サウンド・オブ

Satoshi Tsuruta 2019.08.29
 

2019年秋冬の欧州メンズファッションシーンは、ストリートカジュアルやラグジュアリーストリートの「緩い」「ルーズ」といったムードの飽和状態から完全な脱却を図っていました。


これは、この秋冬シーズンの動向を社内向けに説明するために、インターナショナルギャラリー ビームスのディレクター服部が発した開口一番のセリフです。


こんにちはTsurutaです。

今回はやや長文です。

読破するにはちと気合が必要ですが(笑)、どうぞ最後までお付き合いください。


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ドロップショルダーやコクーンシルエットなど体を包み隠す中性的なニュアンスのシルエットは減り、ショート丈のブルゾンでトップスのボリューム感を強調し上半身を男らしく見せるフォルムの増加。

コートやジャケットのショルダーラインは丸くなだらかなものから構築的なムードへとシフト。

マークされたウエストで逆三角形のプロポーションを意識したアイテムも。

春夏から当レーベルで提案していた「スーチング」はさらに加速。「ハイファッションとしてスーツを着る」「より自由なスーチングスタイルへ」と進んでいます。

そういった男らしいファッションへの変化に、2019年秋冬は大きな一つの要素が加わってきます。


それが『音楽』です。




ここ数年の間、ハイストリートなブランドを中心にキャッチーな「ロゴ入り」アイテムが世の中を席巻してきたことは記憶に新しいはず。勿論、ロゴ入りのアイテムが悪いわけではないし、実際にそういったアイテムをインターナショナルギャラリー ビームスでも展開してきました。しかし、それらがあまりに広がり過ぎてしまうと、それに対する反発心が人には生まれ始めます。人間の性(さが)です。


この「外見でわかる、わかり過ぎてしまう」ファッションへのアンチテーゼ筆頭が「音楽的要素」であると言えます。ロックやパンクをモチーフにしたデザイン、スタイルが復権していることもそうですが、なによりもまず、音楽はそもそも目で見るものでなく耳で聴くものだからです。

勿論、聴覚に付随して「レコードジャケットにしびれる」「ライブパフォーマンスに圧倒される」といった視覚的音楽体験は、多く存在するでしょう。


しかし、やはり音楽は根本的に「部屋で」「ヘッドフォンで」「大勢でも」「ひとりでも」「むしろ目を閉じていても」感じることのできる聴覚から心を刺激するカルチャーです。

しばらくの間、目でロゴを読みながらブランドを判別しているうちに僕らの耳は「ファッションが本来持っていたはずの鼓動」を、すっかり聴くことができなくなってしまったのでしょうか?



「スーチング」が注目される理由もこのあたりにあるような気がします。

20世紀初頭のラウンジスーツに端を発する、現在ぼくらが普通に「スーツ」と呼んでいるものは、様式として「ある完成形にたどり着いたミニマルな形」です。スーツの絵を小学生に描かせたら、おそらくほとんど同じように(襟、袖、ポケット、ボタンの形状はさておき)描くことができるでしょう。半袖・半ズボンのスーツやロングテールの上着を描く子は限りなくゼロに近いでしょう。


デザインの種類にほとんどバリエーションがない代わりに、もはや足すものも加えるものもないミニマルな洋服だとということです。

つまり「スーツ」こそデザインやブランド名だけで着ることが最も難しい洋服のひとつなのです。
社交性、清潔感、知性、マナー、優しさ、TPO…。


男性にとって最小単位の衣服である「スーツ」を彩る要素は、ほぼ「精神的な」ものから成り立っています。




「視覚中心のロゴファッションから、精神性に耳をすますファッションへ」

「ブランドファッションから、匿名ファッションへ」
「誰にでもわかるから良いではなく、誰にもわからなくても別にかまわない(自分にさえわかっていれば)」

ハイファッションが本来持っていた、ある種の選民意識。


ファッションの大衆化やグローバル化が進むとともに、どちらかというと否定的に語られるようになってきた、「自分は君たちとは違うんだ」というこの意識。たしかに言葉のままでは21世紀に通用するものではないでしょう。

しかし。

「人と違う服を着たい、みんなと同じではいやだ」
時代が変わろうとも、これがファッションの初期衝動であることに変わりはないのです。

それだけは認めないわけにはいかない。


「決め過ぎない方が、かっこいい」という概念も、結局は精神の本質を高めないままの表層的ノームコアとして、トレンドワード化した挙句に上滑りして去りゆきました。「ホントはもっとキメたいと思っていた人さえも、キメ過ぎないように息を潜めなければいけなかった時代」や「人が羨む(ほどに分かりやすく表面に書いてある)洋服を誇示するように着る時代」は過ぎ去ったのです。

より自由に。
より力強く。

音楽的表現力とスーツ的精神性を武器に。
倒すべき敵は外にはおらず、切り開くべき道が自分自身のなかにあるような感覚で。

2019年秋冬は目ではなく耳を使うファッション。
自分の中にある鼓動を、一音たりとも聞き逃すことのないように研ぎ澄ませて。



さあ、いよいよ開演です。


Tsuruta