全国47都道府県に800店舗以上を構え、ビジネススーツにおいて国内約3割の圧倒的シェアを誇る「洋服の青山」などを展開する紳士服量販の最大手メーカー青山商事株式会社(以下、青山商事)との協業により、2016年秋、BEAMS DESIGN 企画・監修のメンズウェアブランド<MORLES(モアレス)>がデビュー。シーズンを重ねるごとに認知を広げ、顧客満足度を高めると同時に新たなファンも獲得するなど、着実な成長を続けています。その中核を担うキーマン、青山商事・宮園孝大さんと BEAMS DESIGN・矢崎 裕ディレクターに、プロジェクトの歩みと成果を伺いました。
自社単独では難しい新たな施策を
世界トップクラスのノウハウで
まずは最初に<MORLES>設立の経緯からお聞かせください。
宮園:青山商事は1964年の創業から55年にわたり、スーツやジャケットをはじめとするビジネス&フォーマルウェアを一筋に製造・販売してきた企業です。しかし近年では、ビジネスシーンにおけるドレスコードの緩和からビジネスファッションのカジュアル化が急速に進み、求められるアイテムにも変化が表れてきました。既存のラインナップでは、そうしたコンシューマーにお応えすること、ひいては今の時代へのフィットが難しいこともあり、新たな商品開発が急務となったのが発端です。
矢崎:いわゆるビジネスカジュアルと呼ばれるスタイル、そしてビジネスパーソンが休日にお召しになるカジュアルウェアの提案が必要になったわけですね。
宮園:そのとおりです。とはいえ、先ほども申し上げたとおり、弊社は本格的なビジネスファッションにおいて半世紀を超える実績と、その品質やコストパフォーマンスに絶対的な自信があるものの、カジュアルウェアとなると専門外。もっと言うならば、不得意とするところでした。そんな私たちが小手先で企画をしても、心からご満足いただけるほどお客様は甘くはありません。そこで白羽の矢を立てたのが BEAMS DESIGN でした。
40年以上も日本のファッションシーンの先頭を走り続け、なかでもカジュアルスタイルに強い BEAMS が培われてきた経験やセンス。国内、いや世界でも間違いなくトップクラスである優れたノウハウをお借りして一緒にモノ作りをすることで、自社単独では実現し得ない素晴らしいプロダクトを提供できると考えました。
青山商事も BEAMS も幅広い事業を手掛けられているものの、
アパレルを核とする企業です。言うならばライバルにもなる関係ですが、
同業他社とタッグを組むことに問題はなかったのでしょうか?
矢崎:BEAMS DESIGN はオファーをいただいた企業様とお取り組みをするライセンスビジネスブランドであり、プロジェクトチームともいえます。ただし、コラボレーションアイテムのような商品そのものを販売するのではなく、我々の頭の中、すなわちソフトを提供する B to B のビジネスになります。ライセンス事業ではありますが名前を貸すだけのそれとは大きく異なり、BEAMS の現場で磨かれた企画力や編集力、審美眼を活かし、パートナー企業様とともに踏み込んだ商品開発を行うのが特徴です。クライアントは飲料メーカーや製薬会社、ミュージシャンなど、そのジャンルは多岐に及び、様々なモノやコトをプロデュースしています。アパレルメーカーとの協業は青山商事との試みが初めてでしたが、基本スタンスは変わりません。
宮園:BEAMS は、ファッションとライフスタイルへの関心や好奇心が旺盛で、そこへの投資に意欲的なコンシューマーを抱えていることが強みだと考えています。同じアパレル企業であってもターゲットは異なり、バッティングする関係ではないと捉えています。
矢崎:ですから、「洋服の青山」を利用されるお客様に向けて商品開発をすることは、BEAMS DESIGN にとっても新しいチャレンジができると感じました。両社にとって足りないところを補い合える取り組みになるとも思い、ぜひ実現させたいプロジェクトでしたね。事実、<MORLES>の成功によって良い実績ができたので、今後に関してもアパレル企業様とのお取り組みは前向きに考えています。
ブランドを生み、育て、確立させる
全面プロデュースだからこその強み
具体的に BEAMS DESIGN は、<MORLES>に対して
どのような携わり方をしているのでしょうか?
矢崎:<MORLES>のネーミングをはじめ、ロゴやショッパーのデザイン、コンセプト立案、商品企画、更にはルックブックやビジュアル制作などのプロモーションにいたるまで、ブランディング全体になります。
宮園:生産背景は青山商事の自負するところでもあるので、私たちの自社工場やお取引のある縫製工場が担っていますが、商品企画は、ほぼすべて BEAMS DESIGN からのご提案です。しかもそれで終わりということではなく、アイテムの合わせ方までディレクションしていただいています。店頭のディスプレイしかり、お客様へのスタイリング提案しかり、弊社はコーディネートスキルが弱いので実に心強い。いわば、お互いの得意分野を持ち寄っている感じですね。
矢崎:商品そのものが素敵だと思っていても、着こなしに悩む消費者は少なくありません。ファッションはアイテム単品ではなく、コーディネートをして初めて完成するものなので、スタイリングの打ち出しは非常に重要です。
宮園:またシーズンごとに掲げているコレクションのテーマ設定も、BEAMS DESIGN からご提案いただいています。
矢崎:2019-2020年秋冬のシーズンテーマは「クロスオーバー」と銘打ちました。アイビーやプレッピースタイル、どこか懐かしい'80s的な雰囲気を演出しながら、それを現代的な解釈で表現しています。当時に見られたような、ゆったりとしたリラックス感のあるジャケット。またトレンドのブラックウォッチ柄をツイード調のテキスタイルに落とし込んだり、流行素材である太ウネのコーデュロイを使ったパンツなどをラインナップしています。こうしたアイテムは弊社のスタッフも好きですし、 BEAMS っぽい。
宮園:弊社だけの企画では、まず成り立たない内容ですね。当然、そうしたトレンドは青山商事でもキャッチしていますが、既存のお客様の趣向を考えると思わずブレーキをきかせてしまう。とはいえ<MORLES>では、フレッシュなファッションを楽しんでいただきたいので素直に提案できるんです。実際、こちらで二の足を踏んでいた今どきのルーズシルエットのジャケットやワイドパンツでも、BEAMS DESIGNチーム に説得されて店頭に並べたところ、お客様も新鮮に感じられたようで想像以上に好評でした。
矢崎:誰もが流行に敏感なわけではなく、皆がそれを追い駆けたいわけでもない。なので、いくらトレンドだと謳っても、ルーズシルエットのジャケットやワイドパンツが何の脈略もなく店頭にあるだけでは、お客様には響きにくい。しかしコレクション全体の世界観やスタイリングまでトータルでご提案することで、お客様も手を伸ばしやすくなる。ことさらカスタマーにとって親しみの薄いアイテムは、どのようにアプローチするか、いかにして無理なくお客様に寄り添うかを強く意識しています。
そんなふうに、我々のノウハウを出し惜しみせず注ぎ込んでいます。ただし、惜しまずご提案することが必ずしも正解だとは限りません。「洋服の青山」と BEAMS では、売り場の環境やお客様、店舗により格好いいとされるアイテムも異なります。プライオリティーは「洋服の青山」のお客様が着たいと思えることであり、喜んでいただけるようあえて出し惜しみすることも大切です。そのために、まず BEAMS DESIGN のフィルターを通し、その後に青山商事という2重のフィルタリングをして、お客様にご満足いただけるようアイデアを反映させています。
豊かな経験、優れた感性、
飽くなき探究心
BEAMS DESIGNが
もたらす付加価値
実際に BEAMS DESIGN と協業して、
青山商事はどのように感じられていますか?
宮園:企画会議では “ ビームスらしい ” や “ ビームスっぽい ” といった言葉が頻繁に出てくるのですが、そうした “ らしさ ” や “ っぽさ ” にこそ青山商事にはない感性や着眼点が息づいており、商品の付加価値になっていると思います。また、それを目の当たりにするのは良い刺激になり、その気づきや学びは弊社にとって非常に価値のあることです。ただ毎回それが楽しみではあるものの、いざ商品化となると、これまで私たちが経験していないことも多く、難易度が高い……。
矢崎:確かに、かなり細かい部分まで指定しますし、仕上がったサンプルも厳しくチェックさせていただいていますからね。やり直していただくことも少なくありません。
宮園:遠慮なくガンガン言われますね(笑)。ただ、そこは互いに妥協してはいけないし、どこまで突き詰められるかがハイクオリティの製品につながるので、BEAMS DESIGN のクリエーションを100%具現化できるよう、弊社も全力を尽くしています。一着一着が真剣勝負です。
矢崎:ポロシャツ一枚であっても、衿の幅や開きの角度などミリ単位で何度も修正をしたり。パッと見ではたいして変わらないと思われそうな些細なことですが、微差こそ大差。そのわずかな違いにオシャレ感や今どき感、こなれ感が表れ、袖を通したときの佇まいが格段に変わる。そうした小さな小さなこだわりを積み重ね、理想を追求するのが BEAMS 流であり、BEAMS DESIGN の強みでもあります。
宮園:それは色の選定にも顕著にあらわれていますね。例えばグレーひとつにしても、ライトグレーからチャコールグレーまで段階的にトーンの異なる生地見本を並べると、青山商事と BEAMS DESIGN ではピックアップするものが違うんです。それは単純な好みの差ではなく、弊社はマスターゲット向けに安定志向になりがちで、最大公約数を狙えるニュートラルなグレーを選んでしまう。
矢崎:同じグレーでも時代によって好まれるトーンは変わりますし、“ 今のグレー ” というのがある。さらにデザインによっても選ぶべきグレーは違います。言葉では説明しにくいのですが、そこは長年の経験と感覚に裏打ちされた、世間の気分を敏感に察知して絶妙なタイミングでピックアップする BEAMS DESIGN の真骨頂だと自負しています。
店頭やお客様からの反応はいかがですか?
宮園:お客様はもちろんですが、スタッフにもファンが多く、社内での着用率も非常に高い。私自身ちょっと鼻が高いです(笑)。
矢崎:目の肥えたスタッフの方々にも支持していただけるのは、純粋に嬉しいですね。
宮園:これまで「洋服の青山」では、特定のブランドを目的にご来店されるケースは皆無に等しいものでした。しかし現在は、<MORLES>を目指して足を運んでくださるお客様、毎シーズン欠かさずチェックにいらっしゃるリピーターも増えました。また、私たちとは違う部署の取引先の方々が、弊社のブランドだとは知らずに着てくださっていることも多いと聞いています。青山商事が手掛けていると伝えると、ビックリされるそうです。
矢崎:「洋服の青山」や BEAMS DESIGN が前面に出るのではなく、ひとつのブランドとして認知され、確立しつつある証ですよね。そうして<MORLES>が独り立ちしていくのは好ましいことですし、我々もそこまで視野に入れてブランディングしています。これからも両社で永く大切にブランドを育て、将来的には<MORLES>のオンリーショップが出店できたらと思ってます。あくまで私個人の勝手な夢ですが(笑)。
宮園:そうですね。知名度も着実に高まっていますし、新規を含めてお客様への浸透も広がっているので、単独店も夢ではないかもしれません。今後も末永くよろしくお願いします!
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