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モントリオールを拠点に活動するシンガー・ソングライター、ジョナ・ヤノ。静けさの中に実験性を感じる音楽はここ日本でも支持され、1stアルバムから作品を取り扱う〈BEAMS RECORDS(ビームス レコーズ)〉でも大きな反響がありました。そんなジョナ・ヤノのことをもっと知りたくて、数年前から彼のファンだという「toe」のギタリスト山㟢廣和さんと対談してもらうことに。最初の出会いやお互いの音楽の印象、今年10月にリリースされたコラボレーション楽曲『(AND) NOW I SEE THE LIGHT』の裏話まで、肩の力を抜いて語り合ってもらいました。
1994年、広島生まれ。幼少期にカナダへ移住し、2016年から携帯電話での作曲&録音を始め、現在はモントリオールを拠点に活動するシンガー・ソングライター。繊細な詞と余白のあるサウンドで注目される一方、24時間の即興演奏などの実験的な取り組みにも意欲的。
2000年にポストロックバンド「toe」を結成。去る10月25日、結成25周年を記念した特別公演”For You, Someone Like Me“「この世界のどこかに居る、僕に似た君に贈る」を「両国国技館」で開催。音楽活動と並行して、インテリア/空間デザイナーとして「METRONOME INC.」を主宰する。
この取材に合わせて、〈BEAMS RECORDS〉の店内で行われたジョナ・ヤノのライブ映像。最新アルバム『Jonah Yano & The Heavy Loop』の収録曲『Devotion』と未発表曲を披露。
10月にtoeとジョナ・ヤノ両名義のコラボレーション楽曲『(AND) NOW I SEE THE LIGHT』をリリースされましたが、そもそもお二人はどうやって出会ったのでしょうか?
山㟢 結構前から僕が一方的にジョナのファンで、どうやって知ったかは覚えていないんだけど…たぶんサブスクのおすすめに出てきたのかな? それからYouTubeで「A COLORS ENCORE」の『poor me』のパフォーマンスを観て、「あ、こんな人が歌っているんだ」と初めて認識して。お気に入りすぎて、家で5万回くらい観ました。
そして去年、アートディレクターの友人から「うちのギャラリーでジョナ・ヤノの最新アルバムのリリースパーティーをやるよ」と声を掛けてもらって、すぐに「行く!」と。その会場で紹介してもらったのが初めての出会いですね。僕が持参したレコードにサインをもらったの、覚えてる?
ジョナ もちろん! 僕が「toe」を初めて聴いたのは数年前でした。何人かのルームメイトと一緒に暮らしていた時、みんなポストロックやマスロックが好きで、彼らに「toe」の1stアルバム『the book about my idle plot on a vague anxiety』を教えてもらって。その後、僕のリリースパーティーで山㟢さんと初めてお会いしたんですけど、事前にいらっしゃると聞いていたので、心の準備はできていましたよ(笑)。
山㟢さんはジョナさんの音楽のどういう部分に惹かれたんですか?
山㟢 複雑なトラックのカッコ良さを重視した楽曲をつくるシンガー・ソングライターもいるけど、ジョナの音楽、特に1stアルバム『souvenir』はボーカルとギターだけのようなサウンドで超シンプル。あの作品がリリースされた2020年当時、若く新しいミュージシャンでそういうアプローチ且つイケてるっていう人は他に居なかったし、「すごくカッコいい人が出てきた」と思ったんです。
山㟢さんが言う“サウンドのシンプルさ”は、ジョナさん自身意識されているのでしょうか?
ジョナ 今も歌とギターだけで十分な楽曲をつくる意識はありますが、初期の頃は特にですね。“楽曲は、最もシンプルな状態で演奏されたときでも、それ自体の魅力が伝わるべき”というのは、僕がずっと考えていることです。
山㟢 それ、すごく分かる。歌に力があると、楽器が段々と不必要な気がしてくるんですよね。歌の力があるからこそ、楽器はシンプルな方がいい。逆に僕は歌が下手だから、ミックスダウンの時、どんどん楽器の音を大きくしたくなるんだけど。
ジョナ 言わんとしていることは、すごく理解できます。おもしろいのが、僕も山㟢さんと同じことをしちゃうんですよ。自分でミックスをしていると声を隠したくなって、つい楽器の音を上げてしまうんです。
山㟢 ジョナでもそう感じるのは不思議だね。
逆にジョナさんから見た「toe」の音楽の魅力も教えてもらえますか?
ジョナ 山㟢さんが「toe」のバンドの一部であるというコンテキストで考えたとき、最初に頭に浮かぶのはアコースティックギターです。アコギはすごくシンプルな楽器な分、面白いとは言い難いです。そんなアコギを使って、あんなにも面白い表現をすることができるのは尊敬しますし、“アコギが実はすごくカッコいい楽器”と思うことを許されたような気持ちになりました。それに興味深いのが、パンクやハードコアのバックグラウンドを持つ山㟢さんが、今はメインでアコギを弾いていること。これが、「toe」の魅力の中心になっている気がします。
山㟢 そう言ってくれるジョナと一緒に音楽をつくれたのは、本当に嬉しいです。初めて会った時は挨拶だけだったけど、そのあとジョナがまた日本に来たタイミングで一緒に飲みに行ったよね?
ジョナ たしか、下北沢で梯子酒をしませんでしたか?
山㟢 そう! ジョナは僕が帰った後もケイサクくん(注:キーボーディストの中村圭作さん)ともう1軒長く梯子してたよね。そのうち直接やり取りするようになって、自然とコラボレーションの話になった気がする。
『(AND) NOW I SEE THE LIGHT』は、「toe」の既存の楽曲『NOW I SEE THE LIGHT』にジョナさんが声を乗せるという試みでしたが、どういう経緯でこの形式のコラボレーションになったのでしょうか?
山㟢 リリースされた自分の作品を後で聴き返すと、「ギターの音はもう少し大きくしてもよかったかも」とか「ここの音は変えてもよかったかも」みたいにミックス面で振り返ることが度々あるんです。そこから派生して「この曲は、違う人が歌った別バージョンがあってもいいかもな」と思うこともあったりして。特に、アルバム収録曲だと納期やリリース日などの時間的な制約もあり、自分でつくって自分で歌うことが多い。もちろんその時はそれがベストだけど、時間があったら他の選択肢もあったのかなと。そこで、思い切ってジョナに既存の曲をベースにしたコラボのオファーをしたら引き受けてくれて、『(AND) NOW I SEE THE LIGHT』が完成しました。
ジョナ ありがたいことに話をいただき、レコーディングのスケジュールを聞いたら偶然にも日本に行くタイミングと重なっていたので、何もかも完璧でした。今は、インターネットを介して誰とでも、どこでもすぐに音楽をつくることができる素晴らしい時代ですけど、僕自身、デジタル上で音楽をつくるのがあまり好きではなくて。やっぱり、同じ空気感の中で一緒の場所で制作する方が好きなんです。その方が、相手のアイデアを直に聞くことができるし、一人だと作品の良し悪しの判断も付けづらいので、いろいろとスムーズなんですよね。
山㟢 僕も最初はデータのやり取りで完成させることを考えていたんだけど、デジタルだとお互いが希望するニュアンスを伝えてフィードバックもらうまでに時間もかかるので。歌のレコーディング自体は、ジョナがスタジオに来て1時間半くらいで録り終わっちゃったし、流石だなぁと思いました。
ジョナ すでに完成された楽曲があった上で、そこに歌を乗せ直すイメージだったので、プロセス自体は大変ではなかったです。ただ、父親と一緒に制作した楽曲『shoes』で歌詞の一部に日本語を取り入れたことはあったんですが、一曲のほとんどを日本語で歌うのは初めてでした。
日本語で歌い切るのはどうでしたか?
ジョナ 発音の部分では少し苦戦しましたが、“日本語での伝えたいことの伝え方”を掴めた気がするし、日本人というアイデンティティの面でも、ある種の自信が付いたかもしれないです。それに、“日本語を喋れるフリ”も上手になったと思いますね(笑)。
山㟢 わはは。それはいいことだね。
ジョナさんは既存曲をアレンジするコラボレーションは初めてですか?
ジョナ これが初めてですし、そもそも完成された楽曲をリバイスすること自体、珍しいことだと思います。「The Microphones」のフィル・エルヴェラムは、ある楽曲で「録音された音楽は滝の像である」(注:本質的に流動的で絶えず変化するものを捉えようとする試みの意)と歌っているのですが、リバイスする側として改めて彼の言葉を思い出しましたね。
山㟢 アルバムに入っている『NOW I SEE THE LIGHT』と今回の『(AND) NOW I SEE THE LIGHT』では演奏トラックのミックス自体を大幅に変えていて。ジョナのボーカルが入ったこの曲の新しいイメージに沿って、全て新たにミックスし直しています。ジョナが歌ってくれたこのバージョンがある意味『NOW I SEE THE LIGHT』の完成系なんじゃないかなと自分では思っています。
話は変わりますが、ジョナさんは今回の来日中に「朝霧JAM 2025」へ出演されていましたよね。日本で初めてのフェス出演だったと思いますが、いかがでしたか?
ジョナ あまり音楽フェスに出演したことがなく、どちらかといえばライブハウスやDIYなイベントばかりだったので、とても面白い経験でしたね。フェスに来る人たちは、特定のアーティストのライブを見るためではなく、フェスそのものを体験することに重きを置いてチケットを購入している。その大きなメカニズムの中のひとつとして、自分が組み込まれたことが嬉しかったです。オーディエンスとしても他のアーティストのライブをたくさん観ることができて。「toe」のミニアルバム『Our Latest Number』に参加されていたJCさんが所属するバンド「んoon」と、以前から気になっていた「D.A.N.」は、どちらも素晴らしいライブでした。
山㟢 「両国国技館」でやった「toe」のライブも観に来てくれたよね。
ジョナ 今日ちょうどそのことについて考えていたんですけど、「両国国技館」が相撲のための神聖な場所であることを踏まえると、やっぱり「toe」は“日本のユニークなバンド”だと思ったんです。あの場所でライブをすることは、日本の歴史や文化を順立てたうえでハマっているというか。やっぱり「両国国技館」でのライブというのは、他の会場とは異なる気持ちの入れ方になったんですか?
山㟢 単純に、僕らだけのワンマンで8000人規模のライブ経験が無かったから、その点では特別な感じがあったかもしれないけど…ジョナが考えているほど相撲との関係性は感じなかったかな。ごめんね(笑)。
最後に〈BEAMS RECORDS〉とのコラボTシャツの話も少し聞かせてください。
ジョナ このコラボは、〈BEAMS RECORDS〉が前々から僕の作品を取り扱ってくれていることから実現したんです。コラボするからには意味のあるTシャツがつくりたかったので、最新アルバム『Jonah Yano & The Heavy Loop』のジャケットをデザインソースに、“The Heavy Loop”を漢字に置き換えた“永劫回帰(えいごうかいき)”という文字をデザインしています。カラーに関しては、僕は全くセンスがないのでお任せですけど(笑)。
永劫回帰は、ドイツの哲学者ニーチェの思想ですね。
山㟢 ニーチェもHeavy Loopっていう言葉を使ってるの?
ジョナ “永劫回帰”の英訳は“Eternal return”なので全く一緒ではないですが、同じ発想ではあります。すごくシンプルなアイデアだけど、複雑な言葉だから気に入っていて。ちなみに、僕は普段マーチャンダイズを絶対につくらないんです。それはどうしたら良いか分からないから。だからこそ、洋服への理解がありマーチャンダイズの経験も豊富な〈BEAMS RECORDS〉とのコラボは、何よりも安心材料でした。僕のアイデアの解釈も上手で、ペラペラなTシャツが出来上がるわけがないことも分かっていましたからね。
山㟢 また一緒に何かやりましょう。
ジョナ もちろん!今度は、全く新しい楽曲をつくりたいですね。
カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。