昼も夜も忙しく過ごしている人が、もっとも自分らしくいられる時間。限られた時間だからこそ、好きなことや大切なことに向き合えるし、普段出会えない人と交流が生まれたり、ライフスタイルが豊かになります。そんな「朝活」を自然と楽しんでいる人たちをフォーカスした<B:MING by BEAMS>の連載企画。第13回はファッション業界から転身し、小さな頃からの目標であった農家としての独立をはたした柳田大地さん。野菜づくりの魅力を多くの人たちに共有するために、太陽が目覚めない朝4時過ぎから、自然と、野菜と向き合う一日が始まります。

Photo_Ayumi Yamamoto
Interview&Text_Masayuki Ozawa

朝は野菜がいちばん元気なとき。
多くのエネルギーをもらっています


Q:まずはいつから農業をやりたいと思っていましたか?

「母親の影響がすごく大きかったです。近所のスーパーだけで買い物を済ますことはせず、遠い百貨店の自然食品店まで行って新鮮な野菜やお米を買うくらい、食べ物に気を遣う人でした。子どもながらに「どうしてそこまでするんだろう?」って不思議でしたが、体は食べるもので作られている、おいしいものを食べれば心も健やかになる。そういったことが実感できるようになると、自分でそれを作りたいと自然と思うようになりました。仕事にするとまではいかなくても、中学、高校くらいから漠然と野菜を育てたい気持ちがあったと思います。」


Q:その前に、アパレルでの販売員やモデル業を経ていますね。


「家の事情で大学を辞めることになったときに、先輩に誘われてモデルエージェンシーに所属しました。その頃は自然と戯れるのがただただ好きで、仕事の空いた時間によく釣りに出かけていました。そのうちに結婚することになって、人生を真剣に考えるようになり、原点に帰って農業を目指そうと。そのためにはまずお金を貯めて生活の基盤を整えてから準備を進めようと思いました。ちょうどその時、知人からお誘いをいただき、アパレルの仕事を7年ほど続けました。その頃は忙しい日々で、朝を大切にする生活とは無縁でしたね。」



「ある時、池袋サンシャインで開催されていた、農業を仕事にしたい人を支援するためのイベントに参加したんです。そこで埼玉県小川町で有機野菜を専門にしている農家に出会い、縁があって週2の休みのうちの1日はそこに通ってお手伝いする生活を約2年続けました。そして2年前の4月に前職を退社し、家族で小川町に引っ越しました。また別の農家で今度は2年、新規就農のための研修を受け念願叶って今年、独立することができました。今はより持続可能な暮らしを目指し、無肥料、無農薬での野菜づくりに取り組んでいます。」


Q:なぜ小川町への移住を決意したんですか?


「小川町はもともと有機の里として知られています。金子美登さんという有機野菜のパイオニアがここでスタートされてから、金子さんの考えに共感した方々が集まり、ひとつのコミュニティーが生まれたようです。今はおそらく70〜80もの大小さまざまな有機農家がここで野菜を作っています。それは全国的にみてもとても珍しいエリアで、同じ志を持つ先輩方や仲間がいることが移住の決め手でした。」

時間に縛られないから、 農業は飽きが来ない。

Q:農業をはじめて、自分に変化は訪れましたか?

「性格は根本的に変わっていませんが、抗えないことの多さを実感し、いろいろなことを受け入られるようになったかもしれません。普通に仕事をしていてもトラブルはいろいろありますが、ある程度は乗り越えられるじゃないですか。というより何とかしなければいけない。しかし自然を相手にすると、自分の無力さを感じることが多いんです。でも、それはあきらめではなく、過信しないこと。自然と、その中で一つの要素でしかないちっぽけな自分との間で、バランスが取れるようにはなったと思います。」


Q:朝のスケジュールを教えて下さい。


「いまは4時頃に起きて、車を10分ほど走らせて畑に向かいます。この時期は主に収穫をしていますが、朝でしか気づけないことはとても多いです。この時期は暑いので、朝早くから作業をスタートし、その分日中は少し長めに休憩しています。小川町は夏と冬の寒暖差が激しいので、冬は9時くらいにならないと収穫もできません。そのときは家でストーブにあたりながら大豆の選別をしたりしています。環境や季節、その時に育てている植物によって、過ごし方は変わるもの。時間に縛られていないというのは、ある意味農業の魅力の一つかもしれません。」


Q:今後の目標はありますか?


「生活に必要な最低限の固定費はちゃんと稼がなきゃと思っていますが、ここで採れた野菜をビジネスにしている意識はまったくありません。自分と家族が暮らしを育むために毎朝ここに来ています。自らの生活を通して、農業の魅力や自然の楽しさを、より多くの人に伝えていきたい。農業って、きついとか大変とか、始めるのに時間とお金がかかるとか、いろいろと先入観があるじゃないですか。でも、僕はトラクターも持っていなくて、使っている機械は知り合いから譲ってもらった耕運機と草刈機だけ。本当はみんなが想像するよりずっと気軽にできるんです。そして農業を始める前の僕自身もそうでしたけど、多くの人が健康そう、とか環境に良さそうとか、漠然としたイメージは持っていつつも、有機についてあまり知らないと思うんです。だから僕は経験や行動を通して、真意みたいなものをオープンなスタンスで伝えていきたい。そうすれば興味を持つ人がどんどん増えてくれるはず。最終的な目標は、食にまつわるテーマパークをここに作ること。遊び場があって、実際に畑に入って収穫ができて、採れたものを食べる場があって。多くの体験ができる一つの場所を、時間をかけてゆっくり作っていけたらな、と思っています。」


Q:朝食に対してのこだわりはありますか?


「前日採れたものを食卓に並べることで、自分が作ったものを確かめながら、感謝の気持ちをもってその日の作業に臨む。自然なことだけど、大事なことかと思います。僕、いままで漬物とかすごく苦手だったのが、普通に食べられるようになりました。すごく曲がった胡瓜や傷がついたナスとか、収穫しても出荷できない野菜をぬか漬けにするのですが、それがすごくおいしい。農業をしていると、近所のおじちゃんやおばちゃんと話す機会もすごく増えました。そこで「昔はこうやって食べたんだよ」とかいろいろ教えてもらうんですが、本当に理に叶っていることばかり。そういった先人の知恵や経験を、自分の朝に活かしていきたいって思います。今までは、新しい情報ばかりを追いかけていましたけど、今はその逆をやっている感覚ですね。基本って何だろう。そういうことを考えられる時間かもしれません。」

「ここの朝は雑音がなくて、とても静かです。車が走る音もほとんどありません。だから素になれるというか、自分でも意識せずに今日1日の英気を養うことができるタイミングかなと。あと、生き物が一番元気な時間です。そこから貰えるエネルギーは大きい。だから朝はすごく大切な時間だと思います。」

柳田 大地
DAICHI YANAGIDA


1988年生まれ。埼玉県出身。モデルを経て、アパレルの世界へ転身。東京ストリートを代表するショップ「GIP STORE」や「DESCENDANT」で約7年間、スタッフおよび店長として勤務した後、2018年に本格的な農業の道を志し、埼玉県小川町に移住。2020年の春より、農家として独立。各ショップでの店頭販売やワークショップなどを通じて、農業の魅力を広く伝えている。
Instagram:@sou_farm

柳田 大地
DAICHI YANAGIDA


1988年生まれ。埼玉県出身。モデルを経て、アパレルの世界へ転身。東京ストリートを代表するショップ「GIP STORE」や「DESCENDANT」で約7年間、スタッフおよび店長として勤務した後、2018年に本格的な農業の道を志し、埼玉県小川町に移住。2020年の春より、農家として独立。各ショップでの店頭販売やワークショップなどを通じて、農業の魅力を広く伝えている。
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