VOL.

A TOTAL OF 17 STORIES ABOUT WOMEN WHO LIVE THEIR
EVERYDAY LIVES WITH A SENSE OF CURIOSITY AND FRESHNESS,
BROUGHT TO YOU BY THE MODEL MAKIKO TAKIZAWA.

ISSUE

2019.12.24 UPDATE

VOL.17

「冬を待って」
しまお まほ

「はい! これで全カット撮影終了しました。みなさん、お疲れ様でしたー‼︎」

編集Aの声がメタリックなスタジオ内に響く。

マキはカメラマンとアシスタント、プレスらにペコリと挨拶をして足早にメイクルームの鏡の前に腰を下ろした。

「おつかれさまー」

出迎えたメイクのKさんから渡された冷たいおしぼりでマキは額の汗を抑え、コートを脱いだ。

「暑かったでしょう」

今日の外気温は35℃。年末にアップされるWEB企画の撮影だ。バックヤードにズラッと並べられた冬服を、端から端まで着たおした。クーラーの効いたスタジオならまだいい。外ロケでは太陽との大勝負をこなしてきた。

「ありがとー。スッキリした!」

マキはクルッと髪を上でまとめ、冬のメイクをサッと拭った。

「不思議だね、服だけじゃ暑いままだけど、メイクで一気に気持ちが寒い場所に来たみたいな感じがしたの」

そう。朝、鏡の前でメイクが完成した瞬間。たしかにマキは冬へタイムスリップしていた。そして今、ようやく夏へ帰ってきたのだ。

「マキちゃん、これからどうするの?」

「うーんと…どうしようかな」

Kさんはメイク道具を仕舞い、タオルを畳みながら台風がまた来るらしいよ、なんて話している。マキも鼻唄まじりに帰り支度を始めた。

「フフフッ」

突然、マキを見てKさんが笑った。

「何? なんか可笑しかった?」

「マキちゃんの鼻唄」

「え?」

「クリスマスソング」

「あ、ああ…フフフ」

しまった、まだ冬気分が抜けていないらしい。だって、真冬が大好きだから。

フレンチタックの白いプルオーバー。籐籠を下げてメイクルームを出ると、スタジオではセットの片付け中。若いアシスタントたちが粉雪をチリトリでかき集め、白樺は端の方で壁に立てかけられている。

「ありがとうございました」

スタッフにもう一度挨拶をして、エレベーターを待った。

冬かあ…。

子どもの頃、大雪が降った。隣の家に住むミヨちゃんと大きな鎌倉を作ったっけ。中でミカンを食べて、ゲームボーイをしたりして。

女子校時代は制服のスカートを思い切り短くしてた。どんなに寒い日でも下にジャージを履くのはオシャレじゃない!って、頑張ってたなあ。太腿が赤くキンキンに冷えて…お母さんが毎日心配していた。

素敵だったのは、3年前の2月の箱根。彼の突然の思いつきで朝から出かけた。地獄谷で黒卵を食べて、雪の富士山を眺めてなんだか老夫婦みたいだねって笑いあって…。彼、元気にしているかな。

…さて、今年は。

鍋でしょ、カニでしょ、チーズフォンデュでしょ。友達とテーブルを囲んで、お笑い番組や映画、古いドラマを一気見したい。お気に入りのセーターを出すあのワクワク、去年のコートが今年も素敵だった時…街が姿を変えるクリスマスシーズン!

「ストレンジャーシングス3」も年末年始の冬籠りに備えてまだ観ていないの。ああ!楽しみで、たまらない…!

エレベーターの扉が空いた。駐車場のムワッと湿気た空気が身体を包んだ。

やっぱり、まだまだ真冬は先かな。

このまま車で南半球まで行けたらいいのに…なんてね。デパ地下でベトナム料理をテイクアウトして、家で「ストレンジャーシングス」1から復習しようかな。冬に備えて。

 

PROFILE

MAKIKO TAKIZAWA

VERYの表紙モデルを経て、2020年4月より創刊される「VERY NAVY」を新たな活躍の場に。〝お母さん業〝が大好きと言い切る彼女のライフスタイルは、愛情とセンスでいっぱい。3児の母。特技は貼り絵、飾り巻寿司など多彩!

MAHO SHIMAO

エッセイスト・漫画家。1978年生まれ。多摩美術大学美術学部二部芸術学科卒業。1997年に高校生のときに描いた漫画『女子高生ゴリコ』でデビュー。雑誌や文芸誌でエッセイや小説を発表するほか、ラジオのパーソナリティとしても活躍。2015年に第一子を出産。著書に『まほちゃんの家』『マイ・リトル・世田谷』『ガールフレンド』などがある。

Model: Makiko Takizawa (NLINE) / Photo: Takanori Okuwaki (UM)

Hair: Koichi Nishimura (angle management office)

Makeup: Kazuko Hayasaka (W) / Styling: Takashi Ikeda

Location: keigoFukuda (A PLUS) / Edit: Kenichi Aono (BEAMS)