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Interview

3代目“山の神”・神野大地と辿る
思い出の箱根駅伝と、山のみどころ!

With Daichi Kamino, the 3rd "God of the Mountain", follow the memory of Hakone and the 5th district.

2024.12.26

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1月2日、3日はいよいよ『東京箱根間往復大学駅伝』。母校のプライドを背負った学生たちのドラマは感動と興奮を呼び、今や国民的なイベントに。その中でも注目は、やっぱり箱根の過酷な山を駆け上る5区。でも、そのおもしろさってなかなかテレビ越しでは伝わらないですよね。そこで、なんと3代目“山の神”と呼ばれる神野大地さんと一緒に箱根を登りながら、ご自身の思い出と注目ポイントを語ってもらいました!

Profile
  • 神野大地

    DAICHI KAMINO

    1993年9月13日生まれ。青山学院大学3年時に箱根駅伝往路5区で区間新記録を樹立、“3代目山の神”として駅伝ファンに親しまれる。大学卒業後は実業団のコニカミノルタに進んだのち、2018年5月にプロ転向。2019年アジア選手権マラソン優勝等の成績を残す。現在は「M&Aベストパートナーズ」(本社・東京都千代田区)陸上部のプレーイングマネジャーに就任し、選手兼任監督として活動するほか、「RETO RUNNING CLUB」を運営している。

  • ―神野さんが箱根の山でインタビューを受けるのは今日が初めてだったんですね!ここがタスキを受け取った、歴史のスタート地点ですね!

    じつは初めて山を走った2015年はスタート地点が違うんです。ここから2kmちょい手前のメガネスーパーが中継所でした。今は5区が20.8kmですが、僕のときは少し距離が長くて、23.2kmありました。箱根駅伝は10区間あるのですが、最長かつ順位も変動しやすい区間で、選手にも負担が大きいので、今は距離が短くなっています。

箱根湯本の駅まで、3kmちょっと。緩やかに登っているのですが、基本的には平地扱いされていて、ここから本格的に登りが始まります。奥に見える函嶺洞門(長さ100.9m、幅員6.3mの洞門(落石防護施設)。2015年に国の重要文化財に指定)は、2014年まではコースにも使われていましたが、現在は通行止めになっていて、僕も走っていません。

 

僕が記録を出した時は、1位の駒澤大学と45秒差くらいでタスキをもらいました。最初の5kmは4秒くらいしか縮まってなかったんですが、山に入ったら1kmで約10秒ずつ詰まって、このヘアピンカーブと呼ばれる大平台のチェックポイントではあと10秒ほどまで迫っていました。

  • ―すごいU字のカーブ。それだけ勾配がついているってことですね。辛さを物語っています。

    もう思い出していろいろキツくなってきました(笑)箱根の登りは我慢大会ですよ。自分の限界を越えてしまったらあとは落ちていくだけだから、いかに限界のギリギリ手前を一定して攻め続けられるかが大切。かなり自分の管理が難しいんです。

僕の時は、平地は気温が5~6度あったのに、山に入るとどんどん気温が下がって1度くらいに下がりました。平地で汗をかいた状態で登りに入ると、ペースは落ちる、気温は下がる、そして自分の体温も下がる。すると汗が冷えて低体温症になってしまい、フラフラになってしまうことも。箱根の山って、走ってるだけでは体温が上がらないんです。つまり、環境とも戦わなきゃいけないのが5区の難しさ。平地で汗をかかないように薄着にするか、山の寒さ対策をするか、服装選びも悩みます。

ここは宮ノ下といって、一番傾斜が急なところ。僕はこの辺でトップに立ちましたが、追いついた時の余裕はなかったです。例えるなら、神社の階段を200段くらい駆け上ったようなきつさかな? でも、やっぱり人間なので「あ、今きっとテレビで結構すごいことになってるんじゃないかな?」って自分を奮い立たせていました(笑)

この辺りは2重、3重もの沿道のお客さんがすごく近い距離で応援してくれるので、左耳がおかしくなります。山の気圧で飛行機の上で耳がつーんとした状態が、走り終わっても2時間くらい続いていました。

しかも寒すぎて頭がガーっと締め付けられるような感覚になって、大丈夫かなと思いながら走っていました。すると、ここを登り切ったあとにある小涌園の手前で道がひらけて、太陽の陽が刺してきたんです!あ、それがちょうどここ!これで体温も上がって一気に回復できた。もし山が曇っていたら、僕も失速していたかもしれない。

小涌園もすごい人ですが、ここから先は鉄道も走ってないし、駅もないから沿道の方も歩いてしか登ることができないので、小涌園を過ぎると一気に人が少なくなります。いよいよ自分のメンタルとの戦い。でも、残りあと半分って感じです。ここからペースが落ちてしまう選手と、そうでない選手の差はほんと大きい。平地では考えられないのですが、3kmで1分くらい差が開くこともあるんです。

  • ―そしてここが最高地点ですね!標識がある!

    この登り切ったあたりで両親や高校の先生が応援してくれて、パワーが出ました。ちなみに青山学院は、ここで気温を測る係がいて、朝8時から1時間毎にグループラインに送ってくれるんです。例えば9時には4℃に下がりましたとか。逆に上がっていったとか。みんな天気予報はスマホでチェックしますが、この場所の気温は出ていません。リアルな情報があれば、具体的な服装の判断やレースプランができる。走力はもちろんですが、箱根は準備力、情報力がものをいうレースです!

     

    で、ここから一気に下ります。6区の山下りの選手ほど速くないですが、だいたい1km2分55秒くらいで走っていました。時速でいうと20~21kmくらいです。

  • ―えー!1km 2分55秒ということは、50mを9秒以下でずっと、しかもLUUPと同じくらいなんですね。すごい!

    ちなみに、ここまでにパワーを温存していても速く走れません。みんな下りから頑張ろうって意識が働きがちですが、登りを全力で駆け上がってきた人が下りも速い気がします。そしてここから最後の5kmで脚にダメージが蓄積して、翌日筋肉痛で動けなくなるんです。登りって、ペースはそこまで速くないから、心肺とメンタルだけで、僕は脚には全然こなかったです。

     

    この大鳥居をくぐるといよいよラスト1km!平地に見えるのですが、ちょっと登っていて、そこがめちゃくちゃ辛いですが、もう終わり。最後の直線は、道路に白い模様があって、それが雪に見えたりするんです。そこが最高に気持ちいいですね。で、ゴール! 僕は3年生の時、ここで両手の人差し指を指すようにガッツポーズしたんですが、手袋を2枚重ねていたので、映像とかみるとめちゃくちゃ指が太くて、バランスがおかしいです(笑)

  • ―お疲れ様でした!箱根の山、満喫できました。改めて、神野さんにとって、箱根の山の他の区間とは違う魅力ってなんですか?

    平地の区間であれば、そこまで差がつかないのに、山は1kmで10秒以上も一気に変わる。やっぱり一発大逆転が起こりやすいのが5区の特徴です。見ていて一番おもしろいと思います。

     

    青山学院に入学した時は、走りたいとも思っていなかったんですが、あれよあれよと走ることになって、僕の人生を変えてくれました! あの時に出した区間記録はもう、僕はどれだけ頑張っても出せません。だからこそ、僕を超えてくれる選手が早く出てほしいし、それが楽しみですね。

  • ―ちなみに、もし“厚底シューズ”で走っていれば、もっと記録は出たと思いますか?

    その時僕はアディダスの『タクミ』の薄底シューズを履いていました。持論ですが、ソールが厚いと傾斜に対して着地のタイミングがちょっとだけ速くなるんですよ。その分、身体が後から付いてくるので、角度的に登りに合わないとずっと言い続けているんです。すごく速いペースで走るわけじゃないから薄底の方が絶対にいいと思っています。

     

    なによりあの日は、天候も、展開も、自分のパフォーマンスも含めて、すべてが噛み合っていました。箱根の神様が圧倒的に僕の味方をしてくれました。この山で、やり残したことはありません!

ありがとうございました。なんか山の偉大さを感じつつも親近感が湧いて、走る選手の気持ちもちょっとわかった気がします。お正月の箱根駅伝、みんなで楽しんで観戦しましょう!

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Photo:Kai Naito [TRON management]
Edit & Text:MANUSKRIPT

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