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「調査隊コラム:好きなものの愛し方は人の数だけ。」vol.6
Mar 26.2021
「こうしないと大変だよ」っていう脅しのようなことは下の世代に言いたくないんです。
いまでこそ「好きなことばかりさせてもらっている」という小菅さんですが、大学に進学する際、日本大学芸術学部の写真学科という進路を選ぶまでは、どこか自分の思いを抑制しながら生きていた部分があったと言います。
小菅:子どもの頃は、親から「これをしたらだめ」と言われたことを、全部そのまま受け止めて生きていたけれど、親が望むような道だけが正しいのかなと、どこかでずっと疑問に思っていて。
小中高と女子校に通っていたから、親はそのまま女子大に行くと思っていたみたいだったけど、人生は一度しかないから、好きなことをして生きていきたいと思って、進路について自分の思いを親に伝えたんです。始めはめちゃくちゃ怒られたけど、私が日芸に入って楽しんでいる様子を見てからは納得してくれたし、あのとき決断してよかったなと思います。

小菅:私が結婚したのは10年以上前だったから、女の人は結婚したら家庭に入るという風潮がいまより強くて。
でもそれからSNSが出てきて、周りの家庭の様子が見えるようになってきたら、「あれ、男の人が結構家事してるぞ? なんだか時代が変わってる!」と思って。それからは私も自分の人生を楽しもうと思うようになりました。私にとってすごく助かるのが、夫にも好きなことがたくさんあることで。お互いに好きなことはまったく被っていないけれど、それぞれ自分のやりたいことがあるから、私も自分の時間を心置きなく過ごせています。

小菅:自分はたまたま恵まれたことに、人生を気楽に楽しんでいる年上の大人たちが周りにいて、その人たちの生き方を見てこられたことがありがたいと思うから、自分も子どもや下の世代にそうした生き方を伝えていかなきゃいけないなと思っています。私はいま30代だけど、40代以上の人から「若くていいな」って言われるよりも、「楽しいのは40代からだよ」って言われた方が、先が楽しみだと思えるし、「こうしないと大変だよ」っていう脅しのようなことは下の世代に言いたくないんです。
自分の考え方ひとつで楽しくできる部分がたくさんあるって、人生の後半戦になってようやくわかってきた。
自身の父親が定年後「趣味が見つからない」と言っていたことで、好きなことのある大切さにあらためて気づいたという小菅さん。
小菅:父親と話しながら感じたのは、ちょっとでも興味を持ったら、まずはやってみること。千個くらいやってみたら、一つくらいは引っ掛かるものがあると思います。どんなジャンルでも、必ずそのジャンルを好きな人たちがいるはずだから、そこで友達ができるかもしれないし、一つのコミュニティで友達ができなくても、好きなものという共通の話題があれば、どこかで仲間ができるかもしれない。「楽しいアンテナ」みたいなものを張っていると、楽しいことが寄ってくると、自分の経験から思います。
刺繍に縫ったり、好きなことについて発言していると、自然と情報も集まってくるんです。例えば、心の中で「猫が好き」って思っているだけじゃなくて、「猫飼ってます?」ってちょっと口に出してみることで繋がりができたり、情報を得たりすることができるから、おしゃべりしたり、発信していくことで世界が広がるなと実感しています。

最後に、好きを貫きながら生きていくことについてこんな風に話してくれました。
小菅:好きなことをやりながら生きていくことは、誰のせいにもできない部分が多いです。でも、自分の考え方ひとつで楽しくできる部分がたくさんあるって、人生の後半戦になってようやくわかってきたから、この先が楽しみなばかりなんです。
小菅くみさんに読者が質問。好きだと思えることに行動を起こしてみたら、その日が人生の大切な思い出の1日になるかもしれない。
PROFILE

刺繍作家
東京都生まれ。
刺繍ブランド〈EHEHE(エヘヘ)〉の刺繍を中心とした作品を製作する刺繍作家。人物や動物の繊細な表情までを刺繍で表現している。
ほぼ日刊イトイ新聞の“感じるジャム”“おらがジャムりんご”シリーズでは、レシピ製作を担当している。
2017.3 初個展「吾輩の猫である」(京都 誠光社)
2018.6 「NEO.手仕事」
(東京 QUIET NOISE arts and break)
その他多数、グループ展に参加