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「相撲教習所」って何?
新弟子たちの平日ルーティン

Inside a Sumo Training School: Daily Routine of the New Apprentices

2026.03.04

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角界以外の方と話しているとき、気を抜いているとついうっかり勘違いをされやすい言葉がいくつかあります。そのうちのひとつが「教習所」。一般的にはドライビングスクールを連想するのではないでしょうか。しかし、角界でのそれは、新弟子たちが通う「相撲教習所」を指します。連載テーマを相談していた担当編集者と今回、まさにこのすれ違いを起こしました(ごめんなさい)。現役力士は運転禁止なので(#4参照)余計にややこしいのですが、では相撲教習所とはいったいどんなところなのか。写真を交えてご紹介しましょう。

 

 

学ぶのは“力士としての心得”

お相撲さんは、ただ相撲が強いだけではいけません。「気は優しくて力持ち」、日本の伝統や文化を継承する、その象徴である自覚をもつことも求められます。力士として、社会人として、どう振る舞うべきか。そんな「力士になるためのいろは」を学ぶ場所が、両国国技館の隣にある相撲教習所です。

 

入門した力士たちは、年齢や経歴、番付にかかわらず、全員が半年間、教習所に通います。現在の横綱・大の里のように、出世が早い力士は、関取に上がってもなお教習所に通う人も稀にいます。また、今年度から制度が変わり、“付出”といって飛び級の資格を得た新弟子は、朝稽古の参加が任意になりました。よって、一部の新弟子は各部屋で稽古しています。

 

点呼は朝7時。まわし姿で、国技館の周りを3周走るランニングから始まります。一部のソップ型(細い体型の力士のこと)以外は、ほぼウォーキングになっている人がほとんどですが…そこはご愛敬。その後は、実技(稽古)と学科です。詳しい内容を見てみましょう。

実力ごとに行う朝稽古

教習所には、教習所担当の親方衆に加え、指導員の幕下力士10名がいます。指導員は、主に新弟子の所属する部屋の力士が任命され、平日は各部屋の稽古ではなく教習所で指導・稽古を行います。

 

ランニング後の朝稽古では、塵手水や仕切りといった“相撲基本動作”の練習を行います。神事でもある大相撲では、本場所でさまざまな所作があるため、正しく美しい所作を学ぶ必要があるのです。

 

  • 四股は大切な基礎のひとつ

  • 体の柔らかいお相撲さんたち。股割りはケガ予防になります

  • 塵手水など、土俵上での所作も学びます

  • 幕下力士の指導員が稽古中に声をかけることも

  • 全員で掛け声をそろえて、「ヤア!」

  • 相撲基本動作10の型

稽古は、実力順に3つの土俵に分かれて行います。アマチュア相撲ですでに実力のあるA土俵、他競技経験者や力に自信のあるB土俵、未経験のC土俵。A土俵では、実力者たちと一緒に指導員である幕下力士も積極的に稽古し、一方で未経験者を指導するC土俵では、まず組んだ状態から相撲を始めるなど、段階を踏んだ指導が行われます。教習所の朝稽古は、普段は肌を合わせない、さまざまな部屋の新弟子同士で稽古ができる絶好の機会です。およそ2時間、しっかりと汗を流します。

  • 指導員(左)がA土俵で一緒に稽古

  • 迫力ある稽古を見せるA土俵

  • 白まわしの親方が直々に指導します

力士になるためのお勉強の時間も

朝稽古の後は学科。1時間ほど机に向かいます。広い稽古場の隣が教室になっており、まわしや浴衣姿で全員着席。学科だけは、付出資格のある新弟子も参加必須です。この時間は、曜日ごとに科目が修行心得・国語(書道)・社会・運動医学・相撲史と分かれており、力士としての心構えや一般教養を身につける大切な時間なのです。

 

手を動かす書道の時間以外は特に、早起きと激しい朝稽古によって、ちょっぴりまぶたが重たくなってしまいますが、そんなときは巡回する指導員が優しく揺り起こします。限界を迎えた新弟子たちは、教室の後ろに立って授業を受けることも。

 

 

  • 教習所の授業風景。この日は相撲史の授業

  • 聞いた授業内容を復習し、立って発表する時間もあります

  • 睡魔が襲うと、指導員に揺り起こされ…

  • 教室の後ろで立って授業を終えます

単なるスポーツではない大相撲の世界。相撲の実力だけでなく、人として立派な力士になるために、挨拶や礼儀、マナーやルールといった初心を、教習所に通う半年間でたたき込まれることになるのです。こうして、新弟子たちは徐々に立派なお相撲さんになっていきます。教習所で指導する親方衆は、「番付が上がっても、ここで学ぶ初心を忘れずに過ごしてほしい」と願うばかりです。

食べることも稽古!

  • 山盛りのご飯!

  • うれしい食事の時間はみんなリラックス

  • 稽古も食事も共にし、同期の絆が生まれます

  • 幕下の指導員の皆さんも、負けじとご飯をおひつで(この後全部食べました)

教室を丁寧に掃除し、お風呂で汗を流したら、最後はお待ちかねのランチタイム。国技館地下には、協会職員らが使用する食堂があります。日替わりでメニューが決まっていて、通常500円と破格な値段ですが、食べることも仕事である力士たちはなんと無料! 指導員の幕下力士たちを含め、みんなどんぶりに山盛りのご飯をもりもり食べます。筆者もみんなの食べっぷりに釣られてご飯をおかわりしました(親方「おまえも教習生か!」)。

 

半年間、教習所で苦楽を共にする“同期”たちは、その後の土俵人生でも固い絆でつながっていきます。

 

これから始まる3月の大阪場所は、力士の“就職場所”とも称される場所。また多くの新弟子たちが角界の門をたたき、心身共に立派な力士になるために教習所へ通うことになります。番付上位の活躍に加え、これからの大相撲を担う若い力士たちの動向にも、ぜひ注目して見てみてはいかがでしょうか。

 

Profile
  • 飯塚さき

    SAKI IIZUKA

    1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。『相撲』(同社)、Yahoo!ニュース、『Number』(文藝春秋)などで執筆中。新刊『どすこい!相撲と乗り物』が発売中。そのほか著書『おすもうさん直伝!かんたん家ちゃんこ』、『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』など。テレビ・ラジオ出演、講演多数。

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