文・飯塚さき
明けましておめでとうございます。両国国技館で行われる新年の初場所は、毎年縁起の良い“初物”として、どの場所にも増してチケットの争奪戦が繰り広げられます。昨年九州場所では、ウクライナ出身の安青錦が初優勝。新進気鋭の21歳は、その後大関に昇進しました。新大関として土俵に上がる安青錦の活躍にも注目が集まっています。
次の巡業地へ移動するバスへ乗り込む安青錦
ところで、力士たちは普段どのように場所へ“通勤”しているのか、ご存じですか。東京での本場所に加え、大阪・名古屋・福岡での地方場所、さらには年4回の地方巡業と、何かと移動の多い力士たち。先月発売となった新刊『どすこい!相撲と乗り物』(交通新聞社)を執筆した筆者が、彼らの移動事情を紹介します。
角界は番付社会!
移動待遇も地位で変化
現在、関東近郊に45ある相撲部屋。力士たちは皆、必ずどこかの部屋に所属しています。給料がもらえる十両以上の関取になれば、結婚して所帯をもったり、一人暮らしをしたりすることが許されますが、それ以外は皆、各相撲部屋で生活しています。よって、1月・5月・9月の年3回行われる両国国技館での本場所は、基本的に皆さん部屋から通うことになるのです。国技館から最も近い中村部屋は、なんと徒歩3分の好立地! 一方、最も遠い二所ノ関部屋は、茨城県稲敷郡阿見町にあり、電車を乗り継いで1時間半以上かかります。
何事にも番付がものを言わす角界。移動手段も、番付によって異なります。まだ関取ではない、幕下以下の若い衆は、基本的には電車やバスなどの公共交通機関を利用して国技館までやってきます。国技館から部屋が近い人は、徒歩通勤の場合も。ただし、本場所中は自転車での行き来は禁止されています。
関取に上がると、送迎車やタクシーでの通勤が認められます。実は角界のルールで、現役力士は車の運転ができません。そのため、自分で運転するのではなく、必ず誰かに送ってもらうのです。JR両国駅前のロータリーか、関係者通用口の南門の前で降ろしてもらい、そこから歩いて支度部屋まで向かいます。国技館内西側の通路に立っていると、こうした力士たちの“入り待ち・出待ち”ができるので、通なファンの方でいつも賑わっています。
さらに、横綱・大関になると、送迎車で国技館の地下駐車場に直接乗り入れて場所入りするようになります。地下駐車場を利用できるのは、理事などの偉い親方衆と、朝の早い審判部の親方衆、そして横綱・大関のみ。よって、横綱・大関の場所入りを見ることはできません。今場所から、安青錦の姿を見ることもできなくなるのです。悲しくてうれしい。
地方場所、地方巡業への移動
3月は大阪場所、7月は名古屋場所、11月は福岡での九州場所と、年に3回ある地方場所。地方では、各部屋が神社やお寺、温泉施設、民間企業の工場などを借りて、宿舎を構えます。大阪と名古屋へは新幹線、福岡へは飛行機で移動。これも番付によるルールがあります。新幹線は、十両以上の関取衆がグリーン車、幕下以下の若い衆は指定席の普通車。飛行機になると、横綱・大関だけがプレミアムシートで、三役以下の多くの力士たちはエコノミーシートを利用します。力士たちは体が大きいので、3席を2人で使ったり、飛行機では延長ベルトをお願いしたりと、工夫して乗っています。
一方、1日ごとに地方を転々と回る地方巡業の際には、6台の大型バスが活躍。幕内力士とその付け人、巡業担当の親方衆、そして行司や呼出し、床山といった裏方さんたちおよそ200人での大移動になるので、貸切バスが便利なのです。次の巡業地へ向かう出発直前のバスの中に、筆者がちょこっとお邪魔すると、ほかの部屋の力士同士も和気あいあいとおしゃべりをして、楽しい雰囲気。いざバスが出発すれば、スマホを見たり音楽を聴いたり眠ってしまったりと、ひとりの時間を過ごすことが多いようです。
バスに乗り込む髙安。2026年の活躍も期待!
これ以外にも、「遊園地の乗り物は乗れるの?」「ロンドン公演への飛行機は大丈夫だったの?」といった素朴な疑問にお答えするほか、アマチュア相撲の選手たちの移動事情、現役力士・親方衆が語る乗り物の思い出コラムなど、相撲界と乗り物の関係をぎゅっと詰め込んだのが、拙著『どすこい!相撲と乗り物』です。ぜひ書店やオンラインでチェックしてみてください。
初場所のチケットを逃してしまったそこのあなたも、めげずに両国駅へ降り立てば、次々と国技館へ“出勤”してくる力士たちの姿を、目の前で拝めるチャンスがあるかもしれません。その際は、誰がどうやって国技館までやってきたかに注目すると、またひとつ新しい楽しみを味わえることでしょう。