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37
Kohsuke Minowa
Editor
#FASHION #SQUALL
Oct.20. 2022
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Oct.20. 2022 / #FASHION #SQUALL

37 Kohsuke Minowa
Editor

& Yo Shitara (BEAMS President) Photography: BEAMS
Text: Meiji
『空気を読んではいけない』『多動力』『死ぬこと以外かすり傷』ーーこれら全ての著書を手がけた箕輪厚介さんは、出版業界でも指折りのベストセラー製造機です。その常識の外から放たれるアプローチは必ず賛否が別れます。しかし、幻冬舎の名物編集者は危険な橋に物怖じせず、むしろそれを好奇心の対象とし、時代を切り裂く異端児たちのリアルを記録してきました。BEAMSの社長、設楽洋も例に漏れることなく、箕輪さんの不思議なエネルギーに惹かれる人物のひとり。「B印MARKET」への参加によって実現した編集者・箕輪 × BEAMS・設楽の対談では、移り変わりの激しい時代の捉え方とその荒波を乗りこなす術をもとに、ヒットの生み出し方や今後の企業のあるべき姿などについて意見を交換しました。

「昨日の常識が明日の正解ではなくなる」

Yo Shitara(以下、Y.S):
僕は箕輪さんを“計算された狂気”だと思っています(笑)。緻密に計算されていながらも、淀んだところにこそ文化があるという考え方には、いつも「こうきたか……!」と思わされます。
Kosuke Minowa(以下、K.M):
バレると思って、無邪気なフリをしているんですけどね(笑)。
Y.S:
BEAMSと業界は異なりますが、僕らもどこか共感できるところがあります。ご自身の著書『死ぬこと以外かすり傷』やYouTube番組などを拝見していると、文化の捉え方に妙があるなと。
K.M:
僕の設楽さんに対する印象は、笑顔が素敵で本当にいつも楽しそう。“陽”のエネルギーが放たれていて、太陽のようなイメージ。偉い立場になってもヒトを緊張させないって普通にできることではないですよ。
Y.S:
BEAMSの由来が太陽の光なので、嬉しいです。
K.M:
BEAMSには伝統を重んじながらも決して古くならず、常に新鮮な感じがある。その雰囲気を設楽さんからも感じますね。
Y.S:
BEAMSも46年目を迎えましたが、伝統があると言ったって、スーパーブランドになるには1世紀の歳月が必要です。次々と登場する鮮度の高い新規参入者と対等に戦っていかなければいけないので、出入りの激しい原宿で生き残るための手段をいつも考えています。
K.M:
僕は服飾文化に深い知識があるわけではないですが、ファッション業界で長年ダサくならないってすごいことですよ。新しければ新しいほど、すぐ旬が過ぎ去ってしまう。今回「B印MARKET」で一緒に洋服を作らせていただきましたが、ファッション業界で僕と組むって相当リスキーですし、意味がわからないですよ。BEAMSのファンたちは嫌がらないのかなって(笑)
Y.S:
そこが面白いところなんです。僕らは必ず時代の変化の現場に立ち会っていたい。時代が変わる瞬間は、昨日の常識が明日の正解ではなくなる。それは小さな火種から始まり、そこをちょっとでも捉えていたいです。だから、今の時代を作っている人とコラボレーションをする。もちろん。アンチも含め色々な考え方があるかと思いますけどね。でも、そこには必ず、新しい何かがありますからね。ありきたりなもの、旬なものが俗世の主流である一方、その頃、感度の高い人や先を見据えた人は、すでに違うものを求めていますから。
K.M:
言葉を換えると「裏切り」ですよね。でも裏切る角度は「本当に嫌かも……」って思う人がいないと意味がない。恰好つけて裏切っても、それは何の裏切りにもならないですからね。
Y.S:
今の時流ではややオシャレと捉えられない側面があったり、どこか毒があったりと、フックやトゲがないと引っ掛かりませんから。箕輪さんもそうかもしれませんが、BEAMSは時代の徒花的なものと、ずっと続く正当なもの、その両方を大切にしています。
K.M:
共感できます。僕は基本的には徒花的なものの方が好きですが、その往来がいいんですよね。ずっと徒花的なコトばかりをやっていても、何かの専門家になっても仕方がないですから。
Y.S:
ファッションは川のようで、水面を漂流して下流まで流れ着いてしまうものもあれば、段々と沈澱して底に溜まるものの両方で成り立っています。そして、底に溜まったものがライフスタイルになるんです。
K.M:
僕はその一瞬だけ輝き、後から振り返ると「あれ、なんだったの?」というものが好きです。表現はわかりにくいかもしれませんが、街を歩いていて突如もの凄い大きな音がすることってありますよね。数秒後には皆、その音がしたことは忘れているけど、よく思い出すと「あの音はなんだったんだろう」ってなるような。
Y.S:
時代が変わる瞬間の現場にいたいという気持ちは、まさにそれ。46年も会社経営をすると、BEAMSが原因でブームを起こしたモノ、消えていったモノ、ちょっと残ったモノと色々あるわけです。そこがすごく面白いポイントだなと思って。
K.M:
ただ、それを最終的に決めるのは企業やブランドではなく、消費者ですよね。だから、組織ではなく、ストリートが勝手に作る。それがカルチャーになっていくことですよね。一方で、僕は全ては結局、何かに対するカウンターや写鏡から現象とか世代が生まれてくるので、そこは大真面目に向き合うのではなく、捉えていきたいという感覚です。
Y.S:
昔は、時代が生み出すモノや流行をはじめとするメインストリームは、初期段階からキャッチした早い人々から段々と拡散され、最終的には大衆まで認知される。つまりは、富士山型でした。でも、現代は八ヶ岳型と言いますか、山脈のように随所に尖った部分があります。BEAMSはさまざまなレーベルや個性的なスタッフによって、その尖った部分を表現できており、“ときめきウェア”と言うか「尖った人の心に刺さるようなものアプローチもいいよね」というスタンスでいます。

「本当に興味があり、嘘をつかなければ、
響く人は必ずいる」

Y.S:
箕輪さんは編集者として、中身となる人をどんどん変えながら書籍を出版されてきましたが、僕はその箕輪さんの頭の中を覗いてみたくて。
K.M:
本の場合、意外と大した話ではなくて。本のヒットなんて10万部、20万部とかの世界ですから。20万部を凄いと捉えてくれる人もいますが、言ってもその数はニッチで十分成立するんです。つまりは、大衆を捉える必要がない。そういう意味では“ファッション”に近いところもあるかと思います。
Y.S:
僕も著書を読ませていただいた大ファンの一人ですが、箕輪さんの時代を捉える力の正体は何なのだろうと。著書は全てヒットしていますが、そこにコツや考え方はあるのでしょうか?
K.M:
本はミリオンで100万部、今の時代では10〜20万部売れれば大ヒット扱いです。ただ、もの凄く偏った思想でも、それぐらいの人数はいます。なので、僕はヒット作品を出すとは考えずに、本当に気になるモノ・コトや、思っていることをテーマに作っています。その分母が狭ければ狭いほど人には刺さるし、どんなにニッチでも数万人はいるので、そのジャンルの人には届くという考え方です。しかも、現代にはSNSにフォロワーがいますから。僕の場合、Twitterには約25万人のフォロワーがいて、日々著書に関連すること以外の発信も見てくれている。そうすると、より強い共感を得ることができます。
Y.S:
「幻冬舎の箕輪」という肩書きを持ちながら、自分自身をブランディングしていて、その考えや思いを発信し、関心を書籍にする。そのスタイルもユニークですよね。ファッションでも同じで、コアなことしても受け入れてくれる層は小さくとも必ず存在する。でも、大事なことはどうやって伝えるかです。良いモノができた満足感で終わらず、僕はそれが人に伝わり、手にとっていただき、洋服として楽しんでもらえた時に初めて完成だと思います。今、その伝え方が大事なフェーズに突入しているような気がします。共感と呼ぶべきか、コミュニティと呼ぶべきかはわからないですが、箕輪さんはそれをちゃんとやられているようにお見受けします。僕は1人のフォロワーの立場から箕輪さん自身に興味を持って、著書を「読もう!」と感じていますから。
K.M:
嬉しいお言葉、ありがとうございます。僕が興味あることは全体の5%程度でよくて、残りの95%は「何でガーシーの本なんて作っているの?」と思っているはずです。でも、5%の共感の中には善悪は抜きにして「確かに気になる」という感想もあると思っていて。そこに対して僕が嘘をつかずに発言したり、本を出版すれば、絶対響く人はいるだろうなと。むしろ、自分の興味関心があることをやっているので、売れなくてもいいやとさえ思っています(笑)。でも、本当に興味があれば、絶対にそこそこ売れるものが本というものです。
K.M:
メディアやコンテンツを含め、全てリアリティ化が進行しているように感じます。ジブリ映画やディズニー作品のクオリティならまだしも、中途半端に完成された映像はヌルすぎて見ていられません。ガーシーさんはまさに正真正銘のリアリティショーじゃないですか。僕の著書もある種のリアリティショーで、本はそのリアリティショーに参加するためのチケットのような扱い。嘘のない、リアルな活動を一番近くで見たいという好奇心ですよね。
Y.S:
BEAMSも洋服を売っているだけではなく、例えばフェスやスポーツイベントの開催や、キャンプを筆頭に“外遊び“を全力で楽しむためのヒントが詰まったエンターテイメント発信地『HAPPY OUTSIDE BEAMS』を展開しています。少しジャンルは異なりますが、生活や趣味に密着した仕掛けを行って、そこからコミュニティを作っていく点は一緒ですよね。
K.M:
そのとおりだと思います。効率は悪くなりましたが、リアルな接点を作り、隙間に入り込んでいかないと生き残れないです。「本が完成して書店に陳列したので購入してください!」では、成立しない時代になりました。通勤時間、テレビCMの最中、就寝前などありとあらゆるタイミングでその人の隙間に入るためには、リアルなリアリティショーを見せなければいけません。僕が炎上したり、噛み付いたりするのも全てプロモーションになっていて、「この前騒いでいた奴の本ができたんだ」という認識をしてもらって初めて購入に繋がります。全部曝け出してリアルにやっていくか、ジブリやディズニーのように完成されたファンタジーを描くかの二択だと思っています。
Y.S:
今後、このムーブメントはどのように変化していくと思いますか?
K.M:
極端に行き切るのではないでしょうか。ありとあらゆるタブーをめくり上げていく下世話なコンテンツと、より質が向上したハイクオリティな作品に二分されると思います。本当にNGなことをやるときは必ずハレーションが起きますが、それを見たい一般層は強烈的に支持しますから。
Y.S:
時代が変わる瞬間は、そういうものですよね。強烈な怪物が現れる。それが後にどうなるかはさておき、確実にターニングポイントになりますからね。

「“コク”と“キレ”」

Y.S:
我々には競争相手がごまんといます。1万円のシャツやブラウスは至る所にある。それに気がついたとき、BEAMSは会社名でもブランド名でも屋号でもなく、面白いことをやる集団の代名詞、いわゆるコミュニティブランドになりたいと思うようになりました。おそらく、今後の我々の競合はインフルエンサーになる。有名なインフルエンサーはファンの方から月3000万も売上があると聞きます。そういうパワーの持ち主は今後増加する一方でしょう。そう仮定すると、競合は人です。ということは、BEAMSもインフルエンサーの集団にしないといけません。だから、100人いれば100種類のBEAMSがあっていいんです。
K.M:
その組織は、とてつもない強さがありますね。
Y.S:
新しいセレクトショップのカタチです。単位は10人でも100人でもよくて、“この指止まれ”形式。BEAMSは今後、指をいっぱい挙げるブランドにしなくてはいけません。どこにもないコミュニティブランドになることが目標です。そのためには洋服を売るだけではなく、一緒にサーフィンをしたり、キャンプをしたり、もっと近距離でチームアップする必要がある。箕輪さんに置き換えると、オンラインサロンがそれに該当するのだと思います。箕輪さんに参加いただいた「B印MARKET」も、まさにその最たる例です。箕輪さんのブランドは〈squall(スコール)〉でしたよね。
K.M:
土砂降りのスコールから名前を取りました。僕は何かとぐちゃぐちゃにしたいという欲望があるんですよね。良品や綺麗なものに、相反する要素を混ぜてカオスにしたいんです(笑)。だから、〈squall〉はグレーのペンキを振りかけています。今回のコラボレーションでは、BEAMSのアーカイブをパレットにさせてもらいました。常識や定説を壊すことは、僕がこれまでやってきたことだと思うので。
Y.S:
これを見たとき、僕も「さすが。箕輪さんはこう来たのか」と驚かされましたよ。BEAMSのコンセプトは「ベーシック&エキサイティング」ですから、文字通り、ベーシックをエキサイティングに変換しましたね。
K.M:
ハンドメイドで一点モノにカスタムされた設楽さんのコレクションが、その着想源です。でも、僕としては徒花的な存在でよくて、数年後に設楽さんから「箕輪さんと一緒にやったけど、一瞬で終わったね」って笑ってもらいたいです(笑)。
Y.S:
でも、箕輪さんのブランドが残るか否かはさておき、何かのキッカケになれば、他のデザイナーやブランドのトリガーを引きますよ。池に石を投げると石は沈みますが、水面には360度波紋が広がっていくように。僕は何事にもコクとキレが必要だと思っています。コクはワインなどと同様、100年経たないと良いコクは生まれない。でも、キレはビールの喉越しのように一瞬の美味さがある。そのどちらかです。両方を満たすものはなかなかできないけれど、キレの積み重ねがコクを生むのではないでしょうか。そういう意味では、時代が変わろうとしている今はとても面白いタイミングだと思います。
K.M:
時代に対して、どのように刺していくか。その勝負が明暗を分ける気がしますね。

対談動画はこちら
「箕輪厚介×設楽洋 対談 ”時代の変わり目の二人の視点”」

Kohsuke Minowa
Kohsuke Minowa
Editor

1985年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。 2010年双葉社に入社。ネオヒルズ族とのタイアップ企画『ネオヒルズジャパン』を創刊し、3万部を完売。『たった一人の熱狂』(著)見城徹/『逆転の仕事論』(著)堀江貴文などの編集を手がける。 2015年幻冬舎に入社後、NewsPicksと新たな書籍レーベル「NewsPicksBook」を立ち上げ、編集長に就任。 『多動力』(著)堀江貴文、『日本再興戦略』(著)落合陽一など、編集書籍は次々とベストセラーに。2019年一番売れてるビジネス書、『メモの魔力』(著)前田裕二も担当。 2018年8月、自身の著書『死ぬこと以外かすり傷』を発売し14万部を突破。 出版クラウドファンディングエクソダスにて1000万円を集め、2021年1月サウナ雑誌『サウナランド』を創刊。saunner of the year2021受賞。 近年は『熔ける 再び』井川意高、『死なばもろとも』ガーシー等のノンフィクションを手掛ける。

Yo Shitara
Yo Shitara
(BEAMS President)

1951年 東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、1975年 株式会社電通入社。
プロモーションディレクター・イベントプロデューサーとして数々のヒットを飛ばす。
1976年 「ビームス」設立に参加。1983年 電通退社。
自らをプロデューサーと位置付け、その独自のコンセプト作りによりファッションだけでなく、あらゆるジャンルのムーブメントを起こす仕掛人。
セレクトショップ、コラボレーションの先鞭をつけた。
個性の強いビームス軍団の舵取り役。

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BEAMSにまつわるモノ・ヒト・コトをあらゆる目線から切り取り、
ヒトとヒトとのお話から”今気になるアレやコレ”を
紐解いていく連載企画 【TALK】。

洋服のデザイナーからバイヤー、フォトグラファーやモデルなどなど。
様々な職種のプロフェッショナルから
”今気になるアレやコレ”を伺います。

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