ずっと料理人になりたいと思っていた。
ずっと料理人になりたいと思っていた。
改めてですが、長塚さんが音楽をはじめたきっかけを教えていただけますか?
長塚:3歳ぐらいから、バイオリンをやったのが音楽に触れはじめたきっかけです。
それはご両親の影響で?
長塚:全然関係なく、自分からやりたいと言ってました。幼少期からバイオリン弾くことや歌うことが好きで、サボり魔だったのでそんな真面目にやっていなかったんですが。中学に入るとバンドが流行っていて。そこでバンドをやるようになって、中3の時に初めて人前で歌を披露し、歌うのが面白いなって思うようになりました。それから大学へ進学し、平日は学校に通って週末はライブして、という毎日でした。WONKのメンバーに出会ったのはその頃ですね。卒業してからも料理をやりながら音楽をやって、今に至るという感じですね。
大学生の頃は今とはまた全然違うバンドだったとか?
長塚:昔はロックとかメタルも好きだったので、大学に入る前はメタルのドラムをやろうと考えていたんですが、そういうバンドを出来る人がいなさ過ぎて(笑)。それなら自分で歌おうと考えた時にソウルやR&Bに出会って。ジャズも聴くようになり、大学在学中にジャズバンドを組んで2,3年間活動していました。その頃、WONKの荒田とか今のメンバーに会って。WONK結成前にイベントでバンドを組んで出るということもありましたね。
その世代の中にもジャズは浸透していたんですね。
長塚:でも、かなりニッチだった印象です。横の繋がりがあるコミュニティだから、どこどこ大学の誰々っていう鍵盤奏者がいいらしいよ、みたいな話とかはすぐに広まるのでいろんな人の話は聞いてました。自分はどこのサークルにも所属していない野良ボーカルで、スタンダードからディアンジェロのカバーだったり、ホセ・ジェイムズを唄ったりしていたんですが、今思えば男性ボーカルは本当に少なかったなぁ(笑)
ソウルやジャズなどのブラックミュージックに出会った頃、一番影響を受けたアーティストは誰ですか?
長塚:ヤバイ! と思ったのは、ダニー・ハサウェイですね。そこから、その時代の周辺の音楽や古いソウル、ジャズなども聴くようになっていきました。
その頃の音楽が、今のWONKとしての長塚さんを形成していると。
長塚:今でこそ積み重ねてきたものがありますが、最初はジャズやソウルを勉強するように聴いていた訳ではなかったので。むしろ、ずっと料理人になりたいと思っていましたし。でも、音楽を軸に生きようと思ったのも、そのジャズバンドを組みはじめた頃でした。ただ、歌い方とかスタイルにおいて目指すところは、その頃形成されたかなと思います。
最初は料理人を目指していたけど、軸が音楽中心へと動いた理由は何ですか?
長塚:単純に歌が好きで、料理人をやりながらずっとライブしたりしてました。でも、料理人といっても、自分が作ったものを美味しいと言ってもらえたり、何かを感じ取ってもらえたりすることが僕は本来好きだったのですが、忙しくて作業みたいになってしまっていた時があって。客席が1階でキッチンが2階にあって、インカムで情報が入ってきて作って出すみたいな。僕じゃなくてもできるじゃんって。これならやっている意味がないなと思って、技術だけ修得して辞めました。その頃から、料理はいつでもできると考えるようになって。でも、その代わりミュージシャンは若さという点もひとつ大事になってくると思いました。そこから活動の軸を音楽にして、生活の為に料理の仕事をするようになりました。
今料理の方はどのような形で活動されているのでしょうか?
長塚:実は毎月イベントをやっているんです。全然外に発信をしてない、かなりクローズドなものですけど。今ソムリエとアシスタントと3人で動いていて、実験的な料理をやることをテーマにしています。1つはずっとお世話になっているバーを一晩限定の立ち飲みワインバーにして、料理も全部持ち込んで立ち飲みビストロの様な形で僕が料理を振る舞う。地元のあきる野市の食材を使ったりもしています。
すごい! 今活躍している若手のアーティストで、立ち飲みビストロをやっている人なんてなかなかいなさそうですよね(笑)
長塚:僕はWONKで歌詞とメロディを担当しているんですけど、なんか歌で表現したい、伝えたいことを曲として構築する頭の使い方が、料理と似通っている部分があって。音楽も実験的なことをやろうとしているので、料理も実験的なものを作ることをテーマにしたら面白いんじゃないかと思って。
音楽と料理のどういった点が似ていると?
長塚:単純に音の選び方って食材の選び方と同じじゃないですか。例えば調味料やスパイスで悩んだりするのと、何百何千と種類があるシンセサイザーの音をどれにしようか悩んで決めたりするところも似ているなと思います。他にも音楽って昔の歴史をリスペクトして大事にする文化があるじゃないですか、特にヒップホップカルチャーとかって。料理でも全く同じことが言えると思っていて、昔のクラシックなフレンチとか和食のカルチャーから、言うならばサンプリングして新しい味にする。そういうところが似ていると思います。
なるほど、確かに似てますね。以前、音楽活動と料理人どちらも本気で、二足の草鞋を履いて生きていくとおっしゃっていたのが印象に残っています。その頃とは意識も少し変わりましたか?
長塚:全然変わってないです。どちらかを切り捨てるというのは僕には初めからなくて。どうせ作るし、どこでも歌えるし。どっちもできると思っています。特にWONKのメンバーと出会って、その思いも強くなってきましたね。
音楽の方も続けていける自信がついた?
長塚:そうですね。現実になったというのも、ひとつ大きいところですね。
メジャーとインディーズ、
アンダーグラウンドとオーバーグラウンド、
日本と海外みたいに、
両方を繋げる架け橋に僕らはなりたい。
メジャーとインディーズ、
アンダーグラウンドとオーバーグラウンド、
日本と海外みたいに、
両方を繋げる架け橋に僕らはなりたい。
WONKは国内では珍しい実験的な音楽をやる若手として、デビュー当時から話題を集めてきたバンドだと思います。新しいものが常に注目される音楽シーンである程度知名度も増え、話題先行じゃなくなった今、自分たちの現在地をどう捉えていますか?
長塚:僕らの今の立ち位置って、割と日本の音楽も聴いてオシャレなものが好きで、SuchmosやKing Gnuの流れから僕らのことを知ってくれるという人が多いと思うんです。こういう人たちもいるよね、全部英語で洋楽っぽくてなんか取っ付きづらそうだけど、なんかおしゃれだよね、ぐらいじゃないですかね。でも、なんかメジャーな感じの人たちじゃないなみたいな。
その取っ付きづらさは、失くすつもりはないですか?
長塚:いや、全然ないってことはないです。もちろん売れたいから、みんなが聴けるような楽曲を作りたいとも思っています。ただ、僕たち捻くれているんで(笑)。“普通”な曲は絶対作れないから。
世間からの自分たちのイメージについて、日頃からメンバー同士で話したりされるんですか?
長塚:すごい話します。
なるほど。ということは、今おっしゃったような、こういう風に見られていると思う、という共通認識も持っていると。
長塚:持っていますね。細い部分は違うかもしれないけど。僕以外のメンバーがKANDYTOWNのIO君や唾奇君のバックバンドをやったり、メジャーなアーティストの方々への楽曲提供やリミックスを担当させていただいたり。アンダーグラウンドなシーンにも接続しつつ、メジャーな人たちとも関わっているので。だから、架け橋になれたらいいよねと話しています。メジャーとインディーズ、アンダーグラウンドとオーバーグラウンド、日本と海外というような、その中間で接続する役に僕らはなりたいよね、みたいな。そういう話をWONKだけでなく、僕らがやっているEPISTROPHというレーベルでもそうありたいと話してます。これが今後の目標かもしれないですね。
みなさん自分たちをすごく冷静に客観視しているんですね。
長塚:そうですね、逆にこんな話ばっかりしてるかもしれません(笑)。よくZEPPやStudio Coastといった大きな箱でライブした後に、追加公演をBLUE NOTEでやってみたいよね、なんて話してますね。
WONKのみなさんは各々がWONK以外の活動もされていて、そこでの経験がWONKにフィードバックされたりと、従来の動きや働き方、考え方とは違うと思います。まさにフイナムが標定する“ヒップ”に通じるのかなと。長塚さんがヒップを定義するなら、どんなことを考えますか?
長塚:好きがたくさんあることじゃないですかね。ウチのメンバーはみんな好きなものがたくさんあって、自分の意見をバシバシ言うんです。例えば服が好きな人だったら、こういうデザイナーが作っていて、こういう想いで作って、こういうストーリーがあって作っているからとか、その意志や歴史を着たいっていう人たちがいるじゃないですか。仕事でもプライベートな趣味でも好きをたくさん持っていて、たくさん話せる人。それがその人のスタイルってことになると思うんですが、そういう人たちのことがヒップだと思います。
なるほど。たしかに長塚さんは昔から変わらずクラシックで品のあるスタイルですね。
長塚:本当に好きで着ているだけなんで、あんまり分からないんです(笑)。でも、ルーツを辿ると、実家の部屋にジョニー・デップのポスターが貼ってあるんですけど、彼が若い頃オーバーサイズで肩パッドが入ったスーツを着ていて、それがすごく好きで。あの姿に憧れていた部分があるのかもしれません。そこから紐解いていくと、メンズファッション史の本が実家にあるんですけど(笑)、そういう本も読んでました。だから、クラシックでちょっと男臭いスタイルが好きになったのは、そういう背景からかもしれないですね。
WONKはファッションを見ていると、荒田さんはストリートなスタイルだったりと、先程言っていた“好き”がバラバラなのを感じます。
長塚:そうですね。でも、音楽に関してはコレ良いよね! という感覚が似通っている部分が多くあって。“この曲超カッコ良くない? 分かるわぁ!” みたいな。
バンドとしていい形なのかもしれませんね。邦楽洋楽問わず長塚さんがボーカリストとして嫉妬するアーティストっていますか?
長塚:います。嫉妬というかもう憧れなんですけど、玉置浩二さん。あの人の歌は日本人の中でも突出して素晴らしいと思います。発声だけじゃなく、歌心という部分でも凄過ぎる。あんな風になりたいです。
WONKの音楽性からすると意外ですね。昔から憧れがあったんですか?
長塚:ずっと昔からという訳ではないんですけど。歌を始めてから色々掘っていく内に、世界にはヤバいシンガーなんてたくさんいるけど、日本人では誰だろうと思った時に改めて聴いたら玉置浩二さんマジやばいじゃん! てなりました。ズバ抜けすぎていて、崇拝に近いかもしれない。
一番の魅力というのは?
長塚:表現力ですかね。単純な技術云々はもちろんあるんですけど、歌い方の深みや繊細さを含めた表現力があの人は凄過ぎる。最近の玉置さんも堪んないですが、若い頃の玉置さんも本当にヤバいです。
昔はかっこつけてやっていたところもあるけど、
今は自分たちが一番楽しくありたい。
昔はかっこつけてやっていたところも
あるけど、今は自分たちが
一番楽しくありたい。
7月末にWONK初のコンセプトアルバム『Moon Dance』をリリースしました。その意図というのは?
長塚:厳密に言うと、この作品自体に1個のストーリーがあるという訳ではなくて。来年フルアルバムをリリースしようと思っていて、そっちで1本の作品にしようとしています。全曲通して1つのストーリーになっている様な。その予告編が今作です。
なぜそうしようと?
長塚:1stは普通に出して、2ndは2枚同時に出したんです。じゃあ、次どうしようかってなったときに困ってしまって(笑)
何か仕掛けたい気持ちが常にあるということですね。
長塚:そうですね。じゃあコンセプトアルバムを作ろうってなりました。『Moon Dance』の世界観は、月がひとつテーマになっているんですけど。月を隔てて下の世界と、反転した世界が頭上にある。青い満月が出たときにだけ別の世界が見えるというSFの様な世界観の中で繰り広げられるストーリーになっています。とにかく、フルアルバムをご期待くださいという感じですね。いずれそれが1本の線になって繋がっていくのを楽しみにしていてほしいです。
今回のツアーはかなり大所帯でライブされてますよね?
長塚:メンバー4人に加えてサポートでサックス、トランペット、ギター2人の計8人でまわっています。
そういったアイデアはみんなで持ち寄って決めるのでしょうか?
長塚:音楽面だけでなく、他の動き方に関してもこれやりたいと言い出すのは基本的にリーダーの荒田です。彼が言ったことに対して、僕らが意見して、どうしたらできるかを考えるという感じですね。
今回出演していただく「フイナムとビームスのライブ」は、その名のとおりビームスとタッグを組んでいます。WONKとしても衣装提供を受けたり、ビームスとスペースシャワーTVとの共同プログラム「PLAN B」にも出演されてますね。
長塚:「PLAN B」ではヨーロッパツアーを回っている最中に1曲作って、帰国してすぐビームスの原宿店でライブをするということをやりました。ビームスはファッションを軸にそこにまつわるカルチャーを引っ張っている存在だと思います。「PLAN B」もそうですけど、色々とおもしろい取り組みをされていますよね。
そんな「フイナムとビームスのライブ」、当日はどんなライブになりそうですか?
長塚:まだ編成は分かりませんが、サポートメンバーを入れてのライブになると思います。僕ら4人は前作のリリースツアーよりもかなり進化していて、表現の幅も増えているので、熱いライブができるんじゃないかなと。5組のなかでWONKがダントツでヤバかった! と言われるようにしたいですね。それで、WONKを聴いたことなかった人も帰り道に音源をダウンロードして聴いて帰ってくれる、みたいな。しかも開催場所は学生時代から思い入れのある渋谷だし、会場は個人的にも気になっていた渋谷ストリーム。やってやりますよ!
東京を拠点に活動する4人組バンド「WONK」。メンバーそれぞれがソウル、ジャズ、ヒップホップ、ロックのフィールドで活動するプレイヤー/プロデューサー/エンジニアという異色なバンドであり、堀込泰行、土岐麻子、m-flo、唾奇、IO、呂布、冨田ラボ、King Gnuなど、ジャンルや世代を超えた多くのアーティストへ楽曲提供・リミックス・演奏参加してきた。2016年9月に全国リリースした初のフルアルバム『Sphere』は第9回 CDショップ大賞 ジャズ賞を受賞。その幅広い音楽性は多方面から注目されており、デビューわずかながら2017年に第16回 東京JAZZやSUMMER SONIC 2017、翌2018年にはFUJI ROCK FESTIVAL‘18などへの出演も果たす。さらにその活動は日本のみに留まらず、2017年2月にはヨーロッパ2大都市公演(パリ、ベルリン)を成功、同年12月にはシンガポール公演、翌2018年9月には台湾公演を成功させる。また米Blue Note Recordsを代表するシンガーJosé Jamesの2017年リリースのアルバム『Love in a Time of Madness』のリードトラック「Live Your Fantasy」のリミックスを担当、さらに2018年には米ロサンゼルス出身のソウル・R&BバンドThe Internetの最新アルバム『Hive Mind』収録楽曲「La Di Da」の公式カバーを担当するなど、国外ビッグアーティストとのコラボレーションも果たしており、海外からも多くの注目を集めている。
HOUYHNHNM 15th ANNIVERSARY
HNF ~フイナムのフェス~
「フイナムとビームスのライブ」