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近代五種の表彰台を
自衛隊が独占するのはなぜ?

Why are SDF athletes so good at the modern pentathlon?

2024.08.07

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フェンシング、水泳、馬術、射撃、ランニングというまったく異なる5つの種目を競い合う、優雅に見えてじつはもっとも過酷といわれる近代五種。日本では、なかなか馴染みはないが、海外では国際大会などでも注目の競技として知られる。国内で活躍している選手を見てみると、なぜか自衛隊体育学校の選手ばかり。この理由を知りたくて、日本トップの佐藤大宗選手にインタビューしてきました!

Profile
  • 佐藤大宗

    TAISHU SATO

    自衛隊体育学校。2等海曹。1993年生まれ。青森県出身。高校卒業後、自衛隊に入隊し、近代五種への道へ。2021年に全日本選手権優勝し、一躍日本を代表するアスリートへ。2024年6月に行われたワールドカップ第二戦では6位。パリ五輪日本代表。

気力・体力・技術・運!

すべてを味方につけないと!!

  • Q:佐藤選手はどんな学生時代だったんですか?

    6年間水泳部でした。卒業しても水泳に関わる仕事に就きたいと思い、海上自衛隊に一つ上の兄と一緒に入隊しました。自衛隊に入ると、最初の半年は基礎を学びます。簡単にいえば「回れ右」とかほふく前進みたいなこと。さらに陸自、海自、空自のすべての教育を受けるのですが、その期間中に近代五種のOBの教官が兄に目をつけて誘ったんです。ただ兄はメディック、いわゆる『海猿』みたいな海上保安庁の潜水士になりたかったのでお断りして。で、弟の自分に白羽の矢が立ったというわけです。

  • Q:自衛隊を経て、みなさんいろいろな進路があるのですね。佐藤選手のようにアスリートの道を選ぶ人は多いのですか?

    海上自衛隊だけで仮に500人いたら1人か2人とか? そのくらい体育学校に進む人はほとんどいないです。この朝霞駐屯地の敷地内で、純粋にスポーツに没頭できる環境はとてもありがたいことです。ちなみに近代五種の選手は、男子が7名、女子が5名。水泳が得意で入る人が多いです。僕は30歳になり、一番年上になります。

  • Q:まさに選ばれしアスリートですね!佐藤選手はご自身が競技に向いているって感じたことはありましたか?

    最初はとにかく「やめたい」気持ちばかりでした(笑)こんなきついスポーツないだろって。水泳上がりだと骨が弱いので、陸上のトレーニングをするとすぐ骨が炎症して、一年目で両足を疲労骨折しちゃったんです。練習が始まると、負けず嫌いの性格から我慢しちゃって。最初の5年くらいは気持ちだけで乗り切った感じです。

     

    ある時、フェンシングやってて「あれ勝てるな」とか「人と若干間合いや距離感が違うかも」って思い始めて、楽しくなりました。ランニングは気持ちで乗り切って、水泳で追い込めば、先輩たちにも負けないかも!と思い始め、だんだん全日本は優勝したいな、と思って今に至る感じです。

  • Q:1日で5種目やるってハードですよね。どこらへんから辛くなりますか?

    一番辛いのはランニング、最後のレーザーランです。もうこの時点では体がボロボロですから。レーザーランは600mを5回走るのですが、その間に4回の射撃があり、10m離れた的に五発、真ん中の黒点にレーザー銃を早撃ちします。これを40°近い夏に行うと、脱水症状でリタイアする選手も出るくらい。最終種目なので、給水をしている暇もないんですよ。1秒を争うので。

  • Q:みどころをいくつか教えてください!

    まずは最初のフェンシングですね。全員と試合して、勝率が7割を超えると250点もらえるのですが、一位と最下位だと50~60点差がつくことも。それってレーザーランの秒数に換算すると一分差以上になるので。なかなか追いつけないですよね。

     

    また馬術は今回のパリで最後になるのですが、どの馬に乗るのかは抽選なんです。試合前日に用意された馬のジャンピングテストがあり、コーチたちが録画した映像を見て研究するのですが、競技のアップ時間が20分しかないんです。その間に馬を支配するじゃないですが、自分の技術を叩き込むのが本当に難しんですよ! 観客の多さに興奮して言うこと聞かない馬もいるし。その中で勝負しなきゃいけないので、運も味方にしないと勝てません。

  • Q:佐藤選手の必勝パターンを教えてください

    最初のフェンシングで流れを作り、水泳から馬術でトップを狙い、レーザーランでずっと押し切って行く逃げ切り型です。と、去年までは思っていたんですが、先日の世界選手権では追い越し型だったんです。最後が5番でも、10番スタートでもメダルが狙えるぞ、とかなり自信がつきました。結果は9位でしたが、まだ改善するポイントが確認できて、かなりいい試合でした。

  • Q:強豪国ってあるんでしょうか?

    アジアでは韓国ですね。チョン・ウンテという選手が世界選手権で3位に入りました。また去年のアジア選手権で優勝、東京五輪でも銅メダルを獲得するなど、彼の活躍の影響で競技人口がどんどん増えたから、いい選手が多いです。あと安定して強いのはイギリス、フランス、ハンガリーとかですかね。最近はエジプトがやばいです。注目選手が多いですよ。

  • Q:ずばり!世界との距離感や手応えはどうですか?

    今は誰が勝ってもおかしくない接戦になるだろうと言われているくらい、実力が僅差になっています。日本人が表彰台に登るのは狭き門だと思いますが、自分の中では40%くらいの可能性をもっています。うまくいけばですが。でも去年は0か10%としか言えなかったから、ここまでもっていけたのは大きい。緊張感のある試合を、僕自身も楽しみたいと思います!

  • Q:自衛隊体育学校の選手が強いのは、メンタルもしかり、環境もしかりですね。

    名の通り5種目ある近代五種は、正直お金のかかるスポーツです。今日の取材は大雨で、ご覧いただけなくて残念ですが、馬術もトレーニングもできるし、陸上トラックもある、50mの国際プールも2つある。全ての競技に集中してできるここは日本でも一番の設備だと思っています。打ち込める環境がある、というのは大きいですね。

  • Q:オフになったらまず何をしたいですか?

    競技を離れたら奥さんの料理を食べながらお酒を飲んだり、自分でも台所に立って、料理を軽く作りながら飲んでいる、ごくごく普通の休日を過ごしています。今回は、ゆっくり温泉でもいきたいですね!

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Photo:Yuichi Sugita
Interview & Text : Masayuki Ozawa [MANUSKRIPT]
Edit:MANUSKRIPT

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