが、それ以前は足を踏み入れたことがなかったので、明らかに増えたといっていいだろう。巷でもスナック人気は高まっており、これまで訪れたことのなかった人がその扉を開け、新たなお客さんになっていると聞く。私もそのひとりということだ。

 重そうな木製の扉で明確にこちらとあちらを隔てる。その重たい扉の向こうで繰り広げられるカラオケの音がほんのり漏れ聞こえてきたりして。子どもの頃に持っていたスナックの印象は概ねこうしたものだった。大人になったらこういうところでお酒を飲むんだろうか……いやー行かないかな、とも思ったり。そうして、実際大人になってもなかなか訪れる機会が得られなかったし、別にそれで構わないと感じていたが、いまこうしてスナックの話を書いているから不思議なものである。


 友人である編集者の伊藤総研くんが彼の出身地福岡にスナックを作ったのは昨年のことだ。「日本號」という名のその店は、他界されてしまった彼のお父さんが最後に立っていた店の名前をそのまま受け継いでいる。「日本號」の開店に際してFacebookにポストされた総研の文章によれば、「数年前から40歳になったら福岡で何かをやりたいと思いはじめ、まっさきに思いついたのがスナックでした。僕は中洲でスナックを営んでいた父の息子です。だから、僕にとってはとても自然な選択でした。」ということで、東京で仕事をしながら頻繁に福岡を訪れ、店を作ってしまった。実にすごいことである。2015年10月10日にオープンした「日本號」は、福岡の人はもちろん、福岡を訪れた人々もここを目指して行ったりする人気店となり、まもなく一周年を迎える。

 一周年にあたって、さる9月25日(日)に「ライブ ”スナック” ハウス日本號」という記念イベントが開催された。会場は「日本號」の隣のビルにある「ROOMS」というライブハウス。伊藤総研くん、そして福岡にゆかりのあるミュージシャンらを迎えたこのイベントに、私もDJとして参加してきたので、当日の模様をご紹介しようと思う。


 15時、写真家・ホンマタカシさんと映像ディレクター/編集者の島本塁くんのギター・デュオdeer revengeの轟音で幕を開けた「ライブ ”スナック” ハウス日本號」。続いて箭内道彦さん(風とロック)と伊藤総研くんのトークを挟み、TOKYO HEALTH CLUBのライブがあって、その後に私の出番。30分という限られた時間のなか、ポジティヴな印象の曲をミックスし、(自分としては)楽しく持ち時間を終えることができた。私の次は、鹿児島の「グッド・ネイバーズ・ジャンボリー」の主催としても知られるトランペット奏者・坂口修一郎くん(Double Famous)と、Port of Notes、Discaのギタリスト・小島大介くんによるユニットSOのダビーで無国籍な音楽。そして急遽参加が決定した荒川良々さんのDJがあり、Pepe Californiaの多幸感たっぷりの演奏と続いた。

 イベントも終盤、Pepeのライブの後には<MINOTAUR>ディレクターの泉栄一さんがDJとして登場。もともと福岡の「Dice & Dice」にいた方だ。泉さんのディープ&クールな選曲から、福岡といえばこのお二人、Small Circle Of Friendsにバトンを渡す。Small Circle Of Friendsのライブでは、総研もステージ上で一緒に歌う場面もあったりして大いに盛り上がり、本来ならばここでイベント終了だったのだが、思いがけないサプライズ・ゲストライブ(これは来場者だけのお楽しみということで名前は伏せておく)もあって、さらに湧いたのはいうまでもない。最後はPepe CaliforniaのトシくんのDJをBGMに、皆楽しそうに、そして名残惜しそうに会場を後にして、6時間超の「ライブ ”スナック” ハウス日本號」はめでたく終了と相成ったのだった。


 会場となった「ROOMS」はライブハウスだということは先に記したが、イベント名に”スナック”とついていたのは伊達ではなかった。「日本號」の内装、インテリアを手がけた二俣公一さんが、「日本號」と同じ仕様かつさらに大型のU字型カウンターをこの日のためだけに設え、またスナックらしくソファ席も用意されていたのである。いうなれば「シャレ」をこんな風に真剣に実現してしまうところはさすがとしか言いようがない。

 二俣さんとは、今回初めて実際にお会いし、色々と話をすることができた。<BEAMS RECORDS>のロングセラー・アイテムのひとつである真空管とデジタルのハイブリッド・アンプ「22【tu:tu】」をデザインしているのが、ほかならぬ二俣さんなのである。プロダクトを媒介にして互いに以前から知ってはいたものの、こうして会う機会が持てたのは「日本號」のおかげ。スナックとは、そういう出会いがある場所なのである。


 イベント本篇の後、打上げになだれ込み、程よい時間にホテルへ帰って(最後は4時半頃までだったそう)福岡初日は終了。翌日、日中少し部屋で仕事をしてから太宰府天満宮まで足を伸ばした。夜は東京から福岡に移住した友人家族と食事をして、その後に待望の「日本號」へ。行くことは伝えてあったが、時間を言っていなかったので到着時は満席。補助席を用意してもらい、白州のソーダ割りをいただく。店はこぢんまりとしたサイズ感も相まって、洒落た友人宅を訪問したかのような居心地のよさがある。それでいて、カラオケもあるから面白いのだけれど(スナックだから当然か)。

 あまり長居も野暮かと思い、一杯だけ飲んでホテルへ戻り、翌日の午後には東京へ帰ってきた。一周年のお祝いもできたし、イベントも楽しかったし、「日本號」にも行けたしよかったよかった、と考えていてハッと気づいた。ボトルを入れるのを忘れたのだ。まぁしかし仕方ない。次回行ったときにしっかり入れてこよう。また行く言い訳にもなる。福岡を訪れた際の楽しみが増えたと思えばいい。

 「日本號」一周年、おめでとう。


紹介アイテム