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井田幸昌が作品をつくり続ける理由。 井田幸昌が作品をつくり続ける理由。
2023.11.30

井田幸昌が作品をつくり続ける理由。

現在、「京都市京セラ美術館」にて、国内外で活動する画家・現代美術家の井田幸昌さんによる初の国内美術館での展覧会『Panta Rhei|パンタ・レイ-世界が存在する限り』が開催されています。この展示に際して、〈ビームス カルチャート(BEAMS CULTUART)〉とコラボレーションアイテム〈YUKIMASA IDA × BEAMS CULTUART〉を3型制作しました。それを記念して、井田さんのアーティストとしての活動のルーツを探ってきました。

PROFILE

井田幸昌
(画家、現代美術家)
1990年、鳥取県生まれ。2019年、東京藝術大学大学院油画修了。2016年に現代芸術振興財団主催の「CAF賞」にて審査員特別賞受賞。2017年には、世界的な作家とともにレオナルド・ディカプリオ財団主催のチャリティオークションへ史上最年少で参加。2018年には「Forbes JAPAN」主催「30 UNDER 30 JAPAN」に選出。 2021年には〈ディオール〉とのコラボレーションを発表するなど多角的に活動。制作は絵画のみにとどまらず、彫刻や版画にも取り組み、国内外で発表を続けている。
Instagram:@yukimasaida

ご縁があって制作した〈YUKIMASA IDA × BEAMS CULTUART〉のコラボレーションアイテムは、「ビームス 六本木ヒルズ」「ビームス ニューズ」「ビームス ジャパン 京都」の3店舗で、展示会前に先行発売した。

出会ったものを自分らしく忠実に描きたい。

ー現在、開催されている『Panta Rhei|パンタ・レイ-世界が存在する限り』はキャリアの集大成的な内容になっていますよね。これを踏まえて、まずはどのように作家を目指していったのかについてお伺いしたいのですが、開催地の「京都市京セラ美術館(京都市美術館)」は井田さんが作家を目指すきっかけにもなった場所だそうですね。

井田:そうですね。17歳のときに開催されていた『大エルミタージュ美術館展 いま甦る巨匠たちの400年の記憶』でモーリス・ド・ヴラマンクの作品を観て、感動して1〜2時間そこから動けないぐらいのショックを受けたんです。その独特の荒々しいタッチは自分がやりたいことに近いものでしたし、こんな風に描けたら楽しいだろうなって。すごくスピード感がある絵で、まるで一瞬を切り取ったようだったんです。もう10年以上前のことなんで細かいことは覚えていないんですけど、そういう部分にすごく影響を受けました。

ーその後、どのようにご自身のスタイルを構築していったんでしょうか?

井田:やはりスキルを磨かねばいけない時期というのも自分にもあって、いま思えば面白味のない絵を描いていたと思います。ただの上手な絵とでも言いますか(苦笑)。それでインドを旅したり、いろいろなことを経験する中で、自分がやっていることは一体何なんだろうか、すごくつまらないことをやっているんじゃないか、と考えるようになって。評価もされなかったですしね。それで旅から帰ってきたときに、自分が本当にやりたいことを追究して、自由にやってみたら楽しかったんですよね、絵を描くことが。それが今に繋がるきっかけになっています。

井田:とは言っても、今も自分のスタイルは確立されていないと思いますし、逆に何かに縛られないというのが自分らしいと思っています。水のように臨機応変に形を変えていきながら、今後も表現していきたいと考えていますね。

ーたとえば、展示されているポートレートシリーズなども抽象的な絵だと感じるのですが、写実的な表現と抽象的な表現について、井田さんはどう向き合ってらっしゃるんですか?

井田:写実的、抽象的って言葉が存在していますけど、同時にその言葉が持つイメージに縛られているとも思うんです。すごく簡単な話ですが頭の中に流れてくる色や状態をそのままキャンバスに映し出すことができれば、それは写実的じゃないですか。目の前にあるものを模写しました、それは虚像なのかもしれません。その正確な模写は写実だと言えるのだろうか? そんな逆説が成立してしまう。

井田:では、ぼくがやりたいことは何かというと、出会ってきたものを自分のフィルターや経験、時間を通して忠実に描くということなんです。特に時間にはすべてが含まれますよね。いろんな情報が含まれた状態の先に出てくるビジュアルが、果たしてリアルである必要性があるのかどうか。そういうことを考えながら絵を描いているので、ぼくは『すべて写実』と言い続けているんです。

作家としてできることはやるべきだと思う。

ー今教えていただいた写実の表現には、井田さんのテーマでもある“一期一会”が重要じゃないかと感じたんですが、このテーマにいたったのは何歳くらいだったんですか?

井田:21、22歳くらいですかね。先ほどお話したインドの旅は初の長期海外旅行だったんですけど、現地でホームレスやガイドの人とかいろんな人に会ったんです。帰国後に旅を振り返ったとき、最初に思い出したのはそんな人たちのことでした。彼らとは、またインドに行ったとしても会えないだろうなと。生死に関わらず会えなかったら、存在を認識できないわけですよね。だから、まずはそれを描き留めようと思ったんです。それで描いているうちに、ふと“一期一会”という言葉が落ちてきたんですよね。そこには時間による刹那性だとか、そういった意味合いもあります。

ー今も井田さんにとって人との出会いはインスピレーションを与えられるものですか?

井田:もちろん。人との出会いは欠かせないですよ。仮に世界にぼく1人しか存在しなかったら、展覧会なんて開催しないわけじゃないですか。人に観てほしいという願望があってやることで、こういうことは人間しかしませんよね。だからこそ出会いは大事だと思います。

ー出会いという意味では、井田さんは非常に広い交友関係をお持ちですよね。SNSに写っている人を見ると驚いてしまうのですが、どのように人間関係をつくっているんですか?

井田:今回の展示でも山田孝之さんや城田優さんが音声ガイドを担当してくれているんですけど、本当に皆さん絵で繋がっている方々なんですよ。交友関係は家族以外、全員絵が起点になっています。絵を描いて発表することで、お会いできてお付き合いしてくださるのですごく嬉しいですね。ちなみに音声ガイドの内容は普通のものと異なっていて、あえてユニークな内容にしているのでぜひ体験していただきたいです。

ー展覧会には彫刻も展示されています。井田さんが大学で専攻されたのは油画ですが、立体をつくるのは彫刻家でもある父親の井田勝己さんからの影響もあるんですか?

井田:幼少期、親父のアトリエが家から歩いて5分程度のところにあって、そこで遊んだりしていたので芸術と触れる機会の多い家庭で育ちました。その後、10代後半で絵の勉強をしていたときに親父から言われたのは、「立体作家は食えないから画家になれ」ってことでした。でも画家もしんどいんですよ(笑)。

でも、ある時期、自分が何をやればいいのかわからないことがあって、そのときに彫刻をやってみたら楽しかったんですよね。幼い頃の原体験というか楽しかった思い出が頭の片隅にあって、それが思い起こされて立体もちゃんとやろうと思ったんです。それに同じことだけずっと続けるのが苦手なタイプでもあるので、何か新しいことにチャレンジしたいと思って立体作品を始めました。

井田:作家がやるべきことって、もちろん自分がやりたいことだと思うんですけど、同時に自分ができることはやるべきだとも思うんですよ。ただできることを淡々とやっていく。そうすると突然自分のやりたかったことに行き着いたりもするわけです。そういうことの積み重ねなのかと思いますけどね。立体作品は自分にとってまさにそういう存在です。

絵は自分よりもずっと偉い存在。

ー2017年には「レオナルド・ディカプリオ基金」のチャリティオークションへ最年少で参加していますよね。ディカプリオさんとのエピソードは非常に有名ですが実際どうでしたか?

井田:それも絵が繋いでくれたことですね。前澤友作さんがネットに上げた絵を見て連絡をくれて、あくる日にはパーティに参加してディカプリオさんからハグされて。さすがに映画の世界みたいだと思いましたけど(笑)。思い起こせば、あのとき何かスイッチが変わった感はありましたね。

井田:ただ、そういう華やかな時間はめったに自分の生活にはなくて、ほとんどはスタジオにこもって1人で一喜一憂しながら作品に集中して、疲れ果てて帰宅して、起きたらまたスタジオへ行くってことの繰り返しですからね。でも、そのスタジオで過ごす時間が自分にとっては宝物だったりするので。そこでできた作品が外に出ていくことによってぼくもくっついていくような感じですね。絵がぼくを引っ張ってくれているというか。この先もずっと絵がぼくよりも偉いところにいて、追いつかないんだろうなと思います。追いつきたくもないですけど。

ー絵の方が偉いとは、どういう意味ですか?

井田:存在としてぼくよりも長生きするし、幸せにする人数が絶対に自分より多いじゃないですか。今、ここにぼくはいますけどこれも幻想ですから。別にぼくがどんな人間だったとしても、生きていようがどうだろうが、絵の立場からすれば関係ないですからね。自分がいなくなっても絵だけは残りますし。

でも、ぼくも生きていかなくちゃいけないし、できるだけ楽しくやりたいからいろんなことにチャレンジしますけどね。やりたいこともありますし。ただ、それを結実させてくれるものは、結局何かをつくるってことなので。そこに集中していけば、先ほどのディカプリオさんのパーティのように夢の一夜みたいな楽しい日が待っていたりするわけです。まぁ、どうしても目立つエピソードが一人歩きしがちですけど、ぼくはこれまで出会った人全員に心から感謝していますよ。そのすべてが地続きに繋がって今がありますから。

INFORMATION

井田幸昌“Panta Rhei|パンタ・レイ-世界が存在する限り”
会期:〜2023年12月3日(日)
場所:京都市京セラ美術館 本館 南回廊2階

  • Photo_Masashi Ura
  • Text_Ryo Tajima(DMRT)
  • Edit_Shuhei Wakiyama(HOUYHNHNM / Rhino inc.)
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