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Road race

過酷すぎて美しい!
ツール・ド・フランスの魅力とは?

Interview with Fumiyuki Beppu
at the Tour de France.

2024.06.29

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世界最大の自転車ロードレース、ツール・ド・フランスが6月29日に号砲!イタリアはフィレンツェをスタートし、一路フランスへ。今年はパリの祭典の影響で、フィナーレは南仏のニース!  3週間で総距離3492kmという、長すぎて過酷なレースを1秒を削り出しながら走る約200名の選手たちは、とにかく神秘的で美しい。レースの見方や見どころなどを、なんと日本人でツール・ド・フランスに出場、しかも記録ずくめで初完走したレジェンド別府史之さんに、ビギナーでもわかるように説明してもらったよ!

Profile
  • 別府 史之

    Fumiyuki Beppu

    1983 年生まれ。高校卒業後フランスに渡り、2005 年に日本人として初めて UCI プロツール選手となる。2006 年にロードとタイムトライアルの日本チャンピオン獲得し、2007 年に日本人初の UCI プロツール(現ワールドツアー)ポイントを獲得。2008 年にはアジアチャンピオンタイトルを獲得し、北京オリンピック出場。2009 年、日本人として 13 年ぶりとなるツール・ド・フランス出場。最終第21 ステージで「敢闘賞」を獲得。日本人初の完走も同時に果たす。2012 年ロンドン・オリンピックに出場。グランツール(世界三大ツール)、モニュメント、世界選手権、オリンピックの世界 10 大ロードレースすべて完走している唯一の日本人。

  • まず、別府さんからツール・ド・フランスの魅力を教えてください。

    ツール・ド・フランスは、スポーツでは世界で最も大きなイベントの一つ。第一回は1903年、今年で111回目になります。世界中に競技者がいて、各国の人が中継を見て盛り上がる。それはフランスの歴史的な建造物が映るんですが、それだけじゃなくて、アルプス山脈とピレネー山脈とかを信じられないスピードで駆け抜けていくんです。3300キロ以上もの距離を21日間で走破するのですから、こんな激しいスポーツ見たことないって惹かれる方も多いですね。ベルギーやフランス、イタリアやスペインといった国から一握りのプロフェッショナルしか出ないツール・ド・フランス。まさに最高峰の頂点を目指す大会です。

1903年に開催されたツール・ド・フランス 第1回大会。©aflo

  • どんな人が参加できるんですか?

    自転車でいうプロの定義はチームに契約されているかどうかですが、ピラミッドの頂点が「UCIワールドツアー」で、世界で18チームしか存在しません。その次に「UCIプロチーム」、その下に「コンチネンタル」というカテゴリがあり、今年はその中から2チームがワイルドカードという枠で参戦することができます。さらに残る2枠が主催者によって決められ、全部で22チーム176名が順位を争います。

2023年7月1日から7月23日まで開催された第110回の最終日。フランス・パリの凱旋門を背景にゴールを目指してシャンゼリゼ通りを疾走する。©aflo

  • 別府さんにとって思い出深いレースは?

    やはり自分と新城選手の二人が、日本人で初めてツール・ド・フランスを完走した2009年ですね。現地だけでなく日本でもとても取り上げていただきました。ただ、完走といってもそれが目的ではなく、2つのステージでシングル(一桁順位)をとったし、最終日には敢闘賞も受賞することができました。ようやく月に降り立ったって感覚でしたよ。世界で一番注目される自転車レースで、日本人もこのレベルに来たってことを証明できたことが嬉しかったです。

  • 完走するって、そんなに難しいんですね。

    とにかく過酷です。23日間も毎日200キロ前後、山あり谷ありを全力で走っていたら、落車もあるし、怪我もあります。山岳を登っていくと頂上には雪が積もっていたりして、自然との戦いもあります。雨でレースが中止になるわけじゃないし、風の影響も受けやすい。しかもレースは公道だから、突然穴が空いていたりとか。過去には観客と選手が接触したこともあります。ゴール前はフェンスで区切られていますが、山岳コースは触れられるくらいの近距離で選手が通り過ぎて危ないくらい。熱狂的な応援スタイルです。

  • スピードばかりが注目されますが、それを支える気力や体力、運がとにかく大事ですね。

    そもそも自転車のロードレースは、個人競技ではなくチーム戦です。チームのエースを勝たせるためにアシストする選手がどう負担なくゴールまで導けるかが見どころです。ただ、エースが遅れたり、走れなくなったときに、アシストの選手に活躍の場が与えられるんです。僕はそうしたチャンスを得て第三ステージで8位、第19ステージで7位をとることができました。最終日(第21ステージ)となると、もうみんな疲労困憊ですが、その時の僕は尻上がりにコンディションが上がって、最終日にベストパフォーマンスを出すことができました。夢の舞台で先頭を駆け抜けたときの感動は忘れられません!

Photo: Makoto Ayano

  • 話を聞いているだけでワクワクしますね!

    元選手の立場から言わせてもらうと、わずか数秒の差でステージを争うタイム差が開かないエンターテインメントは、まるでサーカスというかスペクタクルを見ているよう。人智を超えた人がギリギリのところで戦っている姿を見るのは本当にワクワクするし、応援にも熱が入ります。実際にレースを見たらわかると思いますが、人として無駄な筋肉も脂肪もない。ミケランジェロの銅像みたいに、無駄のない選手の姿って神秘的で美しいですよ。

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Interview & Text : Masayuki Ozawa [MANUSKRIPT]
Edit:MANUSKRIPT

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