a fashion odyssey | 鶴田啓の視点
センスの所在
"MR_BEAMS"とは、ファッションをきちんと理解しながらも、
自分の価値観で服を選べる
"スタイルをもった人"のこと。
と同時に、決して独りよがりではなく、
周りのみんなからも「ステキですね」と思われる、
そのスタイルに"ポジティブなマインドがこもった人"のこと。
今回立ち上げたオウンドメディア#MR_BEAMSには、
私たちビームスが考える理想の大人の男性像と、
そんな理想の彼が着ているであろうステキな服、
そしてMR_BEAMSになるために必要な
洋服にまつわるポジティブな情報がギュッと詰め込まれています。
本メディアを通じて、服の魅力に触れていただいた皆様に、
ステキで明るい未来が訪れますように……。
a fashion odyssey | 鶴田啓の視点
華麗なるローレン、後編である。未読の方は是非「The Great Lauren①」からどうぞ。
友人Aさんとのやり取りの中で、僕が特に興味深いと思ったのは「米国は欧州の歴史の厚みにコンプレックスがあって、洋服にしても特にメンズは英国を中心にした洋服や着こなしの持
少々分かりづらいAさんの言葉を僕が要約すると「英国服が持つ長い歴史上の(つまり本家本元であるが故の)難解な由緒正しさに強いグッドジェラシーを抱く米国民ラルフ・ローレンが『過剰なアメリカ訛りを注入する事で新たに生み出した新釈クイーンズイングリッシュ的ファッション』が、もはや英語を超えた世界語になった」という事実。これは誇張された英国と誇張されたアメリカを正面からスパークさせることで1+1を2.5にしてしまったラルフ・ローレンのグレートな手腕によるものである。俗に言う「ブリティッシュアメリカン」(1970~80年代に興った)デザイナーの中でも一際異彩を放っていたラルフ・ローレン。その特異性は「英国のクロージングスタイルを、アイビーだけではなくワーク/ミリタリーやバイクカルチャー、ネイティブアメリカン、ニューメキシコなど、ありとあらゆるアメリカンスタイルと衝突させた雑食性」にある。ちなみに同時期に英国で勃興したパンクは「王室とスコットランドをスパークさせて無(0)」にしてしまったので、質が異なる。
「タキシードにブルージーンズ」や「ハリスツイードのジャケットにデニム素材のウエスタンシャツ」などはローレン氏本人の代表的な着こなしであるが、前者は「エスタブリッシュメントmeets労働者」であり、後者はアメリカにおける「EAST meets WEST(東部と西部の邂逅)」である。つまりラルフ・ローレンはコンテクスト(脈絡・背景)遊びの達人であり、開拓者。だからこそBEAMSをはじめとするセレクトショップ黎明期の洋服屋たちは彼のスタイルやコーディネート法に痺れ、模倣してきた。なぜなら、日本人こそが欧州はもとより米国にすらもアンビバレントな感情を抱く、究極のフォロワーだったのだから。しかし、これも1970~80年代までの話。1990年代以降になると、世界中のあらゆるエリアで価値観の転覆が粛々と進むことになる。ベルリンの壁が崩壊し、ソビエト連邦は解体された。今までは「右と左」「英国とアメリカ」「大人と子供」など、二項対立と思われていた事象すべてが曖昧なものとなり、コンテクスト遊びの象徴であったはずのラルフ・ローレンはもはやその手法自体が確立された一つの脈絡になっていった。このことは「英国とアメリカを衝突させたコーディネート」だけでは足りず「ラルフ・ローレン的なモノ+パンク的なモノ」すらもあり得る世界へとファッションが変容したことを意味する。しかしそれは注意深く分解しながら見てみると「英国+米国+王室+スコットランド」ということであり、すなわち原型を無くした混沌の世界である。混沌が混沌を呼び、2000年以降にはもはや真逆が無くなってしまったところでノームコアが出現した。これは「無味無臭の洋服」という「逆が存在しない」概念の表れであり、Aさんの言葉を借りれば「コンテクスト遊びの限界に対する冷ややかな批判」であったかもしれない。しかし、ノームコアの数式とは「本人のパーソナリティ(ⅹ)+無味無臭の洋服(0)」であり、答えは全てⅹの値に依存する。仮に世界的な映画監督やピアニストが無味無臭の洋服を着れば、その才能だけが際立ち増幅されることもあろうが、僕らの様な一般人が着ると答えも限りなく「0」に近くなる場合が多い。ファッションとしては成立しようもないことに多くの人が気付いて、2018年ごろには「若い子がオジサンっぽいものを着る(=ちょっとダサいくらいがいい)」という「NEW meets OLD」のコンテクスト遊びに回帰した。
ファッション観の変遷を追いながらラルフ・ローレンの偉業を簡単に解説するつもりが、少々長くなってしまった。まぁ要するに、彼によってメンズの服飾史はその文脈を大きく書き換えられたことになる。現在ではアメリカの事を「新大陸」と呼ぶ人など存在しないように、本来は未開の地を進むパイオニアであったラルフ・ローレンもいまや「王道ブランド」となった。先にも述べたように、BEAMSのスタッフでこのデザイナーから影響を受けていない者はほとんどいないだろう。BEAMS f ディレクターの西口やInternational Gallery BEAMSバイヤーの関根は勿論のこと、10年上の世代であるクリエイティブディレクターの中村もそうだ。ショップに立つ若手スタッフの中にも「アメトラリバイバル」の洗礼を受けてラルフ・ローレンを掘り起こした者がいるだろう。ブレザーにジーンズとコンチョベルトをコーディネートしたり、ツイードジャケットとシャツの胸元からTシャツをちらりと覗かせて着こなしているスタッフを見かけたら、是非話しかけてみて頂きたい。「ラルフ・ローレンは好きですか?」と。嬉しそうな答えが返ってくるはずである。
Aさんの指摘に合ったように、洋服のコンテクストで遊びながらファッションを楽しむ人はもはやニッチになったのかもしれない。しかし、BEAMSはやはり「過去に敬意を払いながらも、未来を見据えてファッションを愉しむ」洋服好きのお客様やスタッフに支えられているのは間違いないと思う。
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センスの所在
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ロストバケーション②
a fashion odyssey | 鶴田啓の視点
ロストバケーション①