
小林 景太
1989年、福井県生まれ。
中学時代からアメリカに魅せられ、20歳でシアトルへ留学。大学卒業後はカナダ・トロントに移住し、コーヒー作りを学びながら放浪の日々を送る。2019年から現職のメンズカジュアルバイヤーに。趣味は食べて飲むことで、1995年式の Mercedes-Benz W124 を愛してやまない。
@gonzo19891016

渡邊 眞也
静岡県伊豆出身。海山育ち。
文化服装学院卒業後、スタイリストアシスタントを経験したのち2018年に「BEAMS原宿」にてアルバイト入社。一年後には同店で社員となり、現在は〈BEAMS〉メンズカジュアルとフューチャーアーカイブのバイヤーを務める。
@mayawtnb_

品川 智美
2014年入社以来、BEAMS BOYを担当。
VMDとして各店舗を経験し、現在はウィメンズのバイヤーとして、ウェアやシューズの別注企画、アウトドアブランドのバイイングを中心に担当。好きなのは、MADE IN USAのアイテムと、“色合わせ”にこだわったスタイリング。
@tomoimo3
Chapter1
25年かけて見つけた
「50:50」の距離感


そもそも〈BEAMS〉にとって、〈ARC'TERYX〉は“ファッションブランド”なのか、それとも“アウトドアブランド”なのか。デスクを囲ったバイヤーたちの最初の問いは、ここから始まった。大前提として、後者であることは当然理解している。同時に、この答えは「A or B」のようなシンプルなものでもない。
言語化すべきは、提案する立場である〈BEAMS〉が、どのように〈ARC'TERYX〉を見ているかであった。
渡邊:〈BEAMS〉は“ファッションのお店”だから、入口はファッションでいいと思うんです。ただ、何でもかんでもファッションにしてしまうと、〈ARC'TERYX〉がアウトドアブランドであることの魅力が削がれてしまう。機能は残したうえで、ちょっとしたところにファッションを感じられる。それが別注のあるべき形なんじゃないかなと思います。
〈ARC'TERYX〉は、機能に明確な理由を持つブランドだ。極限の環境で命を守るためにつくられた“ギア”であり、シームの幅やジップの構造さえ単なる“デザイン”ではない。だからこそ、コラボレーションを理由に〈BEAMS〉が自由に色を変え、形を崩せばいいわけではないのだ。



一方で、機能をそのまま伝えるだけならば〈ARC'TERYX〉で完結できる。別注にはいつもファンや顧客との間に「BEAMSがいる意味」が必要であり、それは今回も例外ではない。
小林:〈BEAMS〉にとって〈ARC'TERYX〉は、50%が“DO(=アウトドア)”で、50%がファッションであるべきだと思っていて。僕らと協業している以上、彼らは〈ARC'TERYX〉だけではやらないようなことを求められている。ただ、それには〈ARC'TERYX〉がアウトドア業界をパイオニアとして引っ張ってきたことへのリスペクトがないといけない。柄物をやればいいとか、「カッコいいからこうしよう」ではダメ。一着の洋服は、ちゃんと命を守れるものでないといけない。その意味で、50:50が最適解なんじゃないかな。
機能を壊さず、その上にファッションとして成立させる。それは、今回突然生まれた考え方ではない。初期の別注では、元々ボディと同系色で刺繍を入れることを美学としていた〈ARC'TERYX〉に対し、〈BEAMS〉側が「一度、色を入れてサンプルをつくってみよう」と提案。実際にサンプルを生産してみると、〈ARC'TERYX〉側もその仕上がりを面白がったという過去がある。
品川:広義にアウトドアを理解したうえで、ファッションに落とし込むということだと思います。以前の別注では、インラインではやらないようなダブルジップを、〈BEAMS〉別注だからという理由で特別に採用してもらったこともありました。そのときも「BEAMSには、ファッションとしての見せ方を求められている」と感じました。




〈ARC'TERYX〉のアイデンティティである機能性という芯は残しながら、一歩だけ違う方向へ踏み出すような作業。歴代の担当者が少しずつ積み重ねてきたその関係が、今回大きく変わったのは、ものづくりのコミュニケーションそのものにも表れた。
渡邊:これまでは、僕らからいくつか案を提案して、先方が「この案で行こう」と返してくれるような流れでしたよね。今回のように細かくキャッチボールをすることは、なかなかできなかったと思います。
小林:〈ARC'TERYX〉の北米以外で初となる開発拠点「東京クリエーションセンター」ができたことが大きいよね。「このパーツは残しますか?」、「どの世代の仕様を使いますか?」、「ロゴはどうしますか?」、こういうところまで突き詰められたのは、25年の取り組みでも初めてだと思うよ。
先輩たちが提案し、断念したアイデアも数知れず。それでもプロダクトを売り、丁寧に見せ続けてきた。その積み重ねがあって、ようやく細部を一緒に考えられる関係にまで辿り着いた。
このかけがえのない関係を次の25年へ繋ぐために、チームはカナダへ向かった。
Chapter 2
「パソコンを閉じて、岩を登れ」

ノースバンクーバーから、さらに車を走らせる。向かった先はスコーミッシュ。巨大な岩山に囲まれたこの場所で、〈BEAMS〉チームを待っていたのは会議室ではなく、ロープクライミングだった。
渡邊:もう、めちゃくちゃ田舎。デカい岩山ばかりでしたよね。初心者コースって言われたんですけど、高所恐怖症なので本音を言うとマジで嫌でした(笑)。
品川:結構な難易度でしたよね。最後に飛ばないといけない場所があって「絶対届かない」って思うところも飛ばされて。案の定落ちるんですけど、ロープで吊られてるから落下はしない。「無理です」って言ってるのに全然下ろしてくれなくて(笑)。
身体の節々を自然に擦り、ぶつけた。それでも、ここまで身体を使ったことには大きな意味があった。25年の関係値がありながらも、小林は「ようやく僕らも〈ARC'TERYX〉というブランドを知り、人に喋れるレベルになった」と語る。
小林:いつからか、ずっと嫌だったんだよね。何も知らずに、何もやらずにこのブランドを販売することが。でも、人気があるから売れていく。そのズレにちょっとした“偽物感”があったというか。だから、日本でもボルダリングのイベントを開催したり、どうすればブランドを知り、学べるかとずっと向き合ってきた。
〈ARC'TERYX〉のジャケットを、東京でファッションとして着ることはできる。スペックを覚え、その高い機能性を説明することもできる。けれど、岩に張り付き、腕を伸ばし、身体を動かしてみると、その服に求められているものが違う角度から見えてくる。なぜこの部分に可動域が必要なのか。なぜ身体を守れる構造でなければならないのか。なぜ軽く、強く、動きやすい必要があるのか。単なるスペックだった情報が、自分の体験へと変わっていく瞬間だった。
現地で印象的だったのは、〈ARC'TERYX〉のスタッフたちもまた、そうした環境の中で日常を過ごしていることだった。
小林:〈ARC'TERYX〉の社員は、みんな山に出るよね。ボルダリングやロッククライミングだけじゃなくて、スノーボードもやるし。それはグローバルでも日本のチームでも同じ。
品川:オフィスの隣にもクライミングジムみたいな場所がありましたね。
渡邊:健康的な人が多かった。食生活もちゃんとしてる(笑)。


カナダの街そのものも、ブランドと繋がっている。「スコーミッシュ」のように、普段商品名として目にしていた土地が実際に目の前に現れる。また、雨の日のバンクーバーでは、傘を差さずに、シェルを着て歩く人々の姿もあった。アウトドアのための道具が、そのまま街の生活着として、誰かの日常として機能している。東京で見ていた〈ARC'TERYX〉とはまた違う“リアル”が、現地にはあった。
本社へ入ると、意外な一面が見えてきた。
〈ARC'TERYX〉はデザインを行う場所と、サンプルを製作できる環境が近接している。そのため、世に出るかどうかも分からない実験的な素材やカラーを使ったプロトタイプも数多く存在していたという。
渡邊:質実剛健なイメージがあったので、あれは意外でしたね。結構遊んだサンプルを作ってて。もちろん製品になるにはテストをクリアしないといけないんですけど、その前段階では「こんなARC'TERYXがあったら面白くない?」って感じる素材やカラーも試していて。「いろいろなチャレンジもしているんだな」って思いましたね。




完成品だけを見れば、合理的でストイック。けれど、その合理性へ辿り着く前には、自由な実験がある。機能を突き詰めることと、遊ぶことは、決して反対ではなかった。
その姿勢を象徴するような言葉も、現地で聞いた。それは長年〈BEAMS〉との協業にも関わってきた、Dan Jackson(ダン・ジャクソン)との対話。創業期から在籍し、数々の名作を手がけてきた伝説的なデザイナーである。
品川:昔から〈BEAMS〉との関係を知っている方で「BEAMSには遊び心を求めている」という話をされていましたね。それを聞いて改めて、〈BEAMS〉らしい遊びを入れていくことは大事なんだなと。
渡邊:「もっと遊んだ方がいい」とも言われましたよね。「PCを閉じろ!」みたいな(笑)。

パソコンを閉じて、外へ出る。服を使って、岩を登る。そうすることで、初めて理解できることがある。25年続いてきた協業の節目に、〈BEAMS〉チームが改めて〈ARC'TERYX〉を身体で知ったこと。それ自体が、今回の別注をつくるための大切なプロセスだった。
Chapter 3
過去と現在、それを未来に繋ぐ25周年

今回のコレクションを象徴するのが『THETA AR(シータ AR)』である。
長めの着丈と優れた耐久性を備えたこのジャケット。ARは「All Round」のであり、高めのポケットはハーネス着用時も干渉しにくい配置、ドロップフードと呼ばれる襟とフードが独立して設計されるなど、〈ARC'TERYX〉の意匠が随所に反映されたアウトドアウェアのエポックメイキングである。
現在は生産終了によって廃盤。それを〈BEAMS〉は今回の別注で、特別に復刻する許可を得た。
小林:〈ARC'TERYX〉って基本的に復刻をしないことで知られている。ずっと新しいものをつくり続けて、進み続けているブランド。でも最近になってようやくアーカイブを参照するような流れも少しずつ出てきている。そうしたタイミングと、〈BEAMS〉は過去にも『THETA AR』をベースに何度か別注していたこともあって、今回このモデルを選ぶのはすごく整合性があった。
渡邊:『THETA AR』を復刻するとなった時に、オリジナルを選ぶのは〈BEAMS〉らしいと思いましたね。自分が担当になった時には、先輩たちのおかげで出来ることはかなり広がっていました。だから逆に、ここで終わらせちゃいけないという危機感もあって。オリジナルを忠実に再現しながらも、〈BEAMS〉らしい解釈をプラスするように意識を向けましたね。




『THETA AR』にもいくつかの世代が存在する。その中でチームが基準にしたのは、最も初期のモデルだった。大きなジップタブ。前立て。ベルクロ。丸みを帯びたジップテープ。機能を突き詰める過程で、時代を重ねるごとにより細く、より軽く、よりミニマルに変わってきたディテールを、あえて過去から引き戻した。
もちろん、当時のアイテムを単調にコピーするような作業はしない。現在の技術でつくる以上、更新すべきところは更新する。
小林:当時のフィットや仕様をベースにしながら、「ここは残した方がいい」「ここは今だと少し目立つからアップデートしよう」みたいなラリーを続けたよね。懐古主義じゃなくて、25年間の関係を振り返るために、過去を引用するような気持ちだった。
品川:「紅葉」というカラーパレットのテーマも、日本とカナダの共通項でありながら、〈BEAMS〉らしい色合いで気に入っています。明るいオレンジ、〈ARC'TERYX〉で長く使われてきた“Blaze”、そしてショルダー周りのダークブラウン。遭難時や雪山などのアウトドア環境で目立ちやすい色合いを、紅葉の中にある色だけで繋げることができました。
名作と色合いもあって、『THETA AR』はコレクションの顔に見えるだろう。だが、パンツこそ、今回の協業に最大の意味をもたらすアイテムだとバイヤー陣は胸を張る。
パンツは〈ARC'TERYX〉の既製品に〈BEAMS〉の色をつけたわけではない。〈BEAMS〉のロングセラーである『BIG 6ポケットパンツ』を〈ARC'TERYX〉のデザインチームに手渡し、その寸法や仕様を参照しながら〈ARC'TERYX〉の技術と考え方を重ねていった。

小林:〈ARC'TERYX〉のパンツって、僕らが普段履いているものと比較すると、やや細身の仕様で、ポケットワークが自分たちの感覚とは違うところがある。それが今回、ようやく「これだったら本当にデイリーに履ける」というものができたと思います。
〈BEAMS〉の定番を、〈ARC'TERYX〉がアウトドアウェアとして再構築する。今回のラインナップの中でも、両者の考え方が最も直接的に混ざり合ったプロダクトと言えるかもしれない。
過去に戻るベクトルと、未来へ向かうベクトル。その両軸がコレクションに共存するところに、協業25周年の軌跡が表れている。
実は今回の取り組み全体には、「NOW / THEN」というテーマが設けられている。
渡邊:今回の50周年と〈ARC'TERYX〉との協業25周年が“NOW”。それと並行して〈BEAMS〉主導で〈ARC'TERYX〉の本と言っても差し支えないボリュームのZINEを制作していて、それのお披露目をするミュージアムイベントも企画しており、それが“THEN”になります。現在と過去があるからこそ、未来にも繋がる。“+FUTURE”まで考えられたらいいよねという話は、最初の段階からしていました。
小林:先輩たちが、僕らにバトンを渡してくれた。だから、これからは僕らが次の世代まで続けていけるような関係性を継続していかないとね。ニューヨークでの取り組み、本をつくること。今できることを全部やる。それが「BEAMSとまたやってよかったね」という素敵な思い出になって、次に繋がるはずだからね。

品川:もっと“DO”も増やしていきたいですね。〈ARC'TERYX〉チームとだから出来るアクティブなこと。願わくば雪山に登りたいですね。
渡邊:もう来年、再来年の話もしていますからね。向こう2〜3年ではなく、その先を見据えて、モノづくりとコトづくりをしていきたいです。
25年間続いたからこそ、今回初めてできたことがある。しかし、その25年をゴールにはしない。
〈BEAMS〉と〈ARC'TERYX〉の“裏”ばなしは、まだ途中なのかもしれない。
ARC’TERYX × BEAMS - Anniversary Collection

THETA AR JACKET
多くのユーザーに愛された1998年発売のオリジナルモデルがベース。センターフラップやポケットのジップカバー、旧式プルタブといった当時のデザインを踏襲しつつ、内側には〈BEAMS〉創業50周年の特別ロゴを配置しています。素材には防水性・透湿性に優れ、軽さと耐久性を両立する最新の「GORE-TEX PRO ePE」を採用。〈ARC'TERYX〉のBLAZEとBEAMSオレンジのカラーブロックに、紅葉の色の移ろいを表現したトリコロールジッパーやオリジナルの24Kロゴ刺繍が映える象徴的なプロダクトです。
COLOR:KOYO
SIZE:XS、S、M、L、XL、XXL
PRICE:¥187,000(inc.tax)

GAMMA JACKET
〈BEAMS〉初別注となる多機能ソフトシェルジャケット。耐風性と耐水性に優れ、天候の変化が激しい環境にも対応します。ボディにはBEAMSオレンジを採用し、〈ARC'TERYX〉の公式カラーネームとして初めて〈BEAMS〉の名が刻まれました。胸元には両ブランドの歩みを称える24Kのロゴ刺繍を施し、フロントにはBLAZEカラーのセンタージップでアクセントを添えています。
COLOR:BEAMS ORANGE
SIZE:XS、S、M、L、XL、XXL
PRICE:¥52,800(inc.tax)

JOGEN PANTS
〈BEAMS〉のロングセラーモデルをベースに新開発されたユーティリティスタイルのカーゴパンツ。モデル名は日本屈指のクライミングエリア・小川山のボルダー課題“上弦”に由来しています。素材には耐久性の高いストームテック仕様の軽量コットンナイロン混紡を採用。裾の調節可能なバンジーコードやゆったりとしたリラックスシルエットで〈BEAMS〉らしいスタイルに仕上げつつ、幅広いニーズに応えるレギュラーとショートの2レングスで展開します。
COLOR:24K BLACK
SIZE:XS、S、M、L、XL、XXL(※Regular、Shortレングスともに):
PRICE:¥49,500(inc.tax)

KRAGG COTTON LS SHIRT
へビーウェイトな240gsmの起毛ジャージーコットンを採用したロングスリーブTシャツ。バックプリントには、〈BEAMS〉の25周年から50周年までの節目を彩ってきた6つの歴代アニバーサリープロダクトと、その背景にあるストーリーをスペシャルグラフィックとしてレイアウト。両ブランドが築き上げてきた25年の軌跡を象徴するグラフィックTシャツです。
COLOR:WHITE LIGHT
SIZE:XS、S、M、L、XL、XXL
PRICE:¥17,600(inc.tax)

KONSEAL 15 BACKPACK
同重量の素材と比べて約2倍の耐摩耗性を誇る、ブランド独自の315デニール「Hadron™」ファブリックを採用。今作ではブラウンを基調とした新色のファブリックをベースに、ジッパーパーツへコントラストが映えるBEAMSオレンジを配しました。フロントには24Kカラーで施された両ブランドの刺繍ロゴがさりげなく主張する高機能モデルです。
COLOR:BITTERS / YUKON
SIZE:FREE
PRICE:¥19,800(inc.tax)

GAMMA 5 PANEL CAP
〈BEAMS〉初展開となる別注モデル。素材には通気性とストレッチ性に優れ、環境に配慮したリサイクル素材「Aequora AirPerm™」を採用しています。ブラックボディのフロントには24Kカラーの〈ARC'TERYX〉バードワードロゴ、サイドには〈BEAMS〉のシンボルロゴを配し、アクティブシーンからタウンユースまで幅広く活躍します。
COLOR:24K BLACK
SIZE:S/M、L/XL
PRICE:¥13,200(inc.tax)


















