毎年クリスマスシーズンに、現代アートの作品をモティーフにしたキャンペーンを企画してきたプロジェクト〈BEAMING ARTS〉。"アートに触れるきっかけをBEAMSからのプレゼントに"がテーマのこのプロジェクトの3年目となる今年は、本物と見まごう木彫りの植物のインスタレーションで知られる須田悦弘氏に参加いただきます。プロジェクトのために選ばれた作品は、一輪の赤い「チューリップ」。これがショッピングバッグやショーウインドウなどさまざまにかたちを変えて、年末のこの季節を彩ります。須田氏と、昨年の参加アーティストで写真家の津田直氏を交えて、このプロジェクトについて思うこと、アートに対する2人の想いなどを語り合っていただきました。

- BEAMS
- クリスマスだけどモミノキでもヒイラギでもない、赤いチューリップ。須田さんの作品を使った今回のショッピングバッグを真冬に見たらちょっとした違和感があるでしょうね。そういう違和感がアートへの入り口になるといいなと思っているんです。
- 須田悦弘(以下須田)
- 現代美術の魅力のひとつって、まさしくその違和感、「何だこりゃ?」ってところにあると思うんです。
- 津田直(以下津田)
- 「ここを目指しましょう」っていう感じは現代美術とは違いますからね。いったん枠の外に出て、ギリギリの場所でやっているというか。
- 須田
- いわゆるアーティストって、ちょっと枠からはみ出たところにいるんだけど、そうは言っても社会にいる限り枠の中にもコミットしていかないといけない。そのアプローチの仕方として、自分たちは現代美術という方法をとっているんでしょうね。

- BEAMS
- ショッピングバッグを作成する中で面白かったのは、印刷したものと作品を見比べたとき。印刷だけを見ているときは「これはすごく実物に近い色」と、須田さんやADの方も含め皆で言っていたのだけど、実際に比べてみると全然違っていて。
- 須田
- いわゆるイメージとして頭の中に入っているものと、本物との間には必ずギャップがある。それって面白いですよね。
- BEAMS
- それで結局、今回はその印象を優先してバッグに落とし込んでいきました。
- 津田
- 僕にも似た経験がありますね。写真集を印刷するとき、一応印画紙にプリントした元原稿を全部持っていくんですけど、結局、その元原稿は途中からカバンにしまっちゃって見ないんですよね。そうしたら印刷所の人に面白かった、って言われて。そういうことをする写真家はあまりいない、と。どうしても元原稿に近づけようと粘るみたいです。でも僕は、そこで一致させるより、その写真集としてゼロからつくることが大切かな、と思っていて。元原稿を見ないから、元の色からはずれてしまうわけでは決してない。つまりその形態としてオリジナルになっているかが大事だと思うんです。そうすると、つくる側は形態が変わっても伝えるべきものは何なのか、っていうのを考えることになる。重要なのはそこかもしれませんね。
- 須田
- このショッピングバッグも、写真を経て印刷物となっているわけですが、印刷物でしか出せない価値みたいなものがあると僕も思います。美術をやっている人の中には、BEAMSというファッション企業のショッピングバッグに自分のイメージが使われることを躊躇する人がいるかもしれない。でも自分は、むしろ形になったものを見てみたい、っていう欲求のようなものが強くあるんですよね。単純に見たい! と。

- 津田
- 元の作品からは形態が変わっても、変わらない強度って絶対にありますよね。というか、作家としてはそういう強度のある作品をつくらないといけないと思う。紙には紙の決め所があるように、木彫には木彫の決め所があって、写真には写真の決め所がある。結局のところそれは、芯を打ち抜いているかどうかだという気がします。それがあれば、ぶれないというか。その芯みたいなものは、作家の思いなのかあるいは何か別の物なのか、常に意識的である必要はないけれど。
- 須田
- それが何かははっきりとは言えないけれど、例えば自分が「木を彫りたい」「植物をモチーフにしたい」とか、20歳そこそこで思い立ったのって、運みたいなもので……。経験も知識もなくて、選択肢はほかにもいくつかあったのにたまたまこれを選んで、しかもそれが少なくとも10年以上も持つ強度があったのは、けっこう偶然かなあという気がしなくもないんですよね。
- 津田
- 確かに一番最初に写真家として「このカメラだ!」と選んだ、そのことが写真家を強くしている感じはありますね。それが合わなければやめてしまっていたかもしれないし。
- 須田
- 何かすごい不思議な感じですね。今思い返すとなぜこれを選んだのか、よく分からない。
- 津田
- でも須田さんも僕も、若さに押されたところはあるんでしょうね。何の確信もないけれど、自分で飛び込んだ。で、その飛び込みの勢いだけはすごくよかった。昔と今では色々と状況が違うけど、今の若い人たちにも、勢いだけはいい方がいい、って言いたいですね。勢いがよければもしかしたらその勢いが持って、体力やオリジナリティを生むかもしれないから。

- 須田
- 「勢い」、それと「好き」っていうのがすごく大事だと思います。何をするにせよ、結局は好きかどうか、というところに行き着く。だから、飛び込むときに、本当に好きかどうかというところだけは、よく見てみる必要があると思います。
- 津田
- 情報にあふれて、選択肢もものすごいたくさんある現代にあっても、それだけを見ていた方がいい。若い時期が過ぎると「好き」だけでは越えられなくなる時が来るから。その時にそれだけを見てきたことの自信や経験が生きてくる。ひとつのことを見ていると、他が見えなくなる恐怖感は、作家は皆持ってるはずですよ。
- 須田
- ガマン大会(笑)。現代美術はまだまだマイナーなので、BEAMSのように、いわば"メジャー"な立ち位置の人たちが、「こういうのがありますよ」って紹介してくれるのは、すごく力強いことですね。最初に話をいただいたときは「え、なんで俺?」って思ったんだけど、1回目が名和(晃平)くん、2回目が津田くんだと聞いて、実際のショッピングバッグも見せてもらってなるほど、と納得できたんですよね。
- 津田
- 僕も前の回の名和さんのショッピングバッグを見てすごく説得されましたね。ああ、美術を美術として扱おうとしているんだ、と思えた。このプロジェクトのために作品をつくるのではなくて、既存の作品を使うことがルールだから、きちんと作家の顔が見えるし、作家がやろうとしていることも分かる。

- BEAMS
- その作品にBEAMSというロゴが入ることで、すごく違和感が出て、だからこそ目立つ。アートとファッションの融合というよりは共存。コントラストを感じながら刺激し合うからこそカルチャーになるんだと思います。
- 津田
- 須田さんのバッグは、これを飾る人が出てきそうですね。それこそお花のように。ショッピングバッグの領域を越えて「花」。
- 須田
- 正直、ちょっと想像がつかないですね。本当に自分がやっていることの範疇外だから。
- 津田
- 自分が普通に暮らしている街で、このショッピングバッグを持った女の子を目にする、そういうことが実際に起きましたからね。
- 須田
- 普通ありえない!
- 津田
- 展覧会のチラシを持っているのを目にしたら、作品を知っててギャラリーに行ってくれたんだな、という嬉しさだけど、ショッピングバッグは、たぶん、何も知らずに持ってくれている。アートが日常の中にあるってこういうことか! と。
- 須田
- すごく理想的な風景ですね。
- 津田
- 実際にキャンペーンが始まってから、僕は新鮮な驚きをたくさん体験しました。きっと須田さんも色々なことを感じられるでしょうね。
- 須田
- そういう意味でもまだまだ想像ができない……。楽しみですね。
構成: 阿久根 佐和子

須田悦弘 YOSHIHIRO SUDA
美術家
1969年山梨県生まれ。1992年多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。
植物を木で彫り、彩色を施し、それが置かれた空間を作品とするインスタレーションを展開。
主な個展
- 1993年
- 「銀座雑草論」銀座パーキングメーター/東京
- 1997年
- 「間」ギャラリー小柳/東京
- 1999年
- 「ハラドキュメンツ6:須田悦弘 泰山木」原美術館/東京
「One Hundred Encounters」Galerie Wohnmaschine/ベルリン - 2003年
- 「Focus: Yoshihiro Suda」The Art Institute of Chicago/シカゴ
- 2006年
- 「須田悦弘展」丸亀猪熊弦一郎現代美術館/香川
- 2012年
- 「須田悦弘展」千葉市美術館/千葉
- 2013年
- 「Suda Yoshihiro」FAGGIONATO/ロンドン
主なグループ展
- 1998年
- 「台北ビエンナーレ」台北市立美術館/台北
- 2000年
- 「The Greenhouse Effect」サーペンタイン・ギャラリー/ロンドン
- 2001年
- 「ARS 01」キアスマ現代美術館/ヘルシンキ
- 2004年
- 「21世紀の出会い:共鳴、ここ・から」金沢21世紀美術館/石川
- 2005年
- 「Flower as Image」ルイジアナ近代美術館/コペンハーゲン
- 2012年
- 「庭をめぐれば」ヴァンジ彫刻庭園美術館/静岡
「第18回シドニー・ビエンナーレ」シドニー - 2014年
- 「第1回カルタヘナ・ビエンナーレ」カルタヘナ
常設展示
原美術館(東京)
ベネッセアートサイト 直島(香川)
国立国際美術館(大阪)
NEUES MUSEUM(NURABURG)
作品の問い合わせ先
- Photo :
Atsushi NAKAMICHI
津田 直 Nao Tsuda
http://www.tsudanao.com/
BEAMING ARTS×写真家 津田直(BEAMS and More)
1976年、神戸生まれ。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている写真家。2001年より国内外で多数の展覧会を中心に活動。主のなシリーズに、「近づく」(2001−2004)、「漕」(2005−2009)、「SMOKE LINE」(2008)、「果てのレラ」(2009)、「Storm Last Night」(2010)、「REBORN」(2010−)、「Earth Rain House」(2012)がある。自然を捉える視線のユニークさと写真と時間の関係という古くて新しいテーマへの真撃な取り組みで、21世紀の新たな風景表現の潮流を切り開く新進の写真作家として注目されている。2010年、芸術選奨新人賞美術部門受賞。2013年より大阪芸術大学客員准教授、大阪経済大学客員教授を務める。作品集に「漕」(主水書房)、「SMOKE LINE」( 赤々舎)、「近づく」(AKAAKA+hiromiyoshii)、「Storm Last Night」(赤々舎)、「SAMELAND」(limArt)等がある。
主な個展
- 2005年
- 「漕ぎだし」(主水書房/大阪)
- 2006年
- 「niwa『knot』」(hiromiyoshii/東京)
「眠りの先−夜をひきつれて」(Gallery Kai/東京) - 2008年
- 「漕」(ジョン・コネリープレゼンツ/ニューヨーク)
「狭間の旅人」(graf media gm/大阪)
「SMOKE LINE−風の河を辿って」(資生堂ギャラリー/東京)
「SMOKE FACE」(NADiff a/p/a/r/t/東京)
「漕」(hiromiyoshii/東京) - 2009年
- 「果てのレラ」(一宮市三岸節子記念美術館/愛知)
- 2012年
- 「REBORN “Tulkus’ Mountain(Scene 1)”」 Taka Ishii Gallery Kyoto/京都
「Storm Last Night / Earth Rain House」 CANON GALLERY S/東京 - 2013年
- 「NORTHERN FOREST」 T.O.D.A./栃木
- 2014年
- 「SAMELAND」 POST/東京
「On the Mountain Path」 Gallery 916/東京
「REBORN (Scene 2) ― Platinum Print Series」 Taka Ishii Gallery Modern/東京
主なグループ展
- 2005年
- 「現代写真の母型2005サイトグラフィックス[風景写真の変貌]展」(川崎市市民ミュージアム/神奈川)
「Vision on the move vol.2」(graf media gm/大阪) - 2006年
- 「ドキュメント福島|日本の視点、福島との対話」(福島県立美術館/福島)
- 2007年
- 「BIWAKOビエンナーレ2007」(尾賀商店/滋賀)
- 2008年
- 「Paris Photo」(カルーセル・ド・ルーブル/パリ)
- 2009年
- 「もうひとつの森へ」(メルシャン軽井沢美術館/長野)
- 2010年
- 「Keisuke Maeda and Nao Tsuda」(L.A.Galerie/フランクフルト)
- 2012年
- 「東北 -風土・人・くらし」 中華世紀壇世界芸術館/中国・北京、パース市役所庁舎/オーストラリア・パースなど
「現代美術の展望 -新しい平面の作家たち VOCA展2012」 上野の森美術館/東京
「華雪/津田直『それはかならずしも遠方とはかぎらない』」 hiromiyoshii roppongi/東京
「Gelatin Silver Session 2012 - Save The Film -」 AXIS Gallery/東京 - 2013年
- 「Gelatin Silver Session 2013 - Save The Film -」 AXIS Gallery/東京
「東北 -風土・人・くらし」 フィリピン国立博物館/マニラ、シアトル・センター・パビリオン/シアトル、タジキスタン国立図書館/ドゥシャンベ、クロアチア科学芸術アカデミー、グリプトテカ美術館/ザグレブなど - 2014年
- 「東北 -風土・人・くらし」 ラドビラス・パレス美術館/ビリニュス、ローザ・パークス博物館/モンゴメリ、福島県立博物館/福島など