「春はあけぼの、夏は夜、そして秋はショッピングよ」。そう言うと叔母は目元にできるシワを気にすることなく、むしろより一層深くして無邪気に笑った。
母とは少し年の離れた叔母は、私を自分の妹のように可愛がってくれて幼い頃からあちこちへと連れて行ってくれた。赤と白のギンガムチェックのテーブルクロスが広がる洋食屋さん、バターライスに干し葡萄とオニオンが乗ったカレー屋さん、まん丸にカットされたフルーツがおいしいパフェのお店。寒い冬の日にヴァンショーを教えてくれたのも彼女で、なんだかオシャレな気がして飲んでいるうちに苦手だったシナモンが好きになってしまった。映画は映画館で見るもの、と話題作から名作まで時間の許す限り出かけ、面白かったものを教えてもくれる。好奇心旺盛なせいか、ほとんど化粧をしないというのにいつもキラキラとしていて眩しい。
たくさんありそうな趣味のなかでも彼女のお買い物好きは年季が入っていて誰にも止められない。一度たまたま街で遭遇した時なんて、コートやブーツが入っていそうな大きなショッピングバッグを5つも抱えて、おまけに帽子の入った丸い箱まで持っていたから何かの映画のワンシーンのようで笑ってしまった。ごくごくたまに母や私に「どうしても気分が変わったの」とひどく悔しそうにおさがりをくれる時もあるけれど、断捨離だの、KonMariだのとはまったくの無縁。「私がいなくなったら、アナタの欲しいものをすっかり抜いてあとは全部燃やしてちょうだい」。軽くてあたたかそうなキャメルのケープ、なめらかな肌触りのグレーのニット、よく手入れのされたロングブーツ、パリで買ったという馬が描かれたスカーフと栗色のレザーバッグ、少し変わったデザインの帽子、小さいのから大きいのまでいろんな粒の真珠のアクセサリーたち……。まだ着こなす自信がないレオパード柄のショートコートも含めてどれもこれも欲しいけど、うちにはこんなにたくさんのものが入るクローゼットがない。叔母はいったいどうやってこれらを美しくキープしているのか、むかしから本当に不思議だ。
ちょっとのお世辞も抜きにビシビシ辛口で的確でテキトーなアドバイスをしてくれるから、寒くなる季節の買い物はいつも一緒に出かける。年に一度の楽しい楽しい、冬への身支度。これまでならばコートは黒とかベージュとかベーシックな色を選びがちだったけど、ふと目についたピンクのを手にしたら、アラ、誰かいい人がいるのねって顔をされて、どうやらすぐにバレてしまったみたい。
そうして私たちはランチも抜きの勢いでショッピングを楽しんだあと、抱えきれないほどの大きな紙袋をいくつも持って、最後にあのカフェで紅茶を飲みながらおしゃべりに興じる。今度行く旅の話、見にいきたい展覧会のこと、政治についてもちょっとだけ。そして彼のことは叔母からは質問されないので自分から話すしかない。こんな一日は去年もあった。そしてきっと来年も。
今年の冬だってまだこれからだというのに、もう来年のお買い物が楽しみなんて、わたしも少しどうかしている、と思いながら小さく手を振って地下鉄への階段を降りた。