腐敗

Satoshi Tsuruta 2017.07.23

江戸時代の言葉で
「女房を質に入れても初鰹」
というものがあります。


実に初物好きの江戸っ子らしい例えです。
勿論、そんなことをしてまで刺身を食べる人は
いなかったはずですが…(笑)。


とは言え、
これは当時の庶民にとって旬のもの、
特に「生魚」が
いかに貴重で
手に入りにくいもので
あったかを
分かりやすく伝える
言葉でもあります。


鰹は魚類の中でも特に「足の早い」
つまり
「腐敗しやすい」ものであるらしく
(カツオの表面を火で炙るタタキも
食中毒防止から来ているのかもしれません)
冷凍や配送のシステムが確立された現代でこそ
当たり前の「刺身」も
江戸時代の町人たちにとっては
かなりの贅沢品であったはずです。


例えば三浦半島で捕れたカツオを
冷蔵庫もない時代に江戸で食べようと思うならば
30km以上を数時間で(無論、当時は人の足で)
駆け抜けなければならない。
つまり腐敗のスピードよりも
速く
走らなければならなかった…。
ということで、昔は魚と言えば
干物が当たり前だったようです。


一方。


最近ではわざと「腐らせて」
というと語弊があるのかもしれませんが
「熟成肉」なるもののブームがあったりして…。

牛やマグロといった
個体の大きい一部の生き物に限り
腐敗の進行よりも早く旨味成分が増す性質がある
(昔、ミスター味っ子で読んだ浅知恵)
ことを利用して「熟成」させるのだとか。

「鮮度」と「腐敗」。

これは人類にとって
昔からのテーマであり

そこに「熟成」や「発酵」といった
知恵もまた共存しているようです。


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食べ物意外で「鮮度」という言葉を使う
代表に「ファッション」が挙げられます。
流行の新鮮さ、という意味です。



最近ではその「鮮度」をより高い状態で保つべく
オンラインでコレクションを発表した直後には
新作をデリバリーするブランドも現れました。


これは、
「情報のスピードがあまりにも速すぎて、
コレクション発表から店頭に並ぶまでに
数ヶ月も待っていたら
服が鮮度を失い腐敗してしまう」
ということなのでしょうか?



ちなみに僕は飽き性です。
20年近くも服屋をやっているわけですから(?)
新しい服が欲しい、着たい、という好奇心は
一般的な人に比べ
強い方だろうと思われます。

特に若いころは
「新しい服を買う」
→「飽きる」
→「新しい服を買う」の無限ループで…。


せっかく手にいれた新しい服も
あっという間に自分の中での鮮度が
落ちていったような
気がします。

デザイナーズブランドが好きだったこともあり
次シーズンのものを目にすると気分が変わり、
前シーズンの服には目もくれなくなってしまう。

じゃあ、「トレンド最先端」の服だから
「鮮度が落ちるのも早い」のかな
と思って、
クラシックなものを買う。


結局は同じことでした。


老舗シューズメーカーの靴を買っても
古典的なシェットランドセーターを買っても、
同じ。飽きてしまう。


結局、鮮度が落ちるのは「服本体」ではなく
「自分の目」の方だったのです。


情報が入れ替わるスピードがどんどん速くなり
「昨日は新しかったモノ・コトがあっという間に
使い古されて」しまうと嘆いていたら
それは時代のせいではなく自分のせいだった。




ただ、ある時から
自分が昔買った服が
「古くならない」ようになりました。

それは買うものが変わった、わけではなく
やはり「こちらの目が変わった」のかもしれません。


旅に出て
アートに触れ
映画に感動し
人に会い
音楽に耳を傾け
読んだ本の一説に心を震わせ。


自分自身を壊しては作り直し
それを繰り返すうちに同じ服が昨日とは違う見え方に
変わったと
言えるのでしょうか。


歳を重ねるとともに食べ物の趣向が変わる、
なんて話はよく耳にします。
若いころには見落としていた
「旨味」に開眼したりして。

10年ぶりに引っ張り出した
ベルギー人デザイナーの服が当時とは違う輝きを放ち、
最近買ったクラシックアイテムが
今年のトレンド最先端とクロスオーバーする瞬間。

モードな服に潜むクラシシズム。

古典的な服に隠された革新性。

人に必ず二面性があるように
服にも二面性があります。




春~夏にかけて北上する鰹。
一旦北上した鰹は秋に南下するころには
油の乗りきった状態で「戻り鰹」となり
2度目の旬を迎えます。

流行もまた然り。

「ビッグシルエット」「ファーアイテム」
「パッチワーク」「90年代」
「ストリート」「70'sフィーリング」

トレンドと呼ばれるワードの中にも
自分自身の血となり肉となるものが
きっとあるはずです。
すべてが過ぎ去ってしまう訳ではありません。

一定以上のクオリティや情熱でもって作られた服は
そんなに簡単に腐りはしない


腐らせるかどうかの分岐点は
技術革新の中にはなく
自己革新の中にある。


そんな気がしています。


インターナショナルギャラリー ビームスには
秋冬の新しい商品が入荷してきました。

モードな服も
クラシックな服もお客様なりの
「旬
」を感じながらご賞味いただけると幸いです。




Tsuruta