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Interview

BEAMSスタッフ・牧野英明が、
走り続けて、見えてきたこと。

How running looks to those Who've kept runners.

2026.01.28

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ランニングは、本来とてもシンプルで、誰にとっても一度は経験のある、身近な行為。部活や授業、日常の中で自然と触れてきた“走る”ということはいま、速さや記録だけではない、もっと自由で多様な楽しみ方へと広がりはじめています。Vol.2では、その感覚を楽しみながら走り続けるBEAMSスタッフ・牧野英明に、ファッションの世界から見た、日本と海外のランニングカルチャーについて聞いてみました。

Profile
  • 牧野英明

    HIDEAKI MAKINO

    BEAMSスタッフ

    BEAMS随一のシリアスランナー。〈B印MARKET〉では、いつでも10km走れるコーディネートをテーマに、走るのに快適なファッションアイテムと、機能美溢れる高性能ギアをセレクトしている。フルマラソンのベストタイムは2時間47分44秒(東京マラソン2023)。

“文化”と“カルチャー”が混ざる。

日本の新しいランニングのかたち。

  • ―まず、ファッションの世界からランニングをどう見ているの?

    学生時代、陸上競技部に所属していましたが、当時はファッションとの結びつきはほとんどなかったですね。「走ること」と言えば、あくまで健康のため、という感覚が強かったと思います。空気が変わったと感じたのは2010年ごろ。〈UNDERCOVER〉と〈NIKE〉によるランニングコレクション「GYAKUSOU(ギャクソウ)」の発売をきっかけに、ファッション文脈でも“走る”という行為が見えるようになってきて、そこにデザイナーの高橋 盾さんが、自身の走る姿や意味みたいなものを発信したことで、どこか自分が肯定されたような気持ちになったのを覚えています。

  • ―「GYAKUSOU」の発売から約15年経った現在、さらに変化を感じていますか。

    いちばん大きいのは、ウェアをはじめ、ランニングまわりの選択肢が圧倒的に増えたことですね。当時は、ランニングウェアってそこまで前に出ている存在ではなくて、どちらかというと、トレーニングウェアの一部として扱われていたような気がします。それが今では、アウトドアブランドやインディーズブランドの参入も増えて、アレンジの幅がかなり広がった。

     

    その変化に気づけたのも、長く走り続けてきたからこそ。最近は、ちょっとしたランナーへの配慮にハッとさせられることが増えました。たとえば、走っても携帯電話が揺れない位置にポケットがあるとか、動いても服がズレにくいサムホールが付いているとか。挙げだすとキリがないです。極端な話、トレーニングウェアでも走ることはできます。でも、ギアが充実するようになって、世の中のランニングへの向き合い方や楽しみ方が、大きく変わってきたと思います。

  • ―海外ではランニングとファッションの結びつきはどうでしょうか。

    いま、ミラノのランニングシーンがじわじわと面白くなってきています。背景には、インディペンデント・マガジン『メンタル アスレチック』による感度の高い発信が、その広がりを見せていると感じました。昨年の6月に出張でミラノに行って、この雑誌を取り扱っているランニング専門店「ランナウェイ」で、〈WILD TEE〉というブランドに出会ったんです。ウェアに触れたときに、そのクオリティの高さに驚きました。インディーズやガレージブランドの枠を、いい意味で超えているものづくりだったんです。それもそのはず、オーナー自身がランナーであり、過酷なレースを経験しながら、自らプロダクトテストを行っていました。

  • フラッグシップストアの前で、〈WILD TEE〉クルーと。

  • ミラノのランニング専門店、「ランナウェイ」を訪れた時の一枚。

  • フィレンツェで開催された『ピッティ・ウオモ 2025』にて、コペンハーゲン発のサイクリングウェアブランド〈PAS NORMAL STUDIOS〉のスタッフと。

BEAMSで仕事をしていると、メーカーからアドバイスを求められることが多いのですが、ウェアを見れば、つくっている人が「走っているか」「走っていないか」すぐにわかります。その点〈WILD TEE〉は説得力が高かったですね。『メンタル アスレチック』のメンバーも実際にランナーで、滞在中に街を走っていると自然と出会うこともありました。走ることが、ちゃんと生活の一部になっている。その感覚が、ものづくりに表れている気がします。

『メンタル アスレチック』が2025年6月にミラノで主催したランニングイベントにて、ファウンダーのガブリエーレ・カサッチャとのツーショット。

  • ―日本にランニングカルチャーが浸透していると感じたのはいつ頃?

    まず前提として、ギアが充実していることと、カルチャーが成熟することは別軸だと思っています。12〜13年前にウェブメディアのフイナムが、ランニングクラブを立ち上げました。1時間くらい仲間と会話をしながら、ゆるく走る。そのあと、みんなで飲みに行くところまでがワンセット。ストイックな結果を求めるのではなく、走ることがコミュニケーションの手段として機能していたのが印象的でした。

     

    海外でランニングがカルチャーとして根付いているのは、自発的に走ることを、スケートやピストバイクと同じように、「遊び」として変換しているからだと思います。そうした空気が、日本のいまの若い世代に共感を生んでいて、「夜にクラブで遊ぶより、街を走るほうがクール」という感覚が、少しずつ増えてきているんじゃないかなと感じています。

  • ―ランニングカルチャーの未来はどうなっていく?

    日本では足が速いとか遅いとか関係なく、ほとんどの人が部活動や体育の授業の持久走だったりで「走ること」を経験してきたと思います。そこには、国民的に根づいた競技思考の側面が少なからずあると思うんです。でも、海外はそこまでストイックな思考ではない。僕はそうした、日本特有の競技意識の高い“文化”と、遊びから始まるグローバルな“カルチャー”をミックスできることが面白いと思っています。そこが日本のランニングカルチャーが成熟していくポイントであり、特別な発信地になるのではないかと、個人的には期待をしています。

     

    僕自身、これからも走れる限りは走り続けたいと思っていて、その変化を、できるだけ近くで見ていたい。BEAMSにいるからこそ、つなげられる人や、出会える人がいる。ファッションが好きな人が走ることで、他業種との交流やコミュニケーションが生まれていく。その間に立って、自然につなげていけたらいいなと思っています。そういう意味では、ランニングは人との関係性を広げてくれる、すごくいい存在ですね。もし、走っていなかったら、と思うと…ちょっとゾッとします(笑)。

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Photo:Kai Naito(TRON management)
Edit&Text:MANUSKRIPT

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