出会えた好きを大切に。

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    藤原麻里菜が自分自身を助けてる無駄づくり。 嫌な自分も認める

    「調査隊コラム:好きなものの愛し方は人の数だけ。」vol.7

    MARINA FUJIWARA
    インタビュー・テキスト:松井友里 撮影:鈴木渉 インタビュー・編集:野村由芽 

    Mar 26.2021

    辞書通りに言うならば、「役に立たない」ことを意味する「無駄」。では、役に立たないことは、生きてゆくために必要がないのでしょうか?

    「オンライン飲み会緊急脱出マシーン」や「インスタ映え台無しマシーン」など、日常の中で感じたさまざまな感情や疑問に、アイデアとユーモアを持って切り込む「無駄づくり」の活動を行なってきた藤原麻里菜さんは、自身も無駄に救われ、「無駄づくり」を通じて無駄を肯定したいと言います。

    何かに心が動いたり、好きなものをひたむきに思う熱量は、直接何かの役に立つことがないかもしれない。けれどもそうした思いは決して不要なものではないと背中を押してくれるように感じた、『出会えた“好き”を大切に。』調査隊コラム7回目です。

     

    <もくじ>

    P1:
    ・「無駄」と言われて排除されてしまうようなものをきちんと肯定したい。
    ・一言で表せない複雑な感情を認めて、自分自身を理解してあげること。
    P2:
    ・自分でも知らないうちに刺激になっている言葉っていっぱいあるから、私は自分の心を一番に考えていて。
    ・生活の中で出てきた疑問や欲求をつぶしてしまうのはもったいない。
    P3:
    ・藤原麻里菜さんが読者から集まった「好き」を形にするためのお悩みに答える

     

    「無駄」と言われて排除されてしまうようなものをきちんと肯定したい。

    通常、何かしらの目的を持ってつくられる機械や装置を、役に立たない発明品として仕立てる。そんな「無駄づくり」の活動を2013年から続けてきた藤原さん。どこかネガティブなニュアンスもつきまとう「無駄」というものに対して、確固たる信念を持つようになったのは、なぜなのでしょう。

    藤原:学生の頃、「ゲームは1日1時間まで」とか「漫画を読みすぎるな」とか、カルチャーは無駄なものとして大人から排除されていたなと感じていました。でも私は、小説や音楽や芸術などがずっと好きで。命を削ってつくり出されたような壮大な作品だけじゃなく、片手間でつくられたようなものとか、「2ちゃんねる」でたまたま見つけた書き込みとか、ちょっとしたものがふと自分の生活の隙間に入ってきて、心が救われた経験もたくさんあります。だから、「無駄」と言われて排除されてしまうようなものをきちんと肯定したくて、「無駄づくり」をやってきたんです。

     

    藤原麻里菜さん。アトリエにて

     

    「無駄づくり」において藤原さんが大事にしている「肯定すること」。日常の中で何気なく目にとまったものに救われた経験があったからこそ、その活動においても、つくりだすこと自体を肯定したいという思いがあるようです。

    藤原:ものづくりって、本来誰もがやっていいと思うんです。でも、趣味だとしても、クオリティが高くてきれいなものをつくらなきゃいけないような気がしてしまったり、なんだかハードルが高いなと思っていて。自分がクオリティが高い、低いみたいなハードルを壊していかないと、他の人もやりづらくなると思うんです。

    自分はものをつくることが好きだけど、不器用だから「無駄づくり」を始めるまでは何かを続けられたことがなかったんです。でも、落書きにもいいなと思える絵はあるし、自分自身もそういうものに心を救われた経験に後押しされて「無駄づくり」を続けられています。

    「無駄づくり」という枠の中でやっていると、すごいものをつくったら素直に「自分すごい」って思えるし、へたなものでも「『無駄づくり』だから」って思える。「無駄づくり」はすべてを容認することができる枠組みみたいなものだと思っています。

     

    一言で表せない複雑な感情を認めて、自分自身を理解してあげること。

    これまでに「無駄づくり」で200個以上の作品を発表してきた藤原さん。多くのアウトプットを続けることについて、どのような意識を持っているのでしょうか。

    藤原:1人で黙々とつくり続けることで得られる情報がすごくあるので、毎日手を動かしてつくることを大切にしています。はっきりと言葉にはできないし、自分にしかわからないけど、確実に積み重なっているものがあって。そもそも「無駄づくり」を始めた理由は「なんとなく面白そうだから」というふんわりしたものでしたが、数を積み重ねることによって、自分が考えていることの輪郭がわかってきたような感じがするんです。

    好きなものについても、意識的に「これが好き」と思っているものよりも、当たり前に続けていたものの方が意外と人生の中では大切だったりしますよね。どきどきするような「好き」だけじゃなく、愛情を持って自分の中で温め続けるような「好き」もあると思うんです。

     

     

    「好き」のあり方について、さらにこう続けます。

    藤原:好きと嫌いの間の、グレーゾーンをいっぱいつくっておくと居心地が良いなと思います。大勢で遊ぶのも楽しいけれど、1人でいるときには大勢でいるやつらをみるとムカつくよねとか、自分自身を「性格が悪い」と思ってしまうこととか、一言で表せない複雑な感情を認めて、自分自身を理解してあげることは良いことだと思います。そうすることで他人に対しても優しくなれると思うんです。

     

    SNSを更新することが仕事でもある藤原麻里菜さんが、自分の心を一番に考えているからこそ取り組んでいるSNSとの付き合い方/「たった一つの正解」に陥らないための思考の訓練についても

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    PROFILE

    MARINA FUJIWARA 藤原麻里菜

    1993年生まれ。コンテンツクリエイター、文筆家。
    
頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。
    
2016年、Google社主催の「YouTubeNextUp」に入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展- 無中生有的沒有用部屋in台北」を開催。25000人以上の来場者を記録した。2021年「考える術(ダイヤモンド社)」を上梓。

「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019年度」採択/「オンライン飲み会緊急脱出マシーン」文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門審査委員会推薦作品に選出。

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