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UPDATE :20.07.24

CONNECTING SPORTS TO FASHIONスポーツをファッションに繋げるためにBEAMSが考えていること。

1976年の創業以来、BEAMSはスポーツとの強い結びつきがあり、ウェアをスタイルに取り入れるだけでなく、コラボレーションという形態を通して新しい価値を生み出してきました。今回発表するスイムウェアブランド<Speedo(スピード)>とテニスラケットのグリップメーカー<Tourna(トーナ)>、2つの取り組み例から、現代におけるスポーツとファッションの提案の方法について、バイヤー新井がお伝えします。

“Speedo”

少しふざけるくらいが、
BEAMSらしいアプローチ。

 これまでBEAMSは、歴代のバイヤーとそのまわりで支えてくれたスタッフによって、あらゆるスポーツの要素をファッションに落とし込んできました。改めて自分がバイヤーに就任し、メーカーやブランドとお話ししていると、約45年もの長い社史によって築き上げてきた信頼の厚さと、それによる責任の重さを実感しています。誤解を恐れずに言えば、普通に売れそうなものを作ることは、決して難しいことではありません。僕たちは、真面目にふざけて、よい意味でお客様の期待を裏切りながら、結果的にどうファッションに落とし込めるかを本気で考えています。それはとてもバランス感覚が重要だと思っています。

 バランスとは感覚的なもので、まずはバイヤーチームが面白いと思える企画かどうか。そのためには市場にありそうでないものかどうかが重要です。過去であれば<NIKE>もそうですし、<ARC'TERYX>や<WILDTHINGS>といったアウトドアブランドとの別注企画も、BEAMSはファッションとは無縁のブランドをファッションの世界に引き込むパイオニアでした。<Speedo>は、<COMME des GARCONS>さんがずっと協業していましたが、作られていたのはもっと競技向けのスイムウェアでしたので、前例のないカジュアルなファッション提案ができるチャンスだと思いました。昨年に続く2度目のコラボレーションですが、前回とは違う機能的で遊び心のあるアプローチを意識しています。

オーストラリアで開催された1998年の世界水泳大会より。アメリカ代表チームのスイミングキャップは<Speedo>製で、大きな星条旗が印象的だった。

©aflo

90年代のアメリカ代表チームの
公式ユニフォームがインスピレーション

 ロゴの使い方一つとっても、レギュレーションの隙間を縫っておもしろいことを考えるのがBEAMSです。海外のスポーツの歴史を調べていると、BEAMSがアメリカかぶれの会社であるのも前提ですが、陸上でもバスケットボールでも何でも、アメリカ代表のユニフォームってやっぱりかっこよかった。特に星条旗には、理屈抜きで惹かれるんです。当時、アメリカ代表チームの公式スポンサーだった<Speedo>のアパレルやギアには、星条旗が使われていて、これと当時のロゴを復刻したかった。で、せっかくなら日の丸があってもいいよねってことで、それに合うカタカナの「スピード」を新たにデザインしました。スポーツブランドにとってロゴはとても大切で、どう使うべきかを慎重に考えます。どこのブランドのものかわからないシンプルなデザインより、アイコンを通じて歴史やカルチャーを伝えながら、新しい価値を表現したい。それがBEAMSの得意分野ですし、メーカーにも一番求められる部分だと思います。

90年代に使用された旧ロゴのイメージに合う、カタカナ書体のロゴを今回のために製作。Tシャツは<Speedo>社のラッシュガードなどに使われるUV素材を改良し、タウンユースに相応しい肉厚なボディを使用している。

“Tourna”

 設立は1977年となかなかの老舗の<Tourna>は、テニスの経験者であればご存知の方も多いアメリカのグリップメーカー。今でも多くのトップ選手が使用していますが、それこそ1990年代にピート・サンプラスが使っていたことで有名になり、ここを象徴する青は「トーナブルー」とも呼ばれています。

©aflo
PETER SAMPRAS
ワシントンD.C.生まれのピート・サンプラスは1990年に19歳で全米オープンを制し、男子最年少優勝記録を100年ぶりに更新。90年代のトッププレーヤーとして活躍した。2003年に引退。写真は1995年。
©aflo
RICHARD GASQUET
フランス出身のリシャール・ガスケも<Tourna>の契約選手。試合中のコートチェンジの度に新しいグリップテープを素早く巻き替えることで有名。写真は2004年。

 今回作らせて頂いたのはシューズとTシャツ。シューズは<Tourna>で働く工場員が、履いていそうなファクトリーシューズをイメージしました。90年代を連想させる野暮ったい雰囲気のボリュームに、お昼休憩でテニスをするなら、と専用のソールを装着しました。Tシャツは、グリップテープの巻き方のグラフィックを大きくバックプリントしています。ただ復刻するとか、色を変えるとかではなく、ブランドのフィロソフィーを大切にしながら、<Tourna>を知らないお客様でも楽しめるなら何がよいかを考えた結果、ありそうでないスポーツアイテムになりました。テニスの専門店にも、他のショップでも売っていない、BEAMSのエクスクルーシブです。

販促用の大きなビニール製のポスターの上に、グリップやコラボレーションしたアイテムをコラージュ風にレイアウトしたイメージビジュアル。

ファッションのヒントは、
何気ない日常に転がっている。

 良い意味でブランドの固定概念を崩して、新しいイメージを訴求したい。かといって僕たちのエゴによる破壊屋になってはいけません。スポーツやアウトドアのウェアやギアのリアリティを残しながら、ファッションとしても両軸で楽しめるもの。それが単なるマーケットインにならず、半歩先のトレンドを作る役割を担いたい。そういった意味では二番煎じではなく、最初に提案する会社であるべきなので、常にアンテナを張って世の中をリサーチしています。その先がファッション業界のトレンドだけでは視野が狭くなってしまうので、僕は通勤で歩いている時、電車に乗っている時に見る、日常からヒントを得ています。そうすると時々いるんです、「奇跡のバランス」の人って。本人が意図していない色使いやサイジングが、とてもおしゃれに感じる。そういった人がたまたま履いているテニスシューズや、何気なくパンツにインして着ているスポーツブランドのTシャツだって参考にします。今回ご紹介する<Speed>や<Tourna>にも、その視点が少なからず生きているのではないでしょうか。

販促用の大きなビニール製のポスターの上に、グリップやコラボレーションしたアイテムをコラージュ風にレイアウトしたイメージビジュアル。

 今回のベースとなっている90年代は、予期せぬところからあらゆるファッションが生まれました。そして現代もまた、何でもありな時代ともいえます。だからこそ、バイヤーの感性が重要だと思っています。BEAMSには、多くのお客様に愛され続けている、ベーシックなスポーツウェアやギアがたくさんあります。しかし、それに飽きてしまっている人も一定多数存在します。そういった人に、これはファッションとして楽しんでいいんだよ、という安心感も含めて、正解でなくても正解に近いもの、を提示したいと思っています。

SHINGO ARAI
新井 伸吾BEAMS メンズバイヤー

1980年生まれ。2017年よりBEAMSメンズカジュアルのバイヤーに就任。テニスでは大学時代にインカレに出場歴がある。業界きってのスニーカー好きとしても有名で、所有数は1000足を超える。