Column

稿

Voices

育成世代に必要な自由を考えてみた。

Thinking about freedom for young players.

2025.10.30

Share

指導の道に興味を持ったきっかけと
サッカーを学ぶ環境の変化について

現役を引退してから、ユースやアカデミー、大学など育成世代と関わる機会が増えました。引退後の選択肢のひとつとして指導者の道も考えていましたが、特に育成に興味を持ったのは現役も終盤のころ。当時、チームメイトだった田中碧選手や守田英正選手など、後輩たちにアドバイスを伝える機会が増えました。彼らが聞く耳を持ってこちらの話を聞き入れ、自分でこちらの話を取捨選択し、ピッチ上でうまくいく・いかないを繰り返して自身の成長に繋げていく姿をたくさん見てきました。彼らに接していく中で伝える楽しさを覚え、育成に興味を持つようになったのです。いま、育成年代に携わる中で改めて感じるのは、彼らを取り巻く環境の変化の影響で、選手たちのサッカーに対する姿勢が変わってきていることです。僕の時代は、校庭や公園で自由にボールを蹴ることができました。誰かに何か言われることもないので何をするにも自由だし、ルールやコートのサイズも自分たちで決めることができました。その中でプレーをすることで生まれたのは「創造力」でした。自分の発想でプレーすることで、さまざまな経験をすることができましたし、結果的にプロでも活きたと思っています。でも今は、自由にサッカーをできる場所が減り、スクールに通うことが一般的になって、習い事の要素が強くなっている印象です。用具も揃っていて、指導者がついて教えてくれますし、プレーをする環境は格段に整いましたが、時間やプレースペースは限られています。その影響なのか子どもたちがサッカーをすることに対して「受け身」になっている印象です。

自由にプレーするために必要なこと
ワールドカップで気づいた答え

ある育成年代の試合で、選手のポジショニングについてかなり細かくコーチングしているチームを見たことがあります。僕自身も現役時代からポジショニングは大事にしていて、今もその大切さは伝えていますし、どの年代においてもポジショニングはとても大事だと思っています。ただ、その試合で選手たちを見ていて感じたのは、指示を守ろう・言われたことをちゃんとやろうとする意識が強く、選手たちの判断が反映されているプレーが少なかったことでした。もちろん指導者の提示やコーチングはチームで戦う上でとても大事な要素だと思います。しかし、時に提示が強くなり過ぎると選手のプレーが制限されてしまい、アイディア溢れる自由なプレーを表現する機会が減ってしまうのではないかと思うのです。選手には自分の判断でプレーをする「余白」がもっとあってもいいと感じています。そこで今回は、“育成年代に必要な自由”について書いてみようと思います。定義がかなり難しいのですが、僕が思う「自由」とは、「選手が持っている裁量」。つまりチームの約束事を遵守した上で、自分の中にどれだけ状況に応じた引き出しがあるかどうか。そしてそれを正しいタイミングで開けてチームを良い方向に導けるプレーができるかどうかではないかと思っています。

チームメイトへの声掛けが育成への興味のきっかけだった。©KAWASAKI FRONTALE

それは、僕自身がワールドカップに出場した時に強く感じたことでもありました。世界の舞台だからといって何か特別なことができるわけではなく、小さい頃からいろいろな経験をしてきた中で、コツコツと増やしてきた引き出しに入れてきたものがピッチに現れていました。日々自分のやれることをやったその延長線上にW杯があったという感覚です。あの大舞台で活躍できるのは、誰よりも裁量があり、誰よりもタイミングよく最適な引き出しを開けられる選手なんだと痛感しました。そんな経験もあり、育成年代からその引き出しを増やせる指導がしたいと思っています。そのためには日々の練習の内容もとても大事ですが、それと同等もしくはそれ以上に、選手の「意識」が大切になると思います。その日与えられたメニューをただ漠然とやるのではなく、そのトレーニングをやる目的やどう自身の成長につながるのかを自分で考え、色々と試しながらプレーする選手はより早く成長しますし、練習で得たことを試合で実践し、うまくいった、いかないを反芻することで自分の引き出しがどんどん増えていきます。

指導方針のベースを形作ってくれた
オシムさんならではのアプローチ

でも育成世代だと、どこまで自分の裁量でプレーしていいのか分からない子がいるのは当然。チャレンジしたことが結果につながればそれが成功体験になりますし、うまくいかなかった経験からも学ぶことはたくさんあると思います。つまりこの世代にとっては何を経験しても収穫でしかありません。だから積極的にトライし、エラーから学べる環境をどう作ってあげるかが大切になります。そんな時にいつも思い出すのは日本代表でのオシムさんの指導です。かつて、オシムさんからトレーニング中に声をかけられたことがありました。

「今のプレー選択は面白かった。その上で私はこう思ったんだけど、憲剛はどう考えた?」

と質問してくれたんです。結果として自分がミスした場面でしたが、こうやれ!と強制するのではなく、まず僕のプレーを肯定した上で選択肢を与えてくれました。選手目線からすれば、自分が選んだ選択肢を肯定してもらえることで自信を持って動けるし、それに加えて自分がより良くなるように、オシムさんの視点も与えてもらえることで、引き出しが増えていく実感がありました。代表は自分の信念で上がってきた選手が多いので、彼らに聞く耳を持ってもらうこと自体難しいこと。その中で、こうしたアプローチをされたオシムさんのすごさを改めて感じますし、この経験が自分の指導方針のベースにもなっています。

 

オシムさんのような指導者に出会えたからこそ、僕も子どもたちのプレーを否定するのではなく、そのプレーを選んだ理由を聞くようにして、選択肢を増やしてあげたいと常に思っています。そうすれば会話が生まれ、その子の考えを理解することができる。もちろんサッカー以外の時間もたくさんあるし、僕もずっと同じ子を見ていられるわけじゃない。本当の姿がなかなか分からないからこそ、一方的に指導するよりも、

「あの時のプレーはどう判断したの?俺はこう思うんだけど」

と伝えると、ハッとして僕の意見を聞いてくれることがある。これは一人の親としても言えることですが、あくまで主役は子どもたち。彼ら彼女らが自分で考えてプレーできるように導いてあげるのが役割だと考えています。だからこそプレーをしっかり見て、声を聞いて、自信を持って判断できる場面を増やしてあげたいんです。

  • 主宰するアカデミーで指導を行う。©KENGO Academy

  • 引退後は指導者としても活動。©KENGO Academy

と、ここまで最もらしいことを書いてきましたが、いまだに育成世代にとっての本当の自由とは何か、何が彼らにとって良いのかをぐるぐる考えてしまう毎日です。でも、指導する子たちには上手く強くタフになってほしいし、何より自由にプレーしてほしい。そのために、日々の練習で引き出しが増えるような声かけを心がけています。それは、オシムさんから学んだようにメンタルの面もあれば、フロンターレで培ったように、足元の技術を磨くことで得られることもある。いろいろな「自由の形」を見せてあげて、彼ら一人ひとりの可能性を広げてあげることができたらと思います。

Profile
  • 中村憲剛

    KENGO NAKAMURA

    1980年生まれ。小学一年生でサッカーを始め、東京都立久留米高校、中央大学へと進学し、2003年、川崎フロンターレに加入。以降は川崎フロンターレ一筋でプレーし、2020年に現役を引退。Jリーグ通算546試合出場83得点。J1優勝3回、ベストイレブン8回。2016年には史上最年長でJリーグMVPを受賞。日本代表として、2010年の南アフリカW杯にも出場している。現在は、川崎フロンターレの「FRO(フロンターレ リレーションズ オーガナイザー)」や、日本代表戦を中心に解説者としても活躍。自身のアカデミーを主宰し、育成年代への指導も積極的に行う。

    ©ケンプランニング

Share

Recommend for you