文・飯塚さき
日本で一番夏の太陽が近い町、名古屋(個人の見解です)。令和7年の大相撲名古屋場所は、なんと平幕の琴勝峰関が優勝し、幕を閉じました。名古屋場所は今年から、新しい会場「IGアリーナ」に移ったのをご存知でしょうか。主にアジア大会に向けて建てられた建物ですが、奇しくもこの名古屋場所がこけら落としとなったのです。
そんなIGアリーナに、筆者は場所前から入って徹底視察してまいりました。力士たちの実際の声を交えながら、その魅力をお届けします。さらに、この日曜から始まる9月場所の会場、相撲の聖地「両国国技館」とも比較してみます。
IGアリーナ
真新しく広い会場
公共交通機関でのアクセスは抜群。地下鉄名城線・名城公園駅の地上出口に出ると、真新しいIGアリーナがどどーんと出迎えてくれます。栄駅からバスに乗っても、アリーナの目の前で降ろしてもらえました。緑豊かな名城公園にそびえる前衛的な外観のコントラストが美しく、夏の太陽がそのシルエットをきれいに照らします。
館内はというと…とにかく広い!あまり歩くのが得意でない、体の大きな親方衆は「広すぎて1周なんてしようとも思わないよ」と諦めモードの人が続出しました(笑)。升席は従来のものより3割ほど拡張されて、4人でもゆったりくつろげる広さ。通路やコンコースも広く、混雑時もスムーズに歩けて快適でした。
関係者が通る場所も特別にご紹介。一般入場口は2階ですが、力士ら関係者が出入りする「裏木戸」は1階にあります。お客さんと関係者の動線がはっきりと分かれていて、花道以外はバッティングしない造り。気を使わずに移動できてよかったと、協会員は言います。
力士たちのロッカールームである「支度部屋」は、冷房はしっかり完備されていますが、東西で2つずつに分かれて少し手狭な印象(普通は東西一つずつ)。また、革靴で歩く一部の親方衆からは「床が滑ってアップがしにくそう」という懸念の声もありました。実際はどうだったのでしょう。
IGアリーナの感想
~玉鷲関の話~
力士たちは、新会場の動線や支度部屋の位置などを確認するため、場所前に館内の見学をしました。現役最年長関取の40歳、この名古屋は11勝4敗の好成績で敢闘賞を受賞し、史上最年長三賞の記録をたたき出した玉鷲関が、そのときの写真を送ってくれました。
いつもどんなときも前向きで明るい玉鷲関。新会場について聞くと「すごくよかった! 広いし、涼しいし、何よりトイレがきれいでありがたかったね」とニコニコ。支度部屋の狭さ、床の滑り具合についても尋ねてみると…。
「アップはみんなが順番にするから、狭さはそこまで気にならなかったよ。でも、床は確かに滑った! 最初は慣れなくて滑ったけど、その後土俵で滑るよりいいでしょ(笑)? 逆に、足の裏をしっかり意識してすり足ができて、よかったと思います」
さすが鉄人・玉鷲関!どんな環境にも適応して、しっかり結果につなげました。11月で41歳。この歳で現役力士であるだけでなく、幕内の最前線で活躍されている所以を垣間見た気がしますね。ほかのお相撲さんたちが、口をそろえて「玉鷲関だけは化け物」と言うのも頷けます。この調子で、これからもまだまだ土俵で暴れてくれることでしょう。以上、玉鷲関と飯塚さきによるIGアリーナリポートでした。
相撲のために作られた
両国国技館
一方、1月、5月、9月の年に3回本場所が行われる両国国技館は、日本で唯一、大相撲のためだけに建てられた建物です。真新しいIGアリーナとは打って変わって、1500年の相撲の歴史と風情を感じられるのが、国技館最大の魅力といえます(建物自体は築40年ほど)。
正面玄関を入れば、日本で最初に相撲を取ったとされる野見宿禰(のみのすくね) と当麻蹴速(たいまのけはや)の大きな絵画がお出迎え。広いホールの突き当たりには、優勝賜盃が飾られるショーケースがあり、昔からのフォトスポットになっています。
お弁当やかわいい相撲グッズが並ぶにぎやかな売店を横目に、いざ土俵を臨めば、荘厳な雰囲気があなたを包みます。目で、耳で、鼻で感じる大相撲。やはり国技館は大相撲の聖地です。
国技館内観。荘厳な雰囲気は唯一無二。
これから始まる9月場所は、東京で行われる今年最後の本場所。前回優勝者の琴勝峰関を含めた新進気鋭の若手だけでなく、豊昇龍・大の里の両横綱を筆頭に、大関・琴櫻、そして実力者揃いの上位陣が黙っていません。IGアリーナでの初の本場所も盛り上がりましたが、相撲の聖地・国技館で行われる9月場所も、ぜひチェックしてみてください。
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飯塚さき
SAKI IIZUKA
1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。『相撲』(同社)、Yahoo!ニュース、『Number』(文藝春秋)などで執筆中。新刊に『おすもうさん直伝!かんたん家ちゃんこ』。ほか著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。2024年TBS『マツコの知らない世界新春SP』に貴景勝ら力士と共に出演。両国国技館では、館内のインバウンド向け英語ガイドを担当。2025年ニッポン放送『飯塚さきの いま大相撲がおもしろい!』でラジオパーソナリティーデビュー。