カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。

about

blog

blog

blog

blog

blog

blog

/special/beams_cultuart/

あとで読む一覧 📖

暮らしに馴染む、タグチのスピーカー。

〈ビームス レコーズ(BEAMS RECORDS)〉にて、受注生産での販売を行っているスピーカーブランド〈タグチ (Taguchi)〉。1981年に創業した老舗メーカーが始めたコンシューマ向けのブランドには、音質のよさはそのままに、インテリアにスッと馴染むスピーカーが揃っています。実に14年ぶりとなる取り扱いを祝し、昨年末には店頭でポップアップを開催し、実際に体感できる機会をつくりましたが、そのよさをもっと知ってもらいたい。そんな気持ちから「イデー(IDÉE)」ディレクターの大島忠智さんを連れて、工場見学へと出かけました。

profile

大島忠智 (イデー ディレクター)

1998年にインテリアショップ「イデー」へ入社。さまざまな経験を経て、現在はディレクターとして、展示会やイベントの企画・統括、商品の買い付けやセレクト、商品開発など、さまざまな業務に携わる。webマガジン「LIFECYCLING」を立ち上げ、インタビューも行なっている。
Instagram

〈タグチ〉のスピーカーとは。

今日は工場を案内してもらいながら、〈タグチ〉のスピーカーを体験していただこうと思います。大島さんは〈タグチ〉のことをご存知でしたか?

大島 知っていましたよ。以前、「イデー」でも扱っていましたよね?

中島 はい、置いていただいていましたね。発売当時、〈ビームス レコーズ〉さんでも扱っていただいていた『VOICE』というアンプ一体型のスピーカーです。黒崎さん(「イデー」創業者)が池尻大橋で「IID 世田谷ものづくり学校」をやられていた時もお手伝いしたんですよ。

案内してくれたのは、〈タグチ〉を販売する「タグチ クラフテック」代表の中島 学さん。手に持っているのは、アイコニックなスピーカー『LIGHT』のエンクロージャー。

大島 飲食店でもよく吊られていましたよね。以前、自由が丘にある「イデーショップ 自由が丘店」の4階にあったカフェでも使っていました。

中島 業務用スピーカーを40年ほど前からつくって来ました。プロオーディオ業界と呼ばれているんですけど、その業界では知名度がありまして。その知見をライフスタイルに合うスピーカーへ落とし込もうと「イデー」さんなどの店舗什器を始め、いまにいたります。

大島 基本的には特注品をオーダーメイドでつくられて来たんですか?

中島 元々はオーダーメイドが多かったですね。劇場のような空間やアーティストの意向に合わせてつくる感じです。

始まりはコンサート用のスピーカーだと伺っています。

中島 そうですね。昔のコンサートはPAと呼ばれる専門の音響会社がなく、舞台屋さんが映画館用のスピーカーなどを使って音響もやっていたのです。ビートルズなどもそうだったそうですが、そうすると歓声の方が上回り、何も聴こえないという事態になって。海外では機材が進化していたのですけど、当時は1ドルが360円の時代で高くて買えない時代でした。そこで日本のいろんな音響屋さんが国内でつくり始めたのですけど、それをつくっていたのが〈タグチ〉なんです。

〈タグチ〉では、さまざまなサイズのスピーカーを一つひとつ手づくりしている。

スピーカーのエンクロージャー(入れ物部分)には、どのような素材が使われているんですか?

中島 北欧のバーチ合板を使っています。日本で言うところの白樺の一種ですね。南洋材などは成長が早くて5〜6年で木材になるんですけど、北欧は70〜100年くらいかけて育てていくので、木の密度が高いんです。音響特性がよくて、昔から音響用のスピーカーとして使用していました。積層面が細かいのでバームクーヘンみたいに見えるのですが、あえてそれをデザインとして取り入れているものもあります。北欧家具とかでもよく見られますよね。

大島 そうですね、バーチ材の素材感を活かした家具というのは多く、フィンランドのデザイナー、アルヴァ・アアルトの家具は有名です。アアルトのデザインした家具は私自身好きで、自宅でも使用していますし、この間の北欧出張でもヴィンテージのアアルトの家具を買い付けて来ました。

中島 〈タグチ〉では、先駆者的な存在のフィンランドと、ラトビアのバーチを使っています。バーチの産地には、ほかにロシアがあるんですけど、いまは少し難しいところがありますね。

大島 ウッドショックに続いて、いまはすごく大変ですよね。

理想は鳥肌が立つ音。

スピーカーにバーチ材を使うのには、どのような理由があるのでしょうか?

中島 素材の密度と硬さですね。特にバッフル面という前面、スピーカーユニットが付く面が一番重要なんですが、全面に使用しています。

大島 他のメーカーでは、別の木材を使われているところもありますよね。それは目指す音の違いなんですか?

中島 あとはやはり、コストの場合もあります。バーチはスピーカー向きの木として知られているんですが、一般的な家電量販店で販売されているものには、安価なMDF材を使うことが多いですね。MDFは木の粉を固めた繊維板で、音は安定するんです。他にはアピトン合板という、硬い木もあります。

大島 基本的には硬質な木がいい音を出すということなんですね。

中島 そして、合板か無垢材かという選択肢もあるんですが、無垢材ですと木によって水分量や乾燥具合が異なりますし、音が安定しないんです。ヴァイオリンなどの楽器は無垢材を使っているので、同じ木材でも音が変わっていきます。〈タグチ〉のスピーカーは工業製品をつくっているようなものなので、一つひとつの音が変わってしまってはいけないんです。物性的に安定した材料ということから、合板を使っています。

中島さんが触れている部分がスピーカーのバッフル面。

〈タグチ〉が理想とするのは、どのような音なのでしょうか?

中島 先代の田口(創業者の田口和典)がよく言っていたのは、“鳥肌が立つ音”という表現です。スピーカーをつくる時、通常は測定器で測りながら音をつくっていくんですけども、数値に縛られすぎて、つまらない音になってしまう場合もある。綺麗なデータは取れるんですが、それだけだとどこか面白くないんです。測定器はポイントで使っていますけど、最後は聴感で、聴いた時に鳥肌が立つかどうかが重要だと。あとは、音の気配とか佇まい。そういうものを再現するスピーカーをつくりたいと、先代は常々言っていましたね。

2022年12月に、恵比寿ガーデンプレイスにオープンした食と音楽が融合したダイニング「ブルーノート・プレイス(BLUE NOTE PLACE)」のためにつくられた試作品。

機械を参考にしながらも、最終的には人に帰ってくると。

中島 そして、オーディオ好きの方々の世界では、ヴィンテージスピーカーが愛されたりするんですが、先代は“骨董品だ”とよく言っていました。言葉は悪いですけど、 古いものはいいものとして理解し、リスペクトしつつも、そこにこだわり過ぎるのも違うのではということでした。“常に新しいものを生み出していきたい”“いろいろなものを脱ぎ捨てて生きていきたい”と言っていましたね。“音の解放”という表現もよくしていました。

大島 先代の言葉、響きますね。

家具も同じようにヴィンテージの人気がありますよね。

大島 ありますね。同じようにヴィンテージの家具はいいものなんですけど、どうしても数は限られてきますし。また、ライフスタイルも変わってきていて、現代のライフスタイルに合う家具やインテリアも必要だと思います。環境のことも配慮しなくてはいけないし、いまならではのこれからのデザインを考えるのも必要な時代ではありますよね。過去はリスペクトしながらも、前に進んでいくということをしていかないとなと。

大島 気になっていたのですが、このスピーカーはジャズ向き、あれはクラシック向きと、オーディオ好きの方は言ったりしますよね。〈タグチ〉のスピーカーには向いている音楽のジャンルがあったりするのでしょうか?

中島 スピーカーによってのところはありますね。オーディオマニアの方々は、部屋にたくさんスピーカーを置いて、ジャズはこれ、ロックはこれと聞き分けている方もいますね。ちょっと視聴しに行きましょうか。

それぞれのスピーカーの違い。

大島さんに私物のレコードを持ってきていただいたので、まずは〈ビームス レコーズ〉で展開する3型を視聴してもらいましょう。最初は『LIGHT』ですね。

中島 通常のブックシェルフ型のスピーカーは指向性と言うんですけど、『LIGHT』は360度に音が広がる無指向性スピーカーと言います。もともとは、劇場の真ん中に置いて、壁に反射した音の残響率を調べる目的で、測定用に12面体スピーカーをつくったのが始まりです。最大で20面体スピーカーまでつくったことがありますが、『LIGHT』は6面体スピーカーです。

大島 コンサートホールなどでやられていた技術を家庭にと。自分は、そこまでオーディオ機材に詳しいわけではなく、オーディオ機材もインテリアの一部という考え方なんです。もちろん音楽は好きで5000枚くらいレコードは持っているんですけど、シンプルに聴ければいいというタイプでして。自分の自宅でと考えるなら、部屋のインテリアに馴染むかというのも重要です。

最初に視聴した『LIGHT』のハンギングモデルのステレオ版。〈ビームス レコーズ〉では、上からかけるハンギングと脚が付いたスタンドの2モデルに、モノラルとステレオの2種の組み合わせで、計4型の受注をしている。

大島 いまでこそスピーカーの形はいろいろありますけど、「イデー」で取り扱っていた頃は、スピーカーと言えばブックシェルフ型が一般的で、それ以外の形はあまりなかったですからね。しかもそれを自宅でとなると、本当に限られていました。改めて見て思ったのが、音がいいというのもあったと思うんですけど、インテリアの空間に馴染むというのも、黒崎さんは重要視していたのかなと。

中島 あとは、プロオーディオの業務用スピーカーをつくっている会社が、身近なスピーカーをつくっているというストーリーもあったからかもしれないですね。ボーカル系や音数の少ないピアノや弦楽器などの音楽に向いているスピーカーです。

大島 では、まずはこれを聴いてみていいですか?

選んだのはチェット・ベイカーの名盤『Chet Baker Sings』。ハイトーンボイスは『LIGHT』との相性もいい。

中島 コンセプトとしては、かしこまって音楽を聴くというよりも、360度に放射線状に広がる音を空間全体で楽しむイメージです。家で生活していると、食事をつくったり、掃除したりと動き回りますよね。ブックシェルフ型のスピーカーはちゃんとステレオ感を味わうには対角線上で聴くのが理想なのですが、家という空間を考えた時に難しいところがあります。それなら全体が音で包まれている方が、ライフスタイルに合っているのじゃないかと。

大島 それはある意味でインテリアと同じような捉え方で、その考え方にも共感します。実際のところ、暮らしの中で真剣に座って聴くという時間はほとんどないと思うんです。家事をしながらとか、本を読みながらという方も多いですよね。

中島 どっしりと腰を据えて音楽を聴けるという環境の方は、いまの時代すごく贅沢ですよね。

大島 それにぼくとしては、何かしながら聴く方が好きというのもあるんです。真剣に向き合って聴いていると少し疲れてくる。そういう人も多いと思います。普段の暮らしの中で、なにげなくかける音がよくなる、というのがいいですよね。

中島 このスピーカーは店舗でもよく採用されています。指向性のある通常のスピーカーを天井に埋め込むお店が多いんですが、そうすると音の広がりが狭いので数箇所に設置する必要があるんです。これは前後・上下・左右の3次元方向に音が放射線状に広がることにより、空間全体に共鳴し、空間的な響きを奏でます。

大島 本当にいろんな方向から鳴っているように感じますね。

大島さんが『LIGHT』を自宅で使うなら、立方体の特徴的なフォルムを活かして、とことんシンプルでミニマルなスタイリングに。

同じ音源で、『LIGHT』と同じく無指向性の『LITTLE BELL』とを聴き比べてみましょう。どのような違いがありますか?

中島 共に360度に音が広がるスピーカーですが、『LIGHT』は放射線状に音が広がるのに対し、『LITTLE BEL』は水平方向に反射音が広がるスピーカーです。上に付いている円錐が反射板の役割をしています。

大島 下から上に音を出して、反射させて360度に音が広がる訳ですね。

360度に音が漂うように聴こえる『LITTLE BELL』。『LIGHT』よりも低音の効いた、柔らかい音が特徴。

比べてみると、先に聴いた『LIGHT』の方がより高い音域にフォーカスされているような感覚がありますね。

大島 たしかに。聴こえ方も違いますね。

横方向に音が広がっていく聴こえ方ですね。アンビエントなどにもハマりそうです。

大島 どこから出ているか分からない感じもありますが、ピアノの音が綺麗で、すぐそこで弾いてるようなライブ感もありますね。

中島 あるピアニストの方に、ピアノ的な音がすると言われたこともあるんですよ。グランドピアノは蓋を開けて反射板として音をコントロールするので、その効果なのではと思っています。

大島 比べるとまろやかな音に感じますね。

中島 反射音なので直接音と比べて耳障りじゃない、立体的な音がしますよね。

大島 そう、耳障りな感じがしません。ふくよかで丸い感じの音がします。このサイズ感というのもいいですね。

中島 だだっ広い工場なので分かりにくいのですが、ご自宅だと音に包み込まれている感じがより味わえますよ。耳の高さに置くのが理想ですが、床置きも足元から音が漂う感じで面白いです。

大島さんの自宅に設置した『LITTLE BELL』。エリック・ホグランを始めとした北欧のビンテージ作品など、存在感のあるインテリアとも合う。

ブックシェルフ型の『F613-B』は、また違った感じになるので変えてみましょうか。

大島 感じ方で言うと、普段聴いている感覚に一番近いですね。

中島 このスピーカーは、〈タグチ〉が力を入れている平面波スピーカーです。通常のスピーカーユニットは円錐コーン型ユニットと言い、振動板が丸くお椀のような形をしていますが、このスピーカーは振動板がフラットな形状です。円錐型の場合は、いろいろな方向に音が出て、干渉し合います。それを平面にすることで、同じ面から同時に同方向へと音が出るので、出音の響きがとても自然です。平面だと素直な波面を出せるので、解像度が高くリアリティのある本来の音を届けられるんです。

フィンランドバーチと平面スピーカーを採用し、音の表現力に優れている『F613-B』。

お店などに納品する業務用は平面スピーカーが多いですか?

中島 最近は増えていますね。昔はさまざまなオーディオメーカーがチャレンジしたんですが、技術やコストの問題から、現在ではほとんどのメーカーが辞めてしまいました。その時はオーディオ用の小型スピーカーだったんですが、いまでは技術的な部分も〈タグチ〉では解消していまして、コンサートで使用できる大型スピーカーまで、いろいろなところで使われています。

表現力も優れていて、この『F613-B』はどんなジャンルでもしっかりと鳴らしてくれそうですね。

中島 小型サイズながら低域の音も豊かで広帯域再生が可能なスピーカーですね。

大島 では、せっかくなので聴いてみましょうか。

大島 おお、いいですね! たしかに、低音が効いた音楽に最適です。ところで、先ほど教えていただいた平面スピーカー、初めて知りました。

中島 最近はつくっているところも少ないですからね。いまでもオーディオ用の小型平面スピーカーをつくっているところは、小さなところで2〜3社ほどです。

大島 どうして、やらなくなってしまったんですか?

中島 平板の部分に強度を持たせながら軽量化することが難しかったんです。

大島 なるほど。久しくこんな大音量で音楽を聴いていなかったので、興奮してきますね! 自宅で音楽をじっくり聴くとなったら、これが一番かな。

中島 せっかくなので、最後に業務用として使われるような、大きな平面スピーカーも聴いてみてください。

中島 これは、スピーカーユニットを縦に線状に配列し、耳障りな高域音を抑え、耳に優しい音を再生するためにスピーカーユニットが付いているバッフル板を弓状形状にしたアーチドアレイスピーカーです。一般的な点音源スピーカーと比べ、距離減衰率が約半分のため、小さい音量で遠くまで音を届けることができます。音響エネルギーが平均的に分散しているため、近くで聞いてもうるさくなく、そこそこの音量でも会話ができるとよく言われます。

大島 本当ですね。スピーカーから遠く離れても音量が変わらないですし、普通に会話もできます。どのような仕組みなんですか?

中島 一般的なスピーカーは水平方向にも垂直方向にも音が広がりますが、このスピーカーは垂直方向にはあまり広がらず、水平方向にだけ音が広がる特徴があります。それによって何が起こるかというと、垂直方向に広がらないことで、天井や床に音が反射して反響してしまうことがなくなり、狙ったエリアに明瞭な音を届けることができるのです。教会など残響音が多い空間ではすごく効果を発揮しますし、スピーチなんかも聞きやすい。

大島 いい音で楽しいですね! 次はこれも聴いてみていいですか

…その後も1時間を超える視聴が続き、〈タグチ〉のスピーカーを存分に楽しんだ大島さん。〈タグチ〉の業務用スピーカーは、以下のお店などで使われているので気になる方はそちらを。〈ビームス レコーズ〉店頭では、『LIGHT』のハンギングモデル・ステレオを常設し、『LITTLE BEL』も3月末まで試聴機を設置しています。

〈タグチ〉のラインアレイスピーカーは、表参道にある「TRUNK(HOTEL)」入り口すぐのラウンジにも数台設置されている。見た目もスッキリ収まり、内装と調和が取れている。
下北沢にある「カウンタークラブ(COUNTER CLUB)」にも、〈タグチ〉のラインアレイスピーカーが導入されている。あくまでクラブではなくミュージックバーとして営業しているため、会話ができるのも大事なんだとか。内装に合わせて、カラーは真っ黒に。

INFORMATION

〈タグチ〉のアイテムは「ビームス レコーズ」店頭、または公式オンラインショップからご覧ください。


カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。

about