
国内屈指のファクトリー<リングヂャケット>。その魅力を今、紐解きます。〜vol.2〜
<Brilla per il gusto>のジャケット、スーツの縫製を手がける<RING JACKET>。業界内でも高い評価を得るファクトリーの魅力、そしてビームスならではのこだわりについて<RING JACKET>の福島氏とクリエイティブディレクター中村、<Brilla per il gusto>バイヤー無藤の3名が語ります。

中村:今回も前回同様マニアックなこだわりに触れていきましょう。
福島:そうですね。まだまだたくさんありますから。
そら豆型の小さなアームホール

福島:それではアームホールについてご説明します。<リングヂャケット>のアームホールは単なる円形ではなく、そら豆型に近い形状を取っています。また、できるだけ円を小さくしてパターンメイクすることも意識して行っています。

福島:まず、そもそもアームホールというのは大きければ動かしやすく、着やすいというものではありません。大きすぎると胴回りの部分まで影響してしまい、腕を上げた際に釣られてしまうんですね。よく吊革に捕まっている方で、ジャケットの胴部分が腕と一緒に吊り上がってシルエットが崩れている方をお見かけすると思います。そうなると胴回りの窮屈感に繋がってしまいますし、まず不恰好です。


福島:そういった理由から、アームホールは小さい方が良いのですが、単純に小さくしてしまうともちろん窮屈。そこで考案されたのがそら豆型です。これはイタリアのサルトでよくパターンメイクされている形なのですが円を楕円に前に振り、小さくしながらも腕の可動域は確保する、といったもの。そうすることで脇にしっかりとフィットし、腕を動かしても釣られることが少なく、綺麗なシルエットを保つことができます。ただ、このそら豆型に仕立てるのにも非常に高度な技術が必要になり、生地のクセ取りや、アイロンワークといった緻密な作業を行なっています。

福島:また、袖を付ける際にはアームホールの形よりも袖側の生地を多く取り、「いせ込み」ながら縫い合わせていきます。いせ込んだ分の生地が腕を動かす際に可動域をより広げてくれるのです。アームホールを小さくできるのもこのおかげですね。
中村:この「いせ込み」も非常に難しい技術ですよね。
福島:はい。難易度が高く、とても生産効率の悪い工程です。ただ、フィッティングに非常に大きく影響してくる部分ですので、ここも一切手は抜かず、厳しく行なっています。
無藤:確かに<リングヂャケット>のジャケットは腕を上げても胴が付いてこないですね。ぐるぐる回しても全く窮屈感がない。
福島:ありがとうございます。それでは次に折角なので、<ブリッラ ペル イル グスト>だけの拘りをご説明します。
無藤:お願いします。
<Brilla per il gusto>のみの拘り①〜手縫いのボタンホールと裏地の仕様〜

福島:まずはボタンホールですね。ここは全て手縫い。ハンドメイドです。機械では出せないステッチワークと立体感が生まれます。正直かなり綺麗に仕上げていますので、分かりづらいかもしれませんが。
中村:洋服屋なら一発で分かりますね。手縫いならではの温もりが伝わってきます。効率を求めて省略する仕立ても多いですが、こういった細かな部分にこそ洋服への拘りが現れると思っています。
福島:ありがとうございます。ちなにみこのチーループもクラシカルなディテールに倣い、付けています。

福島:この裏地においても拘りがあり、できるだけ裏地を少なくして仕立てるようにしています。より軽く羽織っていただく為です。隠れる部分が減りますのでその分誤魔化しが効かず、丁寧な処理が求められます。なのでこの部分も大体が手まつり。これは中村さん直々のご要望でしたよね。

中村:そうですね。イタリアのサルトなどもそうですがジャケットはできるだけ軽く、柔らかくという傾向があり、しなやかな仕立てに見せる為に裏地の面積をできるだけ少なく取っています。手間のかかる部分ですが、拘りたい仕様でしたのでお願いしました。
福島:はい。私も同意見でした。なのでジャケットだけでなく、スーツもできるだけ軽く、細く裏地は付けるようにしています。
<Brilla per il gusto>のみの拘り②〜パンツの縫い代とベルトループ〜

福島:次にパンツの縫い代について。<ブリッラ ペル イル グスト>のスーツに付けるパンツはすべて、後ろ身の余り生地を多く取っています。こうすることでお直しを行う際に出すことのできる幅が大きくなり、選べるサイズの選択肢が圧倒的に広がります。
中村:これは日本で初めてセレクトショップのオリジナルスーツに採用したんじゃないかな。所謂テーラーだけの仕様ですから。手間がものすごくかかるので、お願いすると基本嫌がられます。笑
無藤:そうですね。ただ、この仕様のおかげで「パンツのサイズに悩まされていたお客様が綺麗に穿けるようになった」というお話も多くいただいています。洋服を長く着用するという観点からも大切なことですよね。

福島:それとベルトループ。裏に縫い糸が出ないよう、袋状にして縫い上げています。一度縫ってから裏返してパンツに縫い付けているんですね。こうすることでベルトを通した際に引っ掛かることなく、ベルトループがフラットにも見えるので見た目の良さにも繋がります。
中村:これはイタリアのパンツブランドなんかもしていないような拘りです。見えない部分ですから。分かる人には分かる、ツウな仕様ですね。

無藤:えー、そろそろ時間ですが・・・これは終わりそうにないですね。
中村:そうだね。延々といけそうだね。
福島:帰りの飛行機があるので勘弁してください。笑