
服には身につける人の 精神性が宿る
ビームス メンズドレスのプレス・安武俊宏が“いま気になる人”と語り尽くす対談連載。
第1回のゲストは片岡鶴太郎さん。俳優や芸術家など、多彩な顔で知られ、
お笑いタレントしても長らく活躍してきた“人生の先輩”に、
生き方の美学、洋服への愛を語りつくしてもらいました。
引き算して丁度いいを見つける。 それが自分らしいバランス感覚

片岡 安武さん、久しぶりにお会いするので、今日は絵を持ってきました。暑中お見舞いです。こちら、どうぞ。
安武 ホントですか? 嬉しい。かき氷の絵ですね。めちゃくちゃイイじゃないですか。
片岡 この絵、じつは指で描いてるんですよ。
安武 だからかぁ。柔らかなタッチでとっても好みです。
片岡 洒落た額にでも入れて飾ってみてください。
安武 夏の思い出が増えました。お気遣い、ありがとうございます! 今日は連載1回目のゲストとして、鶴太郎さんと話したいと思い、お声がけさせていただきました。

片岡 安武さんとはもう、出会って5〜6年ぐらい? 当時の僕は、自分で服を選んでコーディネートできるようになりたいと思っていた時期。縁あってビームスに声をかけたら、安武さんを紹介してもらえて。そこからビームスに通うようになり、「こういうコーディネートの仕方もあるんだぁ」といろいろ教えてもらい、今日に至るっていう。いつもありがとう。
安武 こちらこそ、楽しくやらせてもらってます。「太いパンツ、穿いてみます?」「面白いニット、着てみます?」。こんな風に提案すると「いいね!」と、鶴太郎さん、柔軟に受け入れてくださるので。
片岡 歳を重ねるほど、ファッションそのものを楽しめるようになったのは、安武さんのおかげ。なんでもトライしたいと思う性分なんです。楽しみたいから。『オレたちひょうきん族』時代からヒヨコに扮した「ピヨコ隊」だったしね。
安武 勉強になります(笑)。今日改めて聞きたかったのは、鶴太郎さんの生き方の美学についてです。
片岡 なかなかムズかしいテーマですねぇ。

安武 俳優や芸術家、近年はヨーガだったり、表現者として多彩に活躍中なのは承知しています。根っこにある想いは何でしょう?
片岡 ちょっと抽象的に表現すると、バランスかなぁ。ずっとバランス感覚は大切にしたいと思っています。自分を表現者とするなら、生き方、そのすべてに美意識を持っていたい。暮らしもそう。だから食べるものや身の回りのもの、服にもこだわりたい。自分で決めたことをやり抜くのはなかなか大変。でも、やり続けることは大切だと思っていて。
安武 鶴太郎さんと接していると、いつも柔軟で軽やかだなぁと感じます。その一方で、ストイックだなぁとも思っています。
片岡 それはありがとう(笑)
安武 自分らしいバランス感覚って、どんなところに表れていると思いますか?
片岡 引き算することですかね。引き算の美学を大切にしてます。
安武 興味深いです!

片岡 私、画家や書家としても活動させて頂いておりますが、例えば日本画を描く時は墨だけで濃淡を付ける、『たらしこみ』という技法を使うのですが、極力無駄な手を省く様に心がけており、いかに手を少なくするか。絵を描ける様になると足算したくなりがちなのですが、完成をイメージしながら60%、70%で抑えます。
安武 服のコーディネートにも通じる気がします。
片岡 全体のバランスを見ながら引き算する。この気持ちは暮らし全般で大切にしています。食事もそう。僕の場合、5年ぐらい前から食事は朝一食。健康にもいいし、ヨーガ実践者なのでこのぐらいがちょうどいい。腹7分目という感覚を持っておくと、筆を置くタイミングもわかるし、すべてのベースになる。
安武 わかる気がします。僕は洋服の人間なので、今日もコーディネートを考えているとき、首にスカーフを巻くので足もとはすっきりさせようと思い、素足でローファーを履き、色数も絞っています。腹7分目……言語化してもらうと確かになぁと思います。
片岡 安武さんから学んだ洋服のコーディネートも、引き算するように心がけていますよ。
選ぶ服の半分はレディース。 自分らしさってナンだ?

安武 もう少し、洋服の話を掘り下げてもいいですか?
片岡 もちろんです。
安武 バランス感覚って歳を重ねる中で変わってきたと思いますか?
片岡 変わってきましたね。若い頃はスタイリストさんに「色をいっぱい使いたい」「色合わせを面白くやってくれない?」とお願いし、それはそれで面白かったけれど、いまこの年齢でやったらうるさい。冒険はしつつも、全体のバランスを大切にしています。絵を描くようになり、色そのものに対して、自分の色ができてきたんじゃないかな。65歳にしてやっと。
安武 素晴らしいと思います!
片岡 さらに話すと、ご存じのように僕はいま、身長と体重に合わせてレディースの服をメインに着ている。今日のコーディネートもすべてレディース。ハイブランドの古着がメインです。

安武 わぁ、どこのブランドの服ですか?
片岡 ジャケットは<VERSACE(ヴェルサーチ)>、セーターは<Jean-Paul GAULTIER(ジャン=ポール・ゴルチエ)>、パンツは80年代の<HERMES(エルメス)>です。体を絞っているのでメンズのXSでもサイズが合わないっていうのもあるけど、当時の服はデザインや色が豊かで、改めていま、面白いなぁと思っていて。「レディースでも似合う服、たくさんあると思いますよ」って提案してくれましたよね?
安武 ひと頃、ビームスの服でも半分ぐらいレディースを選んでくれました。
片岡 ” 別の世界”に引き込んでもらった。パレットにいろんな色を持っている。安武さんの良さはここに尽きると思うなぁ。
安武 ありがとうございます(笑)。役者として洋服を着るとき、心がけていることはありますか?
片岡 自分の我を通さない。この気持ちを大切にしているかな。作品は僕ひとりのものではないので、監督やお衣装さんと話し、役に合う衣装を選んでもらってます。例えば、刑事役のとき。「奥さんならどんな服を選ぶ?」と聞き、「じゃあ、これにしましょう」と選んでもらいます。
安武 役になりきるわけですね。ドラマや映画で鶴太郎さんが着てる衣装、不思議と着せられてる感がない気がしてました。

片岡 それはありがとう。お衣装さんの力です。刑事役の時は刑事の格好のまま家に帰り、朝起きたらその格好でまた現場に行きます。役者の仕事をしてる時は私服を着るっていうモードはないかな。
安武 役に入り込むわけですね。
片岡 私服を挟むと、スイッチが淀むような気がしてるのかもしれない。服って単に着るものではなく、身につけると精神性が宿ると思うので、その気持ちに包まれていたくて。ドラマの時はそういたいんでしょうね。役を離れても同じような感覚なので、洋服は僕にとってとても大切なものです。
安武 鶴太郎さん、ホントに服が好きなんだと思います!
片岡 どうかな、でもそうありたいなぁとは思ってますね。
安武 最後に聞かせてください。いま、これからチャレンジしたい服はありますか?
片岡 気になってるのは民族衣装。(ケータイを見せながら)モンゴルの衣装とか、アフリカの衣装とか。見てください。みんな、ものすごく眼がイキイキしてると思いませんか?こんな着こなしができる60代、70代になれたらなぁと思ってますね。いろんなファッションを楽しみたい!
安武 まだ若造ですが、僕も頑張ります。
片岡 そうそう、最後にいいですか? いま、雑誌のモデルをやりたいと思っていて。僕みたいな背が低くてブサイクな男でも大人な服が着れますよ……と提案してみたい。若い頃、一度、<MARITHE + FRANCOIS GIRBAUD(マリテ+フランソワ・ジルボー)>のパリコレのランウェイに立ったことがあるので、自信はありますよ(笑)
安武 ……ん? その話、聞かせてください!
Profile
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片岡 鶴太郎 Tsurutaro Kataoka
片岡 鶴太郎 Tsurutaro Kataoka
1972年、片岡鶴八師匠に弟子入り。
以降、バラエティ番組を足掛かりに人気者となる。
芸人にとどまらず、幅広いキャラクターを演じる役者として、そして画家、書家、プロボクサー、ヨーギー、ヨガインストラクターと幅広く多方面で活躍中。「片岡鶴太郎展 顔 ~faces~」
日程:8月29日(土)~10月25日(日)
会場:広島県三次市 奥田元宋・小由女美術館第3回 片岡鶴太郎の『鶴やしき』
『冬だ!師走だ!しわ坊主!』
日程:2020年12月12日(土)開催予定
会場:浅草 花劇場