〇%△+(記号的ファッション)

Satoshi Tsuruta 2017.04.12

ここ数年で本格的に復権を果たした
ファッションアイテムのひとつに
「ロゴもの」というのがあります。


アレッサンドロ・ミケーレによるGUCCIでは
レトロでヴィヴィッドなカラーリングの
ロゴスウェットが人気。


これは自社ブランドのロゴに
限ったことではありません。


例えば

VETEMENTSにはChampion、
ゴーシャ・ラプチンスキーにはFILA、
LOUIS VUITTONにはSUPEREME(!)
などといった具合に
他のブランドとコラボすることで
「他人のロゴも自分の服につけてしまう」くらい
いま、ロゴ入りアイテムは大ブームなわけです。

ここには「ファッションの情報化」という
流れがあります。
ロゴ=記号なわけですが
ファッションは「記号化」されることで
より速く、より遠くまで、より多くの人に
届くことになります。

これが「シルエット」「素材」となると
「記号」ほど誰にでもわかるものではないので
分かる人にはワカル、という範囲内でしか
届かない。

スウォッシュマークを見れば
誰もが「NIKE」だと分かるけれど
「ツイード」を見ても
全員が「英国風」と思う訳ではない、
「裾広がりのロングコート」を見ても
皆が「70年代風のAライン」と思うわけではない、
ということです。

RAF SIMONSやVETEMENTSが打ち出す
スーパービッグシルエットぐらいになると
誰でもワカルくらい「大きい」とは
思いますが…。

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で、ちょっと面白い逆転現象だな、と
感じる事があるので本題の前に
少し書いておきます。

例えば1980年代にも
ロゴアイテムはブームだったかもしれません。
しかし、今のブームとは違う点があります。

1980年代、バブル真っ盛りの時代、例えば
「VERSACE」と書いてあるロゴものを着る人は
「自分はVERSACEを買う事が出来る位
お金をもっているんですよ」ということを
言いたかったわけです。着ている衣服を通して。
勿論、VERSACEは高価だと知る人に向けて、
ですが。

一方、いま。

VETEMENTSのアイテムは
スウェットで10万円オーバー。
そう、Championのスウェットの
実に10倍以上の価格帯。
つまり「高いブランドが
安いブランドのロゴを借りている」わけです。

これは
「ストリートがハイファッションに与える
影響が…。」という風にも取れます。
(これについては少し違う考えが
個人的にはありますが、それはまた別の機会に)

とにかく、ハイなブランドが
スポーツブランドやワークウェアブランドの
ロウな名前を借りることで
「ストリート」「スポーツ」といった要素を
自らのブランドに記号として
取り入れているわけです。

ロゴが入るだけで
これだけ手っ取り早く多くの人に
「いまの流行はやっぱりストリートなんだ」
と思わせることができる。
そういった意味で
「ロゴ」という名の「記号」は
実に高い「機能性」を持っている
ということになります。


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でここからが本題。

「機能性が極めて高い衣服」が
「ロゴもの」以外にも実はあります。

「スーツ」です。

衣服の種類で「機能性」
と言うときに
真っ先に思い浮かぶのは
いわゆる「ハイテク」素材をつかった
スニーカーやアウターなど。

例えば「スポーツ」や
「ミリタリー」「ワーク」など
特定の作業の為に作られた衣服は
(当たり前の話ですが)
「作業しやすいように
あらゆる状況を考慮した
素材・ディテールで」なお且つ
「生産効率の良いやり方で」
作られた「ミニマルデザイン」です。

一方で「スーツ」はと言うと…。


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先シーズンも
皆様にご好評いただいた
インターナショナルギャラリー ビームスの
新型オリジナルスーツ
「Contemporary 2B」が
2017年春夏バージョンとして
装いも新たに入荷いたしました。


※このスーツのコンセプトについては
先シーズンのブログをご覧ください。
http://www.beams.co.jp/blog/international_gallery_beams/1453/


まずは店内のディスプレイから
見てみましょう。



ベルベットやヘビーウェイトのフランネルなど
重厚な生地が中心だった
先シーズンに比べ
軽快な素材を中心に展開しています。


なかでも注目は「コットンスーツ」。
ハリのあるコットンギャバジンは
この時期にぴったりの一着。



オレンジがかったベージュが春らしいこの生地は
Vゾーンも華やかなカラーリングで構成すると
より一層新鮮です。
ナローなニットタイも
このスーツのために
新しく企画・製作しました。




足元もレザーサンダルで軽快に。
ベビーピンクのソックスと合わせて
コーディネートしてみました。


もう一体。



伊・カノニコ社のモヘア混ウールを使用した
こちらは
グレー系のピンヘッド素材。
(ちょっとモワレ気味に写っていますが…)



ミニマルなムードのこのスーツと相性抜群。
涼やかなシャリ感と
都会的な静けさが共存する一着。
個人的に一押しです。
ビジネスにも勿論使えます。



足元はブラックカーフのプレーントゥで
無駄を削ぎ落とした印象に。



Vゾーンは同じくレーベルオリジナルの
レギュラーカラーシャツに
英・アトキンソン社の7cm幅ストライプタイ。
シャツ、タイ、スーツをグレー系で纏めることで
アーバン且つモダンなムードが加速します。
シャツの襟とゴージラインの角度が
並行に揃っている点も見逃せません。



上着の丈は
きちんとヒップが隠れる長さ。
縦長なシルエットが
印象深いバックスタイル。

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話を戻します。

21世紀における
スーツの機能性とは果たして何か?

人によっては
「印象が堅苦しい」「窮屈」
「シワが気になる等、手入れが面倒」
「デザインが決まっていて面白くない」
「夏は暑い」…などなど。

もしかすると
「20世紀の遺物」とか「スーツを着る、という
慣習自体が非合理的だから廃止したほうが良い」
といった意見もあるかもしれません。


現在、僕らが「スーツ」と呼んでいるものは
丈の短い上着に
共生地のパンツという2ピース、
もしくはベストを加えた3ピースで
構成されています。

これは服飾史のなかで
「ラウンジスーツ」と呼ばれるものです。

それ以前の男性の衣服は
丈が長い上着と別生地の組下を
組み合わせたものが主流で、
その名残は現在のフォーマルウェア、つまり
モーニングなどの燕尾服+縞ズボンに見られます。


100年ほど前の時点で「ラウンジスーツ」は
「現代に合わせた合理的な衣服」であり
燕尾服などよりも気軽に
活動的なシーンで着る男性服として
市民権を得てきました。
しかしその後、度重なる技術革新や
服装のカジュアル化が進むなかで
簡略化された「ラウンジスーツ」ですらも
堅苦しい物として
認識されるように
なっていると言えます。

もしかすると将来
2ピースの(ラウンジ)スーツも
ウェットスーツのような
1ピースになる時代が来るかもしれません。
昔見た近未来映画のように。

それでも2017年現在
1960年代に夢見た21世紀の世界よりも
ずっと強く(しぶとく)スーツは
生きながらえています。


スーツには着る楽しみがあります。
スーツを着て出かける場所があります。

どんなにスーツよりも着心地が良い
衣服が発明されたとしても
なお、スーツには「機能性」があります。

ビジネスの時にスーツを着ていると
自分は信頼に足る人間である、
という印象を相手に与えます。

子供の入学式にスーツを着ていると
家族にとっての「ハレ」の日である、
という特別感が思い出と共に残ります。

食事の時にスーツを着ていると
多少高級なレストランでも
物怖じせず着席することができます。


スーツは「肉体的な機能性」よりも
「精神的な機能性」を内包している気がします。
背筋が伸びる。誇り高い気持ちになれる。

スーツ=堅苦しい服という記号が
今生きている人々とって有効である限り
スーツには着るべき「機能」があると思います。
スポーツブランドのロゴ=ストリートという記号が
世界中を駆け巡る21世紀もそれは変わりません。

僕らが企画した
「Contemporary 2B」は
「精神的な機能」にフォーカスしたモデルです。


英国やアメリカ風といった
直接的な国のスタイルを想起させるディテール
(チェンジポケット、フックドベントなど)
あえて取り付けていません。


クラシックに傾倒する人が見ると
「モードな」スーツに見えるでしょう。
逆にモードな服を着慣れている人には
「カッチリした」印象を与えると思います。

しかし、実際には
そのどちらかを目指したわけではありません。
ただ、単純に「スーツを着ると気分がいい」
というものにしたかったのです。
スーツという記号的な衣服を通して
ファッションの記号化に逆行していると
言えるかもしれません。





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つい先日の話です。

4月にも関わらず
その日の東京は
冷たい雨が降り
とても肌寒い一日でした。

観たい映画があった僕は
着古したグレーフランネルのスーツに
チャコールグレーのネクタイを着けて
渋谷の映画館まで出かけました。

雨に降られて
スーツはずいぶんと濡れてしまいましたが
僕はとても「いい気分」でした。
4月の雨とグレー色のフランネルが
とても合っていると思えたのです。

雨に濡れた
スーツの肩を
横にいた妻が
そっとハンカチで拭いてくれました。


Tsuruta