サウンド・オブ・ルーツ

Satoshi Tsuruta 2019.10.10


ジャマイカと英国にルーツを持つデザイナー。


当店で取り扱うブランドだけでも、いまやスラっと幾つかの名前が思い浮かびます。

まずはNicholas Daley。

次にMartine Rose。

ともにジャマイカ出身の親を持ち、英国で生まれ育ったデザイナーです。


そして、今シーズンから取り扱う<WALES BONNER(ウェールズ ボナー)>のデザイナー、Grace Wales Bonner。

彼女もまた、ジャマイカにルーツを持つ英国人デザイナーです。

いまここに名前を挙げた三者三様、クリエーションの中身は異なれど全員がまだ30歳になるかならないかの若手デザイナーであることも共通項のひとつ。彼らが幼少期を過ごした1990年代の英国とは何だったのでしょうか???

こんにちは、Tsurutaです。



まずは店内に入荷している<WALES BONNER>のディスプレイから。
エルボーパッチが付いたヴィンテージタッチのスーチングもワッペンが様々取り付けられたアワードジャケットも、ともにドロップしたショルダーラインでたっぷりとしたシルエット。



ジャケットには厚めの肩パッドが入れられており、位置はドロップしているものの構築的なショルダーラインを描いています。ラペルやポケット周りに入れられた1cm~1.5sm幅のタタキステッキは1970年代の量産服の古着を見ているようではありますが…。



一転してボトムのウエスマンやサイドシームに施された白い糸はハンドステッチによるもの。




センターベントに大きなエルボーパッチ。1970年代のアメリカンスタイルを思い起こさせるバックスタイル。



こちらもアメリカンカレッジアイテムの代表格、アワードジャケット。通常ならば体育会系のマッチョモチーフ(動物や盾、スポーツ用具など)がワッペンとして付けられますが、この一着は違います。蝶や手相、月など、どこか占星術のようなモチーフに冷たく妖しい配色。「ST JAMES」の刺繍は廃棄物を集めて宗教アートの立体作品を作り続けていたアーティスト、James Hamptonへのオマージュになっています。




長くたっぷりとしたスリーブはしなやかなカウハイド、ボディはハードなメルトンではなく高級コートにも使用できそうな滑らかなウールフランネル素材。ボトムのコーデュロイパンツにも先述のハンドステッチが施されています。

今シーズンの<WALES BONNER>のコレクションは1967年にワシントンDCに設立された初めての黒人大学、ハワード大の卒業アルバムがインスピレーション源のひとつになっています。それでもコレクション全体を見渡した時に「単なるカレッジファッション」に留まっていないのは、サンゴや貝殻をモチーフとしたブローチやジャケットに取り付けられたフェザーなど(アワードジャケットの占星術刺繍もそうであるように)、すべての黒人のルーツであるアフリカ大陸を想起させるエッセンスが随所に散りばめてある為でしょうか。

Grace Wales Bonnerは人種問題への意識が高いデザイナーであり、自身のルーツを深掘りするアーティストでもあるようです。

先に挙げたジャマイカ系イギリス人である3人が育ったロンドンの街では、どこからともなくレゲエが聴こえてくるようなムードがあります。

1990年代に「トリップホップ」と呼ばれたダブサウンドを基調とする音楽ジャンルの震源地となった、イギリス南部の港町・ブリストルには実際にジャマイカからの移民は非常に多く住んでいます。一方で工業都市・マンチェスターから発火したレイヴカルチャーはロンドン各地に飛び火、ごった煮の狂騒は良識ある大人たちの顔をしかめさせました。

王室がある国。
王室があり移民街があるゆえにマイノリティから生まれる豊かなカウンターカルチャー。
ロンドンには昔から伝統的にトライブ(族)があり、反骨があり、そして音楽が鳴っているのです。

今シーズン、インターナショナルギャラリー ビームスが注目するのは「音楽が聴こえてくるような洋服」です。
90年代を最後に袂を分かつことになってしまった音楽と洋服。

今再び,90年代に多感な時期をすごした若いデザイナーたちから音楽が聞こえ始めました。


13歳からクラブ通いを始めたMartine、レゲエDJの親を持ちDon Lettsに感化されたNicholas、ハワード大学室内合唱団が歌う黒人霊歌をコレクションにささげたWales。
<MARTINE ROSE><NICHOLAS DALEY><WALES BONNER>、この3つのブランドのコレクションからは確実に音楽が聞こえてきます。自分たちのルーツに深く根差した音楽が。


ロックファッションだけが音楽ではない。


自分の奥底に眠っている音にもう一度耳を傾け、力強いスタイルを自らつかみ取るとき。

テースト無き2000年代ファッション、無音の世界にもう一度音楽が鳴り響くのでしょう。


あなたのなかでは今、どんな音が鳴っていますか?



Tsuruta