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漫画好きとファッション好きの両方から大きな注目を集めた、漫画家・つげ義春の名作『ねじ式』に焦点をあてたコレクション『NEMES×POWERHOUSE presents 1968』。この発売を記念して「TOKYO CULTUART by BEAMS(トーキョー カルチャート by ビームス)」で行われたポップアップイベントも先日、好評のうちに幕を閉じました。とはいえ、その熱はまだまだ冷めることなく、噂では海外にまで飛び火する可能性も!? そこで改めて、〈ネメス(NEMES)〉ディレクターのZEN-LA-ROCKさんにコラボコレクションについて語っていただこうという寸法です。お相手は、『ねじ式』初体験のモデル・柴田ひかりさん。性別も世代も異なる2人が感じる『ねじ式』の魅力とは。
2004年にソロアーティストとしてデビュー。ラッパー、DJ、プロデューサーとして多岐にわたって活動。2010年より自身のブランド〈ネメス〉をスタートさせる。2018年夏には鎮座DOPENESS、G.RINAとのユニット「FNCY」も始動し、楽曲制作、ライブなど精力的に活動を行っている。
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独自のファッションセンスとライフスタイルをInstagramやYouTubeをはじめとするSNSで発信し、絶大な人気を誇る。また、モデル活動に加えてフォトグラファーとしての一面も併せ持ち、都内外含め写真展も開催。最近では自身のブランド〈ピープインサイドヘッド(PEEP INSIDE HEAD)〉を手がけるなど幅広く活動中。
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柴田さんは、 ZEN-LA-ROCK(以下、ゼンラ)さんにどういう印象を抱いていました?
柴田 以前からクラブで見かけていたこともあって、“すごくパーティーな方”という印象があったんです。ただ、先日お仕事でご一緒した際にお話をさせてもらって、沢山自分の好きなモノをお持ちで、しかもそれが本当に好きなのが伝わってきて。なんだか思っていた印象と違うなって。言い方を変えると…オタク気質? といいますか。
ZEN-LA-ROCK そうそう! まさにソレの極みですよ(笑)。オタクとかサブカルチャー自体が、いまや古い言葉になってしまっているかもだけど、90年代に青春を過ごした俺なんかは、ニッチな存在としてのオタクの最後の世代かもしれない。
逆にゼンラさんから見た柴田さんの印象は?
ZEN-LA-ROCK ヒップホップが好きっていうのは聞いていたんだよね。それで別の日に、飲み屋で偶然隣り合った〈バル(bal)〉の蒲谷くんと江田くんから、柴田さんと友達だって聞いて、「おっ、完全にコッチ側のひとじゃん!」って(笑)。
実はストリートカルチャーの文脈で繋がっていたんですね。ところで柴田さんは、普段から漫画を読まれますか?
柴田 実を言いますと、漫画はまったく通っていなくって…すみません(汗)。
ZEN-LA-ROCK いやいや~、逆に今回はその方が固定観念なく作品に触れることが出来るからいいのかなと思って、対談のパートナーとしてお声がけさせてもらったんで。そもそも漫画に限らず音楽や映画もそうであるように、誰しも最初は何も知らなくて当たり前。俺自身もそうだったしね。
柴田 ありがとうございます。そういう意味では、まさにまっさらな状態です。文庫版のコミックをお借りして『ねじ式』を読んで、そこで初めてつげ義春さんという漫画家に触れたので。
ZEN-LA-ROCK どちらかといえばクセも強めでマニアックな作品だから、大多数のひとがそんな感じじゃないかな。俺の場合は、実家が古本屋を営んでいたから、幼少期から自然と触れていた作家さんではあるけどね。
改めて、ゼンラさんから“つげ義春”という漫画家について教えていただけますか?
ZEN-LA-ROCK 昔は…といっても1950年代~60年代とかの話なんだけど、いわゆる貸本漫画っていうカルチャーがあったのよ。戦後の物資難なんかもあって、本屋で漫画本を買うのではなく、貸本屋で借りて読むっていう。そこでレンタル専用の漫画っていうのが生まれたんだよね。
いまでいうところの、マンガアプリのみで配信される電子漫画的な感じですね。
ZEN-LA-ROCK 若い世代にとっては石器時代みたいな話だよね。「あの頃は、お金がデッカイ石でつくられていてさぁ」みたいな(笑)。
一同 (笑)。
ZEN-LA-ROCK で、つげ義春さんもその貸本漫画からキャリアをスタートしていて、作品としては日常や夢、旅などをテーマにリアリズムにこだわったものが多いかな。ただ最後に作品を発表した1987年以降の36年間、漫画は1ページも描いていない。しかもあまり人前に出ない方なので、2017年に日本漫画家協会賞の大賞を受賞した際も授賞式はドタキャンしちゃうみたいな。そういった部分も含め、人柄が描いている作品そのものすぎるっていうか。そこがつげ義春という作家の魅力だと、俺は思っています。
それでいて海外でも評価が高く、フランスでは“漫画界のゴダール”と紹介されたこともあるとか。柴田さんは『ねじ式』を読んでみてどう感じましたか?
柴田 写実的なタッチからディフィルメされたものまで色んなタッチの絵が混ざっているから、同じ場所・時間軸のはずなのに前後のコマ同士が繋がっているようで、どこかズレているような。その上で予想できない展開が次々と起こりながらテンポよく物語が進んでいき、アッという間に読み終わっちゃう。そういった感覚も新鮮で面白かったです。
ZEN-LA-ROCK 素晴らしい感想!
柴田 私が勝手に想像していた『ねじ式』とは全然違いました(笑)。てっきりネジを中心に話が展開するのかと思って「ねじ式とは何か?」って考えながら読んだんですが、実際はネジが小道具程度の扱いだったりして「え、ねじ式って?」って(笑)。
作中に“ねじ式”というワード自体出てこないですもんね。
柴田 なので「これで合ってるの?」と思いながら読んでいくのも、独特な世界観とすごく合っているなって。ゼンラさんの説明を聞いて、自分の中で『ねじ式』とつげさんがやっと繋がりました。
ZEN-LA-ROCK なんかもう、全部が変でしょ?
柴田 いい意味で不安というか、ザワッとしたものが残りますよね。
ZEN-LA-ROCK 俺も、彼女に読んでもらったんだけど、「全然意味わかんないし、どちらかといえば気持ち悪かった」って言われて、「そうかもね」って納得しつつも「なんだよ、わかんねーのかよ」ってちょっとムカついたりして(笑)。万人が理解できて好きという作品とはかけ離れているからね、『ねじ式』は。
いまの時代って、漫画にドラマに映画に小説にと、すべてのエンターテイメント作品が“張り巡らされた伏線をいかに回収するか”で評価される中、真逆というか。
ZEN-LA-ROCK そう、完全に真逆。そういう意味でも、カルト漫画と呼ばれるニッチなジャンルの中でも、出色であり異色な存在。いわゆるクリエイターたちに愛されているのにも、すごく納得がいくなって。俺自身も、最初の出会いがいつだったかも覚えてないくらい、自分の中に刷り込まれているし。
不条理で不可思議な世界観ですよね。
ZEN-LA-ROCK 夢をテーマにした作品が多いと話したけど、『ねじ式』なんかはまさにそう。ちょっと悪夢的な感じで。
柴田 私の場合、「何かしらの意味が隠されているんじゃないか?」って考えながら読んじゃいました。たとえば「金太郎アメがキーになっている?」とか。もしこの作品に小・中学生の頃に出会っていたら…。
ZEN-LA-ROCK 普通にトラウマもんでしょ。
柴田 ストレートにそう感じるのではなく、裏読みしようとした自分がちょっと悲しかったです(笑)。
イヤな見方をする大人になっちゃったなぁって(笑)。お二人の好きな場面を教えてください。
ZEN-LA-ROCK やっぱり、主人公が海から上がってくる1ページ目は印象深いよね。あとは、「ちくしょう 目医者ばかりではないか」のコマとかも。
ネットでもよくネタにされていますよね。この2つのコマは。
ZEN-LA-ROCK 今回持ってきた資料を読んでもらえればわかるように、実はほとんどのコマに元ネタがあるんだよね。2つの写真がコラージュされていたりとか。ヒップホップ的に言うところの“サンプリング”と“ミックス”的な。
柴田 本当だ! たしかにすごく既視感があるコマがあるなって思っていたんですが、木村伊兵衛さんの写真集で見たのかぁ。すごく好きな写真家の作品だったので、「あれ? コレって…」と気になっていたんですよね。
ZEN-LA-ROCK 他のつげ義春作品にもこういったスタイルのものはあまり見当たらないし、55年前にこんな手法で、23ページの作品をつくっていたっていう事実と、掘れば掘るほど深みを増すっていうのも『ねじ式』の魅力。だって、こんな目医者の看板ばかりの場所が実在するとか、すごい話じゃない?
柴田 実際にこういう場所があるってことなんですか?
ZEN-LA-ROCK いまもその場所があるかは分からないけど、台湾の写真家の作品が元ネタと言われていて、それを見るとまんまこの光景(笑)。
いよいよ今回の本題。ゼンラさんが手掛ける〈ネメス〉と『ねじ式』のコラボが、どういった経緯でスタートしたのかを教えてください。
ZEN-LA-ROCK 〈ネメス〉のアイテムや「FNCY」のグッズを制作してもらっている友人のプリント工場があるんだけど、そこが〈パワーハウス〉がアートディレクションを担当した『つげ義春大全』のマ
ーチャンダイズのTシャツもつくっていたんだよね。で、それが引越しの荷物整理をしているときにたまたま見つかって。それがきっかけかな。そこから「もし可能なら〈パワーハウス〉とコンタクトを取りたい」と伝えたのが、今年2月の話でした。
そこからローンチまでに約10ヶ月って、漫画作品とのコラボレーションとしては異例の早さですよね。
ZEN-LA-ROCK 〈パワーハウス〉の入江(祥雄)さんが、3年ほど前に〈ネメス〉でやった『サンクチュアリ』という他の漫画作品とのコラボを知っていてくださっていたのが、大きかったんだと思うなぁ。そこからは『ねじ式』を、どうファッションに落とし込むか問題との戦い。全23ページだから使いたいコマはパッと決まったんだけれども、じゃあ、それをどう見せていくかっていう部分に関しては結構悩みました。
鎮座DOPENESSさんをモデルに起用したルックも話題になりました。
ZEN-LA-ROCK 俺の中では、鎮さんをモデルに起用するっていうのは、ある種のタブーというか。どのブランドもきっとお願いしたいけど、鎮さんはそんなにモデルをやらなさそうだよね。それを仲のいい身内だからみたいな感じでお願いしちゃうのは、ちょっと違うなと思っていて…。
チートみたいな。そこからどうやって実現に至ったんですか?
ZEN-LA-ROCK さて、どうしようかなって悩んだ際に“調布”というキーワードが浮かび上がってきたんだよね。つげさんのお住まいも、鎮さんの地元もともに調布エリア。そこでピタッとハマって。おかげ様でSNS上でも話題になって拡散されたし、鎮さんにまたお世話になっちゃったなぁみたいな(笑)。
そもそもの話、漫画好きからしてみたら、つげ義春作品とのコラボって快挙だと思うんです。
ZEN-LA-ROCK もちろん!「そこってイジっていいのか?」っていう。まさにサンクチュアリ(聖域)的なところだからね。
その『サンクチュアリ』からの『ねじ式』という流れの意外性もありました。
ZEN-LA-ROCK 実際、そういう反応はスゲェあった。「ちょっと突拍子がなさすぎる」とか。気軽にイジっていい作品ではないし、確実にワァワァ言われるだろうとは覚悟していたし。でも、ディスられるのも認知されている証拠だからね。だけど、いまのところ否定的な声があんまり届いてこないので、逆に「あれれ?」みたいな(笑)。
ご自身も〈ピープ インサイド ヘッド(PEEP INSIDE HEAD)〉を手掛ける柴田さんから見て、今回のコラボコレクションはいかがですか?
柴田 漫画を読んでからアイテムを見ると、ゼンラさんの作品に対する想いがすごく伝わってきて。だからこそ『ねじ式』の世界観と服の両方の良さが、ちゃんと活かされているんだろうなって感じがします。
ZEN-LA-ROCK 嬉しい~アザス! もうそこは、ラブやリスペクトがあるのかどうかって話だよね。ちょっと平易な言葉になっちゃうけど。以前にも、Tシャツやパーカ、手拭いなんかはつくったことがあるみたいで、それらも悪くはないんだけどねぇ~って思いが俺的にはあって。シルエットや素材もだけど、それ以上に気にしたのがプライス。可能な限り値段は据え置きっていうのが、最近の〈ネメス〉のテーマでもあって。
柴田 ニットでこの値段は、かなりのお手頃ですよね。
ZEN-LA-ROCK でしょ? ちょっと! いまのところ、太字でお願いします!
一同 (笑)。
プライス設定に関しては、ファッションクラスタではないお客さんへの配慮ですか?
ZEN-LA-ROCK どちらかといえば、俺自身があまり高いモノを買わないからっていうのが理由かな。このニットだって2万5000円とかでも本当はいいんだけど、俺的には「間違ってんじゃないの?」とか思っちゃう。「つげ義春を使って金儲けですか?」みたいな。それは本当にダサいよね。なので限界まで頑張らせてもらいました。
どのアイテムも可愛いですよね。
ZEN-LA-ROCK 特に気合い入れてつくったのが、ニットと総柄シャツとキャップ。あと、パジャマもおすすめ。これを着て『ねじ式』のような夢をみんな見てください♪ なんつって(笑)。
さっき悪夢的と言っていたような…(苦笑)。これらのグラフィックは、原画をスキャンして制作したんですか?
ZEN-LA-ROCK さすがに原画を使用するのは難しかったので、『つげ義春大全』のPDFからデータを制作して使っています。基本的につげ先生の線を忠実に活かす方向で進めつつ、ニットのみ、線を太くしたり描き足さないと表現が難しいので若干イジらせてもらって。神様の仕事に手を加えるなんて! と躊躇しながらも、「先生、すみません!」と調布に向かって頭を下げつつ(笑)。
柴田 (笑)。個人的にはキャップがすごく可愛いと思いました。いまはウィメンズファッションでもキャップは定番になっていますし、私の周りでも被っているひとは多いから、作品を知らない方にも喜ばれそう。
柴田さんなら、作品のどこを切り取って服に落とし込みますか?
柴田 やっぱり目医者のコマは使いたくなりますよね。あとは金太郎アメのくだりも結構好き。う~ん、でもファッションとして服に落とし込むなら、目医者なのかなぁ。
ZEN-LA-ROCK だよね。使いたいコマは沢山あっても、服に落とし込もうとすると、どれも似た感じのデザインになっちゃうから難しくて…。あとは機関車に乗っている少年とかも有名だよね。狐のお面を被ってほっかむりをしているんだけど、鳥山明先生の『Dr.スランプ』にもオマージュしたキャラが登場していたりする。
柴田 へぇ~。
ZEN-LA-ROCK 名前もズバリ、ねじ式くん(笑)。そういった感じで色々な作家からリスペクトされていて、さまざまな作品に影響を与えているっていうのもすごく興味深いよね。
そこもヒップホップ的ですね。どのアイテムもクセが強くなりすぎない絶妙な塩梅なので、ミックスして着こなすのも面白そうです。
柴田 総柄シャツにこのニットをレイヤードして、あえて襟だけ見せるとかもよさそうですよね。もし電車に乗って隣に着ているひとがいたら、ついつい読んじゃいそう(笑)。
ZEN-LA-ROCK (笑)。擬音だけ残して、人物のセリフ部分は消してあるから、なおさら「何だ、コレ?」ってガン見されちゃうかも。最初は漫画のコマをそのまま使おうと思っていたんだけど、それだとあまり格好良くなくて。とはいっても、これが正解なのか。吉と出るか、凶と出るか…。
柴田 セリフがないほうがスッキリしていいと思いました。ポケットや身頃と袖など切替え部分の柄合わせを、あえてしていないのも、作品の不思議な世界観にマッチしていますし。
ZEN-LA-ROCK え、本当? 実は柄合わせするとその分コストがかかっちゃうから、しなかっただけなんだけど、どうやら吉と出たか(ニヤリ)。といっても背面は、ガチャガチャして見えないように1枚仕立てにして、全体をちょっとワイドなボックスシルエットに。普通のシャツとは何か違うなって感じにしてみました。
若い世代のお客さんにも好評のようで。
ZEN-LA-ROCK ね! やっぱりサブカルをディグってる若いひとらの中でも、『ねじ式』はマスターピースなんだなって改めて再確認。あとは「TOKYO CULTUART by BEAMS」という場所との相性だったり、鎮さんにモデルをやってもらったことも相まって、全部のピースがカチッとハマったのかもしれないね。
ゼンラさんはこのコラボコレクションをどのように届けたいと思っていますか?
ZEN-LA-ROCK つげ義春先生や『ねじ式』のという作品が本当に好きなひとに届けたいし、その上で「ファッションも良いもんだな」って思ってくれたら嬉しいよね。これをきっかけに作品に触れたひとが「すげえ面白かった」と感じてくれたら、それが1番、冥利に尽きるというか熱いっつうか。あと今回の収穫が、親に対してドヤることができたってこと。「お前、すごいなぁ!」なんて言われたりして。ほんと、ありがとうございます!(笑)。
カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。