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2024年も残りわずかとなった12月、「ビームス ジャパン(新宿) 5階」〈B GALLERY(Bギャラリー)〉にて、イラストレーター・一乗ひかるの個展『fragile』が幕を開けました。この個展に並ぶのは、「壊れやすさ、儚さの裏側に持ち合わせている強さ」。どのように捉え、作品として昇華させたのでしょうか。個展に込められた思いや、作品が生まれた背景について探るべく、一乗ひかるさんご本人に直接お話を伺いました。
「昔から花はよく描いてきたモチーフですが、描くたびにその儚さと、何とも言えない凛とした強さに惹かれているんです。」と語る一乗さん。
圧倒的な花の美しさと、それを支える繊細な茎の細さ。その華やかさの背後に隠された「芯の強さ」は、まさに日々揺れ動く自分のメンタルと共鳴していると言います。「自分も、周りの人々も、皆それぞれ何かしらの“弱さ”を抱えていますが、同時にその中に秘めた強さを持っていると思うんです。」
お花との向き合い方にも変化があるといいます。「昔は受験対策として、花を観察し、モチーフとして写実的に描くことが多かったんです。でも今は、もっと自由に、その花の『何を描きたいか』という感覚を大切にしています。」と、一乗さんは語ります。
また、花を描く際に重要視しているのは、「花が持つ意味や象徴性にとらわれず、あくまで自分の感覚を優先して描くこと」。花言葉についても、まったく意識をしていないそう。「花言葉には、色によってネガティブな意味がつけられていることがあって、それがなんだか可哀想に感じるんです。」と、一乗さん。
自由で純粋な視点から生まれる作品は、彼女独自の感性を色濃く反映し、花そのものの持つ美しさを、新たな形で表現しています。
それは、テーマや作品の一貫性を保ちつつ、自然体で作品を作り上げることでした。「テーマがぶれないように意識しながらも、無理に縛られず、自分の今の感覚に任せて作品を描けたことがよかったです。最終的には、すべてがひとつにまとまっている感じがあり、安心しました。」
また、グッズとの統一感も自然に生まれたといいます。「『fragile』という言葉が、作品とアイテムにぴったりはまって、とても良い形で表現ができたと思います。」
おすすめポイントをキュレーター・横山さんに伺いました!
花が今回の個展のテーマのひとつだったので、「花瓶を作ろう」という話はすぐに出ました。「ビーカー」は一乗さんのアイディアで、昔からビーカーやフラスコに花を生けたいというイメージがあったとのこと。『fragile』というタイトルにもピッタリのアイテムになりました。
〈B GALLERY〉だからこそ作れるコラボレーションアイテムをラインナップに入れたいと思い、普段からお世話になっている〈TEMBEA(テンベア)〉さんに相談し、前述のビーカーがちょうど入るサイズのバッグを特別に製作頂きました。生地の色も一乗さんセレクト!厚手でしっかりした素材なので、花を生けたビーカーやコップを入れて壁掛けにも使えるんです。ちょっとしたお出かけにも便利なミニサイズで、日常使いにも最適だと思います。
このアイテムは、7月に「ビームス ジャパン」で開催されたYUKIDYEさんのPOP UPに、一乗さんが遊びに来てくれたことがきっかけで実現しました。2人の職人を〈B GALLERY〉が繋いで生まれた、今回の目玉アイテムです。
東京では実に3年ぶりの個展。特別なきっかけがあったのでしょうか?
「東京ではいつでもできるという思いがあって、気づいたら3年も経ってしまいました(笑)。久々にやるなら安心できる場所がいいなと思って、以前から親しくしている〈B GALLERY〉で開催することにしました。」
多くのクライアントワークをこなし、忙しい日々を送る一乗さんに、癒しの時間があるのか尋ねると、即座に答えが返ってきました。「猫です。海の近くに引っ越してから迎えた猫がいて、もう1年くらいになります。おかげで、猫を描くときに解像度が上がった気がします(笑)。」
一乗さんの本音を知りたくて、最後に好きな花について伺いました。
「チューリップは、やっぱりずっと好きなんです。スッとした形がとてもニュートラルで、どこか無理なく受け入れられる美しさがあるんですよね。季節に縛られることなく、いつでも心に響く。あの形、質感、特にマットな感じがたまらないです。」
その言葉には、チューリップに対する愛情とともに、一乗さん自身の作品への考え方が反映されているようにも感じられます。『無理なく、自然体』こそが今回、彼女が個展で叶えたかったことのひとつだったのかもしれません。
来年については「次のアウトプットを考える準備期間として、もっとインプットをしていきたいですね。海外にも行く予定なので、新しい刺激を受けて、自分に合った形で過ごせたらと思っています。」と、語ってくれました。
今回の個展に足を運び、彼女の世界観に触れることで、きっとあなたの中にも眠っている「脆さと強さ」を認めてあげられる、そんな優しく温かな時間が訪れることでしょう。
2018年よりイラストレーターとして活動。 印刷技法をベースとした色彩表現と、グラフィカルでヘルシーなイラストレーションを心がけている。 顔を描かないことで美醜の価値観から判断させない意図がある。 書籍、広告、パッケージを中心に幅広く活動している。
Instagram:@ichijo_hikaru_
カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。