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画家、文身師、スケートボーダーとして活動する野坂稔和さんの個展『横乗戯画展』と、その野坂さんからの紹介がきっかけとなった、染め職人YUKIさんのポップアップイベント『DYE』。この2つの催しが、7月31日(水)まで「ビームス ジャパン(新宿)」で開催中です。絵と染め物。表現こそ違っても、モノづくりという共通項で繋がり、その独自の世界観を認め合うこの先輩・後輩に、出会いから約10年という2人の関係性、そして自身の作品について語っていただきました。
幼少の頃からプラモデル製作、オブジェ制作、絵画、スケートボードに夢中になり、10代、20代をプロスケートボーダーとして過ごす。現在は画家、文身師、スケートボーダーとして活動し、主に個展、グループ展などで作品を発表。また国内外のさまざまな企業、ブランドなどにアートワークを提供し、主にスケートボードデッキの作画を数多く手掛ける。作品の制作における根底には、江戸から明治にかけて活躍した日本の絵師への尊敬と憧れがあり、主に河鍋暁斎の精神性、画法の研究、継承をライフワークとする。
Instagram:@toshikazu1
大阪芸術大学テキスタイル染織学科で染織を学び、4年間の内1年、カリフォルニアカレッジオブアーツに留学。アメリカの染織、シルクスクリーン、カルチャーを学び帰国し、卒業後も精力的に作品づくりを続ける。2013年にタイダイ染めブランド〈D.Y.E(ダイ)〉をスタート。いままでに見たことのない唯一無二の柄にファンも多く、〈BAL(バル)〉〈CHALLENGER(チャレンジャー)〉〈Hombre Nino(オンブレニーニョ)〉などとタッグを組み、タイダイ染めのコラボアイテムを制作することも。
Instagram:@yukidye
まずは、2人の関係性から伺いたいと思います。
野坂 もともと、ぼくの個展にも来てくれていたそうで、共通の友人を介して知り合ってから約10年ぐらいの仲ですね。大阪から上京してきた彼女の「自分の技量を高めていきたい」というモノづくりに対する強い想いを受けて、技術的な部分も含めて力になってあげたいなっていうところで、できる限りのサポートはさせてもらっています。ここ数年は彼女も売れっ子になられたので(笑)、オリジナルブランドの〈D.Y.E〉でぼくがグラフィックを描かせてもらったりもして。モノづくりを通して一層繋がりが深くなっていると思います。
YUKI 中学校時代、スケーターの先輩に野坂さんのことを教えてもらったんです。ただ一方的によく知っていたという感じで、当時は第一線で活躍しているスケーターであり、文身師としても活動しているひとという印象でした。先輩から、みんな野坂さんに(刺青を)入れてもらっていると聞いていたし、東京に引っ越すなら絶対に訪ねた方がいいと言われていて。
別メディアでのお2人のインタビューを拝見していると、“ある時期に、サンフランシスコでひとつのターニングポイントを迎えた”という共通点が見えてきました。お互いにシンパシーを感じる部分はありますか?
野坂 常にやりたいことに全精力を注ぎ込んでいるところですかね。あとは染め物と絵の違いこそあれど、その技術は先人たちが築き上げてきたものなので、それをひと通り分かった上で自分の内なる世界観を追求しているところ。
今回のぼくの展示でいえば、スケートボードを題材に日本古来の技法で描くことは、いまを生きてる自分にしかできないことだと思うし、YUKIさんにもそういった自分だけの表現を変わらず追い求めてほしいという気持ちはあります。
YUKI 私もモノづくりに対する熱量かな。野坂さんからは「惰性ではやらない」「自分が完成したと思える瞬間までこだわり続ける」といった心構えの部分を教えてもらいました。
野坂 へぇ…。
どうやら当の野坂さん自身が、ピンときていないようです(苦笑)。
野坂 その結果、今日も開催初日の朝まで作品づくりをして、しかもオープンギリギリまで設営して迷惑をかけている手前あれなんですが…。まぁ、ひとにかけた言葉って、実は自分自身に言い聞かせるためにご先祖様が空の上から言っているんですよね。なので今後は、できる限り期限も守るように頑張ります!
一同 (笑)
あと、YUKIさんはパンクロックが元々好きで、その後グレイトフル・デッドと出会ってヒッピー・カルチャーに傾倒されたそうですね。野坂さんが影響を公言している浮世絵師の河鍋暁斎は、多くの戯画や風刺画を残していますし、ある意味、“反骨精神”が共通点としてあるのかなと感じました。
YUKI たしかに。
野坂 そう言われてみればそうですね。スケートボードも結局のところ、社会のルールに従わないというか、そこから自分の世界をどう切り開いていくかっていう部分がありますし。
周りに左右されずスタイルを貫く。その根底には、そもそも反骨心があるのではと思った次第です。
野坂 ただ作風としてのスタイルに関していえば、それを追い出した瞬間に遠のいていくと思うんです。そうではなく24時間変わらぬ生き様として、腹の底から吐き出して生み出したものはすべて作品に宿ってくるじゃないですか。それを反骨心と呼ぶなら、そうなのかも。
YUKI そうですね。私の場合はまだスタイルなんて気にしている余裕もなく、ただひたすら手を動かしているだけですが。
YUKIさんにとって、野坂さんはどういった存在でしょうか?
YUKI 昔もいまも変わらず“ヒーロー”です。出会って10年ぐらい経ったいまでも、野坂さんからいろんな表現方法であったり、つくる過程のアドバイスとして、自分では思いつかない斬新で新鮮なアイディアをいただいています。野坂さんとの出会いがなかったら、いまの自分はなかったんじゃないかなと。
逆に野坂さんから見たYUKIさんは、どんなひとですか?
野坂 まず勉強熱心なところがいいと思います。ある程度年齢を重ねると、自分なりのやり方だけではどうしても行き詰まる時が来るんです。それに備えて、若い頃からいろいろと見て勉強しておいた方がいいとアドバイスしたら、その翌週にはすでに行動に移しているスピード感が彼女にはあって。たとえいますぐ形にならずとも、学ぶことは未来の自分に対して投資であると理解できているんですよね。それに、モノづくりにおいて、自分の世界を追求していく姿勢もとても共感できますし、このままいけばもっと活躍するひとになる気がしています。
YUKI (恐縮しつつ)いえいえ。私ももっと頑張ります!
ここからはそれぞれの展示についてお話を聞いて行きたいのですが、まずは野坂さんから。「ビームス ジャパン(新宿)」5階の「B GALLERY(Bギャラリー)」で開催中の『横乗戯画展』は、身近な生物たちがスケートボードやサーフィンなどを楽しむ『横乗戯画』シリーズの最新作を中心に、約20点の作品が展示販売されています。そもそも『横乗戯画』というのはどういったシリーズなのでしょうか?
野坂 戯画自体は、ぼく自身のオリジナルの発想というわけではなく、一番影響を受けている河鍋暁斎さんをはじめ、その幼少期の師匠である歌川国芳さん、またさらにその上の世代の葛飾北斎さんといった先人たちも描いていたもので。もっと時代を遡れば12世紀後半、京都・高山寺にあるカエルやウサギを擬人化した『鳥獣戯画』が有名ですね。
カエルやウサギが人間のように二足歩行で相撲を取っていたりするアレですね。ということは『横乗戯画』も、そういった先人たちから連綿と続く表現の系譜であると。
野坂 はい。ぼくは先輩絵師たち、特に町絵師と呼ばれる方々の画法と技法と心意気を継承できるものならして、そしてその世界観をいま一度現代に復活させて、世界に伝えたいと思っています。それが世の中のためだと信じていますし。
なるほど。その上で今回、カエルやネズミ、リス、ネコなどのさまざまな生き物をモチーフに選ばれているんですね。
野坂 北斎さんだったらネズミ、国芳さんなら猫、暁斎さんはカエルをよく描いていて、“稔和といえば○○”というモチーフがいつかは欲しいと思っているんです。ただそこに辿り着くには、技術的にもいまだ到底及ばない。それを理解した上で、それでもアタックし続けていたら、どんどん上から(アイデアが)降りてくる瞬間があって。「あ、ヒキガエルがスティルフィッシュグラブでエアー飛んだら、めっちゃ格好いいかも!?」とか。で、それを片っ端から描いていったのが今回の作品たちです。
生き物たちがワチャワチャしている光景も非常にファニーです。
野坂 本当は、もっと風刺的な絵や反骨的な絵も描きたいんです。ただ、受け手である見る側が、それについてこれない。いまって日本全体が元気ないですよね? ぼくからすると「これは笑いなんだよ」っていうネタも、見る側のマインドがよくない方向にあるとバッドなものに受け取られてしまうのがいまの世の中の風潮だと思うんです。
「分かるよね?」という、こちらの感覚を相手にも理解してもらうことの難しさはあります。
野坂 そう。なので、まずは平穏な感覚を取り戻してもらうことが先決で、そのためにはリラックスして、クスッと笑って見てもらえる絵が必要だなと。
そこで戯画というスタイルを選んだわけですね。
野坂 あと今回の展示に関しては、身近な動物…いや、生きとし生ける者の解放と地位の向上というテーマがあります。いまの世の中は人間が生物の長として君臨して、他の生き物の方々をないがしろにしていると思うんです。でも、それは違うだろ!と。最終的には、すべての生き物が友達になれるような世の中を目指すっていう想いが込められています。
すごくピースフルなメッセージが込められていることが分かりました。
野坂 ぼくはこれでも平和主義者ですから(笑)。
中でもリスは展示に際して制作されたTシャツにもプリントされています。野坂さんの中で重要な存在なんですか?
野坂 自分の中でここ3年ほど、空前のリスブームが訪れていまして。
リスブーム!? きっかけはなんだったんですか?
野坂 「リスに会ってみたいな」とは長年思っていたんですが、そこらにいるわけじゃないし、かといってペットショップからお迎えするのも違う。だったら野生のリスの元に自分が引っ越して共存関係を築きたい。そう思っていたら、北海道のニセコにあるぼくの実家から「庭のクルミの木にリスが来るようになった」と連絡がきまして。え、ちょっと待ってよと(笑)。
願ってもないチャンスが到来したと(笑)。
野坂 で、リスが一番活発に行動する秋口を狙って帰省してみたら、本当にいたんですよ、リスが。1日中ずっと観察していると、クルミやドングリを口いっぱいに頬張って、もう1匹のもとにせっせと運んで受け渡していたりするんです。その光景に「これがリスの世界観だよな」とものすごく感動して、今回の作品たちが生まれました。
野坂 たとえば、ずっとリスのことばかり考えていたら「三つ巴のリスっていいな」とアイデアが浮かんで、3匹のリスがワチャワチャと持ち寄った食べ物でお祭りしている光景を描いたり。こちらは三つ巴ならぬ『リス巴』(笑)。
今回は肉筆画やジークレープリントだけでなく、愛知県瀬戸市にある陶磁器工芸メーカー「中外陶園」協力のもと製作したオリジナル陶器も展示販売されます。モチーフは先ほどのTシャツのプリントの中で描かれているスケボー型のディッシュプレート。これがまたすごく可愛いですね。
野坂 幼少期、街でレストランのショーウィンドウにディスプレイされていた、お子様ランチのサンプルを見ては、「これを店で食べるのってどんな感じだろう? いつか食べてみたいなぁ」とずっと憧れていたんです。で、10代後半から「だったら自分でつくればいい」と思いながらも30年間が経ち、今回試しにBEAMSさんに言ってみたら実現しちゃいました。すごく嬉しいですし、実際に使うのが楽しみです。
注染染めの手ぬぐいも今回の個展に合わせて制作されたグラフィックです。
野坂 率直に言ってしまうと制作期間がとにかく無くて。もう明後日が締め切りとかってスケジュールの中で「何を描きたい?」となった時に、縦長な手ぬぐいの形状を活かした絵にしたいなと思ったんです。で、「そういえばスケートボードに乗ったドクロの手ぬぐいなんて見たことないからイイかもな」と。これだったら、友人のスケートボーダーたちも喜んでくれそうですし。
ギリギリの勝負だったと。道理で疾走感があるデザインだと思いました。
野坂 常にギリギリです(笑)。でもその割には、染め抜いた白と地の色がバランスよく一発で描けたので、気に入ってますね。
続いて、「ビームス ジャパン(新宿)」4階の「TOKYO CULTUART by BEAMS(トーキョー カルチャート by ビームス)」でポップアップイベントを開催中のYUKIさんにお話を伺いたいのですが、まず、ご自身のスタイルという意味で、他のタイダイ染めと違う点を教えてください。
YUKI タイダイ染め=ヒッピーというイメージが強いと思いますが、色にしろ染めのデザインにしろ、そうなりすぎないバランス感は常に意識しています。あとは、先ほどの話にも出た反骨精神じゃないですけど、パンクロックが好きで、アナーキーシャツに見られるようなブリーチ&染めの技法を最近は取り入れたりしています。それに対して、先輩に「自分らしさが出てきたね」と言っていただけたのが嬉しかったです。
日本にタイダイ染めの職人は日本に多いんですか?
YUKI アメリカで生まれたヒッピー・カルチャーが発信源ということもあって、ここ日本ではタイダイ染めをやっているクリエイターも、やりたいという志願者もともに少ないですね。最近はパソコンでなんでもできてしまう時代だから、タイダイ染めも機械で全く同じ物がつくれてしまいます。
ただ、わざわざ1個1個絞って染める場合、天然染料、化学染料のどちらを使うにしても、染まる過程や、どう絞ったらどういう柄が出るかを分からないと自分が思う表現ができないんです。私はそこまで分かるのにとても時間がかかってしまったし、いまだに日々勉強中で。道具もたくさん用意しないといけないし、要素が多すぎてとっつきにくいジャンルかもしれません。
染めのオファーを受ける際って、依頼側がデザインも決めるんですか?
YUKI 私の場合、オファーいただくのがほぼ知り合いのブランドで。それがたとえばスケボーをやられている方が手掛けるブランドなら、「こういう色で、こういう風に染めたアイテムを着て滑ってたら格好いいんじゃない?」っていう風に、こちらからデザインを提案するケースも多いです。プリントした後に染めて、クラックプリントをよりバキッと割るとか、そういうこともできますよ。
タイダイ染めを生業としていて、心躍る瞬間を教えてください。
YUKI 昔は、広げた瞬間に思ってもいなかった仕上がりで心躍るなんてこともよくありましたけど、いまは染める前からどういった仕上がりになるのか予想できてしまっているので、作業を終えて染めたモノを並べた瞬間。そこで感じる達成感が大きいです。あとは、ブランドとのコラボの場合、何百枚も染めたりするので、最初と最後で色ブレなく仕上がった時は嬉しいですね。
今回のポップアップイベントでは、YUKIさん自身が海外で買い付けてきた古着のTシャツに染めを施したものが展示販売されます。買い付けはどちらに行かれたんですか?
YUKI 当初の目的地はタイだったんですが、お隣のベトナムにも足を伸ばしつつ渡航期間は約2週間。こういった古着は首都のバンコクからちょっと離れた場所のマーケットの方が安くて量が多かったりもするので、そういう場所を回って買い付けてきました。
枚数も結構ありそうですね。
YUKI 50枚くらい買い付けてきたんですが、穴が開いていたり、ダメージが激しかったモノを除いた結果、ポップアップで店頭に並ぶのは40枚弱になると思います。
なぜボディに古着を使用することに?
YUKI シルクスクリーンプリントでも自分では到底できないような版数のものだったり、おもしろいモノが古着では多く見つかるし、何よりひとつとして同じデザイン・同じコンディションのモノがないっていうのがいいなと。自分の想像の範疇を超えてくるデザインに対して、どうやって染めようかと試行錯誤する勉強にもなります。ダメージがある古着でも、染めという魔法で蘇らせることもできますし。
今回のポップアップで販売されるアイテムに関して、染めにおけるこだわりを教えてください。
YUKI 通常は50枚あれば、その全部を同じパターンで染めるんですが、今回はそれぞれのプリントを活かしたかったので、グラフィックが引き立つよう1点1点計算して染めています。
ボディの状態によって染め方も変わってくるんでしょうか。
YUKI 水を含んだ状態で染料を乗せるとちょっとソリッドになるし、脱水をかけた状態だと丸みが出たりと、生地の水の含む量でもにじみ方が変わってきたりします。これはプリントも同じで、インクジェットとシルクスクリーンで違いがありますし、インクジェットでも白引きをしていないモノだとプリント部分も染まりやすかったりしますね。
なるほど。そして今回は、野坂さんとのコラボアイテムもリリースされます。
YUKI こちらは野坂さんに蝶を描いてもらって、そのプリントの上から染めを施しました。蝶をモチーフに選んだ理由は正直、あんまり覚えていないんですけど(苦笑)。腕に花と鳥の刺青を入れてもらっているので、その流れで「蝶って可愛くない?」みたいなノリで私が提案したような気がします。
こちらは古着でなく、コラボ用にタイトなボディを使用していますね。
YUKI 蝶って男性が着るイメージがあまりなかったので、だったら思い切って女の子が着たくなるようなシルエットにしようということで私が選びました。とはいえ最近はこういったTシャツをタイトに格好良く着ている方もいますので、男性にもぜひ!
すごくポップでキッチュな売り場になっていて、これまでとはまた違う客層にリーチできそうだなと。
YUKI いつものポップアップでは狙いを定めて来てくださるひとがほとんどでしたが、「ビームス ジャパン(新宿)」は誰でも入ってきやすいロケーションにあるので、どんなお客さんに来てもらえるのかすごく楽しみです。せっかくなら海外からのお客さんにも沢山来てほしいし、見てほしいですね。
会期:~ 7月31日(水)
場所:ビームス ジャパン(新宿)5階 B GALLERY
会期:~ 7月31日(水)
場所:ビームス ジャパン(新宿)4階 TOKYO CULTUART by BEAMS
カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。