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中村憲剛が考える、“サッカーの観方”

How to Watch Football Through Kengo Nakamura’s Eyes.

2025.08.07

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川崎フロンターレ一筋、18年間に渡りプレー。©KAWASAKI FRONTALE

はじめまして!中村憲剛です。プロサッカー選手として、Jリーグの川崎フロンターレで18年間プレーし、2020年に現役を引退しました。今はクラブのFRO(フロンターレ・リレーション・オーガナイザー)という肩書きで、トップチームやアカデミー、地域との橋渡しを担う仕事に取り組んでいます。そのほかにも、解説や育成年代の指導、そして、こうして言葉で考えを伝える活動にも携わるようになりました。この〈BEAMS SPORTS〉のコラムでは、日々サッカーを観ていて思うこと、指導を通じて得た気付き、僕自身がこれまでサッカーから学んできたことなどを書いていけたらと思っています。昔から僕を知ってくださっている方も、初めての方も、ぜひお読みいただけるとうれしいです。初回のテーマは「サッカーの観方」について。現役時代から今の僕まで、それぞれの視点からサッカー観戦の楽しみ方について書いてみたいと思います。

 

僕がサッカーを観ることになったきっかけは、小学校一年生の時でした。その頃、ちょうどメキシコワールドカップが開催されていた時期で、親が大会の総集編のビデオを買ってくれたんです。そこでアルゼンチン代表だったマラドーナのプレーに夢中になり、テープに穴が開くんじゃないかというくらい、繰り返し観ていました。そこからサッカーを観ることが習慣になったんです。サッカーをやることが好きな人もいれば、観ることが趣味という人もいると思いますが、僕は昔から両方とも好きな少年でした。

  • 高校時代の中村さん。©ケンプランニング

  • 大学では、主将としてチームを関東大学リーグ1部昇格に導いた。©JUFA/REIKO IIJIMA

そうして最初は、憧れの選手を目当てに観始めたサッカーでしたが、自分でもプレーする機会が増え、周りのレベルも上がるにつれて、“試合の構造”が気になるようになりました。僕は体が大きいわけではないし、足がすごく速い選手ではありませんでした。だからこそ、「どうしたらサッカーってうまくいくのかな」と、人よりも考えるようになり、試合の構造を見て、監督の理想をピッチで体現できる選手になろうと思ったんです。

 

「中村憲剛を置いておくと試合がスムーズだな」と監督に言われるように、戦術だったり、試合の流れを理解する目的で試合を観るようになりました。プロになってからも、必ず試合前に自チームの試合を振り返って、対戦相手の試合もしっかり分析して臨むようにしていました。そうすることで、試合中でも「これは自分のチームへの対策として用意した作戦だな」とか、「相手が前がかりに来てるから、後ろに蹴ったらチャンスが作れそう」という分析を元にした判断が冷静にできるようになりました。

2016シーズンには、最年長でJリーグ最優秀選手賞を受賞。©KAWASAKI FRONTALE

現役を引退してからは、解説者という立場で試合を観ることも多くなりました。いつも心がけているのは、試合で何が起こっているかを分かりやすく言語化すること。僕は森から木を見るタイプなので、両チームのシステムや狙いなど、全体の状況を説明してから、特定のプレーにフォーカスするように心掛けています。例えば、チャンスからゴールにつながった時、そこに至るまでにどんな動きがあったかということです。

 

それまで全然ボールが進まなかったのに、急にボールが前進することがあります。その時に注目するのは、選手の立ち位置がどう変化したかということ。それまで立っていたポジションから別の場所へ動く選手がいたら、その動きを追ってみてください。日本代表だと、守田選手や鎌田選手が分かりやすいと思います。相手を見ながら空いてるスペースでボールを受けたり、周りも連動してポジションを変えることで相手が混乱すると、チャンスになる展開が多い。もし、これまでと違う動きをしている選手を見つけられたら、それは、サッカーの観方がより面白くなるきっかけになるかもしれません。

  • 2020年に現役引退を表明。©KAWASAKI FRONTALE

  • 引退後は解説者としても活動。中村憲剛公式Instagramより

もう一つ、サッカーを観るうえで大切にしていることは、試合の背景にあるチームや選手一人ひとりのストーリーです。例えば、この前行われたワールドカップのアジア最終予選、日本vsオーストラリアの試合もそうでした。日本は既に2026年のワールドカップ出場が決まっていた一方で、オーストラリアは出場できるか分からない状態。だからこそ、ホームのアドバンテージを生かして、日本に勝利する必要がありました。しかし、実際の試合内容はと言うと、彼らが果敢に攻勢に出るわけではなく、まずはしっかりとディフェンスラインを固めて、堅実に勝利を掴むことを目的とした内容でしたし、結果的にプラン通り失点をせずしっかりと耐え、最後の最後に 日本のミスを突いて貴重な勝ち点3を掴み取りました。

 

結果は、日本がオーストラリアに敗れたという事実だけが残りますが、それ以上にこの試合に臨む両チームの状況や狙いまで理解すると、サッカー観戦に立体感がすごく出てくると思うんです。それはJリーグの試合でも同じです。ルーキーの選手が決めるゴールと、その年に引退するベテランの選手が決めるゴールとでは、同じ一点でも意味が全然違ってきますよね。だから解説をする時は、その試合に込められた思いやストーリーも紹介したいといつも思っています。

2017年、悲願だったJ1初優勝を果たし、ピッチにうずくまり涙を流す。©KAWASAKI FRONTALE

サッカーを観始めた人が、僕の解説を通じて「一連のプレーがあったから得点できたんだ」と気づいてくれて、観る視点がどんどん増えていく。あるいは、試合に込められたストーリーを知ってくれる。そうして自然と、「サッカーってこういう構造のあるスポーツなんだ」と理解して、観戦をより楽しんでもらえるようになったらいいなと考えています。

 

 

Profile
  • 中村憲剛

    KENGO NAKAMURA

    1980年生まれ。小学一年生でサッカーを始め、東京都立久留米高校、中央大学へと進学し、2003年、川崎フロンターレに加入。以降は川崎フロンターレ一筋でプレーし、2020年に現役を引退。Jリーグ通算546試合出場83得点。J1優勝3回、ベストイレブン8回。2016年には史上最年長でJリーグMVPを受賞。日本代表として、2010年の南アフリカW杯にも出場している。現在は、川崎フロンターレの「FRO(フロンターレ リレーションズ オーガナイザー)」や、日本代表戦を中心に解説者としても活躍。自身のアカデミーを主宰し、育成年代への指導も積極的に行う。

    ©ケンプランニング

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