#002 Meeting of the Trees 2009.11.20-12.25 Interview

Meeting of the Trees

Photo: Seiji TOYONAGA

2009年、〈BEAMING ARTS〉のクリスマスキャンペーンに参加した津田直さん。"Meeting of the Trees"というタイトルのもとにセレクトされた写真が、ショッピングバッグやディスプレイウィンドウに展開された。それから季節がひとめぐりした今、津田さんは何を思い、何を創るのか。改めて話を聞きました。

自分のところを離れたからこその、新たなる可能性が開かれる感じもあるんです。

Art Direction : Seiji TOYONAGA

自分が見たもの、創るものをどう伝えるか、ということは僕がいつも考えてきた問題です。どうタイトルをつけるか、写真集にするのか、あるいは展覧会で発表するのか……。アートと出会う場所は何も美術館やギャラリーでなくていい。入り口はいくつも設けた方がいいと思うんです。そんな中で去年は、BEAMSからこのプロジェクトのお話をいただき、企業と作家とで対話を重ね、提案できることはないか探ることから始まりました。写真作品をショッピングバッグに印刷して、ウィンドウにも作品をプリントする。そこには単に自分の作品がいつもと違うかたちで使われて面白かったねっていう以上の、ドキドキとした感じがありました。プロジェクトがアートを生き生きと見せてくれる現場に関われたことに、ちょっと息が上がるくらいの興奮を覚えたんですよね。社会と関わると、自分の作品は自分の手から離れます。手放し、手渡すその瞬間は、「共有」する瞬間でもあって、そこにはある種の違和感はあるけれど、やっぱり、自分のところを離れたからこその、新たなる可能性が開かれる感じもあるんです。

たとえば、このプロジェクトがきっかけとなって、僕や、現代美術に興味を持ってくれた人がいると思います。年明けから本来の制作のスタイルに戻って、プロジェクトから丸一年になる11月には、アイルランドを撮影した『Storm Last Night』という写真集を刊行する予定なんですが、それが今までとは違う、これまでアートに関わったことのなかった方々のところへ届くことになるのかもしれない。

もっとダイレクトに、地域や社会そのものに、写真というものを通じて関わっていく。

一方で、プロジェクトを通じて僕自身にも変化があったとも感じています。10月27日から11月7日にかけて開催された「more trees」というチャリティープロジェクトに参加したんです。坂本龍一さんが発起人となっている森林保全団体が開催する展覧会で、収益を森林保全活動に充てるというもの。僕はそこに、まさに去年の〈BEAMING ARTS〉に使った作品撮影時に訪れた、ドイツのシュヴァルツヴァルトという森で撮った未発表カットを出品しました。今までチャリティーの形で写真を出したことはないんですけど、ひょっとして、去年のBEAMSでの経験が、僕と社会との距離感を変えてくれたのかもしれません。

美術館やギャラリーという、ある種特別な場所だけではなく、もっとダイレクトに、地域や社会そのものに、写真というものを通じて関わっていく。そういう意識が強くなったのかもしれません。

プロジェクトがスタートする時には、やはり「目的」のようなものがある。でも中で動いている側の人間、BEAMSの方々、それから僕たち作家は、やっているうちに影響し合ってどんどんいい意味でその「目的」を越えてつながっていくんだと思います。そうやってつながり、動いていくうちに気がついたら社会の意識が変わっていく、それは理想の形ですよね。「こういう意識を持ちましょう」って押しつけるのではなくて、人間の方が先に動いてその周りの人の意識が変わっていくというか。今の社会って、先に社会が率先してやらないといけない、みたいな風潮が強くあるけれど、そんなことよりも、たとえば個人がきちんと関われば、自然だってきちんと生き返ってくると思うんです。そういう意味で、問題は社会ではなくて個人の方にある。機会を得て作家たちがBEAMSというひとつの企業に出会い、上手にまわっていくのだとしたら、やはり作家ー企業の間でのコミュニケーションを通じて発信したものが社会の意識にすり替わっていくといいなと思っています。

自然と人間の関係を例に挙げると、今、自然は世界中で破壊されてしまったと認識されています。その関係がきちんと機能していたら「自然」という言葉を使う必要すらないはずなんです。ある一定のものを自然からもらって、だからある一定のものを自然に返す。それはごく普通のこととして機能していたわけですから。

この状態を変えようとするとき、大きなところからじゃなくて、すごく小さな単位から変えていけばいいと思うんですよね。そうすればテコの原理のように大きなところもぐいっと動く。そこのところをもう一度自分たちの中でつかみ直し、信じてみる必要があるんじゃないか、と思います。

繰り返し続けるという考え方が、すごく大事なんですよね。

〈BEAMING ARTS〉がどこまで社会に影響があるのかは、正直なところ分からない。分からないけれども、やると決意して、繰り返してやっていくことで、着実に、あらゆることに変化を起こしていけるように思うんです。だからこそ、その場にツールとしてアートが関わっているのはとても嬉しいし、面白い。アートはこうでなくちゃいけないというような意識を離れて、本来のフィールドでないところに意識を向けて何かメッセージを残せるとしたら、それは作家として願ってもいないことだと思うからです。

繰り返し続けるという考え方が、すごく大事なんですよね。ある明確な意識を持って〈BEAMING ARTS〉がプロジェクトを発信して、その明確な意識に僕のような作家が関わって何かを共有してある季節を過ごし、一年経つとまた別の作家が関わって……と一回限りでないこと、その役割は可能性に満ちていると思います。

アートは、すごく大きなコミュニケーション能力を持つものだと僕は信じています。昔はただ人と人が向き合って話せた時代もあったと思う。でも今はそうもいかない複雑な時代に来ていて、そういうときに、誰かが「今の問題/題材はこういうことだよね」と一枚の絵画、一枚の写真として提示して、ぽんとテーブルに出してくれることがすごく重要になっているんじゃないか、と思うのです。

誰か特定の人が力を持っているわけではなく、その問題意識のテーブルみたいなものだけが常にあって、そこに新しい人たちが加わったり、メンバーが変わったりして循環していく。変えていくのに10年かかるテーマもあれば、100年かかるものも、3日だけでいいものもあるでしょう。でもその色々なものに対して色々な会話がなされるべきなんですよね。偏ったものだけを社会が変えようとするのでは足りない。だから、去年このプロジェクトに参加した者としては、我々が会話したことが、今年は須田さん(須田悦弘氏:2010年のBEAMING ARTS参加アーティスト)にどうバトンタッチされ、あるいはどう変わっていくのか期待しています。

See Bach See #7
2009年

アートに関わるアーティストと、ファッションに立ち位置を置くBEAMSが交錯するこのプロジェクトは、大げさに何かをやろう、という感じでやっているのではなくて、問題意識が重なって、ごく自然な流れで生まれているようにも感じています。アーティストがアートの枠組みに止まらず、時代に発言できているかというと怪しいし、企業は企業で、モノをつくり販売するだけでは煮え切らない、タッチできない問題も出てきている。そういう時代に、スタンスの違う者同士が集まって、関係が生まれ、〈BEAMING ARTS〉で言えばショッピングバッグのような物を通じて一般の人が伝達者になっていく。そういう風な無理のなさ、自然さがこのプロジェクトにはあると思うんです。

このような手の結び方を誰かと誰かがしていくと、きっと、決まったことだけが進んでいくような社会じゃなくなるはず。それはすごく「自由」なことです。自然を侵さない、というような最低限の摂理は守りながら、色々なものを創る可能性が出てくるでしょうから。〈BEAMING ARTS〉がきっかけとなって、そのずっと先にそんな「自由」が見えたらすごく面白くなる。このプロジェクトがそういうものに育っていくことが楽しみですね。

構成: 阿久根 佐和子

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NAO TSUDA [INTERVIEW]
NAO TSUDA [SPECIAL WEB SITE]
Photo :
Atsushi NAKAMICHI

津田 直 Nao Tsuda

http://www.tsudanao.com/

1976年、神戸生まれ。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている写真家。2001年より国内外で多数の展覧会を中心に活動。主のなシリーズに、「近づく」(2001−2004)、「漕」(2005−2009)、「SMOKE LINE」(2008)、「果てのレラ」(2009)、「Storm Last Night」(2010)、「REBORN」(2010−)、「Earth Rain House」(2012)がある。自然を捉える視線のユニークさと写真と時間の関係という古くて新しいテーマへの真撃な取り組みで、21世紀の新たな風景表現の潮流を切り開く新進の写真作家として注目されている。2010年、芸術選奨新人賞美術部門受賞。2013年より大阪芸術大学客員准教授、大阪経済大学客員教授を務める。作品集に「漕」(主水書房)、「SMOKE LINE」( 赤々舎)、「近づく」(AKAAKA+hiromiyoshii)、「Storm Last Night」(赤々舎)、「SAMELAND」(limArt)等がある。

主な個展

2005年
「漕ぎだし」(主水書房/大阪)
2006年
「niwa『knot』」(hiromiyoshii/東京)
「眠りの先−夜をひきつれて」(Gallery Kai/東京)
2008年
「漕」(ジョン・コネリープレゼンツ/ニューヨーク)
「狭間の旅人」(graf media gm/大阪)
「SMOKE LINE−風の河を辿って」(資生堂ギャラリー/東京)
「SMOKE FACE」(NADiff a/p/a/r/t/東京)
「漕」(hiromiyoshii/東京)
2009年
「果てのレラ」(一宮市三岸節子記念美術館/愛知)
2012年
「REBORN “Tulkus’ Mountain(Scene 1)”」 Taka Ishii Gallery Kyoto/京都
「Storm Last Night / Earth Rain House」 CANON GALLERY S/東京
2013年
「NORTHERN FOREST」 T.O.D.A./栃木
2014年
「SAMELAND」 POST/東京
「On the Mountain Path」 Gallery 916/東京
「REBORN (Scene 2) ― Platinum Print Series」 Taka Ishii Gallery Modern/東京

主なグループ展

2005年
「現代写真の母型2005サイトグラフィックス[風景写真の変貌]展」(川崎市市民ミュージアム/神奈川)
「Vision on the move vol.2」(graf media gm/大阪)
2006年
「ドキュメント福島|日本の視点、福島との対話」(福島県立美術館/福島)
2007年
「BIWAKOビエンナーレ2007」(尾賀商店/滋賀)
2008年
「Paris Photo」(カルーセル・ド・ルーブル/パリ)
2009年
「もうひとつの森へ」(メルシャン軽井沢美術館/長野)
2010年
「Keisuke Maeda and Nao Tsuda」(L.A.Galerie/フランクフルト)
2012年
「東北 -風土・人・くらし」 中華世紀壇世界芸術館/中国・北京、パース市役所庁舎/オーストラリア・パースなど
「現代美術の展望 -新しい平面の作家たち VOCA展2012」 上野の森美術館/東京
「華雪/津田直『それはかならずしも遠方とはかぎらない』」 hiromiyoshii roppongi/東京
「Gelatin Silver Session 2012 - Save The Film -」 AXIS Gallery/東京
2013年
「Gelatin Silver Session 2013 - Save The Film -」 AXIS Gallery/東京
「東北 -風土・人・くらし」 フィリピン国立博物館/マニラ、シアトル・センター・パビリオン/シアトル、タジキスタン国立図書館/ドゥシャンベ、クロアチア科学芸術アカデミー、グリプトテカ美術館/ザグレブなど
2014年
「東北 -風土・人・くらし」 ラドビラス・パレス美術館/ビリニュス、ローザ・パークス博物館/モンゴメリ、福島県立博物館/福島など

作品の問い合わせ先

タカ・イシイ ギャラリー

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