カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。

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アートが生まれるところ。Vol.3 フジサキタクマ

クリエイターたちの制作活動の拠点となるアトリエ。その空間づくりは、人によってさまざまです。徹底的なミニマリストもいれば、インスピレーションにつながるたくさんのアイテムに囲まれてこそ心地よさを感じる人もいます。そんな個性豊かなワークスペースを訪ね、つくり手のパーソナルな一面を探っていくこの企画。三回目は、モールを使った愛くるしいキャラクターとその世界観が癖になる、フジサキタクマさんのアトリエからお届けします。

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フジサキタクマ

モールアーティスト兼アートディレクターとして活躍。2010年頃からモールを使って立体作品をつくり、ポップな色彩と独特な質感が人気を呼ぶ。オリジナルのキャラクターが国内外でフィギュアになったり、カプセルトイで販売されるなど、幅広く展開。これまでに開催された「B GALLERY」での展示販売では、長蛇の列ができるほど。

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経験や感情から生まれる、個性的なモールアート。

アトリエがこんな都心のど真ん中にあるとは…。

フジサキ デザイナーとしての事務所でもあるんですよ。ここでモール作品をつくりつつ、デザインの仕事もしています。

ここに拠点を構えた理由はなにかあるんですか?

フジサキ 広告代理店さんからデザインのお仕事をもらうことが多いので、打ち合わせもしやすいように都心の方がいいなと。15年以上、赤坂を拠点に仕事をしていますが、もう街に馴染みましたね。

モールアートを制作するアトリエと、デザイン事務所を兼ね備えるマンションの一室。段ボールでつくられた本棚には、デザイン関連の資料のほか、漫画やガンダム関連の本、以前ハマったアイドルの写真集などが並び、訪れたひとに「男の子の本棚」と言われることも。

モールアーティストというのは前例がないと思うんですが、もともとは何をしようと志していたんですか?

フジサキ 最初はイラストレーターになりたくて。でも、イラストレーターになる前にデザイナーの勉強をしなさいと大学の先生に言われたので、東京に来てデザイン会社に入りました。デザインをやりながら、夜な夜な絵を描いたりして、いまもその延長線でやっている感覚です。

いつから立体物を手がけるように?

フジサキ 最初は絵を描いていたんですが、東京には敵わないくらいすごい人がたくさんいるということがわかって、他のものもつくってみようと思ったんです。それで立体をはじめました。元々プラモデルやジオラマが好きでつくっていたので、そんなに違和感はなくて。最初はひとまずモールで作品をつくってみただけで、すぐ終わるかなと思っていたんですけど、反響があったから、じゃあ次もやってみようかなというのがずっと続いていますね。

運動不足解消のため、ステッパーを踏みながら作品をつくることもしばしば。

モールアートと名付けたのは最初からですか?

フジサキ わかりやすいようにモールアートとは呼んでいるだけで、あまりそこは意識していなくて。絵を描く人が油絵の具やアクリルを使うのと同じように、たまたまモールを使って立体物をつくっている感覚です。

フジサキさんがつくるキャラクターには、それぞれ名前が付けられている。左がモールエイリアン、右がモールミュータント。

モールはフジサキさんの制作に欠かせない仕事道具ですが、こだわりはありますか?

フジサキ 京都の工場でつくっている国産モールを使っています。3つ特長があって、色が落ちづらい、毛が抜けにくい、針金も柔らかいというハイスペックなモールで、これまで見た中で一番クオリティーが高いんです。

モールも奥が深いんですね。

フジサキ 100均でもモールは売っていて、始めたての頃は使ったこともあるんですけど、やっぱり色落ちしたり、針金が固かったりして。今はその工場にお願いして、オリジナルのカラーでモールをつくってもらうこともあるんですよ。500色ぐらいある色見本の中から選んでオーダーできて、いま使っているモールの7割くらいが特注のものです。

特注のカラーでつくったモールミュータント「BLOODY」(写真左)。既成のモールを使ったもの(写真右)とは発色がまったく違う。

一体あたりにどれくらいのモールが必要なんですか?

フジサキ 作品のサイズにもよりますが、高さ20cmくらいであれば、大体500本から1000本くらいですかね。

長さや形を変えて使うんですか?

フジサキ 基本的には、27cmのものをカットせずに使います。これが一番使い勝手がいいサイズで。あと、太さにも種類があって、モールエイリアンには3mm、モールミュータントには6mmを使っています。

ちなみに、表から見えない土台部分はどうなっているんですか?

フジサキ 土台もモールのみですね。モールをグシャグシャと丸めて形をつくっていくんです。モールエイリアンをつくるときは、モールを半分に折り曲げて一本一本土台に刺していくんですが、僕はこの手法を“トゥワイス”と呼んでます。逆にモールミュータントは折り曲げず、これは“ルセラ”っていう手法です(笑)。

K-POPがお好きなんですね(笑)。そういう技法や技術は、誰かに習ったり?

フジサキ 独学です。つくりながら色々工夫して、自分なりの手法ができました。

アトリエのバックヤードには大量のモールがストックされている。

モールエイリアンやモールミュータントの背景には壮大な物語があると聞きました。

フジサキ 立体物をつくるときは、その世界観をつい考えちゃうんです。あくまで僕の中での設定ですが、キャラクターたちが登場するモールアートサーガという3部作の物語があります。第一部はファンタジーの冒険の世界、第二部はアメコミのような都市型のストーリー、第三部は宇宙が舞台です。

あと、モールミュータントはモールエイリアンの毛が落ちて生まれたものというストーリーがあったり、モールミュータントは色々な能力があって。例えば赤い「BLOODY」は召喚士、青い「JOG」は頭脳派、黄色い「SLICRICE」は武器をたくさん持っているとか、いろいろ設定があります。

アトリエの壁に貼られたモールアートの世界の構想図。

キャラクターを生み出すとき、どんなところから発想しているんですか?

フジサキ 一番簡単なやり方だと、読んだ漫画のキャラクターを、自分のフィルターを通してモールで具現化するというもの。あとは、自分が今まで生きてきたなかでの些細なことがヒントになることもありますね。例えば、先ほどの赤い召喚士の「BLOODY」でいえば、小学校のときに実は召喚士の漫画を描いていたんです。

昔から物語やキャラクターを考えるのがお好きだったんですね。

フジサキ だからか、最近は新しいアイデアを見つけてやろうとはあまり考えなくなりました。それよりも自分が体験したことや、そのときの気持ちとかを作品に落とした方が、自分としても愛着が湧くんです。やっぱり人間は、色々見て感じたり、人と話すという経験が大事なんだなと。そういう経験が個性になっていくと思ってます。

そうやってつくられたキャラクターの質感がすごくいいなと感じました。

フジサキ ありがとうございます。常にモールのことは頭のどこかで考えてますが、ずっと同じ表現はしたくなくて。最近はつくるキャラクターの色の配分を変えたりしていますが、見てくれる人が飽きないように、ということと、自分が新しいものをつくりたいということ、その相互関係のなかで制作していますね。

「ずっと同じ表現はしたくない」というのは、何か変化を求めているんですか?

フジサキ 同じことをずっとやっていると、自分がツラくなっちゃうんです。だから、理想をいえば、一日一体つくりたい。ひとつの作品に時間をかけちゃうと、自分の中で停滞しちゃう気がするので。作品づくりはテンポよくやりたいんです。

最後にこれからの展望を教えてください。

フジサキ 今年は新しいキャラクターをつくりたいなと。とはいえ、あまり飛ばしすぎると見てくれる人を置いていっちゃうし、伝わらないと面白くないので、ある程度のわかりやすさやポップさを忘れずに制作できたらと思ってます。

カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。

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