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サーファー・トロピカル松村と
“大阪サーフィンサウンド”

Surfer Tropical Matsumura & “Osaka Surf Sound”

2025.11.21

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文・トロピカル松村

 

過去に日本のサーフィンレコードにフォーカスした物凄く私的な本を作った。その本の名前は『MY NIPPON SURFING SOUNDS』。本を作ろうと思ったきっかけは一枚のレコードを手にしたから。このレコードはとてつもない珍盤で、とにかく入手困難を極めた。かといってプレミア価格が付いているわけでもないことは加筆しておきたい。単純に世に知られていないというだけだ。それはトム&ジェリーという大阪のバンドによる1980年頃のもので、A面が「私はひとり」、B面が「明日…波…あるかな……」という曲で構成されている。特にB面はタイトル通り、文句なしのサーファー向けの一曲で、ボクの中ではこれ以上の“ニッポンサーフィンサウンド”にはこれからも出合うことはないだろうとさえ思っている(YouTubeに音源が上がっているから聴いてみてほしい)。

 

その曲を知ったきっかけは20年ほど前に関西屈指のラジオDJでありサーファーのマーキー谷口がFMラジオで流したからと記憶しているが、“海部のレギュラー最高や”という彼らの曲の歌詞がボクの脳裏に強烈に焼き付いた(海部のレギュラーとは四国某所にある、神聖なサーフスポットの波のこと)。そこまで真剣ではなかったのも要因かもしれないが、それからたびたび曲を探すも情報は一切なし。ようやくネットでレコードを発見したときにはこの曲を知ってから15年以上の年月が経ってしまっていた。そんなわけでボクはこれを機に、いつかはと目論んでいた日本のサーフィンサウンドを集めた本の製作に着手できたというわけだ。余談だが、関西サーファーのニッポンサーフィンサウンドといえばケン田村の「忘れておしまい」という曲が頂点に君臨していて、そんな曲も本で紹介していたりする。

 

本に掲載しているレコードはすべて自分が集めてきたもので、自費出版ゆえ、製作費においては大層苦労した。売れ行きはまずまずだったがそれでも十分満足で完全燃焼。それなのにたまにニッポンサーフィンサウンドを探してしまう自分がいて、気まぐれにレコード屋を巡ったり、ネットサーフィンをする日々が今も続いている。そんな調子でいると、実は最近、とんでもないことが起きた。フリマアプリの検索ワードにトム&ジェリーと打ったら、あれだけ長年探しても出てこなかった珍盤が、なんとまた一枚現れたのだ。値段は3500円ほど。まあそこそこしていた。一枚持っているし、本も作ったので、普通ならもちろんスルーである。でもボクは何故かこれを他の人に渡してなるものか、と謎の闘志が湧きあがり、またしてもトム&ジェリーのレコードを手にすることにしてしまった。

 

フリマアプリではお馴染みの取引連絡で、いつものように定型文を送ろうとしていたら、先に出品者から「まさか売れると思っていませんでした」とコメントが来たので、ボクは「日本で一番好きなレコードなんです」と返すと、なんと「このレコードジャケットに写る左側の人物は私なんです」と返信がきたのである(!)必要のない二枚目を買ったことで、ボクはまさかのトム&ジェリーの田中満さんと出会えたのだ。以降いろいろと話を伺い、このレコードをバンド解散の記念に1000枚限定で京都のインディーレーベルにて製作したことや、ジャケット右側に写る人物はすでにお亡くなりになられていることなどを教えてもらえた(YouTubeの音源は田中さんが自らあげられていたようで、失礼にもなぜこの珍盤がアップされていたのかという疑問も解決した)。その右の方はドラゴンターボという名で、バンド解散後もレゲエ歌手として活躍したと聞き、ボクは彼のことを調べてみた。すると名うてのレゲエフリークたちが彼を称えた記事や動画があり、レゲエシンガー時代に最も影響を与えた曲がケン田村「忘れておしまい」のカバーソングだったこともわかった。

 

たった1000枚作ったレコードでも、数十年経ち、ボクのようにそれを発見する者がいる。「忘れておしまい」のカバーもレゲエの支持者たちによって、かつての短冊CDがレコードで再発されたようだ。そっち方面にも好き者がいるということだ。製作数が限りなく少量だろうと、大ヒットとはいかずとも、何かを残すと、いつかどこかで誰かに見てもらえることをこの出会いを機に身をもって実感することができた。少部数で作ったボクの本『MY NIPPON SURFING SOUNDS』も、少し報われた気がした出来事だった。

 

B面「明日…波…あるかな……」はドラゴンターボの初期作。西川たかゆき名義だ。A面が出会えた人物、田中満による作曲。フォーキーなサウンドとヴォーカルがたまらなく素晴らしい。

田中さんに私の本を送ると、丁寧な手紙と、レザークラフトの贈り物を送ってきてくださった。しかも私のブランドの刻印入り。素晴らしいレコードをこの世に残してくれてありがとうございます。

Profile
  • トロピカル松村

    TROPICAL MATSUMURA

    1988年生まれ。兵庫県芦屋市出身。

    サーフィン雑誌編集者を経て、フリーライターに。日本のサーフィンサウンドを集めた本『MY NIPPON SURFING SOUNDS(銀河出版)』の著者。主な仕事にジーンズブランド〈CRT〉のディレクション、『昭和40年男』のWebディレクション、『POPEYE Web』の編集執筆などがある。昭和西海岸ブーム期の私設博物館「さんかくなみ」を2025年7月にクローズ。

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