これまで“タイム”や“成果”が主役だったランニングの世界に、ちょっとだけ違う風が吹きはじめている。走ることを、自分を表現するひとつの手段として楽しむ人たちが増え、コミュニティという文化が育ちつつある。そんな変化の真ん中を走り続けている3人に話を聞いてみた。彼らの言葉から、いまのランニングカルチャーをのぞいてみよう。Vol.1は『080TOKYO』を動かす森橋完介さんです。
-
森橋完介
Kansuke Morihashi
1993年生まれ。大東文化大学出身で、箱根駅伝では“花の二区”を経験。卒業後は実業団に所属し、選手として活動しながら、国内外のランナーが集うコミュニティ『080TOKYO』に参加。引退後は同コミュニティのオーガナイザーを務める他、〈NIKE〉のランニングコーチとしても活躍している。
走ることは、ただの運動じゃない。
自分を表すひとつの方法。
-
― 『080TOKYO』に参加したきっかけは。
走り始めたのは小学生のころ。中学では顧問の先生に「大器晩成型だから、大学まで目指した方がいい」と背中を押されて、大東文化大学へ進学しました。そこで箱根駅伝に2度出場し、2区と8区を経験。そのまま実業団の道に進んで、海外のレースを中心に活動していました。
実業団での仕事を通じて出会った『080TOKYO』のファウンダーに「プロの僕が、楽しそうにファンランしてる姿が、ランニングのカルチャーを変えられる」と言われたのが最初でした。実業団のハードな練習を終えて、本来は休まなくてはならない時間(夜)にコミュニティで走っていたので、まわりからは“変わってるな”と思われていたはずです。でも、みんなと走っていると心が軽くなるし、身体も自然とほぐれていく。競技にのめり込みすぎて視野が狭くなっていた僕にとって、コミュニティで走る時間が大きなプラスだったんです。
東京マラソンに出たときも、沿道からたくさんの仲間が声をかけてくれて、力になりました。コミュニティの存在を強く感じた瞬間でした。
-
― コミュニティの活動について教えてください。
『080TOKYO』のウィークリーランは毎週月曜日。ブラザーフッド的に自然とクルーが集まってきて、多い日は100人近くになることもあります。新しく来てくれる人も毎回10〜30人ほどで、その8割が海外の方。東京に住んでいる人もいれば、旅行の滞在中に参加してくれる人もいて、本当にボーダーレスなんです。
いま世界では“クルー間交流”が主流になりつつあって、僕も海外へ行くときはその国のコミュニティに連絡して一緒に走ったりしています。特に韓国とは距離が近くて、運営のやり方も参考にしている部分が多いですね。
仲の良いランニングコミュニティに『norules running』というところがあって、彼らの活動は“No Rules Tuesday”と呼ばれているんです。そこでまず真似したのは、「活動する曜日を固定する」こと。例えば毎週月曜と決めておけば、海外から来る人も予定を合わせやすい。実際に僕が韓国へ行くときも、「今日はこのクルーが走ってる日だ」と思って連絡して合流する感じです。
11月末の上海・「RUNHAI」の会場で。韓国の『norules running』のみんなと!
-
― 韓国と日本のランニングコミュニティ、どこが違うと思いますか。
韓国は “つながり”をすごく大事にしていて、コミュニティの一員であることに自分のアイデンティティを感じている人が多い。日本のランニングシーンは、どうしても競技性がベース。「サブスリー」とか「サブフォー」みたいな言葉があるように結果を追う意識が強い。でも最近は、記録よりも“つながり”を楽しむほうへと、価値観が少しずつ近づいてきている気がしています。
韓国ではスポーツメーカーがコミュニティとコラボレーションすることでシューズやウェアを出したりして、韓国のランニングカルチャーが一気に加速した感覚がありますね。“コミュニティに属すること”自体の価値がどんどん上がっているんです。
-
― 今後、コミュニティとして考えていることは?
オーガナイザーとして、これからもクルーを続けていくために、若い世代との接点を増やしていきたい。でも日本の若い子たちは、とにかく忙しくて、仕事後の時間をコミュニティに使う余裕がないんですよね。自分の健康やメンタルのケアに向き合う時間すらもない。そう考えると、日本のランニングカルチャーがなかなか一気に広がらない理由のひとつなのかもしれません。
だからこそ、ランニングコミュニティが、“セルフケア”や“ウェルネス”のプラットフォームのような存在になればいいなと思うんです。健康のため、心のため、自分のために走る。そんな場所として広がっていったら嬉しいですね。
僕にとって走ることは、いまでは完全に“つながり”です。タイムとか記録への興味は一切なくなりました。誰かとつながり、新しい出会いが生まれていくことが、僕にとってのランニングそのものになっています。
海外でも、日本でも、スタイルは本当に自由で。たとえばボロボロの古着のバンドTシャツで走る人もいれば、普段履きのスニーカーで走る人もいる。本当にいろんな人がいるんです。競技性が薄くなりつつあるので、走ることがそのまま“自己表現”になっている気がします。お気に入りの音楽を共有したりして、ランニングがライフスタイルの延長線にある。そんな時代になってきたなと感じます。
Photo:Kanta Nakamura
Edit&Text:MANUSKRIPT