
観る
あとで読む一覧 📖
スケジュールはもう決まった?
2025
(fri)
(sun)
2025
(thu)
(mon)
2025
(fri)
(mon)
2025
(fri)
(sun)
2025
(sat)
(sun)
お笑い芸人に憧れる無邪気な少年のような心と、プロダクトデザインから学んだ完成されたモノを見直すという一歩引いた視点。画家・落合翔平さんのチワワのように親しみやすい瞳の奥には、太っちょパンク時代からの反骨精神が眠っていました。 2025年8月1日(金)から〈BEAMS T〉で開催する個展『Back to the Basics』に際して、落合さんに聞いたオレ流ベーシックな話。
1988年、埼玉県出身。多摩美術大学生産デザイン学科 プロダクト専攻卒業。大学在学中にテレビプロデューサーの吉田正樹に師事し、エンターテイメントを学ぶ。お笑い芸人としても活動した後、2018年より画家としての活動をスタート。翌年に開催した個展より活動を本格化し、ペインティングやドローイングによる作品を発表している。雑誌『イラストレーション』主宰の第216回 ザ・チョイス入選(選者:佐々木俊)、ファレル・ウィリアムス主催のデジタルオークションハウス「JOOPITER」への作品提供などを皮切りに国内外へ活躍の場を広げている。
Instagram:@ochiaishohei
今回〈BEAMS T〉で開催する展示タイトルは『Back to the Basics』で、基本に戻るという意味合いがありますよね。それもあって過去の話から伺っていきたいんですが、子どもの時はなにが好きでしたか?
落合 『はねトび』のDVDとか『めちゃイケ大百科事典』っていう本がそこらへんに多分あると思うんですけど、お笑いがめっちゃ好きでしたね。特に「フジテレビ」が好きで、オレ、「フジテレビ」になりたかったんすよ!
「フジテレビ」になりたかったとは?(笑)。
落合 「フジテレビ」にどうにかして出てぇ!みたいな。土曜日20時の番組が好きで、12年単位で番組が変わっていたその枠の次に、どうにかして食い込もうと考えていました。サッカーも好きでプロになりたかったんですけど、下手すぎてずっとベンチ。それはちょっとマズいなって。「マンU」入りも、日本代表入りもできないなと思って諦めました。サッカーは今も『ダゾーン』でよく観ていますね。
絵を描くのは好きだったんですか?
落合 全然。図工は好きだったんですけど、絵を描くのは好きじゃなくて、立体をつくる方が好きでした。でも、小5・6年の担任が日記を毎日書くように、みたいな人で、その先生は日記に『ドラゴンボール』の絵とか描いてくれるんですよ。その絵がめっちゃうまくて、超かっこいいじゃん、これめっちゃ欲しいんだけど!みたいになって、もうオレも絵描くしかないと。『デジモン』とか『スマブラ』とか、サッカーの絵を描いてたんですが、それが絵を描いた原体験ですね。見返してみたら、いまと全く絵が変わってなくて。子どものままでかくなっちゃった、“こどおじ”なんすよ。
その言葉通り、このアトリエも子ども時代から変わっていないような雰囲気を感じさせます。昔のモノも残しているんですね。
落合 残してますね。日記は読み返すと面白いんですよ。でも、18歳ぐらいの日記は青すぎてマジで恥ずかしくて、燃やしたくなる時もあって。この間掃除中に奥さんに見つかって、やばい、終わったみたいになりました。
その頃はどんな時期だったんですか?
落合 美大に行きたくて予備校に通ってましたね。〈無印良品〉とか深澤直人さんとかが注目されてた時期で、吉岡徳仁さんも好きになって。佐藤可士和さんもかっけえなと。そういうひとたちに憧れて美大に行きたいと思ってました。でも当時、本当はお笑いをやりたかったんです。「NSC」へ行けばいいのに、逃げて美大に行こうみたいな感じで、ずっとお笑いから逃げてる感じでしたね。
逃亡先にプロダクトデザインを選んだ理由は?
落合 昔の〈ブラウン〉のデザインが特に好きだったんです。超シンプルで今も昔も最高みたいな、ベーシックなモノに憧れて、つくりたいと思ってました。そうしたら「多摩美」のプロダクトが一番いいって言われたんです。浪人の末に補欠で入れて、美大には面白い人がたくさんいると思ってたんですけど、あまりそうでもなくて。プロダクトって美大で言う理系で、くそ真面目なんです。余白が少ないというか。
落合 そこから徐々に菊地敦己さんが好きになって、「ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)」にひたすら通ってた時期もありました。永井一正さん、田中一光さんとかもすごく好きで、絵も描いてたからグラフィック科に転科しようって。でも、グラフィック科の先生に「ちょっと君は大丈夫かも」みたいに追い返されて。劣等生だったんですよ。
その時はどんな風に過ごされていましたか?
落合 絵を描いたり、サークルだったり。あとバンドもやったりと、とにかくいろんなものに手を出してましたね。
音楽も昔からお好きで?
落合 うちの母親がポップな音楽を好きで、広瀬香美とか松田聖子、小室哲哉とか「サザン」なんかを子どもの頃は聴いてました。キムタクが超好きで「スマップ」とか、加護ちゃんも好きだから「モー娘。」も。初めて買ったCDは「キンキキッズ」の『硝子の少年』でしたね。『ラブジェネ』のオープニングが大瀧詠一の『幸せな結末』で、あれもめっちゃ聴きました。あと反町も憧れの存在でしたね。
王道でいいですね。
落合 めっちゃ王道好きです。でも、小中高一緒の友達にサブカルオタクがいたんですよ。そいつが中学生ぐらいから徐々にいろいろと聴き始め、ヒップホップなら「キングギドラ」とか、ロックなら「ナンバーガール」「イースタンユース」「銀杏」「ブッチャーズ」なんかを知るようになって。
そいつには藝大を目指していたお兄ちゃんがいたんですけど、その人から「自然音に近づけば近づくほどかっこいいぞ」って言われたことがあったんです。自分で踏切の音とかを録る人で、その時は本当にクールだなと思ってたんですけど、今思うとやべえなって(笑)。その影響でテクノから、デトロイトテクノとかミニマルも聴くようになって、「ワイヤー」にも行きましたね。
ジャンルを横断して聴いたと思うんですが、バンドではどんな音楽をやられたんですか?
落合 当時は小室に憧れてボーカルシンセで、ジャンルはパンク。あ、おれの人生のテーマは“破壊”なんです。町田康に憧れてたんですけど、そのときは太った町田康みたいな感じでしたね。痩せてるからいいのに、太ってたら全然よくないだろって。でも、ベースがPファンクを好きすぎてバンドを大人数にしようとか言い始めて。メンバーが増えすぎて誰も言うことを聞かなくなり解散しました。
マンガも描いていたという噂を聞いています。
落合 大学4年ぐらいに『お寿司ロボットくん』っていうマンガを描いてましたね。いまと変わらぬ絵で、コマ割りは基本なしで、あっても2コマぐらい。マンガ家を目指していた友達に見せたら、「持ち込んだ方がいい」って言われたんですよ。ぶち上がってその場で某誌にアポを取って、るんるん気分で見せに行ったんです。「商業誌デビューで大金持ちだ」と思ってたら、「これ幼稚園の時に描いたの?」みたいに言われて。お寿司が怒ったら卵の握りが体から出てくるみたいなマンガなんですけど。
どういうことですか?(笑)。
落合 怒れば怒るほど回ったりします。しかも、その時の担当の人は読むのがめっちゃ早くて。もうちょっとゆっくり読んだほうがいいよ? 文字もいっぱい書いてるよ? みたいな。多分どこかにまだ取ってあります。今考えると連載なんてできるわけないのに、友達にはめられましたね。
大学卒業後はお笑いの道へ進まれたんですよね?
落合 「吉田正樹事務所」っていう「ナベプロ」の会長がやってるユーチューバーの事務所に入ったんです。バイリンガルチカさんっていう英語ユーチューバーの走りみたいな人とか、カリスマ主婦ブロガーのカータンさんとかいろんな面白い人がいました。動画編集もしてましたね。
夢だったお笑い芸人からなぜ画家に?
落合 ずっと絵は描いてたんですよ。絵は褒められてたんですけど、他のことは一切褒められない。それでようやく最近、絵で行ったほうがいいんだろうなみたいに気づきました。賞とかにも出してたんで絵が溜まったから一回展示してみようと思って、2020年に「新宿眼科画廊」で展示をして。でも自分の絵が好きすぎて誰にも渡したくなかったから、一切売らずにただ見せるだけ。見てくれオレの絵をっていう(笑)。
絵を買いたいって声もあったんじゃないですか?
落合 めっちゃあったんですけど、売らないっすみたいな。自分が毎日見たくて、好きで描いてて溜まったから見せるみたいな感覚だったんで、人にあげたくねーってなっちゃって。そのときは電車の絵とかも描いてましたね。
描く時はどういう風に対象を見るんでしょうか?
落合 できるだけ実物をゲットします。ゲットできない車とかなら見に行ったり。この前も300枚くらい写真を撮って、プリントアウトして〈フェラーリ〉を描きました。族車を描いた時は板橋のチームの人につないでもらって、川のそばの真っ黒な倉庫に行ったんですが、ヤバめのギャグとか言ってくるんですよ。超怖いからマジで勘弁してくれよ、みたいなやつを。
落合さんの絵はパースを気にせず描かれているのが特徴的ですが、それは落合さん的においしいなと思うところを全部見せたいみたいな感じなんですか?
落合 そうっすね、頭というか、顔を見せたくて。本当は見えない後ろの部分も入れて、全方向行きたいくらい。やっぱり全部入れたほうが面白い。デザイナーが見えない所も頑張ってるのを知っているから、描かないと悪いってのもありますし、全部描いてあげれば喜ぶんじゃないかなって。うちの母親の友達からは「潰れちゃってない?」みたいに言われたりしてるらしいですが。
画家としての転機はいつ頃ありましたか?
落合 タイミングというか転機になった人が二人いて、ひとりがファレル。いきなり連絡が来たんで、最初はみんな偽物だと思ってたんです。やりとりさせてもらってたら本物で、ファレルがどうやらオレの作品が好きらしいとなって、「JOOPITER」に作品提供したのはそっからですね。今年の3月に会った時も「やっと会えたね。最高だよ」って言ってくれました。
もうひとりが「ザ・チョイス」で選出してくれた佐々木俊さん。大学の先輩なんですが、ちょっとゆるさのある感じがずっとかっこよくて好きなんです。選ばれた時は、大河紀とかオザキエミ、『オッドタクシー』を監督した木下麦とか、大学の同期で一緒に広告研究会っていうサークルに入っていたメンバーが頑張り始めたタイミングで。やばいと思って出したんで嬉しかったですね。
描くモチーフを選ぶのに決まりはありますか?
落合 ただただ好きなモノを描いてますね。たとえば電車の場合、うちのじいちゃんが国鉄勤めだったんで、めっちゃ身近だったんです。じいちゃんは線路を引く仕事をしてたから、線をめっちゃまっすぐに引くんですよ。歪んだら怒るんです。だから、今のオレの絵を見たら多分死ぬほど怒ると思います。まじで見られなくてよかったぜって。
真面目なおじいちゃんだったんですね。
落合 いや、めっちゃユニークだったっす。本当に良くないんですけど、一緒にご飯とか食べに行くと、バイトしてる女子高生の子とかに「一緒に食べよー」って声かけてたりして。その時、90歳くらいですよ? しかもそれ、うちの家族とばあちゃんと一緒に行くときにもやっていて、さすがにねみたいな。そういうのは習いました。昭和のスタイル、面白いなって。
そういう面白さを学生時代にも求めてたんでしょうね。ところで、『Back to the Basics』の作品のモチーフはどのように選びました?
落合 自分のベーシックに戻ってやってみようかなってことで、工業製品とか自分の根底にある好きなモノを描きたいなと。たとえば、サッカーのユニフォームとか。
テーマの理由はありますか?
落合 昔からあるモノが好きなんですよ。なんだかんだベーシックなモノ、プロダクトってめっちゃかっこいいじゃんと。だからそこをもう一回見直したいと思ったんです。プロダクトデザインって見直してつくるみたいなのが根底にあって、それだけは一丁前に習いました。そこから、自分がベーシックと思うモノを描いて、みんなに見てもらおうかなって。
では、『Back to the Basics』におけるベーシックの定義は?
落合 世の中にはベーシックすぎるプロダクトもあるので、自分の視点でのプラスアルファというか、生きてきた時代性を取り入れています。90年代とか自分の青春時代のモノを混ぜたりして、自分の人生のベーシックも込みでって感じです。
例えば、今回展示されるこのコンピュータにはどんな思い出があるんですか?
落合 これは某テクノロジーメーカーの初期モデル。これで世界変わったでしょっていう思いがあって。小学校のパソコンルームに一台だけあったんすよね。しかも、先生だけ使っていいみたいな。そういうのって憧れるじゃないですか。
その横にあるのは〈ミズノ〉のバットですよね。
落合 サッカーもめちゃくちゃ好きなんですけど、元々は野球をやるはずだったんですよ。幼稚園の時に死ぬほどキャッチボールさせられてました。それで野球をやるんだろうなと思ってたら、母親が「野球は尻がでかくなるからやるな」と言い始めて。それで親父も強く出ないんで、サッカーになって。好きだった松井秀喜のバットを描いています。
サッカーユニフォームはどんなものを?
落合 98年のフランスワールドカップの川口のユニフォームを描こうと思ってます。オレがテレビで観た、一番初めのワールドカップなんすよ。日本初出場で盛り上がってて、川口を当時超好きだったんで、原体験じゃないですけど、自分にとってのベーシックなのかなって。当時は予選の時の写真がプリントされた下敷きも使ってました。北澤だけひとりめっちゃしゃがんでる集合写真のやつ。
BEAMSのショッパーも描いていただくそうで。これはいまと異なるロゴデザインです。
落合 BEAMSのショッパーはベーシックだなと思って。中学3年くらいに初めて原宿へ行った時、Tシャツを買ったんですよね。そのとき、これに入れてもらった気がします。原宿に初めて行くとビビるじゃないですか。Tシャツ回ってんだけどどういうこと? BEAMS、超東京じゃんみたいな。いまでこそ地元にもありますけど、昔はなかったんですよ。だからBEAMSって東京のもの、原宿といえばみたいなイメージです。
今回の展示だからこそという見どころがあれば教えてください。
落合 自分のベーシックな部分、スタイルのものが多いんですが、しばらくはこういったプロダクトを描くことはしないと思います。自分が世にで始めた時の絵の描き方を観るのが最後じゃないですけど…
一旦まとめというか、集大成のようなイメージですね。
落合 描いては行くんですけど、そんな感じかなと思ってるんで。もうちょい違うことをやってみようかなって。最近は風景画とか、人物画とかも描きたいなと思ってて。あと自然が好きなんで植物とかも。いままでもサボテンとか描いてたんですけど、山とか、空とか、海も好きなんで描きたいなって。友達と海に行った時に観察してたんですけど、どうやって描くんだろ、形ないし透明じゃんって、ずっと勉強してます。
ちなみに今回、グッズはもちろんですが作品も販売されるんですよね?
落合 します。いや、でもしない方が面白いですかね? あいつここにきてまたやったぞ、みたいなのもいいかな。
8月1日(金)〜8月11日(月・祝)
ビームスT 原宿
その他詳細はこちら
カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。