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鶴見川オーディオ探訪記

 この10月、<Pilgrim Surf+Supply>が渋谷に店舗をオープンして1年を迎えた。それに関連して今月は様々な催しが行われているが、さる10月1日にはニューヨークから<Pilgrim Surf+Supply>の創設者であるクリスを招いたアニバーサリー・パーティーを開催した。閉店後のショップを会場にしたこのパーティー、実にたくさんの方にお越しいただき終始賑やかな雰囲気であった。この場を借りてお礼申し上げます。


 <Pilgrim Surf+Supply>の店舗には、個人的にも思い入れがある。店内音楽を再生する音響機器周辺のコーディネートと手配を行なったからである。クリスは無類の音楽好きで、特にジャズ、フュージョン、ラテン、ソウルといったジャンルに造詣が深い。そうした部分を店づくりにも反映させることで、店舗はよりコンセプチュアルなものになる。そういったわけで、店内音楽をレコードでプレイすることや、クリスの好みのオーディオ装置を設置することなどが決まった。

 挙がってきたリクエストを元に、ヴィンテージ・オーディオを取り扱う店のサイトをチェックするも、完全に要望と合致するものはなかなか見つからない。古いオーディオ装置は、実際に見て、そして音を聴いた上でないとどうにも心配なので、北海道や九州に店舗があるヴィンテージ・オーディオ店は必然的に候補から除外されてしまうのも、探すのを困難にする要因のひとつであった。そんな風にしてヴィンテージ・オーディオ店のサイトを覗くのが日課になっていたある日、目当てのスピーカーがサイトに上がっているのを発見した。アメリカの<Klipsch>のものだ。調べてみると実店舗が横浜にある。これは、と思いメールフォームから問い合わせをしてひとまず取り置きをお願いした。昨年の初夏のことである。


 梅雨特有のじっとりと湿気を含んだ空気が暑さに拍車をかけるある日、実際に現物を見るためにこの横浜のヴィンテージ・オーディオ店を訪れた。横浜といっても最寄駅はJR横浜線の鴨居駅。新横浜駅から5分、菊名駅から8分ほどといえばだいたいの距離感は伝わるだろうか。電車は乗っていれば勝手に駅まで運んでくれるが、駅から目的地までは自力で行かねばならない。サイトのアクセスマップだと徒歩15分とある。まぁこのくらいなら大したことはない、そう思って歩き出したのだが、これが思いがけず果てしないのである。何しろ、鶴見川沿いの河川敷を延々と歩く。気候のよい時期ならハイキング気分で行けそうだが、梅雨時はそうはいかない。湿気と高温が容赦なく体力を奪っていく。初めて訪れる土地は距離の感覚がよくわからないので、余計に長い道のりに感じるものだが、まわりに人影のない河川敷をひたすら歩いていると永遠に到着しない気がしてくるのであった。


 とはいえ、実際は永遠に着かないわけはなく、ほどなくして目的のヴィンテージ・オーディオ店に到着(結果的に20分ほどかかったかもしれないが)。名乗って、あらかじめ用意してもらっておいたオーディオ機器のあるところに案内してもらう。<Klipsch>のスピーカーに合わせて<McIntosh>のプリアンプとパワーアンプもセッティングしてもらったのだ。音源を試聴し、それぞれの状態を確認して購入することに決めた。その後、店内を案内してもらい(倉庫のようなところなのでめっぽう広い)、再び鶴見川沿いを歩いて駅まで戻った。


 家のリビングルームで先のサウンド・システムを鳴らすのなら十二分だが、店舗はそれよりも広い。店のどこにいてもある程度音楽が聴こえるようにとオーダーしたのが、奈良でハンドメイド・スピーカーを製作している<sonihouse>の14面体スピーカー「sight」である。これを3ペア(6本)各所に設置することで、自然な音の広がりを目指した。ちなみに新宿「ビームス ジャパン」の1Fに吊り下げられているスピーカーは同じ<sonihouse>の正12面体スピーカー「scenery」である。

 音の入り口はスイスの名品<Thorens>のレコード・プレイヤーをチョイス。<BEAMS RECORDS>で取り扱いのある機種は、レコード・プレイヤーの扱いに不慣れな人でも簡単に操作できるタイプなのでこれにした。レコードはクリスがリストアップしたアルバムを、私の友人知人で中古レコード店に勤務する人々に協力してもらい、できる限り店舗オープン前に揃えたが、クリスが東京に来てから自分でレコード屋を回って入手してきたものも含まれている。こうしてオーディオ類やレコードをなんとか開店前に用意し、オープン日を迎えたのが昨年のことである。最初はおっかなびっくりレコードをかけていた店のスタッフも今や慣れた手つきでA面が終わったらB面にひっくり返してくれていて、心強い。


 先日のアニバーサリー・パーティーでは、DJミキサーを<McIntosh>につなぎ、<Klipsch>と<sonihouse>のスピーカーを鳴らしてみた。通常営業のときよりもグッとボリュームを上げてドライブしたわけだが、実にバランスよくかつパワフルなサウンドを届けることができて、この組み合わせの底力を思い知ることとなった。もちろん、大きな音でなくいつもの音量で聴いても、音楽のニュアンスや情報量が削がれることはないので、店を訪れる機会のある方はぜひ耳を傾けてみていただければと思う。

 昨今、巷には「ライフスタイル」を標榜する店がたくさんあるが、音楽の届け方にまで配慮を感じるところはほとんどない。流す音楽を「それ風」にするのがせいぜいである。そうした中にあって<Pilgrim Surf+Supply>は、手前味噌を承知でいえば姿勢に一貫性がある。私はサーフィンは門外漢だが、いい波を待つような、効率化とは真逆の時間がこの店には流れているように思う。一周年を迎えて思うのは、閉店後にでもちょっとしたゆるやかな集まりがここで定期的にできたらということだ。「Pilgrim Lounge」とでも銘打って、ゆったりと音楽や会話を楽しむなんていうのが実現したらなかなかいいのではないだろうか。集いの拠点になるだけのポテンシャルがこの店にはあると思う。


(メールニュース「BEAMS NEWS」Vol.346に掲載のコラムに加筆掲載)



スナック「日本號」一周年

 ここ数年で、スナックに行ってお酒を飲む機会が増えた。人に誘われたりして行く程度なので、大したものではないが、それ以前は足を踏み入れたことがなかったので、明らかに増えたといっていいだろう。巷でもスナック人気は高まっており、これまで訪れたことのなかった人がその扉を開け、新たなお客さんになっていると聞く。私もそのひとりということだ。

 重そうな木製の扉で明確にこちらとあちらを隔てる。その重たい扉の向こうで繰り広げられるカラオケの音がほんのり漏れ聞こえてきたりして。子どもの頃に持っていたスナックの印象は概ねこうしたものだった。大人になったらこういうところでお酒を飲むんだろうか……いやー行かないかな、とも思ったり。そうして、実際大人になってもなかなか訪れる機会が得られなかったし、別にそれで構わないと感じていたが、いまこうしてスナックの話を書いているから不思議なものである。


 友人である編集者の伊藤総研くんが彼の出身地福岡にスナックを作ったのは昨年のことだ。「日本號」という名のその店は、他界されてしまった彼のお父さんが最後に立っていた店の名前をそのまま受け継いでいる。「日本號」の開店に際してFacebookにポストされた総研の文章によれば、「数年前から40歳になったら福岡で何かをやりたいと思いはじめ、まっさきに思いついたのがスナックでした。僕は中洲でスナックを営んでいた父の息子です。だから、僕にとってはとても自然な選択でした。」ということで、東京で仕事をしながら頻繁に福岡を訪れ、店を作ってしまった。実にすごいことである。2015年10月10日にオープンした「日本號」は、福岡の人はもちろん、福岡を訪れた人々もここを目指して行ったりする人気店となり、まもなく一周年を迎える。

 一周年にあたって、さる9月25日(日)に「ライブ ”スナック” ハウス日本號」という記念イベントが開催された。会場は「日本號」の隣のビルにある「ROOMS」というライブハウス。伊藤総研くん、そして福岡にゆかりのあるミュージシャンらを迎えたこのイベントに、私もDJとして参加してきたので、当日の模様をご紹介しようと思う。


 15時、写真家・ホンマタカシさんと映像ディレクター/編集者の島本塁くんのギター・デュオdeer revengeの轟音で幕を開けた「ライブ ”スナック” ハウス日本號」。続いて箭内道彦さん(風とロック)と伊藤総研くんのトークを挟み、TOKYO HEALTH CLUBのライブがあって、その後に私の出番。30分という限られた時間のなか、ポジティヴな印象の曲をミックスし、(自分としては)楽しく持ち時間を終えることができた。私の次は、鹿児島の「グッド・ネイバーズ・ジャンボリー」の主催としても知られるトランペット奏者・坂口修一郎くん(Double Famous)と、Port of Notes、Discaのギタリスト・小島大介くんによるユニットSOのダビーで無国籍な音楽。そして急遽参加が決定した荒川良々さんのDJがあり、Pepe Californiaの多幸感たっぷりの演奏と続いた。

 イベントも終盤、Pepeのライブの後には<MINOTAUR>ディレクターの泉栄一さんがDJとして登場。もともと福岡の「Dice & Dice」にいた方だ。泉さんのディープ&クールな選曲から、福岡といえばこのお二人、Small Circle Of Friendsにバトンを渡す。Small Circle Of Friendsのライブでは、総研もステージ上で一緒に歌う場面もあったりして大いに盛り上がり、本来ならばここでイベント終了だったのだが、思いがけないサプライズ・ゲストライブ(これは来場者だけのお楽しみということで名前は伏せておく)もあって、さらに湧いたのはいうまでもない。最後はPepe CaliforniaのトシくんのDJをBGMに、皆楽しそうに、そして名残惜しそうに会場を後にして、6時間超の「ライブ ”スナック” ハウス日本號」はめでたく終了と相成ったのだった。


 会場となった「ROOMS」はライブハウスだということは先に記したが、イベント名に”スナック”とついていたのは伊達ではなかった。「日本號」の内装、インテリアを手がけた二俣公一さんが、「日本號」と同じ仕様かつさらに大型のU字型カウンターをこの日のためだけに設え、またスナックらしくソファ席も用意されていたのである。いうなれば「シャレ」をこんな風に真剣に実現してしまうところはさすがとしか言いようがない。

 二俣さんとは、今回初めて実際にお会いし、色々と話をすることができた。<BEAMS RECORDS>のロングセラー・アイテムのひとつである真空管とデジタルのハイブリッド・アンプ「22【tu:tu】」をデザインしているのが、ほかならぬ二俣さんなのである。プロダクトを媒介にして互いに以前から知ってはいたものの、こうして会う機会が持てたのは「日本號」のおかげ。スナックとは、そういう出会いがある場所なのである。


 イベント本篇の後、打上げになだれ込み、程よい時間にホテルへ帰って(最後は4時半頃までだったそう)福岡初日は終了。翌日、日中少し部屋で仕事をしてから太宰府天満宮まで足を伸ばした。夜は東京から福岡に移住した友人家族と食事をして、その後に待望の「日本號」へ。行くことは伝えてあったが、時間を言っていなかったので到着時は満席。補助席を用意してもらい、白州のソーダ割りをいただく。店はこぢんまりとしたサイズ感も相まって、洒落た友人宅を訪問したかのような居心地のよさがある。それでいて、カラオケもあるから面白いのだけれど(スナックだから当然か)。

 あまり長居も野暮かと思い、一杯だけ飲んでホテルへ戻り、翌日の午後には東京へ帰ってきた。一周年のお祝いもできたし、イベントも楽しかったし、「日本號」にも行けたしよかったよかった、と考えていてハッと気づいた。ボトルを入れるのを忘れたのだ。まぁしかし仕方ない。次回行ったときにしっかり入れてこよう。また行く言い訳にもなる。福岡を訪れた際の楽しみが増えたと思えばいい。

 「日本號」一周年、おめでとう。


読み方

 ありがたいことにいろいろな媒体で署名原稿を書かせていただく機会が増えるにつれ、ブログというものから遠ざかっていたが(時間的な問題から遠ざからざるを得なかった)、久しぶりに筆をとってみることにした。


 ブログのタイトル「文・音・造」は「ふみ・おと・つくり」と読む。純粋なコラムもあれば、自分がディレクターを務める<BEAMS RECORDS>をはじめとする音楽のこと、そして現在所属している「ビームス創造研究所」でのことを綴っていけたらと思ってのタイトルである。


 なるべく頻度を上げて更新するつもりだが、読んでいただく方の叱咤激励があるとなお捗ると思うので(更新した際はツイッターなどでお伝えします)、よろしくお願い申し上げます。