能動的スーチング

Satoshi Tsuruta 2019.04.14

入社、入学、就職活動。この時期になるとスーツを新調する。


平成も終わろうとしている2019年において、こういった考えはひと昔前の古い慣習でしょうか?

クールビズもすっかり浸透し、暑い時期でなくともカジュアルな装いで出勤する流れは加速的に進んでいます。こうしたカジュアル化の流れに反対だ!なんてことを言うつもりは全くありません。必ずスーツを着なさい、とも思いません。(大前提として)一定のTPOさえわきまえれば、自由でよいと僕も思います。
こんにちは、Tsurutaです。

ということで、今回は「スーツ」をテーマにしながら本題へ…。


まずは店内ディスプレイから。



「スーツ」及び「セットアップ」をお題に5体、組んでみました。
「スーチング」「セットアップ」「テーラード」はこの春夏のトレンドです。オーバーサイズのブルゾン流行りから、一歩抜け出そうとする人たちが(少数派ながら)この流れを牽引しています。

しかし今回のブログはトレンドの話だけ、というわけでもありません。



<Editions M.R>のセットアップはリネン×ウールの清涼感溢れる素材が魅力。フレンチブランドらしい洒脱なムードが香ります。<THUILLIER>のクレリックシャツ、<ALDEN>のコンビシューズで少し明るいトーンに全体をまとめてみました。




<International Gallery BEAMS>オリジナルの新作ニットタイで軽快に。イメージ的には1920年代にアメリカからパリへ移り住んだ文学作家…の現代版、という感じ。



こちらは当レーベルオリジナルで昨シーズンもご好評いただいた「4つボタンダブルブレスト、3パッチポケット」のスーツ。ミディアムグレーベースにライトブラウンのペンが切ってあるチェック柄のスーツを第一ボタンまで留めた開襟シャツとキャンバススニーカーでアメリカンに着崩し。キーカラーのイエローもポイントです。アメリカにかぶれたヨーロピアンスタイル。




こちらは<DANIEL W. FLETCHER>のセットアップに<RAF SIMONS>のプリント入りビッグシャツをレイヤード、足元は<LOAKE>のタッセルローファー。ショート&フレアなシルエットがロンドンファッション気分です。



ジャケットの袖や裾は切りっぱなし。中から裏地がはみ出ています。



スタッズ付きのベルトをあしらって、構築的なショルダーラインを強調。




発売から3年目もご好評をいただいているオリジナルの2つボタンシングルブレストスーツ。全体が直線的で構築的なシルエットで構成されている点も「ポスト・オーバーサイズ時代」にはちょうど新鮮に見え始めるタイミングかと。




パンツの裾幅が狭くないので、<ANGELO RUFFO>のスリップ-オンシューズもエレガントな見え方に。 




低いゴージライン、レギュラーカラーシャツとの相性。このスーツを企画・提案した3年前に比べると今ではこのバランスも世間的にグッと浸透した気がします。




最後はこんな変わり種。<TA CA Si>のボンデージセットアップに<WACCO WACCO×BARBOUR>のボディバッグをオン。「ポケット&ストラップが多すぎでしょ」なコーディネート。ジップを開いてVゾーンを作り、ギンガムチェックのシャツ+<ATKINSONS>のクレストタイで英国スポーツ風に。




足元は<F.lli.Giacometti>のスエードモンキーブーツでまとめています。全体的には「パンクが野外に出かけたら」という感じです。



以上。店内ディスプレイより、セットアップ&スーツコーディネートでした。



マネキン君たちは実に自由な顔つきで楽しみながらスーツを着ている様に見えます。(着せ付けているのは僕ですが)もう、ここまで来ると「スーツ=お仕着せ」などという発想はありません。むしろ、その発想自体が前時代的だとも言えます。僕は誰に頼まれるわけでもなく、勝手にスーツを着ます。ネクタイもします。仕事の日でも休みの日でも。着たければ着るし、着たくなければ着ない。


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今から20年ちょっと前。ビームスの就職面接のために、書類選考をクリアした僕とその他数十名の学生たちは都内某所の部屋に集められました。集団面接です。「面接時の服装は自由」となっていたので、僕はコム デ ギャルソンのシャツにトリッカーズの靴を履いていましたが、学生の中にひとり、スーツにネクタイを締めた学生が混じっていました。僕と同じグループで面接に臨んだ彼はさっそく面接官に尋ねられました。

「なぜ、私服ではなくスーツを着てきたのですか?」
「僕はビームスFが大好きなので、普段からスーツを着ています。これが僕の私服です」

彼は最終面接にも合格し、僕の同期新入社員として原宿のビームスFに配属となりました。


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20世紀前半、黒人のジャズマンたちはステージ上で決してデニムを着なかったといいます。デニム=作業服、すなわち黒人たちを支配した奴隷制度の悲しい歴史・名残りからの脱却というわけです。彼らは今まで着せられてきたデニムの代わりにコンテンポラリーなスーツに身を包み、白人の魂すらもスウィングさせました。彼らにとってスーツとは自己表現であり、戦闘服であったのです。ジャズマンのスタイルはイギリスへ飛び火し、モッズ文化を生み出しました。英国人も着たくなるようなクールがアメリカで誕生したわけです。

「これを着なさい」と言われると着たくなくなる。
学生時代に散々着せられた学ランを卒業後も着ている人は殆どいないでしょう。
そもそもインターナショナルギャラリー ビームスはファッションのレーベル。「これを着なさい」と言われること自体がファッションとして成立しないわけです。それでも自発的にスーツ、セットアップに身を包むスタッフがここ数年増え続けています。


あらゆるドレスコードが半壊状態のいま、スーツは極めてパーソナルな「私服」となったのです。

「もはや着なくてもよくなったのならば、自ら着たくなるようなスーツを作る」

これが僕らの考えです。


結局のところ、自発的なものからしかスタイルは生まれないのです。



Tsuruta