VOL.

A TOTAL OF 17 STORIES ABOUT WOMEN WHO LIVE THEIR
EVERYDAY LIVES WITH A SENSE OF CURIOSITY AND FRESHNESS,
BROUGHT TO YOU BY THE MODEL MAKIKO TAKIZAWA.

ISSUE

2019.11.13 UPDATE

VOL.11

「大きいことと新しいこと。」
西谷 真理子

大きい服がモードになる瞬間に遭遇したことが、何回かある。

 

その1:1980年代前半。妊娠して初めて、イッセイミヤケの服を買った。2人くらい入りそうな大きさの、男の着物のような渋い墨色をした麻素材の半袖のつなぎで、セール会場で誰の手にも取ってもらえずにいるのを私が見つけた。すべてが好みだった。とはいえ、このサイズ! 試着すると、マタニティシルエットがさらに強調されそうなコミカル具合だ。この愛しい戦利品を着るために、私はかわいく見せることはあきらめて、長すぎるパンツの裾を折り曲げ、デカパンで会社に着て行った。そうしたら、意外や、編集部のおしゃれで口の悪い女性たちがほめてくれた!

時は80年代前半。コム・デ・ギャルソンとヨウジヤマモトがパリで旋風を起こし、ビッグシルエットは新しさのシンボルだった。身体に沿うデザインは、着る人の体形をストレートに出すが、大きい服は遊びのある分、隠すことも可能だと、その時学んだ。

 

その2:2000年。マルタン・マルジェラがXXLという新しいコンセプトのシリーズを発表した時、それが何年も温めて来たアイディアと聞いても、すぐにピンとは来なかった。なにしろXXLで作られているため、ショーに出てくるモデルたちはまるでイノシシのような容貌魁偉ぶりだ。80年代のビッグシルエットは、大きいとは言っても、要所要所は絞られていて、ゴツい感じはなかった。しかしマルジェラの全体に膨張させた服を着たモデルたちは、だれもが豪快で、かつ堂々としていて、ファッションショーではなかなかお目にかかれない存在感だ。さらに言えば、恰幅のいい女性像は、「かわいい」が支配的な当時の日本のファッションの世界にはそぐわなかった。が、それから数年後、この時のマルジェラの服を着ている友人を見て嫉妬した。買わなかったことが悔やまれるほどすてきだった。日本がマルジェラに追いついた気がした。マルジェラに一時在籍したデムナ・ヴァザリアは、ヴェトモンという自身のブランドを2014年にスタートして、異様に長い袖などの「オーバーサイズ」を打ち出し、話題をさらった。拒否感を感じるほどの大きさは、時に新しい。じわじわと効いてくる。彼がバレンシアガで発表した大きなスニーカーは新しい流行に点火した。

 

その3:2019年。つまり今年の春。日本のブランド、アンリアレイジの2019AWパリコレクションはまるで巨人の服を小人が着ているようなおかしさと、それがファッションとして成立する秘密を見せたような小気味良さがあった。大きな服をそのまま着るだけでなく、巨人のシャツの片袖で作られたジャンパースカートなど、意表をついた工夫がいくつも登場した。デザイナーの森永さんはかねてから、容易にサイズを変えることができない人間のために、いかに見たことのないデザインを考案していくかに注力してきた人だ。今や世界で認められる存在になってきた。そして2019年度の毎日ファッション大賞も受賞したところだ。

 

やっぱり、大きいことは新しい。ファッションの世界では、大きさを制する人が新しさを作ってきた。

 

PROFILE

MAKIKO TAKIZAWA

VERYの表紙モデルを経て、2020年4月より創刊される「VERY NAVY」を新たな活躍の場に。〝お母さん業〝が大好きと言い切る彼女のライフスタイルは、愛情とセンスでいっぱい。3児の母。特技は貼り絵、飾り巻寿司など多彩!

MARIKO NISHITANI

編集者。1974年〜2011年文化出版局に勤務して、「装苑」「ハイファッション」などの編集に携わる。退職後は、展覧会「感じる服、考える服:東京ファッションの現在形」の共同キュレーターとカタログ編集、『ファッションは語り始めた』『相対性コム・デ・ギャルソン論』(共にフィルムアート社)の企画・監修を経て、京都精華大学ポピュラーカルチャー学部の特任教授に就任(2013〜18年)。現在は同学客員教授。

Model: Makiko Takizawa (NLINE) / Photo: Takanori Okuwaki (UM)

Hair: Koichi Nishimura (angle management office)

Makeup: Kazuko Hayasaka (W) / Styling: Takashi Ikeda

Location: keigoFukuda (A PLUS) / Edit: Kenichi Aono (BEAMS)