ザ・コンランショップのVMDアドバイザリー
「ザ・コンランショップ」のVMDにアドバイザーとして参画
ロンドンに本社を構える、ホームファニシングショップ 「ザ・コンランショップ」。 日本のローカルマーケットを意識したスタイルへとモダナイズしたいというクライアントからのオーダーに対し、VMDアドバイザーとして南雲が参画。彼らと並走しながら日本の「ザ・コンランショップ」らしい店舗表現のあり方をあらためて追求、その「現場力」を高めていった。
VMDアドバイザーという立場から日本の「ザ・コンランショップ」としての店舗表現をモダナイズし、実際のVMD設計にも関わりながらザ・コンランショップのスタッフの「現場力」を高め、プレゼンテーションの起点を「売り場主導」に変えていく。
長い時間を経て洗練されていった「店舗表現のVMDルール」がスタッフのマインドに深く浸透しており、逆にパーソナルで柔軟な発想力を起点にした、ザ・コンランショップらしいプレゼンテーションのユーモアさが失われつつあった。
クリエイションのノウハウではなく、「意図を持った思考のプロセス」の重要性を共有するため、スタッフとの深いコミュニケーションを繰り返しながら、状況やステージに合わせ必要に応じたプロセスを提案。
もともと具体的なゴールを設定していたわけではなく、VMD担当チームメンバーとコミュニケーションを取りながら課題を整理し、必要な知見をシェアしていくというイメージでした。スタッフといろいろ話をしてみると、インテリアに対する知識は素晴らしく深く、何よりも誰もがブランドをさらによくしたいという熱意を持っていました。ただし、ローンチから長い時間を経て洗練されていた「ザ・コンランショップのVMD」へのこだわりが強く、よく言えば「普遍的」、厳しく言えば「機械的」なスタイルでプレゼンテーションが展開されていました。そのことでパーソナルで自由な発想力を起点にしたザ・コンランショップらしいプレゼンテーションのチャーミングさが少し失われているな、という印象を持ちました。オーダーの中には「日本のマーケットにフィットした表現を開発したい」というニーズももちろんありましたが、それもまたマーケットインという考え方がベースではなく、プレゼンテーションのクリエイションの主体を売り場のスタッフにしたい、ということだったと理解しています。
そこで最初に取り組んだのが、コンポジションの基本を学ぶためのワークショップでした。A3の紙の上に複数の小さな板を使って小さな空間を構成してみるのですが、制約条件もセオリーもないので、当然正解はひとつではありません。今までは具体的なシーンの設定という制約条件があり、できる限り美しく見せるというセオリーをベースにプレゼンテーションを組み立ててきたスタッフのみなさんは、当初かなり戸惑っていたようです。特にインテリアはファッション以上に決まりごとが多いプロダクトなので、「美しいプレゼンテーション」は作りやすくても、「ハズし」をバランスよく組み立て、チャーミングさやコントラストを演出するのが難しい。ただ積んでみるだけでは、そこにどうやっても意味は生まれないんです。そこでなによりも重要になるのが「何を、どう見せたいのか」という本人の意図。それはつまり「何を売りたいか。どうしたら売れるか」という、VMDにおけるクリエイションに必要不可欠な思考プロセスそのものなんです。柔軟な発想力とバランス感、そしてライブ感のある編集的思考を理解するという意味で、このワークショップがとても重要でした。
さらにその後取り組んだのが、店舗における実践です。スタッフのみなさんと一緒に、店舗でエディトリアル的思考を起点にしたプレゼンテーションを設計しました。そこで最も大切にしたのは「正解」を伝えることではなく、柔軟な発想を起点に「自分で思考する」ということ。例えば麻布台ヒルズにオープンした東京店では「オークと飴色だけ」というように徹底的に色数を絞ったり、新宿店では、コーディネートされた各スタイルをあまり触らずに、向きやクリアランスを調整することで回遊性の高い売り場を目指してみました。そもそも東京という街自体がノイジーな印象ですし、できる限りノイズを減らしたソリッドなプレゼンテーションにすることで、「何がおすすめ」されているのかがお客さまに伝わりやすくなるから。かつては世界中どこの店舗でも同じ印象であることが重要視された時代もありますが、今はその土地のカルチャーに合わせてチューニングされたプレゼンテーションが求められています。さらに「その店舗を訪れるお客さまが何を求めているのか」という本質的なニーズをVMDのクリエイションにおける重要なアルゴリズムのひとつとして取り入れないといけない。つまりVMDに「レシピ」はないということです。食材、場所、人、状況によって、その場の空気を読んで、感覚的にチューニングし続ける必要がある。VMDとは「指示やフォーマットに合わせて正確に組み立てる」ものではなく、「変化に敏感に対応し、自発的に思考」するべきものなのです。
このプロジェクトがスタートして1年。現在は全国各地の店舗で、同じようにスタッフと並走してVMD設計を続けていますが、少しずつスタッフのみなさんの理解が深まってきたという手応えはあります。
もうひとつ私がいつもスタッフのみなさんに伝えていることが、「もし、サー・テレンス・コンランったらどう考えるだろう」というイメージを持ち続けるということ。プレゼンテーションごとにスタッフのオリジナリティがあっていい。ただし、どれだけ違うアウトプットだとしても、必ずどこかに「サー・テレンス・コンラン」のユーモアなエッセンスを感じられること。それがお客さまへのプレゼンテーションの目的だし、VMDクリエイションにおいてなによりも大切なことだと考えます。
代官山店における日本有数のヴィンテージの花籠コレクター斎藤正光氏の展示をディレクションなど、私自身の担当クリエイション領域も拡大しています。さらにスタッフのみなさんと並走しながら、個々の「現場力」を磨き、日本の「ザ・コンランショップ」にしかできないVMDクリエイションのあり方を追求して行きたいですね。