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日本各地に数え切れないほどある居酒屋。身近な存在なだけに、自分のなかで“いい居酒屋”の基準を持っていて、その楽しみ方を心得ている大人って洒落てない? そんな考えのもと、「BEAMS JAPAN(ビームス ジャパン)」でポップアップイベントを開催している、アートディレクターであり、居酒屋探訪家としての顔も持つ太田和彦さんを訪ねました。いい居酒屋の探し方からひとり飲みの魅力まで、若者や居酒屋初心者にとって、粋な大人に成長できるヒントが満載のお話です。
1946年、北京生まれ。長野県松本市育ち。1968年、「資生堂」に入社し、宣伝部でデザイナーとして活躍。写真家の十文字美信と組んで革新的な「シフォネット」シリーズを発表した。1989年に独立し「アマゾンデザイン」を設立。2000年から2007年に、東北芸術工科大学教授を務める。主な著書に『ニッポン居酒屋放浪記』(新潮文庫)、『ひとり旅ひとり酒』(京阪神Lマガジン)、『日本の居酒屋——その県民性』(朝日新書)、『日本居酒屋遺産 東日本編』、『日本居酒屋遺産 西日本編』(ともにトゥーヴァージンズ)など。テレビ番組「太田和彦のふらり旅 新・居酒屋百選」(BS11)が放送中。
太田さんはこれまでにさまざまな居酒屋に足を運ばれていますが、そもそも、居酒屋にのめり込むことになったきっかけはなんだったんですか?
太田 23歳から社会人として働きはじめて、仕事が終わったら先輩に連れて行ってもらうようになったのがきっかけ。会社のひとたちと飲むから、話題は仕事の内容がほとんどだったけど、社内では話せない本音を吐き出して笑い合っていて。居酒屋はなんていい場所なんだと思いましたよ。
会社の同僚や先輩たちと会話を楽しむ場所として、居酒屋のよさを知ったんですね。
太田 その当時は、酒や肴より、会話を楽しむために行っていたくらい。そこでの話題は、居酒屋の外ではペラペラ話さないっていう、大人のルールもありました。会社が銀座にあってね。いま思えば、銀座の居酒屋で飲んでいたのもよかったと思います。
銀座の居酒屋には他と違うよさがあったんですか?
太田 銀座は高級バーとかクラブが多い街だから、お客は居酒屋でも姿勢よく飲んでいるんですよ。礼儀があって紳士的だけど、まったく気取っていない。逆に大声を出したり怒鳴ったり、乱暴な本音を出していくのが新宿。礼儀を守りながら本音を言い合う、大人のお酒の飲み方を銀座の居酒屋で学んだんですよ。そのおかげで、いまでは居酒屋の居心地のよさも魅力に感じています。
居酒屋の“居”は、居心地の“居”、居場所の“居”と『日本居酒屋遺産 東日本編』でも書かれていますね。
太田 その居心地のよさを感じたのは、まだ「資生堂」で働いていた40代のときでした。用事があって初めて月島に行ったんですよ。そのころの月島なんて、子どもたちがパンツ一丁になって、原っぱで三角ベースをやってるような、戦後が残っていた時代。銀座のすぐ隣に、こんな街があるなんて知らなくて驚いちゃった。それで「岸田屋」という大衆居酒屋に冷やかし半分で入ったんですよ。カウンター席しかなくて、飲んでいるお客は現場で働いているひとたちだけ。店に入るとジロッと見られたけど、1時間くらい飲んでいたら、すごく心が落ち着きまして。
初めてのお店にひとりで入ると、気まずさを感じてしまいそうですが、どこに居心地のよさがあったんですか?
太田 ぼくが所属していた宣伝部は、流行をつくり出すのが仕事でした。時代の一歩先をいって、新しいものを取り入れることに価値がある。でも、「岸田屋」で居心地のよさを感じた理由は、ノスタルジーな空間にあったんです。それで、新しいものだけに価値があるんじゃなくて、古いものにもよさがあると気づきました。それから居心地を求めて、老舗の居酒屋を巡るようになったんですよ。
そこから居酒屋探訪家としての活動がスタートするんですね。
太田 そう。雑誌の連載で日本中の居酒屋を回ったのは、発見に満ちた旅でした。居酒屋ほどその土地の産物、風土、歴史、ひとが表れている場所はないでしょうね。
そんな日本の残すべき文化を若いひとにも伝えたいと考えているんです。さまざまな土地を飲み歩いた太田さんから見て、初心者が居酒屋をハシゴしやすい、おすすめの都道府県はありますか?
太田 盛岡、松本、金沢、神戸、高知、長崎、鹿児島あたりに行ってみるといいと思いますよ。もちろん京都もいいけど、あそこはまた別ジャンルですね。
そういった土地を初めて訪れたとき、いい居酒屋かどうか見極めるためのおすすめのリサーチ方法はありますか?
太田 昼から街を歩き回って、探しておくの。ほとんどの街には30年以上続いている居酒屋があるんです。いまは駅前が栄えていても、昔は通りの向こうが賑やかだった場所もあるので、そこを歩き回って見当をつけておく。そうしておけば、夜になってからどのお店に入ろうかと迷いません。
いまの時代はネットの口コミを頼りにすることが多いですが、太田さんは自分の足で探すんですね。
太田 ネットで調べたお店に行ったことはありますよ。でも、ハズレばかりであてにならない(笑)。口コミを頼りに行っても、それはただ情報を確かめる作業になってしまって、つまらないでしょ? ネットの情報だけを追いかけると進歩しないし、与えられるだけで、なにもできないひとになってしまうから。居酒屋は自分を育てる場所でもあるから、自分の価値観で発見するのがおもしろいんですよ。もちろんハズレることもありますけどね(笑)。
とはいっても、居酒屋のどこを見て判断していいか分からないひとも多いと思います。そんな方に向けて、太田さんがアドバイスするなら?
太田 古い建物で長年営業していて、開店とともに常連が来ているお店は入ってみる価値がありますよ。特に、この10年くらいで気づいたのは、建物のよさ。酒も料理も普通だけど、なぜか行ってしまう居心地のいいお店があるんです。居心地のよさは、大将や女将の人柄のよさもあるけど、内装が心を落ち着かせてくれるんでしょうね。
内装のどんなところを見ているんですか?
太田 まずは床。お店によって違うし、何十年も踏まれている床に愛着が湧いてきます。ぼくは嫌味な客だから(笑)、カウンターに座ったらテーブルの厚みや材質も確認しちゃう。あと、さっきのいい居酒屋の見分け方にも繋がるんだけど、家族経営のお店もおすすめです。お店の上に家族で住んでいることが多くて、自分の家だから掃除が行き届いている。古い柱でもピカピカになっていると、そこにもお店の価値を感じるんですよ。
建物の魅力は『日本居酒屋遺産』でも語られていましたね。ところで、料理はどうですか? 注文する際の頼み方や順番など、気をつけていることを知りたいです。
太田 席に座ったら、とりあえずビールを注文して、お通しを食べながらじっくり品書きを見て、3品くらい目星をつけています。季節ものや特別に入荷した日替わりが書いてある黒板は、必ずチェックしているかな。あと、注文するときに大事なのは、ひと品頼んで、8割くらい食べてから、次を注文すること。いっぺんに3品も4品も頼むのは野暮ですよ。
寿司屋で言うところの玉子のように、いい居酒屋を目利きするためのメニューはあるんですか?
太田 お店によってメニューが違うので、これといった判断基準はないけど、わざわざ“自家製”って書いてあるメニューは、力を入れているってことかと。塩辛とか漬物とか、お店ならではの味があるのは、いいお店ですね。
そういった自分なりの作法があれば、はじめて行った居酒屋でもなにを注文するか迷わなくなりますね。
太田 あと、常連が食べているものもチェックします。常連が座る前に注文するものほど、安くてうまくて飽きない料理ということですから。隣のひとが食べていておいしそうなら、「それ、ぼくもお願いします。マネさせてもらいます」って言うと、「おう」って返してくれたりして。そんなやりとりは、大人の振る舞いとして粋ですよね。
先ほど、“本音を言い合える場所”というのが居酒屋のよさのひとつとおっしゃっていましたが、ひとり飲みの魅力はどんなところにありますか?
太田 誰にも気を遣わずに料理を注文できるし、話し相手がいないから、いろいろと考える自分の内面が肴になるんです。それに、馴染みのお店になれば、職場でも家でもない、第三の居場所ができるわけ。働いているひとが休む場所として、居酒屋ほどいい場所はないですよ。喫茶店だったらコーヒーを飲んでも30分くらいが限度だけど、居酒屋は、飲んで食べていれば、1時間でも2時間でもいられますからね。
行きつけのお店を持つには店主と仲良くなる必要があると思うのですが、太田さんなりの秘訣はありますか?
太田 大事なのは注文すること。最初からペラペラと話しかけるのはダメですよ。店主からすれば、見知らぬひとがひとりで入ってくると、少なからず警戒しますので。わたしは普通の客だから、ご心配なくって雰囲気を見せて、大人しく飲むんです。でも、30分も経って黙っているのもおかしいから、「おいしいですね〜」とひと言話しかけてみるの。すると、返事をしてくれて警戒心が解かれますよ。でも、そこで猛烈に話し始めない。次の注文で「じゃあ...」なんて迷っていると、「これ、どうです?」とあっちから話しかけてくれると思いますよ。
気負わず飲みに行けるお店があると、ひとり飲みもしやすいですね。
太田 場末の安い焼き鳥屋でいいから、顔馴染みの居酒屋があるといいですよ。彼女と一緒に店に入って、「お! 太田さん」なんて大将から声を掛けてもらえると、頼りになる男と思ってもらえるかもしれないし(笑)
ちなみに女性の場合は、どんなお店がおすすめですか?
太田 女性がひとりで行くなら、女将さんがやっているお店かな。隣にオヤジがいれば「手を出しちゃダメよ」って、女性同士だから気持ちが分かって、女将さんが守ってくれるから。それならひとりでも安心して過ごせると思いますよ。
太田さんはひとりで飲んでいて、他のお客さんと仲良くなることもあるんですか?
太田 居酒屋は出会いの場所でもありますので、もちろんありますよ。『日本居酒屋遺産』を企画して、いろんな出版社に持ち込んだけど、どこからも断られちゃって。そんな時期に京都で飲んでいたら、声を掛けてもらって、話してみたら出版社のひとだった。それが縁で発行に結びついたんです。
そんな裏話があったんですね。最後にひとり飲みに挑戦したい若者へアドバイスをもらえますか?
太田 まあ、若いうちからひとりで居酒屋に行って、ツウぶる必要はないですよ。最初に話したとおり、居酒屋は心を裸にして、思っていることを話し合える場所だから。ただ、調子に乗って騒ぐのは厳禁。お互いの価値観を確認するために居酒屋はあると思うんです。
【会期】
2024年1月10日(水)〜1月31日(水)
【場所】
ビームス ジャパン(新宿)
ビームス ジャパン 京都
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カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。