出会えた好きを大切に。

    COLUMN & ESSAY

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    調査隊コラム
    菊池亜希子を形作る反骨精神。 数よりも関係性や距離の近さを愛す

    「調査隊コラム:好きなものの愛し方は人の数だけ。」vol.3

    AKIKO KIKUCHI
    インタビュー・テキスト:松井友里 撮影:小林真梨子 編集:野村由芽

    Nov 16.2020

    モデル、俳優の菊池亜希子さんは、たくさんの「好き」を自身の手で選び取ってきた人です。柔らかな印象のある一方で、自身の嗜好を形づくってきたのは、意外にも「反骨精神」だったと言います。

    新たに始めたプロジェクト「jicca」に関する話題を皮切りに、ライフステージとともに変化してきた「好き」との付き合い方や、ハロー!プロジェクトへの愛など、菊池さんの「好き」の現在地についてお話を伺った『出会えた好きを大切に。』調査隊コラム3回目。自身の選択に対して、責任感と強い熱意を持って向き合ってきた菊池さんの姿勢がありありと浮かび上がってきました。

     

    <もくじ>

    P1:
    ・数の多さよりも、関係の濃さや距離の近さを年々重要だと思うようになっている
    ・誰かが評価した言葉に頼るのではなく、自分の言葉で好きな気持ちを語れるようでありたい。
    P2:
    ・ハロプロは、頭でっかちになりがちな自分のリミッターを外してくれるような存在
    ・好きになった以上、責任があると思うんです。
    P3:
    ・菊池亜希子さんが読者から集まった「好き」を形にするためのお悩みに答える

     

    数の多さよりも、関係の濃さや距離の近さを年々重要だと思うようになっている。

    編集長を務めた雑誌『マッシュ』の制作や、エッセイの執筆、イラスト、ものづくりなど、さまざまな方法によって、自身の感覚でとらえた「好き」を届けてきた菊池さん。そんな菊池さんが、ファッションブランドMOIのデザイナー岡田奈美さんと共に始めたのが、日々の中で感じる、留めておきたい愛おしさを形にしていくプロジェクト「jicca」です。

    菊池:自分たちがつくったものを身に付けてくれる状況や、好きだと思ってくれる人が目に浮かぶようなものを形にしたいなと思って、2年ぐらい前から構想を練っていました。いろいろな人に相談するなかで、以前に子ども服のブランドをやっていた奈美ちゃんが、一緒にやろうと言ってくれたんです。小さな規模でいいから、生産背景がわかるところと一緒に、自分の手の届く範囲でものづくりができたらいいなと思っています。

     

    菊池亜希子さん

     

    菊池:『マッシュ』をやっていた頃、構成を手書きで描くところからつくっていた経験も大きいのですが、私はものづくりおたくなところがあるので、何事もDIYでやりたくなっちゃうんです。スイッチが入ると止まらなくなってしまって、子どもの前でも夢中でスケッチを描いていたりするんですけど、そういう背中から子どもに教えられることもあるかなと思いながら、やっています。

     

    こども服おとな服いろいろプロジェクト「jicca」の菊池亜希子さんによる洋服デザイン

     

     

    手にとってくれる人の顔を思い浮かべながら、ものづくりを進めているという「jicca」。「好き」を身近な人に共有することの喜びについて、こう話します。

    菊池:私はSNSがあまり得意ではなくて。情報を得たり、拡散させるための媒体としてはすごく便利だと思うんです。ただ、誰が言っているかわからないものなのに、「これがホットらしいよ」って、存在だけがどんどん大きくなっていくこともあるように感じていて。数の多さよりも、関係の濃さや距離の近さを年々重要だと思うようになっていることもあって、好きなことについての情報を得るときも、すぐに手を取り合える距離にいる人から教えてもらいたいと、以前よりも思うようになりました。

     

     

    誰かが評価した言葉に頼るのではなく、自分の言葉で好きな気持ちを語れるようでありたい。

    オンラインで発信することが日常になっている現在ですが、自身の思いを形あるものにして残すことについて、菊池さんはどのような思いを持っているのでしょうか。

    菊池:インプットが足りないと感じたとき、よく古本屋さんに行くんです。古本屋さんって、広くはないお店が多いかもしれないけれど、その空間の中にお店の方がつくった一つの宇宙があるんですよね。もしもそういうところで、自分のつくったものが、思いもよらない時代に、思いもよらないタイプの人に手にとってもらえることを想像すると、わくわくします。だから、私は何か伝えたいことがあるとき、書籍のように形に残るものにしたいなと思うんです。

    根があまのじゃくなので、みんなと同じタイミングで、同じ方向を向けなくて。洋服でも、漫画でも、音楽でも、実際に触れてみてしっくりくるもの以外をなかなか取り込めないタイプなんです。同時に、誰かが評価した言葉に頼るのではなく、自分の言葉で好きな気持ちを語れるようでありたいといつも考えています。

     

     

    ときどきの流行や借りものの評価に身を任せず、手探りで見つけた自分だけの好きと向き合ってきた菊池さん。そうした姿勢は、遡ると思春期の頃にルーツがあるのだそう。

    菊池:当時は、人と一緒ではいけないという意識が特に強かったです。ファッションに興味を持つようになった頃、友達同士でも「あなたがそっちの系統でいくなら、私はやめておくね」って、お互いに自分のスタンスをしっかりキープしておかなければいけないという感覚がありました。だから、自分の好きなものは自分で見つけて、選び取っていかなければならないと思っているし、簡単に人の真似をするのは格好良くないぞという気持ちがずっとあるんです。

    ただ、子どもが生まれて忙しくなってくると、なかなか自力で新規開拓ができなくて。最近は友達がおすすめしてくれたものは、すぐに買ってしまいます(笑)。とはいえ根っこには自分のスタイルがあることが大切で。そうじゃないと、ふと気づいたときに、「自分って何が好きだったんだっけ?」となってしまうんじゃないかと思うんです。

    ハロプロを愛し、蒼井優さんと『アンジュルムック』をつくった菊池亜希子さん。好きになった以上は生じる「責任」は、アイドルにも服にも共通する。

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    PROFILE

    AKIKO KIKUCHI菊池亜希子

    多くの女性誌でモデルとして活躍する一方、その独特の存在感で女優としても注目され、映画『森崎書店の日々』(10)で初主演を果たす。出演作に映画『わが母の記』(12)『よだかのほし』(12)『深夜食堂』『グッド・ストライプス』『海のふた』(15)CXドラマ『問題のあるレストラン』(15)メーテレドラマ『まかない荘』(16)などがあり、2013年には『いやむしろわすれて草』にて初舞台。その後、『ハルナガニ』(14)・『水の戯れ』(14)に出演。 

また、自身が編集長を務めるライフスタイル・ファッションムック『菊池亜希子ムック マッシュ』(小学館)を刊行するなど、独自の世界観を築き上げ累計50万部越えのヒットシリーズとなっている。また、イラスト&エッセーで綴った『みちくさ』(小学館)や『菊池亜希子のおじゃまします 仕事場探訪 20人』、初の書き下ろし絵本が入った『絵本のはなし』や『へそまがり』『おなかのおと』など著者としても人気を集めている。

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