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クリエイターたちの制作活動の拠点となるアトリエ。その空間づくりは、人によってさまざまです。徹底的なミニマリストもいれば、インスピレーションにつながるたくさんのアイテムに囲まれてこそ心地よさを感じる人もいます。そんな個性豊かなワークスペースを訪ね、つくり手のパーソナルな一面を探っていくこの企画。今回は、イラストレーター・一乗ひかるさんのアトリエを覗いてきました。
東京都生まれ。デザイン事務所勤務を経て、2018年よりイラストレーターとしてのキャリアをスタート。 印刷技法をベースとした色彩表現と、グラフィカルでヘルシーなイラストレーションで、 書籍、広告、パッケージを中心に幅広く活動している。
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近くには飲食店がたくさんあり、建物の外観も内装も可愛らしいアトリエですね。ここはいつから使用されているんですか?
一乗 3、4年前からですね。それまでは自宅を作業場にしていたんですけど、仕事とプライベートの切り替えがうまくできず、よくファミレスに逃げ込んでいました。それに、制作のメインツールであるシルクスクリーンの機材のスペースを確保するのも大変で。版を乾かしたり大小さまざまな版をストックするためのスペースも必要だったので、アトリエを探すことにしたんです。
この場所を選んだ決め手は?
一乗 アトリエのある台東区は、通っていた大学やバイト先がある思い出の場所なんです。最初は当時の自宅近くの渋谷区周辺で探していましたが、どうしても下町の雰囲気に惹かれてしまって。内装のシンプルさと、どこか味のある外観に一目惚れしました。
ここまで通うのは大変ですが、この場所でこそ感じるアイデアや人とのつながりがあるので、とても気に入っています。
アトリエの空間づくりにおいて心がけていることはありますか?
一乗 一番は作業のしやすさです。作業道具を使おうとしたときに「あ、なかった」っていう瞬間をできるだけ避けたいので、よく使うものは手の届くところに置くようにしています。そうしているうちに、自然と自分が一番使いやすい空間になっていきました。ただ、インテリアはまだ全然こだわれていないんですけど...。
モノが多いのに雑然としていなくて、一乗さんのセンスが詰まっているように感じます。インクもこんなにたくさんの種類があるんですね。
一乗 実際に刷るともともとの色と微妙な違いが出るので、作業を進めながら配合を調整していくんです。なので、種類と残量が一目で分かるように透明な容器に入れて置いています。この棚もインクが並べやすいようにDIYしました。
棚やいろいろなツールがかけられている有孔ボードだったり、DIYもよくされるんですか?
一乗 自分で作業したところでいうと、床もそうですね。もともとカーペットだったところを、インクの汚れが落としやすい素材に張り替えたんです。この場所を一緒に使っている友達も、シルクスクリーンの製版やTシャツなどのアパレル関連の作業を手伝ってもらっているので、自然と二人にとって使いやすい空間になっていきましたね。
一乗 あと、作業台として使っているこの机も知り合いからもらった廃材を組み合わせてつくったものなんです。
一乗さんの制作に欠かせない仕事道具についても教えていただけますか?
一乗 やっぱり版ですかね。作品ごとで版の絵柄や大きさは違いますけど、シルクスクリーンで作品をつくるときには必ず使いますし、その版をつくるための製版機も欠かせないものです。あと、シルクで刷った後は毎回インクを流さないといけないので、大きな版を洗える流し場もアトリエに置いています。
そもそも、どうしてシルクスクリーンを始めようと思ったのでしょうか。
一乗 もともとはグラフィックよりもプロダクトデザインやテキスタイルデザインに興味があって、その中で出会ったのが、シルクスクリーンでした。使いたい色ごとに版を分けて刷っていくので、色の重ね順によって予想外の見え方になったり、思いがけない色の組み合わせが生まれたりして、それがとても楽しいんです。つくる過程の中で生まれるズレのほうが予想以上にいいデザインを生むこともあって、自分では導けないその偶然性にどんどん惹かれていきました。
一乗さんの作品は、色の組み合わせ方が独特ですよね。なにかこだわりはありますか?
一乗 基本的にCMYをベースにしているんですが、原色をそのまま使わないようにしています。例えば黄色なら少しくすませたり、青みがかった色をつくったり。その時々で微妙なニュアンスを変えながら、自分なりの解釈で色を掛け合わせていくんです。
それが一乗さんのオリジナリティになっているわけですね。
一乗 印刷ベースの色使い、顔の表現、構図などいろいろな要素が組み合わさって私のオリジナリティが生まれているのかなと思います。特に色使いについては、最近になってようやく確立してきた気がします。予備校時代、色彩構成の課題があったんですけど、「この色とこの色を組み合わせるとうまくいく」という感覚がまったくつかめませんでした。大学時代も、色使いを褒められることはあっても、自分の中でしっくりこない時期が長く続いていて、他の人からの評価と自分がいいと思う感覚に違いがあったんですよね。それがやっと重なり始めてきたんです。
これからもっと探求していきたい表現などはありますか?
一乗 いまの制作スタイルを立体物にも応用して、イラストワークの幅を少しずつ広げていきたいと思っています。立体作品だと、さまざまな角度から形を確認できたり、目の前のものを自分で動かして調整ができる。色の見え方もデジタル画面とはまったく違うんです。
それから、周りの友達も巻き込んで一緒にものづくりをしていきたいです。以前ニューヨークで行われた「Ginza Sony Park Project」の展示で、漫画にチャレンジしたことがあって。私は物語をつくるのが苦手だったので、CMプランナーの友達に相談してストーリーを一緒に考えてもらったんです(笑)。才能があるユニークな友達が周りにたくさんいるので、彼らの力を借りながら、一緒に作品をつくっていけたらなと。その時間が私にとって一番楽しいんですよね。
カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。