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開幕! 秋の妄想甲子園

Let,s Get Paranod

2020.10.01

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春夏の借りは秋で返す!

開幕! 秋の妄想甲子園

新型コロナウィルスの影響を受け、春のセンバツ、そして夏の甲子園が中止になるという異例の事態に見舞われた高校野球。甲子園を夢見てきた多くの高校球児はもちろん、汗と涙と感動のドラマを楽しみにしていた高校野球ファンも寂しい思いをしたはず。そこで今回、芸能界でも屈指の「超」高校野球観戦フリークとして知られるいけだてつやさんとともに、「もし今年、夏の甲子園が開催されていたら…」というテーマのもと、あったであろう夏の甲子園を勝手に妄想してみた。 観たかった試合や注目の選手、さらにブラバンやユニフォームの話など、秋の妄想甲子園の開幕です!

Profile
  • いけだてつや

    TETSUYA IKEDA

    1982年熊本県生まれ。スクールJCA10期生。春夏の甲子園はもちろん、地方予選や秋季大会、はては地方高校の練習試合まで観戦に行くほどの「超」高校野球観戦フリーク。甲子園開催期間中は入場券売り場前で毎日野宿をして席を確保するなど、体を張った観戦と独自取材で培った高校野球ものまねやエピソードネタなども豊富。YouTube【いけだてつやチャンネル】にて配信中。

ほんとに寂しい思いをしました(泣)。

今年はコロナ禍の影響で春のセンバツも夏の甲子園もなくなって、僕ら高校野球ファンからすればほんとに喪失感が大きかったですね。僕は、地方大会も含めて年間160試合ほど球場観戦しているんですけど、それ以外にも練習を観に行くのも好きで、行くと「おっ、あいつレギュラー入ってるじゃん!」みたいなことがあって、そういう成長ドラマが面白いんです。へたしたら選手の親御さんよりも観ていたりするから、そうなるとどんどん情が移るというか、もう勝手に父性が芽生えてる感じなんですよ(笑)。

 

今回は各地方で代替の大会は行われたとはいえ、無観客試合だったから、観に行くこともできなくてほんとに寂しい思いをしました(泣)。僕の知り合いに年間300試合は観ているという猛者がいて、その人がずっと応援している学校があったんですけど、3年生にとって最後の大会が行われることになって、でもやっぱりそこには保護者しか入れないわけです。そうしたら、選手の親御さんでシングルマザーの方から「せっかく1年生のときから応援してくださって、最後の大会を観られないのが申し訳ないんで、2ヶ月だけ籍入れましょうか」っていう話をされたみたいです(笑)。

 

それぐらい高校野球が好きというか、練習や試合を観に行ったりしていると、自然と選手の親御さんや監督さんとも繋がりができますし、各地に僕みたいな高校野球好きのおじさんがいて、「あの子は誰ですか?」と聞くと、「○○ボーイズ出身で、今△△高校にいる××と一緒だった□□だよ」とか細かいことを教えてくれるんです。そういう話を聞くのもまた楽しいんですよね。

優勝はやっぱり履正社かな。

だから、今年はチーム状況があまり把握できてない年なんです。ただ、その中でもやっぱり優勝候補かなと思ったのは、履正社(大阪)ですね。去年の夏の甲子園で全国制覇しているんですけど、この前たまたま試合を観ることができて、そのときの印象だと去年よりも強いなって。たしか3人くらいプロ志望を出しているのかな。それぐらいいい選手が揃っていて、特に投手陣の充実ぶりがすごいんです。

 

高橋佑汰くんっていうピッチャーがいて、彼は試合に出ながらチームの雑務をこなすプレーイングマネジャーという役割で、ベンチにもギリギリ入れるかどうかって感じなんですけど、出てきたら145キロとか投げてバシバシ抑えちゃうんですよ。そういうピッチャーが3番手か4番手くらいって考えたら、もうとんでもないよなって。

 

ほかにも、普段はセンターを守ってる田上奏大くんっていう子がいるんですけど、彼が8回とか9回にクローザーみたいな感じでマウンドに上がってきて、152キロとか投げるんです。外野手で152キロってほんとワケわかんないレベルで(笑)。とにかく投手陣がすごくて、バッターも逸材揃いだったから、今年もし春夏の甲子園があったらきっと連覇してたんじゃないかなって思います。

 

あと、8月に行われた交流試合で実現しましたけど、大阪桐蔭(大阪)と東海大相模(神奈川)は普通に夏の甲子園で観たかったですね。この2校って毎年練習試合をやっているんです。大阪桐蔭の西谷監督と東海大相模の門馬監督が同い年で、東海大相模が甲子園で優勝したときに、「同世代でこんなすっげえ監督がいるんだ」って西谷監督が驚いて、それで交流が始まって。

 

で、大阪桐蔭って夏の大会で神奈川勢に負けたことなくて、東海大相模も夏の大会で大阪勢に負けたことがないんです。今年は両チームともスター揃いで、東海大相模に関しては主軸だけで120本くらいホームラン打ってますし、大阪桐蔭もプロ志望が多くて、ピッチャーの関戸康介くんはまだ2年生なのに154キロを投げたり、すごい選手がいっぱいいます。そんな2校が夏の甲子園で戦うのは観てみたかったですね。

プロ注目の選手同士の対決。

それと、仙台育英(宮城)も。今の須江監督はもともと仙台育英系列の秀光中学校の軟式野球部の監督で、ここが中学日本一になるようなチームだったんですけど、仙台育英で部員の不祥事があって、前の佐々木監督が責任を取って辞任することになり、2018年の1月に急遽後任としてやってきたんです。そこから1000日で日本一になるという計画を立てて、中学校で教えていた選手たちもそのまま上がって主力として育ってきた中で、その計画の締めとなるのが今年の夏の甲子園だったんですよ。

 

今年のメンバーを見ても、十分に上を狙える強いチームだったし、何より東北地区に優勝旗が渡ったことが一度もなくて、今年はついに実現してくれるんじゃないかっていう期待もあったので、残念です。東北勢は、ノースアジア大学明桜(秋田)も注目で、「140キロカルテット」といって、140キロ後半くらい投げられるピッチャーが4人いて、これも観てみたかったですね。

ほかにも、中京大中京(愛知)の高橋宏斗くんと福岡大大濠(福岡)の山下舜平大くんの両ピッチャーの投げ合いとか観てみたかったなあ。高橋くんはMAX154キロを投げるプロ注目の選手で、この世代ナンバーワンのエース。山下くんもMAX153キロを投げて、しかも完投型なので、投げれば投げるほど調子が上がってくるタイプ。延長11回でその日のMAXを更新しちゃうんだから、恐ろしいですよ。この二人の対決は間違いなく面白かったでしょうね。

 

プロ注目の選手というのは毎年必ず出てきます。ただ、全員が全員プロで成功するわけじゃなくて、「こんなのいたっけ?」って選手が実はプロで活躍したりします。例えば、ソフトバンクの千賀滉大投手なんて今や球界を代表するピッチャーですけど、高校時代はまったくの無名でした。でも、高校生に関してはわかりやすい評価ポイントがあって、ピッチャーだったら下を向かないことらしいです。これはすごく重要らしく、プロとか上の世界でやろうと思っているなら、とにかくメンタルの強さが求められるから、すぐ下を向いちゃうようなヤツはダメなんですって。

 

さらに、ピッチャーに関していえば、セカンドとショートが動かないピッチャーはあんまりよくないと言われてます。セカンドとショートはキャッチャーのサインを見て動くんですけど、それはピッチャーがあそこに投げるからこっちに球が飛んでくるというある程度の予測のもとに動いているんです。つまり、セカンド、ショートが動かないということは、どこに飛んでくるかわからないからであって、それは結局ピッチャーのコントロールがよくないからということになる。そういう視点で試合を観ると、また面白いんですよね。

ちょっとひと休み……

いけだてつやさんがおすすめする

高校野球がテーマのマンガと映画

『バトルスタディーズ』 なきぼくろ[著]/講談社既刊24巻

生きる術はすべてPL野球部で学んだ。PL学園野球部の9番ライトとして甲子園に出場経験を持つ著者が描く超リアル高校野球マンガ!「PL学園の野球部っていろいろ伝説があって、それを実際に経験した著書が描くエピソードはめちゃくちゃリアルで面白いです」

『おおきく振りかぶって』 ひぐちアサ[著]/講談社
既刊33巻
監督は女性、選手は全員1年生。県立高校の新設野球部に集まった10人の選手たちが一丸となって甲子園優勝を目指す!「最新のスポーツ科学を下敷きにしていたり、これまでにない新しい視点で高校野球の面白さが描かれています。会話や心理描写もとてもリアルです」

『アルプススタンドのはしの方』 監督:城定秀夫 出演:小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里ほか 公開中

夏の甲子園1回戦に出場している母校の応援のためにやってきた冴えない4人の生徒たちを描いた青春映画。「観客席のはじっこがいつしか世界でいちばんアツい場所になっていく、その展開が素晴らしく面白い。こんな高校野球の描き方もあるんですね。エモいです」

『アゲイン 28年目の甲子園』 監督:大森寿美男 出演:中井貴一、 波瑠、 和久井映見、柳葉敏郎ほか
Blu-ray & DVD 発売中
元高校球児が再び甲子園を目指す実在の大会「マスターズ甲子園」を舞台に描いた大人の青春感動作。「遠い過去の苦い青春の思い出を乗り越えようと新たな一歩を踏み出す主人公たちの姿にグッときます。高校球児にとって甲子園はいつだって特別な場所なんですよね」

あの高校のブラバンが聴きたかった。

高校野球はまったく知らないのにブラスバンドだけを聴きにくるというマニアがいるくらい、甲子園といえばブラバンも名物で、今年も生で聴きたかったですね。ブラバンで有名なのは拓大紅陵(千葉)で、ここは毎年新曲を作るんですよ。その曲がどれもかっこいいから、千葉県内の高校の6割くらいが使っているんじゃないかな。

 

もはやその学校の代名詞にもなっている曲もあって、花咲徳栄(埼玉)は必ず「オーメンズ・オブ・ラブ」っていう曲から入るし、日大三高(東京)のオリジナル「Come On!!」は個人的にも大好きです。「Come On!!」はドラムがすごいかっこいい曲なんですけど、都大会で使う神宮球場ってドラム禁止なんですよ。だから、甲子園に行って初めてドラムが鳴らせる。そういう意味でも、盛り上がる曲なんですよね。

あとは、何と言っても、智辯和歌山(和歌山)の「ジョックロック」。甲子園でいちばん有名な曲じゃないでしょうか。「ジョックロック」が流れるとなぜがビッグイニングになるから、“魔曲”と言われているんですけど、ほんとにこの曲は盛り上がる。甲子園で生で聴いたときはシビれました。

 

ブラバン絡みでいくと、明徳義塾(高知)に、明徳アニキって呼ばれている人がいて、この人は生徒でもないし、OBでもないらしいんですけど、もともとバンドのトランペッターだったみたいで、ハイトーンのものすごい音を吹くんですよ。明徳が出場するたびにこのアニキも話題になるので、今年も聴けるかなって楽しみにしてたんですけどね。ブラバンのおかげで勝った試合は絶対あると思っていて、それぐらいブラバンがあるとないのとでは大違いだと思います。ブラバンが強いところは、だいたい野球も強いですね。

ユニフォームのサイズと

スパイクの色と柔軟剤の香り。

高校野球はユニフォームを見るのも面白いんですよね。昔の映像を観ると、例えばイチローの高校時代は寝間着みたいにダルっと着ているんですけど、最近はワンサイズ、ツーサイズ下のものをピタピタに着るのがトレンド。ユニフォームの素材がよくなって伸縮性がよくなったというのに加えて、今の子たちはウェイトトレーニングをやっているから、もうムッキムキで、いいカラダを見せたいんだと思います(笑)。

 

そして、最大のトレンドといえば、白スパイクですね。今年から白色のスパイクが解禁になったんですよ。交流試合で最初に履いたのは、たぶん明徳だったかな。大阪桐蔭も早かったですね。今は温暖化でどんどん気温が上がっているから、黒スパイクだと暑いんですよ。白と黒とでは温度が10℃ぐらい違うという結果もあるみたいで、白スパイクを履いちゃうともう黒には戻れないという声をよく聞きます。熱中症対策が狙いですけど、白はおしゃれにも見えるし、今後は主流になると思います。

 

球児が使うバッグも、昔はみんな肩掛けでしたけど、たしか遊学館(石川)が最初にリュックを取り入れて、今ではほとんどリュックですよね。そのパターンで一度、東海大相模がホイールの付いたキャリーバッグを導入したことがあるんですけど、地面が砂だから、転がらないっていうのがありました(笑)。今は髪の毛を伸ばしていいところも増えましたけど、ちょっと前に聞いた話だと、練習でひたすら泥まみれになっておしゃれなんてできないから、せめて柔軟剤の香りで楽しむみたいです。ダウニーにしたり、スナッグルにしたり、練習着の香りを変えるのがたまの楽しみらしいです(笑)。

高校野球に生かされている。

あと、忘れてはいけないのが、校歌。甲子園で聴く校歌がまたいいんですよね。僕は明豊(大分)の校歌が好きで、南こうせつさんが作曲しているんですよ。だからか、校歌というよりはJポップって感じで、しかも最初に作ったバージョンは歌が終わってからのエンディングが長かったんです。校歌斉唱が終わったら選手は応援スタンドに走っていくんですけど、歌い終わってもエンディングが続いているから、曲が終わるまでじっと待っている時間があって。それを見た南こうせつさんがまずいと思ったのか、急いでアレンジし直して、次の校歌斉唱のときには短くなっていました。曲自体はすごくいいので、今年も聴きたかったです。

 

新しい感じの校歌はけっこうあって、至学館(愛知)は「カシオペアが近くに見えた」という歌詞があったり、健大高崎(群馬)は「be together」という言葉が入っています。こういうのはJポップ校歌って呼んでいるんですけど、時代の流れを感じますよね。それで言うと、PL学園(大阪)の校歌はいまだにグッときます。2016年に野球部が休部になってしまい、もう甲子園で聴くことができないんですけど、元高校球児たちが再び甲子園を目指す「マスターズ甲子園」という大会が毎年あって、そこに去年PL学園が出場したんです。僕はボールボーイとして毎年参加しているので、そのときに生で聴くことができて、久しぶり聴いたらやっぱりシビれました。「あぁ、PLだ」って。

 

毎年必ず甲子園には行っているので、いつもだったら今年の夏も観に行っていたはずだったんですよね。。。大会が始まると熱心なファンは甲子園の周りに徹夜して並ぶんです。僕も野宿して席を取ったりするんですけど、だいたい50代から80代のご年配の方が多くて、その方たちに「野宿はしんどくないですか?」って聞いたら、「高校野球に生かされている」「応援することが自分たちの力になっている」と言うんですよ。

 

ただ、高校野球って春夏秋で冬はやらないから、生き甲斐がなくなっちゃって、冬の時期に亡くなる人が多いんですって。そうならないために、冬は箱根駅伝を見て、応援するみたいです。僕も含め、高校野球を楽しみにしている人は多いですし、ほんとに面白いので、再び球場で試合を観られる日が早く来ることを願っています。

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Photos:Takahiro Idenoshita
Illustration:Natsuki Camino
Composition & Text:Masayuki Sawada
撮影協力:高校野球酒場 球児園

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