心の底から、 “あなたに会えてよかった”。
SELECTOR

スタイリスト・馬場圭介さんが新ブランド<GB by BABA>を立ち上げました。すべてのアイテムは馬場さんと縁のある人物とのコラボレーションからつくられていきます。1stコレクションのパートナーは30年以上の間柄の小泉今日子さん。スタイリスト、ヘアメイク、カメラマン、アートディレクターなど、多くのプロフェッショナルたちが時代のキョンキョンを演出してきました。キュートでポップ、ときにマニアック。わたしも約40年間、キョンキョンに魅了されている一人です。そんな憧れの小泉さんに、ファッションのマインドと馬場さんとのコラボについて聞きました。小泉さん、どうしてこんなに素敵なんですか。
見逃したくなかった。どんなキョンキョンも。
GUEST PROFILE
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小泉 今日子
1966年、神奈川県出身。1982年、シングル「私の16才」で歌手デビュー。その後、「なんてったってアイドル」「学園天国」「あなたに会えてよかった」「優しい雨」「My Sweet Home」など時代のヒット曲を発表。歌手と並行して女優としても映画・ドラマに出演し、数多くのアワードを受賞。2019年2月4日、50歳の誕生日に株式会社明後日を設立して独立。舞台演出や制作を通じて、ジャンルに捉われないエンターテイメント作品を発信している。ポッドキャスト番組「ホントのコイズミさん」配信中。2022年、デビュー40周年を迎え、全国12都市を廻るホールツアーを成功させた。

犬塚:わたし、小学生の頃から40年くらい小泉さんのことを追っかけていて。
小泉:ほんとに? ありがとうございます。
犬塚:いざ、ご本人を目の前にすると、なにを聞けばいいのか出てこないですね。聞きたいことは山ほどあるのに。いろいろな小泉さんが頭の中に浮かんでいます。
小泉:記憶に焼き付いてるんですね。うれしいな。
犬塚:80年代の歌手の方たちって、新曲が発表される度に歌番組に出演していて、それに合わせて衣装や髪型が変わってましたよね。わたしはどの小泉さんも見逃したくなかったんです。実家ではビデオに録画することもできなかったので、出演している歌番組を全部観たいという一心でした。

小泉:昔は生放送の歌番組がいっぱいありましたよね。いまみたいにプロモーションビデオがない時代だったから、テレビで新曲をプロモーションすることが成り立っていて。だから、みんな気合いを入れて衣装や舞台セットをつくってましたよね。それは曲づくりにも言えることで、アイドルもニューミュージックの歌手も含めて、みんなが切磋琢磨して、曲のコンセプトから深く考えてつくっていたと思うんです。
犬塚:わたしは「夜明けのMEW」の衣装が一番好きで。たしか、ぬいぐるみを抱いて歌番組に出られていましたよね。「え、ぬいぐるみ?!」って驚いたのをよく覚えています。当時、ピンクハウスの熊のぬいぐるみを抱えて街を歩く女の子たちがいて、「キョンキョンがこういうことをしているから、アクセサリーのようにぬいぐるみを持って出かけてみようかな」と思ったんですけど、さすがに田舎ではできませんでした(笑)。
小泉:たぶん、紅白歌合戦だったと思いますね。モコモコした茶色のドレスを着て、うさぎのぬいぐるみを持っていたんですよね。あのドレスとぬいぐるみ、中野裕通さんのデザインなんです。当時は「ヒロミチ・ナカノ」バージョンのバービー人形があって、その関係だったんじゃないかな。でも、「猫の歌なのに、なんでわたしはうさぎのぬいぐるみを持っているんだろう…」って我ながらに不思議だった(笑)。


犬塚:それでも、わたしにとってはキラキラしてました。実はわたしがこの赤い服を着てきたのは、ここに置いてある「小泉記念鑑」のおかげなんです。この本の中で小泉さんが着てる赤のスタイリングがすごく素敵で。赤という色はいいな、赤い服を着たいな。そう思った当時の気持ちがいまも続いていて。今年の3月に40周年ツアーを観に行った中野サンプラザでも、この服を着ていたんです。
小泉:そうだったんだね。この間のライブの衣装は堀越絹衣さんが選んでくれたんですけど、実はこの赤のスタイリングも堀越さんなんです。だから、長い付き合いなんだなあって。トランプでコサージュをつくってくれて、よく覚えていますね。他のページでは、近田まりこさん、大川ひとみさん、山本康一郎くんだったり、いろいろな方たちが関わってくれていて、
衣装は世界観を伝えるもの。私服は自分を奮い立たせるもの。

犬塚:元気がなくなると開きます、「小泉記念鑑」を。
小泉:ありがとう。わたしにとっての服って、自分が何を着たいという感覚があまりなくて服を通じて何かを表現したい人のためにわたしが着て、その人がやりたいことをわたしがどうキャッチして、みんなに伝えられるんだろうという考え方のツールなんですよね。
犬塚:10代でデビューした頃からその感覚なんですか?
小泉:そうですね。最初のシングル「私の16才」では、ピンクのミニスカートのドレスが衣装なんだけど、わたしは「これって可愛らしい女の子を求めているし、こんなふうに振る舞ったらいいのかな」って解釈して。だから、「わたしはこんな人です」という表現とは違うところにファッションを置いていますね。世界観を伝える人という感覚しかないのかも。これは「小泉記念鑑」でのエピソードなんだけど、大川ひとみさんのスタイリングページでは、当時流行り始めていたヒップホップのファッションをディオールの下着で表現していて。わたしはそれを見て、「おもしろいな。どう演じようかな」という感覚になる。

犬塚:逆にプライベートのファッションはどうですか?
小泉:休日のわたしは「急に訪ねて来ないでね」というくらいに、家ではただのおばさんです(笑)。40代後半のとき、自分よりも15歳くらい若いマネージャーが担当してくれたことがあったんだけど、自宅に何か物を取りに来たんですよ。無防備な格好のわたしがドアを開けて渡したら、その姿に驚いてしまって。「この辺りにお休みをつくろうと思ってるんですけど…」って急にスケジュールの話をし始めたんです。「わたしの真の姿を見て、そんな気遣いをしてるんじゃないだろうな」って聞いたら、「ちょっとそうですね」って返してきて。だから人が訪ねてきたら、会うまでに準備が必要なんですね(笑)。
犬塚:オフは何もしたくないタイプなんですか?
小泉:ほんとに。でも逆に出るときはちょっとした武装ですよ。ずっと家で寝転がっていたいし、毎日のように「外に出たくないなあ」って思っているんです。でも、なんとかシャワーを浴びて、服を選ぼうって。そんな自分を奮い立たせるためにね。
タブーを越えて、ルールを破る。

犬塚:「小泉記念鑑」やいろいろな雑誌で小泉さんのファッションを見てきたから、オフのイメージはかなり意外です。
小泉:映画を観たり、雑誌を読んだり、知識としてのファッションはすごく好き。それは子どもの頃からね。母親がすごくオシャレだったんですよ。母は田舎の街の景色に似合わない服を平気で着ている人でした。授業参観にウィッグを着けて、ミニスカートを穿いてきたり。近所のスーパーに買い物に行くにしても、頭にターバンを巻いて、マキシスカートを合わせたりして。結婚以前の母は芸者だったから、和装もすごく詳しくてね。
犬塚:そんなお母さんを見て育ったから、オシャレをすることが身についていたのかもしれないですね。
小泉:…わかった! わたし、小さい頃から着せ替え人形だったんだ。自分から何を着たいのではなくて、「あなたはこれが似合うから」と買ってくれて着せられてきた。末っ子だから姉たちのおさがりを着ていたし。だから、自分で服を選ぶことに積極的じゃなくなっていったんだな。
犬塚:逆にわたしは小泉さんが羨ましいです。わたしの場合は「何が似合うんだろう?」と模索してきました。いじめられっ子だったので、自分に自信がなくて。
小泉:どうして服を好きになったの?
犬塚:いじめられてることを自分で確認したことです。あまり家から積極的に出られなくなって、家の中で遊ぶということを自分一人でやらなくてはいけないというときに、母親の服を帰ってくるまで着て楽しんでいたんですね。とにかく自分で似合うものを探しました。素敵な自分になれると思うものを何度も繰り返して見つけて。それは今も変わらないけど、誰かに「これ、着たら?」と言ってもらいたい気持ちもあります。

小泉:わたしとは真逆なんだね。10代で仕事が始まってから、ファッションのプロの人たちが「これ、似合うんじゃない?」と言い続けてくれて。その繰り返しのまま、いまに至っちゃった感じなんです。逆に、「みんな、自分のことがわかってるんだ。私はわかってないんだな」って羨ましかったですよ。こだわりがあまりないわたしなりに、目の前に並べられた服から好きなものを選ぶことはできるんです。普通に合わせるのは好きじゃないから、タブーを越えていくことがファッションでもなんでも好き。ルールを破っていくのが好きなんです。

犬塚:わたしを含めた小泉さんのファンは、そんなところに刺激を受けたり安心しているのかもしれないです。「キョンキョンがやってるから大丈夫だ」って。
小泉:髪型も松田聖子さんがしていたレイヤーカットが流行ったでしょう。アイドルも女子中高生も、みんな同じ髪型をしていて。わたしはショートカットが好きだから刈り上げるほどの短さにしたら、それをオシャレだと思ってもらえて。オシャレなんだけど校則に引っかからない。むしろ模範的だからいいよねって(笑)。
着けてると、落ち着くもの。

小泉:朋子さんはリボンがかわいいね。
犬塚:ありがとうございます。これは22,3年前から着けているんですけど、リボンがあると落ち着きますね。わたし、何度も鏡を見て整え直すことが苦手なんです。一度整えたら終日それでいたくて。「結ぶ」っていう言葉と動作も好きです。
小泉:女性はわりと永遠にリボンが好きだと思うんですよ。わたしは着けたりはしないけど、誰かがエプロンをしていて、後ろ姿の結び方がすごくきれいだと、「この人、素敵だな」という印象を受けたりする。リボンをしてる人には目がいきますよね。子どもでも、大人でも。形状も、結ぶ感じも。キュッと締めると、それだけで気持ちが引き締まる気もするし。
犬塚:小泉さんは着けてると落ち着くものはありますか?
小泉:わたしはピアスですね。なんでもないモノだけど安心する。いまは耳に2つ穴を開けているけど、以前は3つでしたね。ピアスって装った感じに見えるでしょう、髪が長くても短くても。
40周年ツアーで感じた「やさしい循環」。

犬塚:わたしにとっての小泉さんのように、影響を受けてきた女性はいますか?
小泉:年齢で変化してきたけど、オードリー・ヘップバーンですね。ヘップバーンの映画を観て、立ち方がすごくかっこいいなあって。
犬塚:わたしにとって理想の立ち方って小泉さんなんです。カラオケで何度も真似しようと思ったけどできなくて。
小泉:ヘップバーンはバレエをやってたから立ち方がきれいなんですよね。背筋が伸びて、洋服を含めて可愛く見える。わたしは膝が大きくて華奢な足じゃないんですよ。でも彼女のように立つと、脚の欠点も隠せて綺麗に見えるという発見があって。本当に可愛い人なので、お手本にしてた時期は結構ありますね。でもすぐに、シンディ・ローパーをお手本にしたりするんです。髪を短く刈り上げて、コンバースの赤と白のバッシュを左右色違いで履いて、ブルマみたいなボトムスに合わせたりして。真っ赤な口紅をしていたデボラ・ハリーにも憧れてたな。
犬塚:プライベートでも憧れの人に投影しながら、着せ替えを楽しんでいたのかもしれないですね。
小泉:たしかにね。自分で経験することで着せ替えできるようになった感じはあるのかもしれない。わたしはオタク気質が強いから、ファッション雑誌で印象に残ったポーズ、スタイリングとかをスクラップしてましたね。「ファッションなのに昆虫標本みたいな写真を撮ってるのは小暮徹って人なんだ。スタイリングは北村道子って人なんだ」って。そうやってオタク作業を繰り返していたら、影響を受けてきたみなさんに会える日が訪れたという。
犬塚:わたし、小泉さん以外にここまで気持ちが変わらずに憧れている人は他にいなくて。そういう存在でいてくださったことがとても嬉しいです。こうやってお会いできなかったとしても、小泉さんがいてくれたことで人生が豊かになりました。

小泉:それって「やさしい循環」なんですよ。わたしはそう思ってくれる人がいるから、みんなの喜ぶ顔が見たくていろいろなアイデアが湧いてくる。また喜んでくれて、応援してくれる。親しい友達と同じ感覚でその関係性が出来上がっていて。それは40周年ツアーで改めて感じたことなんですよ。「素晴らしいじゃないか、わたしたち」って。だからお互いさまなんです。綺麗ごとのようだけど、本気で思ってる。
犬塚:小泉さんのことを見つけた小学生の自分を誇らしく思います。今日は本当にありがとうございました。
小泉:こちらこそ。これからもよろしくね。

思いつきの正しさ。



このインタビューが収録された当日、小泉今日子さんのスタイリングを担当したのは馬場圭介さんです。馬場さんの新ブランド<GB by BABA>の第1弾は小泉さんとのコラボレーション。90年代に発売された小泉さんのカレンダーから馬場さんがスタイリング、インタビューにも名前が出てきた小暮徹さんが撮影したアーカイブ写真をグラフィカルなアイテムに落とし込みました。インタビューが終わった後、遊び心が溢れる1stコレクションの小話を教えてくれました。

馬場:小泉はバケットハットが似合うよね。
小泉:わたし、結構好きだよ。メイクしてないときは顔がいい感じで隠れるし、それこそツアー中とかによく被ってる。
馬場:このバケットハットやTシャツにプリントされてるグラフィック、誰がデザインしてくれたんだっけ。
小泉:かなり前のことだからね。たしか、タイクーングラフィックスだった気がする。
馬場:そうだ、タイクーンだ。

小泉:去年、馬場ちゃんのお店(「COUNCIL FLAT 1」)に行ったとき、このカレンダーを貼ってくれてたよね。
馬場:いいカレンダーだなあと思って。小泉が40周年だから、この写真とグラフィックでTシャツとかをつくったらおもしろいかなあって。カメラマンも親しい小暮徹だから話が早いし。
小泉:馬場ちゃんがスタイリングしてる写真を使えたらなって。一緒にやっていて思い入れが深いし、スタイリングがめちゃくちゃかわいい。簡単な気持ちから「これ、スキャンできるんじゃないの?」って。
馬場:グラフィックの元データが無いから、カレンダーからスキャンして再現したっていう。それでもうまくプリントできるんだな。
小泉:小さい文字も拾って、コラージュみたいにしてくれて。かわいいよね。
馬場:改めて見ると、90年代当時の雰囲気があるね。
小泉:うん。90年代、ちょうどいま来てるんでしょう?
馬場:そうなんだ。なにも狙ってないんだけど。ふらっと思いつくんだよな。だいたいのことが思いつきだから。
小泉:でも、そういうのって絶対正しいよ。きっかけは思いつきでも、なにかに落とし込むときにまわりの力を必要とするんだよね。
馬場:そうそう。思いつきに努力はないんです(笑)。
