カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。

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アートが生まれるところ。Vol.5 本秀康

クリエイターたちの制作活動の拠点となるアトリエ。その空間づくりは、個性豊かで千差万別。この企画では、作品が生まれるワークスペースを訪ね、つくり手のパーソナルな一面を探って行きます。今回は、イラストレーターや漫画家として知られ、最近では現代アーティストという肩書きも加わった本秀康さんです。

profile

本秀康

イラストレーター、漫画家、現代アーティスト
ジョージ・ハリスンを敬愛し、愛嬌のある独特なキャラクター造形と、シュールかつ温かみのある世界観で人気を博す。代表作に『レコスケくん』『ワイルドマウンテン』など。音楽への造詣が深く、レーベル「雷音レコード」の主宰としても活動中。コロナ禍をきっかけに、油絵を始めた。

Instagram|@hideyasu_moto

デジタルの描き心地には慣れない。

まずはご自宅にあるアトリエにお邪魔します。ターンテーブルがあるんですね。

 そう、DJもするので。ただ、練習のためにミキサーごと購入しましたが、使いこなせてませんね。ただターンテーブルが2台あるだけになってます(笑)

本さんといえば、音楽にまつわるディープな漫画『レコスケくん』のほか、数々のアーティストに作品も提供されて、さらに自身のレーベル「雷音レコード」を運営するほどの音楽好きで有名です。仕事中もやはりレコードをかけるんですか。

 かけてますね。でも、仕事中にかけてる音楽は、実は「聴いていない」んです。趣味で聴いてる音楽はしっかり腰据えて聴いているんですけどね。裏返すのもめんどくさいから、結局一日中、1枚のレコードの片面だけを聴いてたりして。でも、仕事しながら流してると、それでも曲を覚えるじゃないですか。それがいいんです。

仕事部屋に置くレコードは定期的に入れ替えるそう。スリップマットは「ディスクユニオン」とのコラボレーションで、「ROCK in TOKYO」6周年と名古屋店オープンを記念したもの。

本もたくさんありますね。

 昔は資料がないと絵が描けなかったんですけど、今は普通に画像検索で出てきちゃうじゃないですか。それで本もいらなくなっちゃって、これでもかなり少なくなりましたね。でも、フィギュアとか、友達の作家さんに作ってもらった愛犬の作品とかは並べたくなっちゃう。1個だけだとアレだけど、数があると「アート」になりますよね。

アトリエの本棚に飾られている『宇宙刑事シャイダー』のフィギュア。「シティポップが世界的に再評価されたように、それと同じことが特撮にも当てはまるんじゃないかなと思ってて。いずれ80年代特撮ブームがきますよ。そのうち買えなくなりそうだから、中野ブロードウェイに毎日通って買い集めてます」と本さん。
リビングのショーケースには『レコスケくん』のフィギュアがずらり。
玄関へ続く階段には、友達の作家につくってもらった愛犬の作品がいくつも飾られている。ちなみにその愛犬というのが、 Instagramで5.3万人のフォロワーを誇るモコゾウ。

デスクの上にタブレットが見えますが、制作するとき、アナログとデジタルはどう使い分けているんですか?

 下書きは、どうしてもアナログですね。ペンで描いてます。パソコンやiPadも使いますけど、これは着色するときだけ。友達に「iPadなら最初から線が描けるよ」って言われて買ってみたものの、全然使いこなせなくて。1年くらい試してるんですけど、やっぱりあの「ガラスの上に書いてる感」っていうのが、どうしても違和感があるんですよ。

本さんが下書きの時に使うのは、〈パイロット〉のドローイングペン。

やっぱり、“描き味”は譲れない部分ですか。

 全然違いますね。だから相性のいい紙を探す旅に出るんですけど、やっと見つけたと思っても、数年で品質改良されて変わっちゃうんですよ。いつの間にか書きづらくなっちゃったりして。本当はデジタルですっと書けるようになれば、その悩みもなくなるんでしょうけどね。

油絵は、フレッシュな可能性。

最近は油絵に没頭されているそうですね。アトリエも別に借りられたとか。

 そうそう、自宅のすぐ近所に。数年前、村上隆さんに「描いてみないか」って誘われて油絵を描き始めたんです。高校の時に美術部で油絵を描いたことがあったんですけど、思うように描けなくて挫折して。自分は描けないものだと思って、代わりにアクリル絵の具で油絵っぽい効果が出るよう追求して自分の画風が確立したところもあります。

 

自宅から徒歩ですぐの距離にある油絵制作のためのもうひとつのアトリエ。

それが、50歳を過ぎて再チャレンジしてみようと。

 ダメ元で油絵の具を買ってみたら、一応描けた(笑)。テクニック的にはまだまだなんですけど、この年になって「まだ上達する余地がある」と思えるのって、本当、久しぶりにフレッシュな気持ちなんですよ。アクリルで描いてる分には「これ以上うまくなりようがないな」っていう限界みたいなものが見えてたから。

どういうタイミングで油絵のアトリエに来るんですか? 1日のルーティンなどがあれば教えていただきたいです。

 うちの奥さんとモコゾウが寝てからこっそり抜け出してアトリエに行って、深夜から朝方くらいまで描いていますね。アトリエにもターンテーブルはあるんですけど、作業中にレコードを触って絵の具で汚れたことがあって。それからは油絵のときはレコードは聴かず、YouTubeを流しっぱなしにしています。音が出ていればなんでもいいので作業中はアルゴリズムで出てきた番組をそのまま観ている、というか聴いています。アトリエに向かう途中の自販機でコーラや缶コーヒーを買って、タバコを吸いながら絵を描くのが楽しみだったんですが、不意に流れてくる健康系のチャンネルが「ジュースは身体によくない」「夜はカフェインを摂るな」「タバコは絶対やめるように」としつこくいうので、いつのまにか水しか飲まない非喫煙者になりました。

それにしても、筆の数がすごいですね。やっぱり油絵にはこれくらいの量が必要なんですか?

 どうなんですかね、僕もわかんないです(笑)。最初は「世界堂」で高い筆を買ってたんですけど、Amazonを見たらめちゃめちゃ安い筆があることに気がついちゃって。安いからついつい大量に買ってるだけっていうのもあります。

高い筆と安い筆、やっぱり使い心地は違いますか。

 変わりますね。やっぱり高いのがいいです。ただ、Amazonで売ってる超安いやつは、もう1日で潰れちゃうんですけど、1日で潰れて捨てたとしても、そっちの方が安いんじゃないかっていうくらいの値段なんですよ。

そういう油絵の道具選びとか、それこそ描き方みたいなものも、独学なんですか?

 全部YouTubeです。

YouTube! 本当に今は何でも動画で学べる時代ですもんね。

 そうですね。あとはもう、自分で実際にやってみて、自分に合うか合わないか試行錯誤してる感じですね。

わざわざ別のアトリエを借りたのはどうしてですか?

 なんかアートって、やっぱりサイズが大きくないと成立しない世界みたいなんですよ。
今までは机の中で完結したサイズだったんですけども、それを超えた大きさの絵を描き始めたので。あとは、油絵は溶剤も使うので、紙の仕事と一緒にやると汚れちゃう。それでアトリエを自宅の近くに借りました。

離れたアトリエに行くことで切り替えがうまくできていたり?

 どうですかね。僕は20歳ぐらいからずっと住居兼仕事場で生活してきたので、もう慣れてはいるんですけど、「切り替えはうまくいってない人生だったな」とは思ってます(笑)。でも、それでいいのかなと。基本的には趣味みたいなことが仕事になってるので。他の方が思うほど、切り替えができてないことに対するストレスはないかな。

では、イラストも油絵もスッと楽しく描けてますか?

 これ、真面目な話をしていいんですか?

ぜひお願いします。

 昔は絵を描くのが楽しくて、机に向かえば描きたいものを悩みなく描けるような生活だったんですけど、いつの間にか「何を描いていいか」がわかんなくなっちゃったんですよね。実は悩んでて。

どこかのタイミングで、皆さんそういう壁にぶつかられるのかもしれません。

 なんでだろうなと思った時に、若い時は「いろんな絵を描きたい」と思ってたんですけど、お客さんは…特に広告なんかは「このレコスケくんを書いてくれ」ってなる。そこで変わったことをすると「余計なことしないでください」みたいなリアクションなんですよ(笑)。そうやって喜ばれる方を選んでずっとやってると、自分の中の手立てのバリエーションがなくなっちゃって。だから、どっかでその意識をリセットしないとこの先やばいなと。昔みたいに「紙に向かえば楽しい絵にできる」っていう感覚に戻りたい。もしかしたら、油絵がそれを助けてくれる一つになるのかな、とも思ってますね。

漫画については、また描かれる予定はありますか?

 漫画は一番自由に趣味を書き入れられるんですけどね…。依頼はあるんです。書きたいんです。でも、10年くらいブランクがあるから「描けなくなってたらどうしよう」っていう臆病な気持ちがあって、まだ原稿を渡せていない。本当に厄介な作家になってますね(笑)

カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。

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